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海外研究員レポート

国際関係論ジャーナルの盛衰――米国系の覇権凋落(?)と欧州系・中国系の台頭――

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050697

2019年2月

(13,344字)

はじめに

ひと昔前までは、「理論に関する問題」1を扱う論文が米国の主要な国際関係論(International Relations)ジャーナルにおいて重要な地位を占めていたように思われる。しかしここ十数年で状況は一変し、定量研究の波が押し寄せた。米国で主流の定量研究においては、変数の因果関係あるいは相関関係に関する仮説を理論と呼んでいるふしがあり、国際関係の見方についての根本的な相違についての論争をジャーナル誌上で見ることは極めて稀となった。一方で、定量研究への傾向は日本人研究者2に有利な状況かもしれない。なぜなら、欧米の文化と哲学、歴史を前提に発展してきた国際関係論の理論談義に日本人が割って入るのは極めて困難だからである。定量的な実証研究であれば、日本人研究者でも一定の貢献をすることは不可能ではない。

他方で、変数間の相関関係、因果関係の定量分析のみによって国際関係の本質を理解することはできないと考える学者も世界中にいる。そのような学者は、国際関係への理解を得るための新しい概念や国際関係への洞察を深めるための新しい視座の提供を目的とするような「理論論文」を執筆しようとする傾向にある。現在、彼らが執筆する理論論文は欧州系ジャーナルに流れ、それらのインパクト・ファクター(Impact Factor、以下IF)は米国系ジャーナルを猛追している。同時に、国際関係論理論を発展させるために非欧米(特にアジア)の視点を取り入れようという動きも見られ、その流れに乗って中国系ジャーナルが台頭している。

本稿においては国際関係論における「理論」の位置づけに注意を払いつつ、米国系、欧州系、アジア系ジャーナルの盛衰について簡単に論じたい。まず、主要国際関係論ジャーナルを米国系、欧州系、アジア系に分類し、それぞれのジャーナルについて説明するとともに、政治科学(Political Science)のジャーナルについても簡単に言及する。それから米国系、欧州系、アジア系主要ジャーナルのIFの動向について考察する。最後に、各系統ジャーナルの今後の展望について見通しを述べたい。

米国系、欧州系、アジア系ジャーナルの定義
米国系、欧州系、アジア系とジャーナルを分類して、主要なものを選び出すのはそれほど単純な作業ではない。表1は2017年のIF上位20ジャーナルであるが、そもそもこれらを主要ジャーナルとして扱ってよいのか議論の余地が大いにあろう。なぜならIFは極めて激しく変動するからである。ここでは歴史的経緯や発行母体等を勘案して、主要ジャーナルを選ぶこととする。なお、IFはJournal Citation Report(JCR)のものを用い、順位はJCRの国際関係に分類される90弱の論文の中での順位とする。

表1 2017年IF上位20ジャーナル

表1 2017年IF上位20ジャーナル

(出所)最新のJCR(2019年1月時点)から作成。

米国系ジャーナルとしては以下の4つを考察対象とする。まず、International Organization(IO)およびWorld Politics(WP)は第二次世界大戦直後に創刊された。次に、International Studies Quarterly(ISQ)はInternational Studies Association(ISA)の学会誌であり、1957年に創刊された。一方、International Security(IS)は1970年代の創刊と、比較的新しい。IO、IS、WPは国際関係論ジャーナルの中で常にトップ争いをしており、IFからは、どのジャーナルが優勢なのかは言えない。ISQはIFの観点からはトップ3誌に若干劣るが、ISAが母体であるため米国人学者の間での格は高い。したがって、これらの4誌を米国系主要国際関係論ジャーナルとする。なお、1922年に創刊された米国外交評議会が出版するForeign Affairs(FA)は、IOやWPより先の創刊で極めて広く読まれているジャーナルであるが、ここでは考察対象としない。その理由は、FAは政策問題を扱う傾向があり、多くの学者が純粋な学術ジャーナルと見なしていないためである。

