辛うじてプラスの第3四半期GDP

ブラジル経済動向レポート(2014年11月)

地域研究センター 近田 亮平

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第3四半期GDP:2014年第3四半期のGDPは、前期比+0.1%、前年同期比▲0.2%、年初累計比+0.2%、直近4四半期比+0.7%、時価額がR$1兆2,891億であった(グラフ1)。今回のGDPは前期比で辛うじてプラス成長を記録し、テクニカルにはリセッションとならなかったものの、これらの数値は市場関係者の予測を下回り、直近4四半期比が連続して低下していることから、ブラジル経済は実質的に低迷期を脱せずにいることを示すものとなった。そのため、2014年通年のGDPはゼロ近辺になるとの見方が強まった。今月後半、第2次Dilma政権の新たな経済チームが決定し、政府の財政目標を漸次変更すること(現在1.9%であるプライマリー・サープラスの対GDP比を2015年は1.2%、2016年以降は最低2%)、インフレ目標を厳守すること、社会的発展を可能にする経済の安定や信用の回復を優先することなどを表明した。しかし、Dilma大統領および新経済チームは厳しい景気状況に直面し、経済運営に関して今後難しい舵取りを迫られることとなった。

グラフ1 四半期GDPの推移
グラフ1 四半期GDPの推移
(出所)IBGE
(注)GDPの成長率(%)は右軸、時価額(R$)は左軸。

第3四半期GDPの需要面を見ると、家計支出(前期比▲0.3%、前年同期比+0.1%)が前期比で11年ぶりにマイナスを記録し、国内需要と消費意欲が減退していることを示すものとなった。政府支出(同+1.3%、同+1.9%)は相対的に堅調な推移となったが、財政悪化が課題である第2次Dilma政権は、ブラジルの信用格付けの引き下げを回避すべく緊縮財政に努める必要があるため、今後、政府支出は低下することが予想されている。投資を意味する総固定資本形成(同+1.3%、同▲8.5%)は、前期比で2013年第2四半期以来のプラスを記録したが、前年同期比では3期連続のマイナスとなった。また、輸出(同+1.0%、同+3.8%)と輸入(同+2.4%、同+0.7%)は比較的落ち着いた伸びを示した。

一方の供給面は、南東部などでの旱魃の影響でサトウキビやコーヒー生産が低下したこともあり、農牧業(同▲1.9%、同+0.3%)が前期比でマイナスを記録した。一方、工業(同+01.7%、同▲1.5%)は前同期比ではマイナスだったが、主に鉱業(同+2.2%、同+8.2%)が好調だったこともあり、前期比で2013年第2四半期以来のプラス成長となった。また、サービス業(同+0.5%、同+0.5%)は、運輸・倉庫・郵送業(同+1.4%、同+1.8%)が伸びたことなどから、安定的な伸びとなった(グラフ2と3)。

グラフ2  2014年第3四半期GDPの受給部門の概要
グラフ2  2014年第3四半期GDPの受給部門の概要
(出所)IBGE
グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比
グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比
(出所)IBGE

貿易収支:11月の貿易収支は、輸出額がUS$156.46億(前月比▲14.6%、前年同月比▲25.0%)、輸入額がUS$179.96億(同▲7.7%、同▲5.9%)で、貿易収支は11月として最大の赤字額となる▲US$23.50億(同▲99.7%、同▲235.1%)を記録した。また年初からの累計は、輸出額がUS$2,076.11億(前年同期比▲6.2%)、輸入額がUS$2,118.32億(同▲4.3%)で、貿易収支は▲US$42.21億(同▲4,438.7%)と前年に比べて大幅な赤字額となった。

輸出に関しては、一次産品がUS$68.47億(1日平均額の前月比▲3.3%)、半製品がUS$23.30億(同▲4.4%)、完成品がUS$59.94億(同+0.7%)であった。主要輸出先は、1位が米国(US$22.54億、同+13.7%)、2位が中国(US$18.50億、同+4.1%)、3位がアルゼンチン(US$10.80億、同+6.3%)、4位がオランダ(US$7.80億)、5位がドイツ(US$5.37億)だった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では圧延鋼材(+180.9%、US$1.88億)とアルミニウム(+165.7%、US$0.51億)が100%、減少率では燃料油(▲55.3%、US$1.26億)が50%を超える増減率を記録した。また輸出額では(「その他」を除く)、鉄鉱石(US$15.80億、同▲47.5%)と原油(US$13.76億、同▲12.6%)の2品目がUS$10億を超える取引高を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$38.89億(1日平均額の前月比+5.5%)、原料・中間財がUS$81.59億(同+2.5%)、非耐久消費財がUS$13.90億(同▲8.9%)、耐久消費財がUS$15.98億(同+1.8%)、原油・燃料がUS$29.60億(同+33.1%)であった。主要輸入元は、1位が中国(US$31.28億、同+2.8%)、2位が米国(US$29.32億、同+10.0%)、3位がアルゼンチン(US$11.39億、同+12.1%)、4位がドイツ(US$9.89億)、5位がナイジェリア(US$7.24億)だった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では原油(+31.5%、US$12.47億)、減少率では食料品(同▲33.0%、US$2.37億)が顕著だった。また輸入額では、原料・中間財である化学薬品(US$21.17億、同▲12.8%)や鉱物品(US$15.40億、同+4.4%)などの3品目、資本財である工業機械(US$10.42億、同▲17.9%)、前述の原油およびその他の燃料(US$17.17億、同▲2.0%)がUS$10億を超える取引額を計上した。

