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海外研究員レポート

中国における研究開発(R&D)活動の振興と現状

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050061

2006年3月

中国のR&D活動は,改革開放以降の産業技術政策などを通じて活発化している1。しかし、新技術の産業化や国際競争力の観点から見れば依然としてその成果は不十分であるとの認識から、政府は「自主創新」をキャッチフレーズに、中国独自技術の開発能力を向上させようとしている。

今年から実施される「国民経済和社会発展第十一個五年規画綱要」(いわゆる第11次五カ年規画)では,企業を主体とした「自主創新」能力の向上をはかることで、労働集約型産業における中国の優位性を持続させつつも産業構造を高度化させていくことがうたわれている。対象となる産業には、IT産業やバイオテクノロジー、素材産業、自動車産業など多岐にわたる産業があげられている。

また、これに加えて科学技術振興に言及したものとして、政府は今年2月9日に「国家中長期科学和技術発展規画綱要(2006~2020年)」(以下「規画綱要」)を発表している。「規画綱要」では、GDPに対するR&D支出の比率を、2020年までに現在の倍にあたる2.5%以上に高めるとする目標が掲げられている。重点領域には、エネルギーや環境、農業、製造業、都市化など、ここでも幅広い分野がとりあげられている。また、この「規画綱要」の発表に先立つ今年1月9日には、胡錦濤国家主席と温家宝首相が「全国科学技術大会」で「規画綱要」の実施と「自主創新」の実現に関する演説をおこなっており、これらを重視する政府の姿勢がうかがわれる。

それでは、中国のR&D活動は現在、どのような状況にあるのだろうか? まず、R&D活動に対する支出だが、GDPに対するR&D支出の比率は1990年代末から全体的に見て増加傾向にある(表1)。しかし,直近の統計が得られる2003年時点で先進国と比較してみると、中国の1.31%は、アメリカの2.60%、日本の3.15%、フランスの2.19%よりも依然として小さい2。また、内訳を見ても中国では基礎研究の占める割合がそれほど増加しておらず、応用研究と実験開発の割合が大きいことが特徴である(表1)。アメリカでは基礎研究、応用研究、実験開発のそれぞれが19.1%、23.9%、57.1%、日本では13.0%、22.8%、64.2%、フランスでは23.3%、33.5%、43.2%であった。

表1 中国のR&D支出、1995~2004年

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
R&D支出
(100万元)
348.69 404.48 509.16 551.12 678.91 895.66 1042.49 1287.64 1539.63  1966.33
うち基礎研究(%) 5.18 5.00 5.39 5.25 4.99 5.22 5.33 5.73 5.69 5.96
うち応用研究(%) 26.39 24.51 26.02 22.61 22.32 16.96 17.73 19.16 20.23 20.37
うち実験開発(%) 68.43 70.49 68.60 72.13 72.68 77.82 76.93 75.12 74.08 73.67
GDPに対する比率(%) 0.57 0.57 0.64 0.65 0.76 0.90 0.95 1.07 1.31 1.23

(注)R&D支出は、基礎研究、応用研究および実験開発の3項目からなる
(出所)国家統計局・科学技術部『中国科技統計年鑑(2005年)』中国統計出版社

また、R&D支出のなかでも,直接市場競争にさらされていない研究開発機関の比重が高いことは中国の特徴である。中国では研究開発機関が R&D支出の25.9%(表2の2003年)を占めていたのに対して、アメリカでは9.1%、日本では9.3%、フランスでは17.1%(いずれも 2003年)であった。

表2 R&D 支出に占める機関別の比率、1995~2004年(%)

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002

2003

2004

研究開発機関 42.0 42.7 40.5 42.5 38.4 28.8 27.7 27.3 25.9 22.0
企業 60.0 60.4 61.2 62.4 66.8
大中型工業企業 40.6 39.7 37.0 35.8 36.8 39.5 42.4 43.6 46.8 48.5
高等教育機関 12.1 11.8 11.3 10.4 9.4 8.6 9.8 10.1 10.5 10.2
その他 2.7 2.1 1.4 1.2 1.0

