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海外研究員レポート

ラオス人民革命党の綱紀粛正政策――2017年全党改善政治生活会議と思想教育について

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2017年9月

はじめに

2017年に入りラオスでは党員の綱紀粛正が大々的に行われている。この背景には順調に経済発展を遂げる一方で、党員や公務員の汚職・不正が拡大し、党支配に対する国民の信頼が低下していることがある。党指導部は2016年1月に行われた第10回ラオス人民革命党全国代表者大会(以下、第10回党大会)において、汚職が一般的に蔓延していることを認め、党員・幹部の政治的資質の低下は「党の役割や影響力にとって挑戦的な問題である」(Eekasaan koongpasum nyai khang thii X phak pasaason pativat lao 2016, 28)との危機感を示した。

もちろんこれまでも汚職や不正は存在した。2011年に行われた第9回党大会でも「党や国家機関、幹部職員や党員の汚職、またその他の否定的現象を断固防止・撲滅し、清廉な党となる」(Eekasaan koongpasum nyai khang thii IX phak pasaason pativat lao 2011, 42)と宣言している。しかし第10回党大会で「挑戦的な問題」とより強い危機感が示されたことからは、第9回党大会以降に汚職や不正が悪化したことを窺わせる。それを裏付けるように、第10回党大会では以下のような党建設方針が提示された。

「2020年に国家を後発開発途上国から脱却させ社会主義の目的に沿って着実に新しい段階に至るよう導くため、党の領導能力、新たな闘争力、そして党員の前衛性および模範性の促進は重要かつ決定的な要素である。当面は我が党が透明で、堅固で、強健になるよう改革や修正を行い、労働者階級の前衛団として、また勤労者と全ラオス人民の利益の代表となるよう本質を維持する。(省略)党の闘争力とは党の前衛性を促進し、党に起こりうるすべての危機に対抗する能力である。(省略)我が党は引き続き党内の統一的団結を維持し、組織や活動における民主と規律を厳格に実施する。批判・自己批判を常に実施し、個人主義や機会主義と闘争し、幹部や党員が透明で革命的政治資質を有し、社会に対する前衛的模範となる能力をもつよう育成する」(Eekasaan koongpasum nyai khang thii X phak pasaason pativat lao 2016, 57-58)。

ポイントは、党の「領導力」「模範性」「前衛性」「闘争性」が強調され、党員にこれまで以上の綱紀粛正が求められた点である。党員は知識や能力を有し、すべての任務において国民を先導し模範となるべき存在である。党中央宣伝・訓練委員会によると「前衛性」とは、党と人民の理想のために犠牲となり、人民に従事し、党内や社会における否定的現象(麻薬や汚職などの社会問題を指す)や敵の破壊活動と断固闘争することである(Khana khoosanaa ophom suun kaang phak 2015, 21-22)。つまり党員は国民の模範となり、国民を領導し、否定的現象など党に迫る危機に対抗できる能力を備え、それらと闘争しなければならない。

このような「領導力」「模範性」「前衛性」「闘争性」は以前から党員に求められてきた。党指導部が第10回党大会で改めて強調したのは、それらが欠如し党員の間に汚職や不正が拡大しているからにほかならない。そして2017年に入り党は、「全党改善政治生活会議」と題した思想教育を展開し、党員の綱紀粛正を近年まれにみる規模で実施している。

以下ではその内容についてみていくが、まず第10回党大会以降の党の認識と汚職・不正の実態について概観する。

1.第10回党大会以降の党の認識

第10回党大会以降も党は現状に対する危惧を示している。たとえば2016年8月に開催された第10回全国組織業務会議でブンニャン党書記長は、多くの人は政治意識からではなく、利益のために入党し、党のことを良くわかっていないと述べた(Pasaason, August 26, 2016)。党の信頼にかかわる問題について、党書記長が直接的表現を用い言及することは珍しい。それほど党内の状況は悪化しているといえる。そしてブンニャン党書記長は、これまでの政治・思想教育は効果的に実施されておらず、今後は(1)幹部、党員、社会が政治任務に対する責任を示すこと、(2)実際の活動や結果を通じて党指導や組織に対する信頼を形成すること、(3)政治・思想業務は社会の信頼を形成することが基本であり、社会が各種決議、命令、計画の執行に参加できるような条件を構築することが必要だと述べた(Pasaason, September 20, 2016)。

