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海外研究員レポート

南部ノースカロライナ州で見た2008年アメリカ大統領選挙

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049974

2009年1月

2008年11月4日に全米で投開票が行われた大統領選挙で、共和党のジョン・マケイン氏を大差で破り当選を果たした民主党のバラク・オバマ氏は、2009年1月20日の正式就任をもって晴れて米国史上初の黒人大統領となった。筆者の滞在するノースカロライナ州は、長らく黒人差別の歴史を抱える南部地方に属するだけに、地元ではオバマ大統領の誕生を歓迎する向きがひときわ強い。しかし、実際の選挙戦では中西部のミズーリ州と並んで最後まで勝敗がもつれた州となった(結果は僅差で民主党・オバマ候補の勝利)。本稿では、南部ノースカロライナ州から見た2008年大統領選挙の様子について、地元紙を手がかりに紹介してみたい。

ノースカロライナ州は南北戦争当時、南部連合(Confederate States of America)に最後に加盟した州として、歴史的に奴隷制や人種差別・隔離といった負の遺産を抱える州として知られている。しかし、第二次大戦以降は南部のなかでも人種問題に対して比較的穏健な州のひとつと見なされている。近年では農業や繊維産業、金融を中心にサンベルト地帯(米国南西部)の経済発展の一角をなすとともに、外部からの移住者の増加により州人口の増加率も高く、成長力のある州のひとつといえる。

政治的にはノースカロライナ州は白人保守層が根強く残る、共和党優勢の選挙区であった。1964年の公民権法の(Civil Rights Act of 1964)制定以降、1968年のリチャード・ニクソン大統領から始まった同州の共和党体制は、途中1976年に一度は民主党のジェームズ・E・カーター大統領が制したものの、先のジョージ・W・ブッシュ大統領に至るまで続いた。したがって、今回の民主党・オバマ氏の同州での勝利は、1976年のカーター大統領以来となる。地元有力紙のひとつ、The Charlotte Observer(11/06/2008)はノースカロライナ州の特徴を次のように表現している。

“North Carolina will likely become a consistent presidential toss-up state, one that straddles the old Confederacy and the northeast states that are the base of the Democratic party.”(ノースカロライナは古き南部連合と民主党の基盤である北東部の州にまたがる州として、大統領選では一貫して五分五分の州となるであろう。)

実際、今回の大統領選挙でノースカロライナ州はミズーリ州に次いで混戦のため開票結果の確定が遅れた州となった。その接戦の様子を示すように、オバマ候補は2,142,651票を獲得し、2,128,474票のマケイン候補を辛くも逃げ切って、15人の選挙人団(Electoral College)を獲得した。二候補の得票率差においても、ミズーリ州の0.13%に次いでノースカロライナ州は0.33%の僅差であった。
それでは、今回の大統領選で民主党・オバマ候補がノースカロライナ州を制した勝因は何であったのだろうか。地元有力紙のThe News & ObserverThe Charlotte Observerは主に以下の三つの要因をあげている。

①サブプライム問題を発端とする金融危機の影響
全米に広がった金融危機の影響はノースカロライナ州においても例外ではなく、州経済や国家経済の立て直し、新たな雇用創出を望む声が「変革」(Change)を訴えるオバマ候補の得票につながったとされる。

②政治的に穏健な移住者の増加
先述したように、近年ノースカロライナ州の人口は周辺の州からの移住者の増加により上昇し続けており、彼らの多くは政治的に穏健な北東部からの移住者である。The News & Observer(11/06/2008)によれば、ここ10年間でノースカロライナ州の有権者数は4.7百万人から6.2百万人に増加したという。今回、オバマ氏は彼らの投票の恩恵を大いに受けたとされている。

③オバマ候補のキャンペーン活動
オバマ候補はノースカロライナ州においても、その選挙活動に莫大な資金と人材をつぎ込むことで草の根レベルの運動を展開し、それが結果的に功を奏したとされている。Wisconsin Advertising Projectによれば、オバマ候補はノースカロライナ州のテレビ広告費だけでも二カ月間で1.6百万ドル以上を費やし、ボランティア・スタッフは21,000人、有給スタッフは400人以上、キャンペーン事務所も50カ所以上構える体制で選挙戦に臨んだ。対するマケイン候補はテレビ広告費は一切かけず、ボランティアも2,000人あまり、有給スタッフ35人、キャンペーン事務所36カ所という体制であった(それでも従来のノースカロライナ基準から見れば多い方であるという)。

大統領選は接戦であったとはいえ、地元では黒人初の大統領の誕生を歓迎する声をよく耳にする。「今回は変革の選挙であった」、「オバマは古き南部連合の殻を破った」、「もはや人種問題は過去の遺物である」といった記事を地元紙でよく目にすることができた。しかし、その一方で、今回のオバマ氏の勝利に一役買った外部からの移住者組は政治的に穏健ゆえに候補者選びは選挙ごとに異なるという意見がある。まして、今回の大統領選では共和党政権や前ブッシュ大統領への苛立ちや不満の声が大きかっただけに、共和党以外の人間なら(anybody-but-a-Republican)という雰囲気のなかでオバマ候補が次善の選択肢として受け入れられた、とする見方もある。南部ノースカロライナ州での民主党の躍進は続くのか、ノースカロライナ州の政治的な流れは果たして本当に変わったのか、もう少し注目する必要がありそうである。


〈参考資料〉