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パキスタン:大統領、最高裁判所長官を停職処分に

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049623

 小田 尚也

2007年4月

3月9日、ムシャラフ大統領はイフティカル・ムハンマド・チョードリー最高裁長官の解任を狙った停職処分を発表した。職権乱用がその原因である。大統領は、最高裁長官代行の任命とともに、5人の上級判事からなる最高司法委員会(SJC)に調査の申し立てを行なった。この処分に対し、弁護士や法曹関係者は国内主要都市でデモを行い、ラホール高等裁判所を始めとする各地の裁判所で判事が抗議辞職するなど、大統領の独裁的な司法への介入に対し、断固反対する姿勢を見せている。知識人である弁護士らによるデモは、パキスタンでは稀なことであり、今回の処分が持つ意味の深刻さを物語っている。

ムシャラフ大統領がチョードリー長官を停職とした背景は何であったのであろうか?チョードリー長官は、ムシャラフ大統領のクーデターを支持した最高裁判事の一人であり、ムシャラフ寄りと見られていた人物であった。しかし2005年の長官就任以降は、三軍統合情報局が関与したと見られるパキスタン国内での行方不明者に関する捜査指示、グワーダル港開発における有力者への優先的な土地割り当てに関する調査、またアジーズ首相を長とする民営化委員会が承認したパキスタン製鉄の株式売却差し戻し処分などムシャラフ政権との対立が見られた。パキスタンでは、今年、大統領選挙、総選挙が実施される予定である。再選を目指すムシャラフ大統領は選挙の実施時期や大統領職と陸軍参謀職の兼任という最高裁扱いとなる問題を抱えており、事前に不安要因と成り得るチョードリー長官を取り除こうとしたとの見方が強い。

すでにSJCによるチョードリー長官の聴聞会が開始されている。しかし、長官側はSJCのメンバー構成について異議申し立てを行うなど裁判の進捗は遅い。一方、警官隊の武力行使によるデモの制圧やその様子を放送しようとした民間テレビ局に警官隊が突入し破壊行動する様が報道され、その結果、反ムシャラフの世論が高まりつつある。警官隊のTV局突入に関し、ムシャラフ大統領は同局のインタビューに出演、警察の行為を謝罪した。また大統領を支持する与党パキスタン・ムスリム連盟カーイデ・アーザム派の一部からも停職処分撤回の声が上がっている。大統領選挙は今秋以降に行われる見通しである。今回のチョードリー長官停職事件を含め、今後、ムシャラフ大統領が再選に向けどのような動きを見せるか注目されるところである。