また2016年9月12~21日に開催された第10期党中央執行委員会第3回総会(以下、第10期3中総)でも、官僚主義や汚職はさまざまなレベルでかつ多様な形で発生し、党・国家の役割や影響力に対する挑戦的問題、社会に対する危険な問題との認識が示された。そして、問題解決におけるラオス国家建設戦線およびその他大衆組織の役割の促進、政治・思想分野の継続的な改善、領導様式の透明化、党の領導能力と前衛的模範性の向上などが掲げられた(Pasaason, September 22, 2016)。

以上からは、第10回党大会以降も党指導部の危機感に変化がないことがわかる。むしろブンニャン党書記長の言葉からは危機感が増しているといってよいだろう。そして2017年に入り、党は問題解決のための具体的な文書を公布する。

2017年1月13日、党中央執行委員会は官僚主義の解決と汚職の抑制・防止に関する決議第022号を公布した。具体的には、官僚主義と汚職問題の解決はすべての職員、組織、社会の任務と責任だが、なかでも各級の指導・管理職員が模範的に始めなければならないこと、また、問題解決の主要任務は思想教育であり、損失を認識させ、個人思想、官僚主義、汚職の危険性を理解させることなどが定められている(Pasaason, March 9, 2017)。つまり、思想教育が問題解決の鍵と位置付けられたのである。

以上の認識に基づき党政治局は2017年2月1日、「2017年全党改善政治生活実施に関する命令第01号」(以下、政治局命令第01号)を公布した。以降、近年まれにみる規模で綱紀粛正のための政治生活会議が全国で実施されることになる。では、実際にどの程度汚職や不正が発生し、どのくらいの数の党員が規律違反で処罰を受けているのだろうか。次に汚職・不正の実態をみることにする。

写真:ラオス人民革命党ブンニャン書記長

ラオス人民革命党ブンニャン書記長
2.汚職・不正の実態

2010年代に入り、ラオスではそれまでほとんど公にならなかった公的機関職員の汚職や不正に関する報道が徐々に増えてきた。ここでは第10回党大会以降に報道された汚職や不正の一部を取り上げる。

近年、大きな問題となっているのが架空公共事業プロジェクトである。2016年5月12日に行われた2015/16年度財務省組織・職員会議にて、実態のない公共事業が約60プロジェクト、総額7858億9966万キープ相当あることが明らかになった。内訳はウドムサイ県26プロジェクト、ルアンナムター県29プロジェクト、アッタプー県2プロジェクト、セコーン県3プロジェクトであり、政府は2015年8月14日までに債権2465億5523万1734キープ、現金225億5523万1734キープを回収したという(Patheet Lao, May 16, 2016, Vientiane Times, May17, 30, 2016)。明らかになったのは4県だけだが他県でも公共事業に絡む不正は多いとみられている。

もっとも大きな問題は中央や地方公的機関職員による横領や不正である。財務省検査局によると2015/16年度は以下のような不正があった。たとえば、チャンパーサック県では国庫事務所職員が電力税23億キープを横領する事件があった。すでに当局は全額を回収している。サワンナケート県では5人の職員が公文書偽造により第2友好橋の通行・車両税12億キープを不正に着服し逮捕された。当局が回収できたのは6億6700万キープである。また同県では他にも公文書偽造によりソンブリー郡のサトウキビプロジェクトからの33億9000万キープの不正転用(当局は22億4000億キープを回収)、予算の不正使用8億8500万キープ、12人の職員が関与したデンサワン・ラオバオ国境での木材輸出税11億6000万キープの横領(当局は5億6300万キープを回収)などがあった(Vientiane Times,  May 24, 2016)。サワンナケート県にはこれら以外にも多額の使途不明金があるという(Patheet Lao, July 5, 2016)。

サイニャブリー県では2016年10月に行われた第3回県検査業務会議にて、過去5年間で13件の汚職があり、損失額が22億キープに上ることが明らかになった(Pasaason Socio-Economic, October 25, 2016)。一方サラワン県では、9000立方メートルの木材の不正伐採、購入、販売で50億キープが失われ(当局は6700万キープを回収済)、50人の職員が検査機関から調査を受けた。そのうち6人が注意、21人が教育を受け、5人が更迭または下級に異動し、治安維持関連職員18人が除名された(Vientiane Times, November 10, 2016)。

