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海外研究員レポート

名誉なランキングの背景にある格差

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049908

2012年1月

ミス・コンテスト世界大会に沸く

フィリピンはミス・コンテストが好きだ。特に2011年は「世界4大ミス・コンテスト」におけるフィリピン代表の健闘に沸いた。結果は以下のようなものであった。

  • 2011ミス・ユニバース:4位(過去優勝2回)
  • 2011ミス・ワールド:2位
  • 2011ミス・インターナショナル:上位15に入賞(過去優勝4回)
  • 2011ミス・アース:3位

これらのうち、2011年9月に行われたミス・ユニバースは、同年最初のミスコン世界大会ということもあって、フィリピン国内でも大いに注目された。当然、国内メディアはコンテストの様子を中継した。ちなみに、この大会のフィリピン代表はフィリピン大学建築学部卒という才媛である。当日、筆者はフィリピン大学構内にいたが、テレビ中継に見入る学生や大学スタッフなどを多く見かけた。そして彼らはこのフィリピン代表が上位に進むたびに賑やかに騒ぎ、最終的に優勝は逃したものの4位入賞という結果に大きく沸いていた。なお余談だが、4位入賞が決まったあとのメディアの反応がいかにもフィリピンらしい。彼女が最終選考で残った5人のうち、ただひとり通訳ナシで英語のまま質疑応答をしたことを大いに称えたのである。

実は、フィリピンがこのミス・ユニバースに注目し、その結果に沸いた理由がもうひとつある。前年(2010年)の世界大会で、フィリピン代表が5位に入賞しているのだ。すなわち、二年連続の快挙になったわけである。そのためもあってか、今大会で4位に入賞したフィリピン代表が帰国した際の大歓迎ぶりはあたかも優勝者を迎えるようで、派手なパレードも実施された。

その後に続いたミス・ワールドやミス・インターナショナル世界大会でもフィリピン代表が上位入賞し、12月にフィリピン大学劇場が開催地となったミス・アース世界大会ではフィリピン代表が3位に入賞した。このミス・アース・フィリピン代表もフィリピン大学卒の学歴をもつ才媛である。こうしたいずれのミスコンも国内で大きく報道され、「フィリピン女性の美と知性が世界的に評価された」(現地メディア)ことに沸いた2011年であった。

男女格差の小さい国

フィリピン女性に関する名誉なランキングがもう一つある。世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表する世界男女格差指数ランキングで、フィリピンが2011年に135カ国中8位であったのだ。つまり調査対象となった135カ国中、8番目に男女格差が小さい国だと評価されたのである。評価内容は経済参画、政治参加、教育水準、健康寿命などの分野である。実のところ、フィリピンは同ランキングにおいて2010年と2009年に9位、2008年、2007年、2006年に6位であり、常に上位10位内に入っている「優等生」である。フィリピンの上には北欧の主な国々がならび、また、フィリピンの次に出てくるアジアの国は31位のスリランカや36位のモンゴルである。参考までに、日本は同ランキングで98位であった。アジアのなかでフィリピンが断然上位に位置しているのがわかるであろう。

確かにフィリピンでは女性の活躍が目立つ。官界やビジネス界には女性の管理職が当然のごとく存在するし、政界も同様で、すでに女性大統領も過去に二人輩出した。本稿を目にした読者でフィリピンを訪問したことがある人は、誰もがそのような印象を持つのではないだろうか。実際、教育水準も女性のほうが高い。2007年人口センサスによれば、学士以上の学位取得者全体のうち、半分を超える56%は女性なのだそうだ。

女性を支えるのは女性

ただ、こうしたフィリピン女性の活躍ぶりを高く評価する一方で、ひとつ見逃してはいけない事実があるのではないだろうか。それは女性が女性を支えているという構図である。すなわち、女性の家内労働者(メイド)が、外で働く女性とその家庭を支えているという実態だ。安価な家内労働者を雇える国だからこそ、女性が社会で活躍できるともいえるだろう。フィリピンの地方では十分な雇用機会がないため、都市部に働きに出る女性がいる。そうした女性の雇用の受け皿のひとつが家内労働なのだ。特に都市部の上流家庭では、ベビーシッター、掃除担当、洗濯担当、それに料理担当など、それぞれの担当ごとに数人の住み込みメイドを抱えている。中流家庭でさえ、母親が専業主婦でも、一人か二人の住み込みメイドがいる場合もある。ましてや母親が定職についている場合は、彼女たちの存在があってこそ日々の生活が成り立つといっても過言ではない。掃除や洗濯はもちろんのこと、日々の炊事までも任せているのだ。近年では住み込みではなく、通いのメイドも増えている。日本の働く女性からすれば、何とも羨ましい光景である。

こうした事情は労働統計にも表われている。図はフィリピンの職業別労働者数を、さらに性別に見たものである。女性労働者の場合、管理的・専門的・技術的職業に従事する労働者と未熟練労働者(このなかに家内労働者が含まれる)に「二極化」していることがわかる。また調査によれば、未熟練労働者のほとんどは一日あたりの法定最低賃金すら支払われていないことが多い。

このように、「美と知性」に裏付けられたフィリピン女性の社会進出を支えているのは女性であり、男女格差が少ない国という名誉あるランキングの背景にあるのは、女性間格差であるともいえるだろう。

フィリピンの職業別労働者数(2010年)
グラフ:フィリピンの職業別労働者数(2010年)

(出所) 2011 Gender Statistics on Labor and Employment, 2011 Yearbook of Labor Statistics
(いずれも Bureau of Labor and Employment Statistics, Department of Labor and Employment)より筆者作成。