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図書館

アジア経済研究所図書館は、開発途上地域の経済、政治、社会等を中心とする諸分野の学術的文献、
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ライブラリアン・コラム

「よくわからない資料」を見つけたら…… ――図書館裏話――

 

能勢 美紀

2020年10月

図書館の裏側

ほとんどの人は図書館の裏側を見たことがない。図書館の「表側」では、資料がテーマ(主題)ごとに分類され、一般の人には何を意味するのかよくわからない「請求記号」の番号順に整然と並べられている。もし資料がぽん、と置かれていても、図書館の職員がさっとあるべきところに資料を戻す。図書館は整っていて、散らかっている場所などどこにもない。「裏側」以外は……。

図書館の「裏側」とは、つまり整理される前の資料が山積みになっている書庫や書棚だったり、執務室だったり、である。アジ研図書館にだってもちろん「裏側」がある。先に弁解しておくと、「裏側」のすべてが雑然としているわけではない。(たぶん)ほとんどの未整理資料はつつがなく整理され、図書館の「表側」に送り出されている。しかし、なかにはなんでここにあるのか「よくわからない資料」もあるのである……。そんな時、図書館員はどうしているのか。今回は図書館員が日々遭遇する「よくわからない資料」が無事「表側」に送られるまでの裏話をお伝えする。

発見された『岩坂村三百苅文書』

「よくわからない資料」、『岩坂村三百苅文書』はまさにその代表だった。

先に少し説明しておくと、『岩坂村三百苅文書』は、江戸時代の石川県にあたる加賀藩の村方にかかわる史料群で、時代的には文化4年(1807)から明治元年(1868)頃までの岩坂村(現石川県珠洲市)の様子がわかる貴重な資料である。この貴重な資料が「発展途上国に関する20世紀以降の社会科学系資料の専門図書館」であるアジ研で「発見」された。2016年3月に解散した南満洲鉄道株式会社(満鉄)の旧社員を中心に設立された「満鉄会」からの寄贈資料の一部だった。

筆者が「発見」したときはいったい何の資料なのか検討もつかなかった。藁紐でくくられたいかにも「古そう」で「大事そう」な資料には崩し字でなにやら色々書いてあるが教養のない筆者には読めず……。実は筆者は高校2年まで「万葉仮名」を得意とする先生に習字を習っていたのだが、「(読めない)仮名より漢字を習いたい」と失礼なことを言い、四字熟語ばかり練習していた。あのとき万葉仮名をやっていたらきっと読めたに違いない……。世の中何が役に立つかわからない、と心底思い、後悔した瞬間だった。

しかし、後悔しても仕方がないので、とりあえず「古くて大事そう」ということで、素性を明らかにすべく机の上で資料と向き合うこと数分、「持高帳」「文化五年」「天保」の文字は読めた。「ん? 天保ってもしかして大飢饉……? つまり江戸時代?」となったところで文化五年は1808年、持高帳は江戸時代の農地関係の文書だということをウェブで調べて確認。が、そこで行き詰る。どこの「持高帳」なのかが読めない……。

「習字……やっておけば……」とふらふらしながら崩し字が読める職員を探すと……いた!さすがアジ研図書館である。東南アジア担当の小林さんがすぐに「珠洲郡岩坂村」と読んでくれたのだった。

写真:発見された古文書。左から2番目の文書に「文化五年」「持高帳」の文字が読める。(石川県立歴史博物館提供)

発見された古文書。左から2番目の文書に「文化五年」「持高帳」の文字が読める。(石川県立歴史博物館提供)

写真:崩し字で書かれた「天保十一年 高帳」の内容。(石川県立歴史博物館提供)

崩し字で書かれた「天保十一年 高帳」の内容。(石川県立歴史博物館提供)
表舞台へ

江戸時代の石川県の農地に関連する文書ということはこれでわかった。次はこれをどうするか、である。アジ研図書館が収集対象としている資料、あるいは満鉄や満鉄会と関係する文書であればアジ研図書館で整理すればよい。しかし、今回はアジ研図書館の収集対象ではなく、もともと資料を持っていた満鉄会とも関係がなさそうである。今回の資料は満鉄会が解散する際にアジ研図書館にご寄贈いただいたものの一部であるが、満鉄会も寄贈した資料のすべての来歴を把握しているわけではなかった。このような事情から、資料にとっては、真に必要としている機関に寄贈する方がその価値を活かせるだろうと考えた。

そこで、江戸時代の持高帳という資料自体はいくつかの自治体の郷土資料館等で所蔵されていることを確認したうえで、石川県立歴史博物館(いしかわ赤レンガミュージアム)に寄贈の打診を行った。非常に幸いだったことに、すぐにご担当の方から寄贈受入のご返事があり、資料は2020年8月に先方に旅立っていった。

その後の石川県立歴史博物館の調査・整理により、資料は『岩坂村三百苅文書』であることを教えていただき、資料から読み取れる岩坂村の様子についてもご教示いただいた。『岩坂村三百苅文書』は、今後、石川県立歴史博物館で研究・保存していくほか、珠洲市の文化財担当にも一覧などを提供して、地域の歴史に生かしていく予定とのことである。石川県立歴史博物館で資料に再開できる日も近いかもしれない。何より石川県立歴史博物館で資料が生き生きとしている様子が伝わってきて嬉しくなった。

写真:石川県立歴史博物館で整理され、封筒詰めされた『岩坂村三百苅文書』。(石川県立歴史博物館提供)

石川県立歴史博物館で整理され、封筒詰めされた『岩坂村三百苅文書』。(石川県立歴史博物館提供)
おわりに

今回はアジ研図書館の「表側」ではなく、他館の「表側」へ行くまでの裏話を紹介したが、アジ研の「裏側」から「表側」へもおおむね同じような調べ方で、まずは「何なのか」を突き止めた後、表舞台へと送り出されていく。約60年の歴史をもつアジ研図書館にはまだまだ「よくわからない資料」が眠っており、「表側」に行ける日を待っている。ライブラリアンの仕事の一つは資料を活かしてあげること。時間はかかるが、いつかすべての資料に居場所を与えてあげたいと思う(と、偉そうに言っておきながら、筆者も未整理資料を大量に抱えている。先は長い……。)

また機会があれば本コラムで、ほかの興味深い資料たちを紹介していきたい。

著者プロフィール

能勢美紀(のせみき) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課。担当は中東・北アフリカ、中央アジア(2015年~現在)。最近の著作に「【世界の図書館から】トルコ大国民議会図書館(トルコ)」(『U-PARLコラム』2019年)、「シリア難民のいま――トルコの新聞にみる『アイラン君』後の状況」(『アジ研ワールド・トレンド』No.248,2016年)など。