公安省は2016年11月に行われた第5回全国治安維持勢力検査会議において、過去5年間で職員1343人が法律違反を犯し、損失額が60億キープ、19万1000ドル、1億4700万タイバーツ、2300万ベトナムドンに上ることを明らかにした。たとえばフアパン県では警察官がヘロイン密輸人から12万ドルを受け取り、ルアンナムターでは麻薬事件の死刑囚を釈放する見返りに職員が1400万バーツを受け取る事件があった。これまで注意を受けた職員は144人、昇級・昇格停止が341人、降格が101人、異動が20人、737人が懲戒免職となった(Patheet Lao, November 22, 2016)。

2016年9月に行われた党中央検査委員会第3回大会では、過去5年間で734組織を検査した結果、4兆1458億6000万キープ、7077万ドル、3億8168万バーツ、53万9518元の損失が発覚したとの報告があった。このうち回収できたのは7904億3000万キープ、1091万ドル、3619万バーツ、53万9518元だという。また3億319万3297立方メートルの木材も不法に売買された。そして汚職や不正で注意を受けた県党執行委員会は1、批判・注意を受けた郡党執行委員会は7、批判・注意を受けた党単位(末端の党機関)は3、注意のみの党単位が3、廃止された党単位は3となり、処罰を受けた党員は1806人に上った。そのうち党を除名されたのは1007人いるという(Vientiane Mai, September 29, 2016)。

2017年2月にメディアのインタビューを受けたダオブアラパー党中央検査委員会副委員長によると、統計が残っている2001年以降からこれまで処罰を受けた党員は2723人、除名は1440人に上る(Pasasson, February 15, 2017)。先述のように2016年までの5年間で処分を受けた党員は1806人、除名は1007人であった。つまり2010年以降に処分数が急増しているのである。

3.全党改善政治生活会議

3.1 日程

政治局命令第01号によれば、全党改善政治生活会議(以下、政治生活会議)参加対象は各級の党委員会と全党員である。そして2017年3月中に県、首都、省庁レベルで、翌4月に下級機関で実施すると定められている(PPPLKMSKP 2017, 3)。しかし実施は大幅に遅れ、県や主要国家機関が政治生活会議を開催したのは4月以降である。

表1は主要機関の政治生活会議開始日を示している。通常は各機関で全体会議が約1週間行われ、その後に下級の党組織で実施される。したがって省庁内や県内すべての党組織で政治生活会議を実施するには、数週間から1か月以上の時間を要する。会議は半日もしくは1日かけて行われるため、会議中は通常の業務が滞る。

表1 県・主要国家機関における政治生活会議開始日

たとえばヴィエンチャン県では6月29日から7月10日まで県党委員会政治生活会議が開催され、その後に11の郡党委員会や1000以上の基層党単位で実施された。県内ですべての政治生活会議が終了したのは8月25日である(Pasaason, September 13, 2017)。つまりヴィエンチャン県では2か月以上かけて政治生活会議を実施したことになる。

筆者が直接観察することのできた内務省では5月に入り、省内の党員に対して1か月間の地方出張禁止令が公布された。各機関の政治生活会議には政治局員または書記局員などの党指導部が参加するため、日程は直前にならないと確定しない。したがって内務省ではいつ会議が開催されてもよいように、参加義務のある党員を首都ヴィエンチャンに留まらせておくための措置を講じたのである。実際5月中といわれていた内務省の政治生活会議は、同会議に参加したブントーン政治局員の都合で6月12~17日に開催された(Pasaason, June 13, 2017)。その後、局・課レベルでは7月中旬まで政治生活会議が続いた。

6月12日からの会議前には、内務省党執行委員だけの政治生活会議が数日間行われた。省党執行部は大臣、副大臣、官房局長など省内の指導幹部で構成されている。政治局命令第01号に基づけば、同会議では必要文書の準備やその学習、また指導部内で批判・自己批判が行われたと考えられる。しかし実際にどのような協議が行われたかは明らかではない。6月12日から開催された会議も外部には当然非公開である。ただし政治生活会議で党員学習用として配布された「党を透明かつ強健で、確固たるものにするため断固改善する」という文書(以下、付属文書)は入手できた。党員は同付属文書を学習しそれに沿った行動が求められる。いわば政治生活会議の鍵となる文書である。

