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ケニア情勢レポート ケニア高裁判決:次回総選挙日程

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050869

2012年1月

ケニアの次回総選挙日程について、1月13日に司法判断が確定し(ケニア高等裁判所High Courtが判決を下しました)、今年8月第2火曜の実施(憲法101条)は適用されないとの判断が示されました。

日程について高裁が提示したのは、以下の2つのオプションです。

第一が、2012年中のどこかに総選挙を開催するオプションです。

これは現在の「挙国一致党PNU」と「オレンジ民主運動ODM」の大連立を解消することによって、現国会が任期前解散する場合です(根拠法は2008年の和解法National Accord and Reconciliation Act, 2008。同法は、連立の解消には、(1)PNUあるいはODMのどちらか一方が、最高決定機関の決定により連立を離脱、(2)PNUとODM双方が、文書によって連立の解消を合意、などの条件を記しています。)

第二のオプションは、2013年1月15日以後、60日以内に総選挙を実施する、というオプションです。

これは、オプション1で挙げた任期前解散がない場合の選挙日程です。国会議員の任期は、旧憲法でも、現在のケニア憲法(2010年8月公布)でも、「5年間」と定められています。現役のケニア第10次国会議員任期は、5年前の2008年1月15日に開始しているため、任期前解散がない場合は、任期満了(2013年1月14日)の翌日(15日)以降に総選挙を実施する、そういう判断です。

なお、任期前解散の場合はもとより、任期満了で解散する場合についても、高裁は具体的な選挙日の決定は、選挙管理委員会が行うとして、日付の指定は行いませんでした。

デイリー・ネーションによる解説記事
ケニア高等裁判所による、次回総選挙日程についての判決全文

http://www.nation.co.ke/blob/view/-/1305062/data/323369/-/qs26r4z/-/ruling.pdf

なお、次回総選挙の日程が議論になり、裁判に持ち込まれた背景となっているのは、2010年の新憲法制定です。(新憲法制定の経緯と内容についてはこちらにまとめました http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Books/Sousho/598.html

新しく制定されたケニア憲法では、「総選挙は5年おきの8月第2火曜日に実施する(第101条ほか)」旨が明記された一方、現役の第10次国会(2007年12月の総選挙を経て2008年1月に発足)について、同じ新憲法の「スケジュールⅥ」において、「現在の国会が新憲法の制定により任期を制限されることはない(Ⅵ-第10条)」「新憲法下の最初の総選挙は、現国会の任期満了に伴う解散後60日以内に実施する(Ⅵ-第9条)」と書かれています。

ケニアでは、新憲法制定後の第1回の総選挙を2012年8月第2火曜日にすべきなのか、それとも別の日程にすべきなのか、この2年間、大きな論争になってきました。

政府自らが、制定されたばかりの憲法を変えようと、「総選挙実施は5年おきの12月第3月曜日」との憲法改正案を国会にかけた(すでに政府側は撤回)ほか、国会議員や識者からも、今年8月の総選挙実施を求めた裁判、来年1月以後の総選挙実施を求めた裁判など合計3つの裁判が、国(司法長官ほか)を相手取っておこされました。それら3つに対して、まとめて下されたのが上記の判決でした。

次回総選挙を平和裡に行うことは、紛争調停直後で、現在も暫定政権下にあるケニアにとって、極めて重要な課題です。総選挙の日程をいつにするのか、という問題も、この紛争予防と密接な関係を持っています。では、次回総選挙は、具体的にはいつ頃の開催となるでしょうか。

このまま任期前解散がない場合、年内の選挙はなく、来年1~3月のどこかに開催されることになります。

しかし、任期前解散の可能性も残存しています。大統領の空席(現職キバキ大統領の任期が切れるのは今年12月末)を避ける、任期前解散することで、世論の求めの高かった今年8月開催に近い日程で開催できる、など、いくつかプッシュ要因があります。

とくに、大連立解消のカギを握るODMの党首ライラ・オディンガは、現役のケニア首相でもあり、自身が次回の大統領選挙での最有力候補です。高裁の判決は、連立離脱の決定に大きな影響力をもつオディンガに、次回総選挙の日程についてもまた、大きな影響力を与えるものでもありました。

高裁の決定は憲法解釈を示したにすぎませんが、8月開催を退け、任期前解散のオプションを明示したその内容は、「日程決めの政治化」を裏書きする判決でもありました。今後のオディンガの動向が、いっそう注目されます。