欧州系としては次の4誌を主要ジャーナルとする。まず、International Affairs(IA)は 1922年から英国チャタムハウスより発行されている学術誌で、極めて長い伝統を有している(FAと同年の創刊3)。次に、Journal of Common Market Studies(JCMS)は1962年に創刊されたジャーナルで、国際協力・地域統合が主要テーマであったが、広く国際関係論を扱う論文が掲載されてきた。そして、Review of International Studies(RIS)はBritish International Studies Association(BISA)のジャーナルであり、British Journal of International Studies(BJIS)として1975年より発行されていたが、1980年にRISに名称を変更した。最後に、European Journal of International Relations(EJIR)は1995年創刊で比較的新しい。European Consortium for Political ResearchのStanding Group on International Relationsが発行している。これら欧州主要4誌のうち、IAとRISの2誌を英国系、JCMSとEJIRの2誌を大陸系とする。JCMSは編集委員のバランス等からすると厳密には大陸系と英国系の間に位置するが、大陸系の有力ジャーナルが少ないので、大陸系とする。

アジアには英文の国際関係論ジャーナルが長らく存在しなかった。シンガポールの東南アジア研究所(ISEAS)の発行するContemporary Southeast Asia(CSEA)は1979年より発行されている歴史あるジャーナルであり、国際関係を対象としているが、基本的には地域を東南アジアに限定したものである。米国の研究者は(東)アジアの国際関係を地域研究と見なし、地域研究のジャーナルであるAsian SurveyPacific Affairsに投稿してきた(後者はカナダ系であるが戦前の創刊)4。そのような中で、日本国際政治学会が2001年に国際関係論の英字誌を創刊した。International Relations of the Asia-Pacific(IRAP)である。興味深いことにJapanはジャーナル名に含まれない。一方、Chinese Journal of International Politics(CJIP)は2006年に創刊された新興ジャーナルであり、IFを取得したのは2012年である。名称にChineseを入れるとともに、International RelationsでなくInternational Politicsを使っている(欧州では米国に比してInternational RelationsよりもInternational Politicsを使う頻度が高いように思われる)。

本稿において、国際関係論の動向との比較のために利用する政治科学の米国系ジャーナル主要2誌についてもここで言及しておく。米国における国際関係論の動向を理解する上で忘れてならないのは、国際関係論は政治科学の一部とされていることである。政治科学は国際関係論の他にも、アメリカ政治(American Politics)、比較政治(Comparative Politics)、政治理論(Political Theory)等が含まれることが多い。ここでは、政治科学の主要2誌としてAmerican Political Science Review(APSR)とAmerican Journal of Political Science(AJPS)を分析対象とする5。APSRはAmerican Political Science Associationのジャーナルであるが、1906年創刊でFAやIAと比較してもさらに古い(ちなみに、American Economic Reviewは1911年の創刊)。AJPSは1957年の創刊であるが、現在のIFはAPSRよりも高い。

表2 主要ジャーナル一覧

表2 主要ジャーナル一覧

(出所)各ジャーナルのウェブサイトから筆者作成。
主要ジャーナルのIF動向
米国系主要4誌のIFの推移は概ね一致している(図1)。WPの凋落及び復活が最も明白で、ISQは4誌の中では最も安定している。米国系主要4誌平均のIFは1990年代及び2000年代半ばにかけて低下傾向にあったものの、2000年代半ば(2005年頃)を境に上昇傾向に転じている。このような米国系ジャーナルの凋落および復活という長期的傾向を考慮すると、米国系と他のジャーナルを比較する際には、できるだけ長いスパンで検証する必要があると言えよう。

図1 主要な米国系ジャーナル(4誌)のIFの推移

図1 主要な米国系ジャーナル(4誌)のIFの推移

(出所)JCR各年より筆者作成。

英国系主要2誌もIFの推移が似ている(図2)。慎重を期すために、IA、RISに次ぐジャーナルであるMillennium(MIL、1971年創刊)を加えても、同じようなIFの推移をたどっていることが確認できる。英国系は2013 年頃まで低迷状態が続いていたため、米国系国際関係論に飽き足らない人々の受け皿としての立場を担うに至っていなかったといえる。しかし、近年の英国系ジャーナルの復活は目覚ましく、2017年には、IAは全体の8位に入っている。意外なことに、IAがIFでトップ10入りしたのは、1997年以降20年目にして初めてのことである。

