ライブラリアン・コラム
米国専門図書館協会(SLA)アジアン・チャプター――アジアのインフォプロとつながる
澤田 裕子
2022年7月
はじめに
日本貿易振興機構アジア経済研究所(以下、アジ研)図書館は、開発途上地域の経済、政治、社会等を中心とする諸分野の学術的文献、基礎資料、および最新の新聞・雑誌を所蔵する専門図書館である。同じ専門図書館や各種情報機関との相互協力とその向上発展を図るため、専門図書館協議会(以下、専図協)の組織会員として連携活動に参加している。専図協は、世界中のインフォプロ(情報専門家)の活動や教育の支援、および図書館関連団体との連携強化を目的とした非営利の国際組織、米国専門図書館協会(以下、SLA)の組織会員としても海外の図書館関係機関との交流関係を深めている。本稿では、インフォプロを支えるSLAおよびそのアジア地域支部であるアジアン・チャプターの活動と組織について概要を述べる。また、専図協やアジ研図書館とのかかわりについても簡単に紹介したい。
米国専門図書館協会(SLA)の活動と組織
SLAは、1909年の設立以来、団体・図書館・企業の情報部門で仕事をする個人が専門家としての知識や技術を習得できるよう、オンライン研修、資格認定、リーダーシップシンポジウム、年会等の教育プログラムを通じて、支援活動を行っている。新型コロナウィルスの世界的な流行により、2020年と2021年のSLA年会はオンラインで開催された。2022年の年会は、米国ノースカロライナ州シャーロットでの集合形式とオンデマンドによるオンライン形式(事前録音とライブの混合)で開催される予定である。
SLAの2020 Financial Summaryには、2020年の経費、収益、収益率が報告されているほか、2017年から2020年までの月ごとの会員数が掲載されている。2020年末時点で合計3335の会員が計上されているが、2017年末と比較すると約2割減少している。SLAウェブサイトのメンバーシップのページを見ると、会費体系が新たに柔軟化されていて、組織会員の獲得にも力を入れているように見受けられる。個人会員の年会費は220ドルだが、学生は50ドル、そのほか、失業・転職中、定年退職者、北米以外に在住かつ年収1万8000ドル以下の人など、条件別に割引価格も設定されている。組織会員の場合は年会費750ドル(1アカウント)だが、複数の会員アカウントと教育プログラムの特典を組み合わせた、ゴールド会員(15アカウント3500ドル)、シルバー会員(10アカウント2500ドル)、ブロンズ会員(5アカウント1000ドル)という選択肢も提供されている。
理事会のもとに設立される委員会や評議会は、SLAの目標を達成するために理事会を助けて様々な活動を行っている。また、SLAの活動を支える組織として、支部(Chapter)と称する地域的な構成要素、部会または分科会(Division)と称する主題グループ、そしてコーカス(Caucus)と称する特別な興味を持った人が属するグループがある。会員になると支部と部会の各々1つに無料で参加することができる。現在はすべてコミュニティ(Community)と称されているが、ここでは区別して説明するため支部や部会の呼び方を用いる。
支部の前身はSLAとは別個の自立地区(Responsibility Districts)と呼ばれる地域連合体であったが、1924年にSLA規約が改訂され、支部として位置づけられたことで、保有資料に関する情報交換と恒常的サービスが強化され、個々の図書館がそれぞれの分野に注力することができるようになった(桑原1976)。2022年現在、支部は北米と国際に大別され、北米支部は5つの地域(北東部、南東部、中西部、南西部、西部)に分けられ、その下に地方行政区画別支部が設けられている。国際支部は、アラビア湾岸、オーストラリア・ニュージーランド、ヨーロッパ、アジア、カナダの5つが形成されている。
専図協は、アジア地域支部であるアジアン・チャプターに所属し、アジア諸国の図書館関連団体とともに活動に従事している。部会は、科学、医学・薬学、法律、金融、ニュースなどの主題分野別に分かれており、主題に特化した専門性の高い活動を行っている(藤沢2008)。部会には業種別、特別種目別の2種類があり、現SLAアジアン・チャプター日本代表である佐藤京子氏は、2004年から業種別部会の一つ、Pharmaceutical & Healthcare Technology Divisionに所属し、その概要と活動について詳細に紹介している(佐藤2009)。青柳・長谷川(2017)は、こうした専門領域ごとに細分化された各部会の活動やネットワークが、世界中のインフォプロを引き付けるSLAの魅力になっていると述べている。