以下、政治局命令第01号と付属文書に基づき会議での学習内容について概観する。

3.2 会議での学習内容

政治局命令第01号ではまず、包括的刷新任務を実施するため全ラオス人民を領導し、国家を後発開発途上国から脱却させ社会主義の目的に導くのは権力党である人民革命党だという位置づけが確認される。その上で、刷新路線で大きな成果を収めたが、いまだに多くの問題が適切に処理されていないとの認識を示し、自己鍛錬の軽視、質の低下、官僚主義や個人主義、汚職、規約違反などを解決し、党を透明かつ強健で、確固たるものにするために政治生活会議を実施するとの目的が述べられる(PPPLKKMSKP 2017, 1-2)。つまり国民を領導する党としての地位を維持するために、党の改善が必要だということである。

党の改善とは具体的に、文書の学習や批判・自己批判などを通じて、党や党員の思考、政治的資質、領導・業務様式を転換することである。党指導部はそうすることで党員の領導力、前衛性、模範性を向上できると考えている(PPPLKKMSKP 2017, 2-3)。そして党員が学習を義務付けられているのが付属文書である。付属文書は大きく3つの内容にわかれている。

(1)「政治的資質と革命的道徳を積極的に鍛錬する」

(2)「党の領導様式および業務様式が厳格かつ効果的となるよう改善する」

(3)「官僚主義を断固解決し、汚職を抑制・防止する」
Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 1, 6, 11)

以下それぞれの内容についてみることにする。


(1)政治的資質と革命的道徳について

党指導部の考えでは、指導幹部や党員への人民の信頼や忠誠というのは、政治的資質や革命的道徳、また実際の実践に対し示されるものである1 。政治局命令第01号では現在求められる政治的資質が6点あげられている(Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 1)。

①社会主義の目的を固く信じること

②味方と敵について明確な観点をもつこと

③マルクス・レーニン主義および党の路線や政策について深い知識をもつこと

④与えられた任務に対して高い政治責任をもつこと

⑤大衆の力と知恵を固く信頼すること

⑥党規約や国家の法律を遵守し厳格に執行すること
(Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 1-3)。

説明を加えると以下のようになる。幹部や党員はマルクス・レーニン主義について学習し、社会主義の目的を実現するために困難を潜り抜け、人民や国家のために犠牲になることが求められる。そして敵と味方を明確に区別し、体制を安定させるために敵対勢力の破壊活動と闘争する揺るぎない意志をもち、内部に存在する自己演変(体制破壊につながるような自己変化や活動)や敵の和平演変(敵対勢力による平和的な体制破壊活動)への意識と危機感をもたなければならない。そのために幹部・党員はどのような職位にあろうとも党規約や国家の法律を厳格に実施し、与えられた業務を高い責任をもって最後までやり遂げるとともに、大衆の力と知恵を信頼する必要がある。また高級指導幹部は法律遵守の模範となり、家族や親類も含めて規約や法律違反を犯してはならない(Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 1-3)。

社会主義イデオロギーやマルクス・レーニン主義などは、党の基本イデオロギーや思想であり、汚職・不正問題の解決と直接関係ないようにみえる。しかし人民革命党はイデオロギー政党であるため、思想面の緩みが党・国家幹部の汚職や不正の拡大をもたらしたとの認識がある。また党はこれまでも、体制に悪影響を及ぼすような問題を「敵」とのイデオロギー・政治闘争として捉えてきた。

たとえば1998年にアジア経済危機の影響で経済が低迷し党支配への信頼が低下したとき、「敵と我々の間の『誰が誰に勝利するか』の深刻な闘争」という表現が復活した(山田 2005, 51)。これは社会主義対資本主義の2つの路線間の闘争を表す言葉であり、経済危機とは直接関係ない。しかし党は、経済低迷や当時も拡大傾向にあった汚職などの経済開発の負の側面、そしてそれに起因する社会主義イデオロギーや党支配への信頼低下を「敵」と位置づけ、オーソドックスなイデオロギー的表現を用い政治問題として捉えたのである。今回も、汚職・不正の拡大は社会主義国家建設や人民革命党独裁体制に悪影響を及ぼす「敵」と位置付け、強い政治的危機感を示している。言い換えれば党は、経済・社会問題をイデオロギー的文脈で政治問題として解釈し、党員や国民に提示しているのである。それは問題を議論する際、党員だけでなく国民もイデオロギー的言説に縛られることを意味する。

一方、革命的道徳とは政治的資質を構成する重要な要素と位置付けられている。それは精神感覚であり、幹部・党員の業務様式、また社会や家庭における生活様式でもある。幹部・党員にいくら知識や能力があろうとも、革命的道徳を欠いていれば党、国家、人民にとって何の役にも立たない。したがって革命的道徳は幹部・党員にとって欠かすことのできない要素であり、以下の7点が必要だとされる(Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 3)。