物価:発表された10月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、0.42%(前月比▲0.15%p、前年同月比▲0.15%p)と9月より落ち着いた数値となった。食料品価格が0.46%(同▲0.32%p、▲0.57%p)と前月より伸び率が低下した。ただし、年初累計は5.05%(前月同期比+0.67%p)で、過去12ヶ月(年率)は6.59%(同▲0.16%p)と依然として政府目標の上限6.5%を上回ることとなった。

食料品に関しては、トマト(9月▲9.42%→10月12.37%)のように10%以上の上昇を記録した品目もあったが、タマネギ(同10.17%→▲12.60%)のように逆に10%以上の下落となった品目もあった。また、消費量の多い牛肉(同3.17%→1.46%)の価格が相対的に落ち着いたことが、物価全体の伸び率の低下に影響を与えた。非食料品に関しては、前月に高騰した航空運賃(同17.85%→1.94%)の価格が落ち着いた運輸交通分野(同0.63%→0.39%)をはじめ、多くの分野で相対的に低い物価上昇となった。ただし、長引く旱魃でダムの貯水量が大幅に低下したサンパウロなどで上下水道料金が値上がりしたため、住宅分野(同0.77%→0.68%)は前月に続き高い伸びを記録した。

金利:11月は政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは12月2日と3日に開催予定。

為替市場:11月のドル・レアル為替相場は、Dilma政権の財務大臣をはじめとする新しい経済チームの顔ぶれをめぐり、月の半ばまでドル高レアル安が進むこととなった。次の財務大臣が市場を重視する人物にならないのではとの憶測に加え、米国の中間選挙で民主党が敗北したことで政策協調が進み米国経済にプラスになるとの見方から、ドルを買ってレアルを売る動きが強まり、14日にはUS$1=R$2.6136(売値)と今年のドル最高値を記録した。

月の半ば以降は、次の財務大臣に大手民間銀行の総裁が就任する可能性が報じられたことや、第2次Dilma政権の経済閣僚がほぼ確定したことを好感し、レアルが大幅に上昇することとなった。しかし、新しい財務大臣の人選に反対する意見があり、第2次Dilma政権の経済チームの正式発表が遅れたことや、ブラジルの経常収支が悪化したことで更なるレアル買いにはブレーキがかかった。そして、公表された新たな経済チームの共同記者会見で、続投することになったTombini中央銀行総裁が「現在も行っている日々のスワップによる為替介入は充分需要を満たした」と発言したことで、来年はスワップ介入を継続しないとの見方からドルが上昇。さらに、発表された第3四半期GDPが辛うじてプラスとなったものの、前期比+0.1%と低い伸びだったことでレアル売りが強まり、月末のドル・レアル相場はドルが前月末比+4.74%の上昇となるUS$1=R$2.5601(売値)で取引を終えた。

株式市場:11月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は、月の前半に下落した後、第2次Dilma政権の新たな経済チームが決定したこともあり、月の半ば以降は大きく上昇する展開となった。月のはじめの4日、政府はPetrobrasの燃料価格引き上げを容認したが、引き上げ価格の決定は次回14日のPetrobras理事会で行うとしたことで、実際の引き上げ価格の発表を期待していた市場に失望感が広がった。また、政府系のブラジル銀行が発表した第3四半期の純利益が予想を下回ったことで、株価は下落した。その後も、新しい財務大臣に誰がなるかに市場の関心が集中する一方、その決定が発表されなかったため神経質な展開となった。そして、次の財務大臣候補として市場を重視する人物の可能性が低まったこと、10月の正規雇用統計(新規雇用者数から失業者数を引いたもの)が統計開始以来10月として初めてマイナスとなったこと、Petrobrasをめぐる汚職疑惑の拡大を受け同社株が売られたことなどを受け、株価は続落し17日に月内最安値となる51,257pまで値を下げた。

月の半ば以降、大手民間銀行の総裁が次期Dilma政権の財務大臣候補として浮上し、新しい経済チームが決定するとの期待感から、21日には過去3年間で最大の上げ幅となる5.02%もの大幅上昇となった。しかし、10月の経常収支が▲US$8.1Bと同月として最大の赤字額だったことや、経済チームの正式発表が遅れたことを嫌気し、株価は軟調な推移となった。そして25日、財務大臣に元国庫庁長官でIMFなどの国際金融機関での要職経験のあるJoaquim Levy、予算企画大臣に財務省長官のNelson Barbosa、中央銀行総裁は続投のTombiniという新たな経済チームが発表されたが、OPECが原油の減産を見送ったことでPetrobras株が売られたため、株価は上昇せず、月末は54,664pと前月末とほぼ同じレベル(+0.07%)で11月の取引を終了した。