アジアン・チャプターの活動と日本のインフォプロ
アジアン・チャプターは、2005年にオーストラリア・ニュージーランド支部から分かれて設立され、アジア在住、またはアジアに関心のある会員が参加している(佐藤2019)。2022年アジアン・チャプター会長は、インドのジャワハルラール・ネルー大学で副司書を務めるParveen Babbar氏である。SLA Asian Chapter Newsletterにはアジアン・チャプターのこれまでの活動が詳しく記載されており、2021年の活動は最新号(Vol.17, Issue1-2)にまとめられている。2021年に会長を務めたインドのアンベードカル大学の図書館司書であるDebal Kar氏(2017年、2008年も会長)による年度総括とともに、受賞報告や国際会議・セミナー報告、各国の図書館の事例報告等が掲載されている。2021年11月24日にアジアン・チャプターと韓国国立中央図書館がオンラインで共催した第7回アジア専門図館国際会議(International Conference of Asian Special Libraries:ICoASL2021)の概要も掲載されている。ICoASL2021ウェブサイト(図)でPapersを選択すると、会議録がダウンロードできる(2022年7月15日時点)。
2022年のアジアン・チャプター役員・委員等の所属国を見ると、全体の44%をインドが占める。インドでは、学術的受賞歴はもちろん、国際会議への出席認定や国際組織で役員を務めた経歴が、個人のキャリア形成において大きなメリットになっていると佐藤氏は推察する(2022年6月3日メール)。アジア地域もグローバル化が進み、域内さらには域外へと高等教育市場が拡張し、教育の質の保証や資格認定などの面にも影響を及ぼすことから、英語を共通言語とした国際化が促進されてきた(北村・杉村2012)。栗田(2019)も言葉の壁のないインドのインフォプロは、ビジネスやIT技術の成長とともに国際会議にも多数が参加し、自国での国際会議の開催実績も豊富だと述べている。翻って、専図協が2015年に協賛設立した「JSLA-SLAアジアン・チャプター若手育成賞」の申請には英語が不可欠で、日本からの応募が簡単ではないとの声に対し、日本語だけで高等教育を終えることができる日本は特別な状況にあると鈴木(2015)は指摘している。
さて、日本のインフォプロとして、2010年アジアン・チャプター代表、情報科学技術協会(INFOSTA)副会長など、要職を歴任されてきた佐藤氏にSLAとのかかわりについてお伺いした(2022年6月3日メール)。ファイザー社に勤務していた当時、年に一度米国のファイザー本社情報センターに出張する機会があり、その都度年会に参加するようになり、その後、アジアン・チャプターにも参加するようになったとのこと。ファイザー社での情報活動については、日本薬学会でも報告されている(佐藤2000)。インフォプロとしてのキャリア形成については、2012年の専図協主催「専門図書館員/インフォプロのキャリアデザインを考える」をテーマとした図書館総合展フォーラム、2019年の「インフォプロ」特集企画での座談会「インフォプロ」で、ご自身の経歴と後進へのメッセージを語っている(会員サービス委員会研修グループ2011、会誌編集委員会2019)。
おわりに――専図協とSLAおよびアジアン・チャプターの交流