①国家と人民のために犠牲心をもつこと

②勤労、勤勉、正直、質素、透明であること

③規律を正し、法を遵守すること

④慈悲深い団結心をもつ

⑤深い愛国心をもつこと

⑥慎重であり、正しい行いをすること

⑦学習と自己開発にいそしむこと
Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 3-6)。

付属文書によると以下のように要約できる。国家と人民のために犠牲心をもつことは、政治的資質のもっとも基本的要素であり、それは革命闘争のように個人の利益を顧みず国家や人民のために知力や精力を尽くすことである。そのために党員は勤労、勤勉、誠実、質素、透明さを備え、人々にとって良きモデルとならなければならない。良きモデルは良き領導であり、反対に模範性を欠けば大衆の信頼を失うことになる。つまり党員は人民の信頼を損ね、自分の都合や利益のために法や規約違反を犯してはならない。また党員は互いを尊重し、信頼しあい、自己顕示をせずに、国家に対する誇りやラオス人としてのプライドをもたなければならない。そして常に学習と自己鍛錬を行い国家開発に貢献するのである(Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 3-6)。

つまり党員には、革命闘争時代のような国家や人民への犠牲心、団結心、愛国心、そして高い責任感が業務だけなく普段の社会生活にも求められ、それにより高い政治的資質が得られるというのが党のロジックである。付属文書ではまずこのような思想面・精神面の改善が要求される。


(2)党の領導および業務様式の改善について

思想面・精神面の次に言及されるのが業務様式の改善である。政治局命令第01号では、これまでのような場当たり的対応でなく、部門や地方の問題を把握し分析することで問題解決につながる科学的な業務様式を採用し、民主集中制に則って執行しなければならないと定められている(Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 6)。

民主集中制とは、個人は組織に、少数意見は多数意見に、下級組織は上級組織に、党全体は党中央執行委員会決議にしたがって執行するという党の基本原則である。付属文書では民主集中原則を厳格に遵守すれば党は透明かつ力強くなり、安定するとされている(Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 8)。つまり、党の最高意思決定機関が公布した今回の政治局命令第01号を全党員が断固実施しなければならないという意味が込められているのである。

業務様式の中でもっとも重視されているのが検査である。体系的で徹底した検査を行えば汚職・不正を抑制できることはいうまでもない。したがって党員・幹部は職位に関係なく検査対象となる。そして検査への社会参加が重要であり、国家建設戦線や大衆組織の役割を向上させ、多様な形式で各級の指導層に意見を伝達できるようにし、党、国家、大衆組織の指導者に対する信任投票を実施すると定めている(Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 9-10)。

指導層への意見伝達制度や信任投票の実施については第10回党大会政治報告でも提案された。党大会以降、政府や一部省庁、また大衆組織が国民の意見を募集するためのホットラインやフェイスブックページを開設したが、信任投票はいまだに実施されていない。汚職・不正問題の解決につながる信任投票制度を導入できるかどうかは今後の大きな課題である。

検査における社会参加と合わせて、人民との密接な関係構築も問題解決の鍵と位置付けられている。「人民の人民による人民のため」というのは党や国家が掲げる理想である。したがって党員や国家職員は人民の利益と満ち足りた生活のためにすべてを行い、そのために人民と密接な業務様式を構築しなければならない。それは日々の業務執行において、国民の集団利益と人民のために積極的に知識と能力を費やし、人民に忠実で人民の利益を守る自覚をもつことである。したがって基層における実際の状況を把握し、人民の声に耳を傾け、彼らの生活状況や望みを理解する必要がある。そうすることで貧困解決や生活改善への支援方法を考え、都市と農村の格差を是正することができるという(Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 10-11)。

もちろん集団利益と人民への奉仕という意識が強ければ、汚職や不正が起こる可能性は低くなる。しかし人民との関係を強調したことには、人民の不満解消という意図もある。特に人口の約70%が居住する農村地域では、党員や幹部の汚職だけでなく都市との経済格差に対する不満が拡大している。だからこそ、党は汚職や不正問題の解決と直接関係ないと思われる都市と農村の格差是正に言及したのだろう。今回の政治生活会議は汚職・不正問題だけでなく、党への人民の信頼を回復し党支配体制を維持するという根本的な問題への対応でもある。事実、政治局命令第01号では革命的、科学的、実用的、民主的な業務様式をもち、努力を怠らず責任を高めれば、闘争力、領導力、前衛性を向上でき、恒久的に安定した権力党になれると記されている(Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 11)。業務様式の改善は党支配体制の持続にとっても重要な意味をもっているのである。