図2 主要な英国系ジャーナル(2誌)とMILのIFの推移

図2 主要な英国系ジャーナル(2誌)とMILのIFの推移

(出所)JCR各年より筆者作成。
大陸系主要2誌のIFの推移は酷似している(図3)。2008年に両誌のIFが一時的に2近くにまで上昇している理由はよくわからないものの、同年のIFランキングは極めて特徴的であり、IOおよびISに次ぐ全体の3位にEJIRが入り、JCMSも6位となっている(ちなみにWPの2008年のIFは1.692と低迷している)。これを境に欧州系2誌平均のIFは1前後から少なくとも1.5以上にシフトしたように見受けられる。ちなみに2004-2008年のEJIR編集長はLondon School of Economics and Political Science(LSE)の超大物理論家であるB. Buzanであった。従って、欧州系のIFが上昇し始めたタイミングの方が、英国系の上昇よりも5年程度早かったことがわかる。

図3 主要な大陸系ジャーナル(2誌)のIFの推移

図3 主要な大陸系ジャーナル(2誌)のIFの推移

(出所)JCR各年より筆者作成。
アジア主要2誌の動向は全く異なる(図4)。上述のようにCJIPがIFを取得したのは2012年のことであるが(32位、IF: 0.871)、その後IFは上昇し続け、2017年には1.813にまで上昇した(22位)。トップ10に入るのも時間の問題だと思われる。一方、IRAPは2001年に創刊され2009年にIFを取得後、大きな変動はほとんど見られない(2017年のIFは0.906)。近年多くのジャーナルがIFを上昇させている状況に鑑みると、IFに大きな変化がないIRAPは相対的に凋落している恐れがあるジャーナルといえるかもしれない。従って以下では中国系(CJIP)のみを比較対象とする。

図4 主要なアジア系ジャーナル(2誌)のIFの推移

図4 主要なアジア系ジャーナル(2誌)のIFの推移

(出所)JCR各年より筆者作成。
図5は、米国系主要4誌、英国系主要2誌、大陸系主要2誌それぞれの平均IF、ならびに中国系ジャーナル(CJIP)のIFである。1990年代には米国系の存在感が圧倒的であったものの、最近は他の追い上げが激しいことが見て取れる。

図5 国際関係論の主要ジャーナルのIFの推移

図5 国際関係論の主要ジャーナルのIFの推移

(出所)JCR各年より筆者作成。
各系統のジャーナルのIFを米国系主要4誌平均のIFで除した比率の推移を示したのが図6である。言い換えれば、米国系主要4誌の毎年のIFを1とした場合、それぞれの年で様々な系統のジャーナルの平均IFの程度を0から1の間で示したものである。1に近いほど、米国系ジャーナルと対等のIFを有しているということになる。英国系は一貫して米国系を追い上げている。しかしながら、1990年代後半から2010年頃までの期間は米国系の凋落により英国系のIFが相対的に追い上げる結果となっている一方で、2010年頃以降は米国系のIFも上昇しているが、英国系の上昇がそれを上回るという状況になっている。特に2017年の上昇はIA、RISとも顕著である。一方で大陸系は2000年代半ばごろまでは米国系との対比では一定のIFを有していたものの(0.4から0.6)、2008 年以降は米国ジャーナルの対抗馬として育ってきたことがわかる。中国系の米国系対比の上昇は確認できるものの、大陸・英国系の米国系対比の上昇と同程度である。しかしながら、中国系は第四のオプションとしての地位を確かなものとしているように見受けられる。

図6 米国系に比した英国系・大陸系・中国系ジャーナルのIFの推移

図6 米国系に比した英国系・大陸系・中国系ジャーナルのIFの推移

(出所)JCR各年より筆者作成。
(注)米国系4誌で基準化し、英国系(2誌)・大陸系(2誌)・ 中国系ジャーナル(1誌)の相対レベルの推移を示した。
ジャーナルの盛衰と理論に関する議論の推移

ここまで数量的に明らかにしてきたように、米国系ジャーナルが戦後の国際関係論研究で中心的立場を有し続けてきたことは否定できない事実であろう。しかしながら、特に「理論」という観点からは、米国における国際関係論の発展に十分に満足できない勢力が常に存在してきたことを忘れてはならない。