歴史を振り返ると、日本の専門図書館は、サービスの在り方、情報整理の手法などを欧米から学び、専図協は、海外関係機関との連携を視野において活動してきた(栗田2012)。栗田によると、専図協と海外の関係機関との交流は1950年代半ばから始まり、1979年のSLA年会(ハワイ)、1986年のIFLA東京大会への参加、1989年のSLA年会(ニューヨーク)、1997年のSLA年会(シアトル)での発表、2000年の国際専門図書館大会への参加と徐々に関係を広げ、深めてきた。そして、2008年のSLA-JSLAジョイント・ミーティング、2011年の第2回アジア専門図書館国際会議(ICoASL2011)では、専門図書館の国際的な会議を日本で開催するまでになった(栗田2012)。特にICoASL2011にはアジアからの専門図書館員が多く来日し、栗田は、それまで欧米を主体として展開していた国際会議もアジア地域を視野に入れるようになったと評価している。その後も、2012年の図書館総合展にSLA会長Brent Mai氏を招聘し、専図協60周年記念フォーラムでの基調講演、およびレセプションでの祝辞をいただいた(栗田2019)。
ICoASL2011では、アジ研図書館から坂井華奈子職員と筆者がアジア経済研究所学術研究リポジトリ(ARRIDE)に関する報告を行った(澤田2011)。思いがけなかったのは、優秀論文賞第2位をいただいたことと、会場にいたフィリピン専門図書館協会のShirley Ingles-Cruz会長(当時)から、第1回全国大会の報告者として現地に招待されたことである(澤田2012)。Ingles-Cruz氏は2011年にSLA会員になり、2016年にはアジアン・チャプター会長を務め、2022年現在もアジアン・チャプター役員として活躍中である。
SLAおよびアジアン・チャプターのウェブサイトには、インフォプロのための様々な情報が掲載されている。アジア地域のライブラリアンやインフォプロとつながることで、自身のキャリアを広げるきっかけが見つかるかもしれない。
参考文献
- 青柳英治・長谷川昭子編2017.『専門図書館の役割としごと』勁草書房.
- 会員サービス委員会研修グループ2011.「第13回図書館総合展フォーラム 専門図書館員/インフォプロのキャリアデザインを考える」『専門図書館』252号pp.65-76.
- 会誌編集委員会2019.「座談会インフォプロの未来(特集インフォプロのキャリアパス)」『情報の科学と技術』69(1) pp.2-9.
- 北村友人・杉村美紀2012.『激動するアジアの大学改革――グローバル人材を育成するために』ぎょうせい.
- 栗田淳子2012.「専門図書館にみる国際化」『専門図書館』254号pp.2-7.
- 栗田淳子2019.「専門図書館の国際交流活動を振り返って(特集 平成を振り返るⅠ)」『専門図書館』295号pp.9-14.
- 桑原信1976.「V アメリカ」専門図書館協議会編『海外主要国の専門図書館』専門図書館協議会.
- 佐藤京子2000.「海外製薬企業の情報活動:ファイザー社Global Information Services Team (GIST)」『薬学図書館』45(3) pp.222-225.
- 佐藤京子2009.「米国における薬学系インフォプロの活動――SLAのPharmaceutical & Health Technology Division」『薬学図書館』54(4) pp.291-298.
- 佐藤京子2019.「SLA 2019 Annual Conference & INFO-EXPO参加報告――SLA110周年、アジアン・チャプター20周年の会に参加して」『専門図書館』298号pp.48-52.
- 澤田裕子2011.「第二回 アジア専門図書館国際会議開催報告 (ライブラリー・コーナー)」『アジ研ワールド・トレンド』187号pp.50-52.
- 澤田裕子2012.「フィリピン専門図書館協会第一回全国大会参加報告 (ライブラリー・コーナー)」『アジ研ワールド・トレンド』196号p.55.
- 鈴木良雄2015.「専門図書館協議会と海外の専門図書館との交流――近年の活動とこれからの展望」『専門図書館』274号pp.50-53.
- 藤澤聡子2008「4.5 SLA(専門図書館協会)の概要と最近の動向について」『No.40 米国の図書館事情2007-2006年度 国立国会図書館調査研究報告書』国立国会図書館.
著者プロフィール
澤田裕子(さわだゆうこ) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課主幹。担当は中華圏。著作に「第4章 中国――世界水準と「中国の特色」――」(佐藤幸人編『東アジアの人文・社会科学における研究評価――制度とその変化――』アジア経済研究所、2020年)など。
(2024年10月4日 リンク先修正)