(3)官僚主義を断固解決し、汚職を抑制・防止する

イデオロギー・思想面、業務様式に関する概念が提示された上で、最後に問題解決の手段が示される。とはいえ、これまで以上に踏み込んだ記述になっているものの、具体的かつ詳細な問題解決の施策が提示されているわけではない。  これまで党は常に官僚主義と汚職の危険性を示し、党員・幹部を教育してきたが、問題の影響や危険性への認識は深まっていない。したがって、人民から乖離した領導・指導が行われ、集団や下級の意見を聞かず、個人主義や官僚主義が発生しているという(Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 11-12)。そして問題解決の主要手段として以下の8点が掲げられた。

①思想教育を行い、官僚主義や個人主義、汚職の危険性に対する理解を深める

②既存のメカニズムや規則とともに、党・国家指導者個人に対する信任投票制度、土地、国有資産、天然資源管理、入札や政府調達、資産や収入公開などに関する規則を整備する

③各級の党委員会と幹部の政治生活を毎月、毎年厳格に実施する。重要なのは党員や幹部の自己批判であり、勇気をもって互いを批判することである

④民主集中原則を遵守し、検査を行い、個人思想、官僚主義、人民からの乖離に対して主体的に闘争する

⑤上長の模範性を向上する。正直で清く質素な生活を送り、自身の管理下にある幹部や党員に生じる否定的状況に対して直接責任をもつ

⑥党委員会や国家権力機関、大衆組織による検査の効率と厳格性を向上する

⑦税務、予算、公共事業投資、土地・天然資源管理、入札・調達、裁判、国家行政サービスなど、汚職の危険性が高い分野への検査を重視する

⑧幹部や党員で官僚主義や個人主義に陥り、汚職を行っている者がいればどのような職位であっても厳格に、断固、適切な手段で解決する
Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen 2017, 11-15)。

具体的に汚職の危険性が高く検査を重点的に行う分野、信任投票制度の整備、また現在は非公開となっている公的機関職員の資産・収入申告の公開に向けたルール作りなど、これまでよりも一歩踏み込んだ方針が示されている。しかし全体として問題解決手段の詳細が提示されたとは言い難く、全体的に3つのパートは概念的であり重複が多い。

政治局命令第01号や付属文書からは、党が汚職や不正を政治危機と捉えており、思想教育を通じて党員や職員がそれを理解し、その上で批判・自己批判や厳格な検査を通じて問題解決を目指していることは理解できる。しかしこの2つの文書の普及と学習のみで汚職・不正を解決し、人民の党への信頼を向上できるとは考えられない。

おわりに

政治局命令第01号や付属文書の内容は非常に包括的かつ概念的である。たしかに付属文書に記されたように、人民への犠牲心や奉仕の心をもち、清廉潔白で質素な生活を送り、厳格な検査を実施すれば、党員の「領導性」「前衛性」「模範性」「闘争性」を向上でき、汚職や不正は解決できるだろう。そして人民の党への信頼も回復すると考えられる。

しかしそれはあくまで党指導部の理想である。具体的かつ詳細な問題解決策、また罰則なども記されず、政治生活会議の実施と付属文書の学習だけで党員や幹部が指導部の期待通りに行動する保証はどこにもない。ではなぜ党はこのような会議を全国で大々的に実施しているのだろうか。

もちろん第1の目的は汚職や不正問題の解決である。ただしそれは、具体的な罰則や取り締まり策を定めるのではなく、思想教育を通じて党指導部の危機感や考えを全党員と共有することに重きが置かれている。まずは党全体で汚職や不正に対する統一的見解を構築することが、今回の政治生活会議の目的といえる。言い換えれば、党員の間に共通の規範と価値を形成することである。そうすることで党指導部は問題解決の第一歩につながると考えたのだろう。

一方、問題がそう簡単に解決できないことは党指導部も理解している。だからこそ、検査重点部門を具体的に記し、これまで実施に消極的であった信任投票制度や資産・収入公開のルール作り、また部下の責任を上長が直接負うことなど、これまでよりも一歩踏み込んだ方針を示したといえる。いわば問題が解決されなければこれらの政策を今後実施するという警告であり、特に指導幹部・管理職員にとっては大きなプレッシャーになることは間違いない。そうすることで指導幹部・管理職員の模範性を向上させようとしているのである。