特に英国では、English School(英国学派)を売り出し、米国系の国際関係論に対抗できるようなものとし確立したいという野心を有していたように見受けられる。実際、1980年代は特にBISAのジャーナルであるRISにおいて、English Schoolに関して多くの論文が発表され、活発な議論が繰り広げられた(Jones 1981, Grader 1988, Wilson 1989)。しかしながら、これはやはり英国学会の動きであり、アメリカの国際関係に飽き足らない学者が集うグローバルなフォーラムあるいは受け皿になっていたとはいえないであろう。また、EJIRもこの時点では存在していなかった。

既に見たとおり、米国系主要国際関係論ジャーナルのIFは、1997年にIFの発表が開始されて以降、2000年代半ばにかけて大幅に低下している。ここでまず、この一時的衰退をどのように説明するのか検討する必要があろう。一つの可能性を探る手掛かりになるのは、政治科学における定量研究への流れである。1990年代は政治科学において定量研究が増えだした時期である。この動きは特にアメリカ政治のうち投票行動等の定量研究がなじみやすい分野で顕著であった。例えば、4年に1度、定期的に大統領選挙がある米国では、国会の解散による不定期な選挙がある日本などに比して統計的に処理しやすいという性質もある。一方で、国際関係論への定量研究の波及は比較的ゆっくりしたものであった。興味深いことに政治科学ジャーナル主要2誌のIFは1997年から2005年にかけて安定的に上昇している(図7)。つまり、定量化の波に乗った政治科学のジャーナルがIFを上げた一方で、定量化の波に乗り遅れた国際関係論ジャーナルはIFを落としたと言える。このことが米国系国際関係論ジャーナルの定量化を加速させた可能性は高い。

図7 国際関係論(米国系4誌)と政治科学(2誌)のジャーナルIFの推移

図7 国際関係論(米国系4誌)と政治科学(2誌)のジャーナルIFの推移

(出所)JCR各年より筆者作成。

一方で、1997年から2000年代半ばの時期に米国の国際関係論ジャーナルに掲載されていた論文には、極めて骨太で面白いものがあることは事実である。例えば2000年にIOのSpecial Issueで国際制度の法律化(Legalization)が取り上げられ、Abbott et al.(2000)による国際制度の法律化概念の理論論文と、世界各地の地域制度の法律化度合いを検証する複数の実証論文(定性研究)が発表された。これに対し、いわゆるコンストラクティビストのFinnemore and Toope(2001)は法律化の概念を実証研究に都合の良い方向に矮小化すべきでないという趣旨の反論を行った。Google Scholar で見てもAbbott et al.(2000)は二千弱の引用があり、インパクトの大きい論文であったと言える。また、Acharya(2004)がASEANのケーススタディーによって地域協力に関する理論(国際規範の地域化)をIOで発表したのもこの時期である(こちらもGoogle Scholarで二千弱の引用)。しかしながら、IOがこの期間IF上は伸び悩んだことは否定できない。理論研究は当たりはずれが大きいことが理由ではないだろうか。

2000年代半ば以降は米国の国際関係論ジャーナルにおいて定量化の波が一気に押し寄せた。特に2006年にJon Pevehouse氏がIOのEditorについてこの流れが決定的になり、他の主要誌も定量化の傾向を一層強めたように思われる。それにともない、米国系国際関係論ジャーナルのIFは上昇傾向に転じた。つまり、米国国際関係論ジャーナルにおいて定量研究を扱った論文が多く採択されたのは、IFの低下傾向を食い止めるための手段の一つであった可能性が高い。

