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海外研究員レポート

イギリス総選挙:イギリス初のテレビ党首討論

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049953

2010年6月

2010年5月6日にイギリス議会の総選挙が行われた。その結果、12年間政権与党であった労働党が大きく議席を減らし、野党であった保守党(Conservative Party)が第一党となった。ただし、保守党も過半数の議席を確保することはできず、民主自由党(Liberal Democrat Party)との連立政権を発足させることとなった。連立政権は、イギリスでは65年ぶりのこととなる。自由民主党が、連立政権の条件として現在の小選挙区制の見直しを挙げていることもあり、イギリスの二大政党制も大きな転換期を迎えた。

今回のイギリスの総選挙では、イギリス初となるテレビでの党首討論が開催された。今後の政局の行方も気になるところであるが、この情勢報告では、この党首討論について簡単に振り返ってみたい。

今回の大きな存在感を示した民主自由党であるが、その最大の要因として、二大政党である労働党と保守党に加えて自由民主党も参加した、テレビによる党首討論が挙げられる。テレビでの党首討論はイギリスでは初の試みであり、4月15日(国内事情)、22日(外交問題)、29日(経済問題)と3回行われた。第1回の党首討論では、人口6100万人のうち1000万人近くが視聴したと言われている。この党首討論では、二大政党の党首である労働党のゴードン・ブラウン、保守党のデイビッド・カメロンに対して堂々と渡り合う自由民主党党首ニック・クレッグが、大きな注目を集めることとなった。このテレビ討論直後の YouGov社の調査では、討論の勝者として、51%がクレッグ(カメロン29%、ブラウン19%)を選んだのである1。この討論番組によって、一般にはほとんど無名だったクレッグ党首の知名度が急上昇し、その人気の沸騰ぶりは、新聞報道でクレッグマニア(Cleggmania)とよばれるほどであった(2010年5月6日インディペンデンス紙)。この党首討論の直後は、クレッグについて、支持率の高さからチャーチル、その若さ(クレッグは43歳)からオバマ2、そしてニクソンとのテレビ討論で大きく支持率を伸ばしたアメリカの J・F・ケネディなどと比較する新聞記事もあった。

ただし、その熱狂は長くは続かなかった。最後の党首討論後の勝者としては、41%がカメロンを選び、クレッグを選んだのは32%にとどまった(ブラウンは25%)(YouGov社調査)3。総選挙の結果も、自由民主党は、得票率で1%を増やしたのみにとどまり、5議席減らした57議席に終わった(下図参照)。その原因として、自由民主党が票をのばすことによってハング・パーラメント(どの党も過半数を取れない議会)を有権者が嫌ったこと、小選挙区制ゆえに自由民主党への票は議席へつながらず、単なる批判票にしかなれないこと、政策自体に新鮮味がないこと、さらには自由民主党には確固たる支持基盤がなかったことなどが挙げられている4

結果的にテレビ討論による投票行動への影響は、はっきりとした形をとることはなかったが、政策内容だけでなく、討論のスタイルが一時的にせよ支持率に重要な大きな影響力をもたらすこととなった。テレビでの党首討論は、イギリスの選挙の性質を大きく変えてしまったことは間違いないであろう。

2010年イギリス総選挙結果概観

2010年イギリス総選挙結果概観

(出所) "BBC Election 2010" http://news.bbc.co.uk/1/shared/election2010/results/

脚注


  1. "Instant reactions: The great debate" 2010年4月15日付 (http://today.yougov.co.uk/politics/instant-reactions-great-debate
  2. 2010年4月19日ガーディアン紙ウェブページ"Nick Clegg – the British Obama?" (http://www.guardian.co.uk/politics/2010/apr/19/nick-clegg-obama
  3. "Instant reactions: The final debate" 2010年4月29日付 (http://today.yougov.co.uk/politics/instant-reactions-final-debate
  4. 2010年5月8日タイムズ紙ウェブページ“How the Clegg personality cult was born — and how it died”, (http://www.timesonline.co.uk/tol/news/politics/article7120174.ece