第2の目的は、党内の結束強化を通じた支配体制の維持である。先述のように党は問題をイデオロギー的文脈でも捉え、体制への「敵」と位置付けている。当然、党員は党のイデオロギーや言説に縛られるため、党員には「敵」との闘争が求められる。つまり、今回の政治生活会議の号令の下に、全党員は形式的であっても同じ方向を向き、同じように行動し、逸脱は許されないことになる。

このように「敵」の存在を明確にし、かつ党内に闘争のための共通の規範と価値を構築すれば、少なくとも党内の結束は強化され、党が内部から崩壊する可能性、すなわち自己演変の可能性は大きく低下する。思想教育を重視することの重要性はまさに、共通の規範と価値を形成し党員を縛ることにある。

たとえば党はこれまでも党の結束が緩んだとき、実質的意味を伴わない何らかのスローガンや政策を掲げて特定の言説を構築し、党内の結束を強化してきた。1986年の「チンタナカーン・マイ」(新思考)2、2004年の「クムバーンパッタナー」(開発村建設)3、2011年の「3建」(県を戦略単位に、郡を全分野における強力な単位に、村を開発単位に建設する4、2016年の「カイソーン・ポムヴィハーン思想」5などは、いずれも具体的な内容が示されぬまま、党員や公務員ひいては国家全体が実施や学習を求められたスローガン、政策、思想である。つまり党員や国民はそれらが実質的に何かを理解していなくても、党が掲げる言説に沿った言動と行動が求められ、自身の言動と行動を党の言説に沿って正当化しなければならないのである。そのようにして党は国民を党の傘の下に統合してきた。そして党指導部が政治生活会議を実施する主な狙いも第2の目的にあると考えられる。

もし汚職や不正問題を真に解決しようとするならば、思想や概念的手段ではなく、罰則強化などのより具体的で厳しい措置を講じるはずである。そうではなくイデオロギーや思想教育により解決を図ることは、党が特定の言説の構築を通じた党内結束の強化に重きを置いていることを裏付けている。また、今回の政治生活会議の直接の対象は党員だが、党員は国民の模範であり国民はその模範に倣うことが期待されている。つまり国民も政治生活会議の内容やそこで構築された言説に縛られることになる。

今回の政治生活会議は、人民革命党にとってイデオロギーや政治思想がいまだに党支配体制の維持にとって非常に重要な意味をもっていることを明確に示している。

著者プロフィール

山田紀彦(やまだのりひこ)。アジア経済研究所在ヴィエンチャン海外研究員。主な著作は『独裁体制における議会と正当性:中国、ラオス、ベトナム、カンボジア』(編著)アジア経済研究所(2015年)等。詳しくは研究者紹介ページをご覧ください。

書籍:研究双書――独裁体制における議会と正当性――

書籍:ラオス人民革命党 第10回大会と「ビジョン2030」

写真の出典

By Presidential Communications Operations Office [Public domain], via Wikimedia Commons.

参考文献


<日本語・ラオス語文献>

  • 山田紀彦 2005. 「市場経済下のラオス人民革命党支配の正当性――党政治・理論誌『アルン・マイ』における議論の変遷を中心に―」天川直子・山田紀彦編『ラオス 一党支配体制下の市場経済化』アジア経済研究所 27-70。
  • ――― 2011a. 「『チンタナカーン・マイ』を再考する――ラオスを捉える新たな視座――」山田紀彦編『ラオスにおける国民国家建設――理想と現実――』アジア経済研究所3-47。
  • ――― 2011b. 「ラオス人民革命党支配の確立――地方管理体制の構築過程から――」山田紀彦編『ラオスにおける国民国家建設―理想と現実―』アジア経済研究所49-90。
  • ――― 2017. 「人民革命党の現状認識と今後の国家建設方針――政治報告分析――」山田紀彦編『ラオス人民革命党第10回大会と「ビジョン2030」』アジア経済研究所 19-41。
  • 山田紀彦・矢野順子・ケオラ・スックニラン 2012.「第9回党大会政治報告(抄訳)」山田紀彦編『ラオス人民革命党第9回大会と今後の発展戦略』アジア経済研究所 107-124。
  • Eekasaan koongpasum nyai khang thii IX phak pasaason pativat lao [ラオス人民革命党第9回党大会文書] 2011.
  • Eekasaan koongpasum nyai khang thii X phak pasaason pativat lao [ラオス人民革命党第10回党大会文書] 2016.
  • Eekasaan det diaw pappung pua paeng phak hai poot sai, kem khaeng lae naknaen [党を透明かつ強健で、確固たるものにするため断固改善する文書] 2017
  • Khana khoosanaa ophom suun kaang phak [党中央宣伝・訓練委員会] 2015. Eekasaan ophom samaasik phak (60 khamtaam-60 khamtoop) [党員研修文書(60の問題と60の回答)] Vientiane: Khana koosanaa ophom suun kaang phak.
  • Phak pasaason pativat lao kom kaan meuang suun kaang phak (PPPLKKMSKP) [ラオス人民革命党政治局] 2004. Kham sang naenam vaa duai kaan sang baan lae kum baan phatthanaa leek thii 09 [村建設および開発村グループ建設に関する政治局指導命令第09号].
  • ――― 2017. Kham sang vaa duai kaan damneun siiwit kaan meuang pappung pua paeng thua phak, leek thii 01 [全党改善政治生活実施に関する命令第01号].
  • Saphaa haneg saat [国会] 2015. Kot maai vaa duai phanakgaan-latthakoon [幹部・職員法].