しかしながらこの動きに対し、米国系主要ジャーナルに掲載される論文の内容がつまらなくなったのではないかという議論が起こり始めた。国際関係論のいわゆる「ネオリベラル制度主義」の創設者であるRobert Keohaneは、学者は特定の状況下において因果関係を説明する仮説の検証だけでなく、人間の歴史や国際システムの変革を説明に関するbig questionを真剣に考えるべきとした(Keohane 2008)。さらに超大物学者であるWaltとMearsheimerは国際関係論研究において理論が置き去りにされてしまっているのでないかという懸念を表明し、単純な仮説の検証(simplistic hypothesis testing)は国際関係論の理論の発展にとって悪いことだと言い切った。さらに彼らはその背景に、テニュア取得等のプレッシャーがある中で学者が短期的に成果の出しやすい定量研究に没頭していることが一因であるとした(Mearsheimer and Walt 2013)。興味深いことに、彼らの論文は米国系ジャーナルではなくEJIRに掲載された。このことはこの時点でEJIRが米国系国際関係論ジャーナルの有力な対抗馬に育っていたことを示唆している。

米国流の国際関係論への批判はアジアにも存在した。既存の国際関係は欧米の価値観、歴史、経験に基づいているため、非欧米における国際関係を十分には説明できないのでないかという懸念である。前述のBuzanと、インド生まれでシンガポールを研究拠点としていたA. Acharya6は、「なぜ国際関係論理論において非西洋の理論が存在しないのか」という問題提起を行った(Buzan and Acharya 2007)。面白いことに、彼らの論文はIRAPより出された。同論文はアジア人研究者の心をとらえたが、非西欧理論を実際に打ち立てることは容易ではなかった。そしてIRAPにおける非西洋理論に関する議論は、Acharyaの研究への依存が顕著であったこともあり7、新興のCJIPが非西洋理論を構築するフォーラムとして中心的役割を占めるようになった。中国の文化、歴史、哲学を国際関係論の発展に反映させようという考え方から多くの中国人学者が様々な議論を行い、Chinese SchoolやTinghua Approachと自ら呼び始めた(Zhang 2012、Eun 2018)。Buzan自身もかつての中国を中心とした朝貢システムと国際社会に関する論文を2012年にCJIPより発表している(Zhang and Buzan 2012)。IRAPでJapanese Schoolを創設しようという動きがなかったこととは対照的である。この間CJIPのIFは上昇した一方で、IRAPには大きな変化がなかったことは先に見たとおりである。

今後の展望

米国における国際関係論研究は、最近十数年における急激な定量研究への傾斜により、理論について喧々諤々の議論が繰り広げられることはなくなってしまった。理論的インプリケーションが必ずしも明白でない変数の相関関係、因果関係に関する論文が、今まで考えられていた超一流ジャーナルを席巻している。一方で理論に関わる研究成果は、欧州系ジャーナル、中国系ジャーナルに多く乗るようになった。そして、それらのジャーナルのIFは米国系を猛追している。

今後長期(数十年)にわたる各ジャーナルの盛衰を見通すことは困難であるが、中期的には(十年程度)現在の傾向は変わらないと思われる。なぜなら、アメリカに在籍する若手研究者の定量研究志向は強いからだ。本稿冒頭でそのような傾向は日本人研究者(在米国、在日本とも)にとっては論文がアクセプトされる可能性を増大させるという意味でチャンスでもあると述べたが、おそらく多くの米国の若手研究者にとっても、今まで大御所理論家が幅を利かせていたジャーナルにアクセプトされるチャンスが上がるため、定量化の傾向を積極的に受け入れているように見受けられる。

その結果として、今後3つのことが中期的に起こると予想される。第一に、既にある程度の歴史を有しているEJIRと新興ではあるもののアジア的・中国的国際関係論を強調する傾向にあるCJIPの存在感が特に理論研究で増すと考えられる。EJIRがIFで軒並み米国系を抑えてNo.1になる、CJIPがトップ10入りすることがあっても不思議でなかろう。また、IA等英国系も米国系ジャーナルを避けた良質の論文の発表の場として存在感をさらに増す可能性がある。

第二に、さらに新しいジャーナルが生まれてくる可能性がある。例えばInternational Theoryは10年前に創刊された新参であり、CJIPよりもさらに新しいが、理論に特化した結果、トップ10入り目前である(2016年に14位)。このことから、第二、第三のInternational Theoryが出てきても不思議ではない。