(出所)表1に同じ

しかし、中国でも 1990年代末からのR&D支出の増加と軌を一にして、大中型工業企業をはじめとした企業の比率が増大している(表2)。企業がR&D 支出に占める比率(2003年)は、アメリカの68.9%、日本の 75.0%、フランスの65.7%に対して、中国も62.4%(表2)の水準にまで高まっている。このことは、市場経済の主要な構成要素である企業が、R&D活動のなかで大きな役割を担うようになってきたことをしめしている3

つぎに、R&D活動の成果だが、そのひとつの指標である特許許可件数は一貫して増加している(表3)。しかし、国内外からの申請に対する許可(表2上段)と国内のみからのそれ(表2下段)とを比較してみると、中国国内に立地する企業からの発明件数は相対的に少なく、応用的な技術の開発に偏っていることがわかる。さらに、国内のなかでも内資企業と外資系企業にわけてみると、一定規模以上の工業企業による特許申請件数(2004年)のなかで、その6.5%を占めた外資系企業は発明に関する申請件数で10.5%を占めており、外資系企業の方が相対的に数多くの基盤的な技術を開発していることがわかる。

表3 特許許可件数と内訳、1997~2004年

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
国内外合計
件数(件) 50,992 67,889 100,156 105,345 114,251 132,399 182,226 190,238
うち発明(%) 6.9 7.0 7.6 12.0 14.3 16.2 20.4 25.9
うち実用新案(%) 53.6 49.9 56.3 52.0 47.6 43.4 37.8 37.1
うち意匠(%) 39.5 43.1 36.1 36.0 38.2 40.4 41.8 36.9
国内のみ
件数(件) 46,389 61,378 92,101 95,236 99,278 112,103 149,588 151,328
うち発明(%) 3.3 2.7 3.4 6.5 5.4 5.2 7.6 12.1
うち実用新案(%) 58.6 54.9 60.9 57.1 54.4 50.9 45.7 46.3
うち意匠(%) 38.1 42.4 35.7 36.4 40.2 43.8 46.7 41.7

(注)中国の特許(「専利」)には、日本の特許にあたる発明(「発明」)に加えて、実用新案(「実用新型」)と意匠(「外 観設計」) も含まれている
(出所)表1に同じ

以上、中国における R&D活動の現状を手短に検討した。今後、中国政府が目指す産業構造の高度化を実現するためには、政府による一連の振興策とともに、市場経済を実際に担っている企業のR&D活動が一層重要になってくる。しかし、競争力を維持しつづけることができるような継続的な開発はコスト的に見て容易ではない。たとえば、中国地場のカラーテレビ大手である長虹や海信などは中核部品となるICチップの部分的な開発に注力しており、チップを輸入に頼ってきた地場企業にとってはコスト削減の重要な方途となっている。しかし、数ヶ月のタームで進んでいく技術進歩の早さや、主要大手のいずれもが独自にチップ開発していることもあって、各社にとってR&D支出の負担は重いようである4。今後は R&D活動を軸にした業界再編も視野に入れながら、各社は長期的にR&D活動を営んでいくことができるようにしていく必要があるだろう。


脚注
  1. くわしくは丸山伸郎[2000]「産業技術政策」(丸川知雄〔編〕『移行期中国の産業政策』日本貿易振興会アジア経済研究所所収)を参照。
  2. 以下、本文中に記されたデータの出所は表1に同じ。
  3. 丸山[2000]によれば、政府はすでに1980年代半ばからR&D活動の市場経済化を目指していたものの、1990年代半ばから後半にかけての時点では不況などを原因として著しい成果をあげることができていなかった。
  4. 『中国知識産権報』2006年3月17日付など。