<新聞>

  • KPL
  • Patheet Lao.
  • Pasaason.
  • Pasaason Socio-Economic.
  • Vientiane Mai.
  • Vientiane Times.

脚 注


  1. 2016年12月18日の第7期第10回国会で承認され、2016年1月28日に施行された「幹部・公務員法」によると、幹部とは党、国家機関、国家建設戦線、中央や地方の大衆組織における高級指導幹部および管理職で何らかの職位に就く領導幹部や管理幹部を指す(第3条第1項)。高級指導幹部とは具体的に国家主席、国会議長、首相、国家副主席、国会副議長、副首相、大臣、国会分科委員会委員長と書記局長、最高人民裁判所長官、最高人民検察院長、国家会計監査機構長、県知事、都知事、副大臣、国会分科委員会副委員長と副書記局長、最高人民裁判所副長官、最高人民検察院副院長、国家会計監査機構副機構長、県副知事、副都知事、県人民議会議長、庁長官または庁と同格の国家機関の長を指す(第22条)。領導幹部とは管理職で路線、政策、戦略、法律を定める役割を有する者(第3条第3項)、管理幹部とは自身の組織や幹部・公務員の活動を管理する立場にある者を指す(第3条第4項)。具体的には庁副長官、庁と同格の機関の副長、局長または局と同格の機関の長、副局長または局と同等の国家機関の副長、県級人民裁判所長官と副長官、県級人民検察院長と副院長、地域会計監査機構長と副長、郡長、テーサバーン長、市長、副郡長、副テーサバーン長、副市長、県人民議会副議長が高級管理職であり、省や省と同格の国家機関の課長と副課長、県人民議会分科委員会委員長と副委員長が中級管理職、係長または係と同等の機関の長、業務組長または組と同等の国家機関の長が下級管理職となっている(第22条第2項、3項、4項)。公務員とは中央や地方の党、国家、国家建設戦線、大衆組織の事務職員、専門職員、事務職補佐で事務職か専門職の何らかの職位に就いているか、または何らかの職務に採用された者を指す(第3条第2項)(Saphaa haeng saat 2015)。
  2. 「チンタナカーン・マイ」(新思考)とは、市場経済化を本格的に実施するため、これまでとは変わろうという国民へのメッセージでありスローガンである(山田 2011a, 22)。
  3. 2004年6月8日、「村建設および開発村グループ建設に関する政治局命令第09号」が公布された(PPPLKKMSKP 2004)。これは小規模な村々を合併しかつグループ化することで、国防と治安維持、経済・社会開発分野における総合力を強化し、開発を進めること、また効率的な住民管理を目的とした文書である(山田 2011b, 72)。
  4. 「3建」とは2001年の第9回党大会で提示された「県を戦略単位に、郡を全分野における強力な単位に、村を開発単位に建設する」(Eekasaan koong pasum nyai khang thii IX phak pasaason pativat lao 2011, 37)という地方への権限と業務の委譲を目的とした政策である(山田・矢野・ケオラ 2012, 117)。
  5. 2016年の第10回党大会で提示され、初代党書記長であるカイソーン・ポムヴィハーンの名を冠した、マルクス・レーニン主義と並ぶ人民革命党の新たな思想である。しかし党大会では具体的な内容は示されていない(山田 2017, 36)。