ライブラリアン・コラム

図書館の提供するwebシステムの整理

今満 亨崇

2021年10月

はじめに

図書館ではOPACやディスカバリサービス、リンクリゾルバなど様々なwebサービスを提供している。サービス提供者として、図書館員はこれらwebサービスの役割や特徴を理解しておく必要があるが、漫然と利用していては理解しづらい部分がある。そこで、アジア経済研究所(以下、アジ研)図書館の提供するwebサービスを例として簡単に紹介1し、まずは、図書館がこれらシステムを提供する主目的から違いを明らかにする。その後、これらシステムの共通点を見ていく。このように違いと共通点をまとめることで、図書館の提供するwebシステムの整理を試みる。

なお本稿の内容は、2021年7月29日に専門図書館協議会が開催した「教育プログラム第3弾 図書館の提供するWebシステムの整理――アジ研図書館を例にして――」2で筆者が講演した内容を簡略化したものである。基本的に新人図書館員向けの記事であるが、利用者の方も、図書館の提供するwebサービスを使い分ける参考にしていただければ幸いである。

個々のwebシステムの概要と主目的
OPAC

所蔵資料の活用を促すことを主目的とするシステムと整理できるであろう。図書や雑誌、AV資料等、図書館の所蔵する資料を様々な条件で検索することができ、その資料が館内のどこにあるか所在も表示される。また、利用者情報と組み合わせることで、利用者が自身の貸出状況を確認したり、SDIアラート(登録したキーワードに合致する資料が新着資料に含まれるとメールで通知されるサービス)等を利用することができるほか、OPACのトップページでは新着資料や利用ランキングを表示し、特定の所蔵資料を目立たせたりもしている。

アジ研OPACはhttps://opac.jetro.go.jp/で利用できる。

図1 OPACトップページ

図1 OPACトップページ
(出所)アジ研のOPAC
ディスカバリサービス

利用者目線では一般的に、図書館の所蔵資料に加えて電子ジャーナルなどの多種多様な情報資源を同一画面で統合的に検索できるサービスである。さらに電子コンテンツでは、図書・雑誌レベルではなく、記事・章レベルの精緻な検索が可能となる。

一方システム目線では、電子資料の活用を促すことを主目的とするシステムと整理できるであろう。ディスカバリサービスの管理画面では、世界中の電子ジャーナルや電子ブックのパッケージ情報が用意されており、図書館員はそのなかから契約したパッケージをチェックするだけで、自機関のための検索サービスを容易に構築できる。ところが、パッケージ情報が登録されていない情報(例えば、図書館が物理的に所蔵する資料)を検索対象にしようとすると、OPAC等とディスカバリサービスが連携できるように複雑な設定やシステム同士が連携するための改修を行う手間がある。

アジ研のディスカバリサービスはhttps://jetro.summon.serialssolutions.com/で利用できる。

図2 ディスカバリサービストップページ

図2 ディスカバリサービストップページ
リンクリゾルバ

所蔵資料・電子資料に限らず、利用者に資料本文の入手方法を示すことを主目的とするシステムと整理できるであろう。Google ScholarやWeb of Scienceなど様々な文献検索サービスに設定することができる。検索結果中のリンクをクリックすることで、遷移先の候補を示すウインドウ(図3の②。中間窓とも呼ばれる)を経由して、他のサービスへ利用者を誘導する。誘導先は、本文が直接閲覧できる出版社等のwebサイトであったり、紙媒体の入手手段を示すOPACだったりする。なお、各検索サービスへの設定は図書館員が行うものであり、利用者自身では設定できない点に注意が必要である。

リンクリゾルバにはシステムを代表するようなURLは基本的に存在しない3

図3 Google scholarを始点とするリンクリゾルバ経由の画面遷移例

図3 Google scholarを始点とするリンクリゾルバ経由の画面遷移例
機関リポジトリ

自機関の知的生産物の利活用を促すことを主目的とするシステムと整理できるであろう。主なコンテンツは論文であるが、機関によっては教材などを登録している場合もあり、アジ研では研究所が出版した書籍の登録も行っている。利用者はこれらコンテンツの検索や閲覧、ダウンロードを行うことができる。また他システムへ簡単にメタデータを受け渡す、OAI-PMHと呼ばれる仕組みを有しており、知的生産物の拡散にも貢献している。