第三に、本(単著)への回帰があるかもしれない。アメリカ人研究者の間では、欧州系、中国系ジャーナルは米国系に劣るという印象を持たれている。このため、理論に興味を有するアメリカ人研究者はこうしたジャーナルへの投稿ではなく、アメリカの大学系出版やケンブリッジ大学出版、オックスフォード大学出版の本に舞台を移し、字数制限なく議論を組み立てたいと考えても不思議ではない。

著者プロフィール

浜中慎太郎(はまなかしんたろう)。アジア経済研究所海外研究員(在ワシントンDC)。専門は国際関係論、国際政治経済学。最近の論文に "Understanding the ASEAN way of regional qualification governance: The case of mutual recognition agreements in the professional service sector," Regulation & Governance, 2018, 12(4): 486-504や "The future impact of Trans-Pacific Partnership’s rule-making achievements: The case study of e-commerce," The World Economy, forthcoming

書籍:Regulation Governance

書籍:The World Economy

参考文献
  • Abbott, Kenneth W., et al.(2000)"The concept of legalization." International Organization 54(3): 401-419.
  • Acharya, Amitav(2004)"How ideas spread: Whose norms matter? Norm localization and institutional change in Asian regionalism." International Organization 58(2): 239-275.
  • Acharya, Amitav, and Barry Buzan(2007)"Preface: Why is there no non-Western IR theory: reflections on and from Asia." International Relations of the Asia-Pacific 7(3): 285-286.
  • ――― (2017)"Why is there no Non-Western International Relations Theory? Ten years on." International Relations of the Asia-Pacific 17(3): 341-370.Eun, Yong-Soo(2018)"Beyond ‘the West/non-West Divide’ in IR: How to Ensure Dialogue as Mutual Learning." Chinese Journal of International Politics 11(4): 435-449.
  • Finnemore, Martha, and Stephen J. Toope(2001)"Alternatives to “legalization”: richer views of law and politics." International Organization 55(3): 743-758.
  • Grader, Sheila(1988)"The English school of international relations: evidence and evaluation." Review of International Studies 14(1): 29-44.
  • Jones, Roy E.(1981)"The English school of international relations: a case for closure." Review of International Studies 7(1): 1-13.
  • Keohane, Robert. O.(2008)“Big questions in the study of world politics”. In Christian Reus-Smit and Duncan Snidal(eds)The Oxford Handbook of International Relations. Oxford Univercity Press.
  • Mearsheimer, John J., and Stephen M. Walt(2013)"Leaving theory behind: Why simplistic hypothesis testing is bad for International Relations." European Journal of International Relations 19(3): 427-457.
  • Wilson, Peter(1989)"The English school of international relations: a reply to Sheila Grader." Review of International Studies 15(1): 49-58.
  • Zhang, Feng(2012)"The Tsinghua approach and the inception of Chinese theories of international relations." Chinese Journal of International Politics 5(1): 73-102.
  • Zhang, Yongjin, and Barry Buzan(2012)"The tributary system as international society in theory and practice." Chinese Journal of International Politics 5(1): 3-36.
  • 浜中慎太郎(2018)「ワシントンにある国際関係シンクタンクの潮流・系譜」『IDEスクエア』
  1. そもそも理論とは何かという点で研究者は合意できていないように見受けられるので、本稿では理論について特に定義しない。一般的な感覚で言うならば、国際関係論における理論とは国際関係の「見方」に近いといえよう。
  2. 本稿で日本人研究者といった場合、日本及び日本以外に研究拠点をもつ日本人研究者を意味する。米国の研究者といった場合、国籍に関わらず米国を研究拠点としている研究者をさす。
  3. チャタムハウスと米国外交評議会は姉妹機関ともいえる。浜中(2018)参照。
  4. 最近は2001年に創刊されたJournal of East Asian Studies(JEAS)に米国の研究者の執筆するアジアにおける国際関係、国際政治経済学の論文が多く掲載されている。JEASは米国系であるが、韓国の研究所が発行母体。
  5. ちなみに、欧州系の政治科学ジャーナルとしては、International Political Science Review(IPSR)が存在する。
  6. Acharyaは2007年以降、英国、米国に研究拠点を移している。
  7. AcharyaとBuzanは2017年にも、10年間における非西洋理論の動向についてIRAPで発表している(Acharya and Buzan 2017)。