アジ研の機関リポジトリはhttps://ir.ide.go.jp/で利用できる。

図4 機関リポジトリトップページ

図4 機関リポジトリトップページ
デジタルアーカイブ

電子化した文化財の利用と保存を促すことを主目的とするシステムと整理できるであろう。図書館が構築するデジタルアーカイブには紙媒体の資料を画像化したものが多い。インターネット上で公開することで、所蔵する文化財が多くの人の目に触れる可能性を高めるほか、電子化の元となる文化財自体への物理的接触機会を低減し劣化や棄損を予防できる。

アジ研のデジタルアーカイブはhttps://d-arch.ide.go.jp/で利用できる。

図5 デジタルアーカイブトップページ

図5 デジタルアーカイブトップページ
各システムの共通点

ここまで図書館の提供するwebシステムを、主に何を目的とするシステムか、という観点から違いを整理してきた。一方でこれらシステムには共通点を見出すこともできる。

まず、リンクリゾルバを除くシステムでは、コンテンツのタイトルや著者といったメタデータを扱っている。すると、あるシステムで検索できるデータを、別のシステムでも検索できるようにしたい、という要望が出てくる。実際アジ研では、ディスカバリサービスでOPACや機関リポジトリのデータを検索できるようにしている。さらに、機関リポジトリの一部のデータをOPACでも検索できるようにしている。

また、市場を眺めてみるとOPACにファイル登録機能を追加することで、機関リポジトリを兼ねるような製品も存在している4

図6 アジ研のメタデータの重複登録状況

図6 アジ研のメタデータの重複登録状況
(出所)筆者作成

別の観点からも考えてみよう。機関リポジトリとデジタルアーカイブはどちらも、図書館員が本文ファイル等のコンテンツを登録し、利用者はそれを閲覧できる仕組みを有している。するとこれらシステムを1つにまとめてもよいのでは、という発想が十分あり得る。現在アジ研が利用している機関リポジトリシステムでは、機関リポジトリでありながらデジタルアーカイブのデータも扱えるようなシステム開発を行っているようである(オープンアクセスリポジトリ推進協会 2021)。これからの動向に期待したい。

おわりに

図書館の提供するwebシステムは、その主機能やコンテンツ、メタデータを見ると、それぞれ異なる目的の元で整備・提供されている。ただ、利用者や図書館員の声を受けて運用が変更されたり、システムそのものが高度化したりすることにより、その境界は曖昧になっている。この曖昧さが、図書館員であっても全体像を整理するための障害になっていると筆者は考える。

どのような状態が利用者にとって使いやすいのか、運用しやすいのか、経済的なのか、など様々な観点から見極めて、ベストな構成を模索し続ける必要がある。

参考文献
  • オープンアクセスリポジトリ推進協会 2021.「特集:次期JAIRO Cloud(WEKO3)本番移行Q&A」『JPCOAR Newsletter CoCOAR』(12):1-4.https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/record/610/files/CoCOAR_12.pdf(2021.10.5アクセス).
  • 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会 2020.『図書館情報学用語辞典』,丸善出版.
著者プロフィール

今満亨崇(いまみつみちたか) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課。担当は図書館の管理するシステム全般。最近の活動に日本図書館協議会開催の研修講師や「特集:インフォプロのためのプログラミング事例集」(『情報の科学と技術』70巻4号、2020年4月)の編集担当主査などがある。

  1. 各システムのより正確な定義や詳細な説明は、日本図書館情報学会用語辞典編集委員会(2020)等で確認いただきたい。
  2. https://jsla.or.jp/2021-7-29-online-meeting/(2021.10.5アクセス)
  3. A-Zリスト(電子ジャーナルのリスト)等とドメインを共有している場合はある。アジ研の場合もこれにあたる。
  4. 例えばアジ研図書館が利用しているOPACのシステム(iLiswave-J)も機関リポジトリ機能を有しているが、利用はしていない。https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/education/campus/library/repository/(2021.10.5アクセス)