低調な第1四半期GDP

ブラジル経済動向レポート(2014年5月)

地域研究センター 近田 亮平

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第1四半期GDP: 2014年第1四半期のGDPが30日に発表され、前期比+0.2%、前年同期比+1.9%、直近4四半期比+2.5%で、実額(時価)はR$12,040.58億(前期比▲6.9%、前年同期比+7.6%)であった(グラフ1~3)。この数値は事前の予想を下回り、インフラ整備が進められたサッカーW杯の開催前にもかかわらず景気の低調さを示すもので、市場では失望感から株価とレアルの同時安を引き起こす要因となった。低調な第1四半期GDPの発表を受け、多くの市場関係者が今年のGDP成長率の予測を0.8%~1.9%(中央値1.3%)に下方修正し、一部では第2四半期にGDPはマイナスになるとの見方もされている。Mantega財務大臣は低調なGDPの要因として、長引く旱魃、緩慢な世界経済の景気回復、不安定な為替相場、物価高などを挙げた。一方、野党や経済界は政府の経済運営に対する批判を強め、現地の有力紙のひとつであるEstado de São Paulo紙も「失敗のGDP」と題する社説を掲載した。W杯開催期間中はサッカー観戦のため小売業や工業生産の一時的な落ち込みが予想されていることもあり、10月に大統領選と総選挙を控えるDilma労働者党政権は、特に経済面に関して苦しい立場に追い込まれることとなった。

なお、算出方法の改定により、2013年のGDP成長率が+2.3%から+2.5%、鉱工業生産指数が+1.2%から+2.3%へとそれぞれ上方修正された。

グラフ1 四半期GDPの推移

グラフ1 四半期GDPの推移

(出所)IBGE

第1四半期GDPの需要面を見ると、金利が引き上げられたことで家計支出(前期比▲0.1%、前年同期比+2.2%)が2011年第3四半期以来のマイナスを記録し、景気の牽引車としての勢いを失っていることを示した。サッカーW杯関連のインフラ整備を進めた影響もあり政府支出(同+0.7%、同+3.4%)はプラスだったが、投資である総固定資本形成(同▲2.1%、同▲2.1%)は前期比と前年同期比ともマイナスで、リーマン・ショック時のレベルにまで後退した。貿易に関しては、為替相場が緩やかなドル安レアル高で推移したこともあり、輸出(同▲3.3%、同+2.8%)が前期比で大幅なマイナスとなった一方、輸入(同+1.4%、同+1.4%)は堅調な伸びとなった。

また供給面では、第1四半期が農産物の収穫期である関連から農牧業(同+3.6%、同+2.8%)は相対的に高い伸びを記録した。しかし、製造業(同▲0.5%、同▲0.8%)や建設業(同▲0.9%、同▲2.3%)の不振から、工業(同▲0.8%、同+0.8%)は前期比が3期連続のマイナスで、景気後退を意味するリセッションの状態となった。サービス業(同+0.4%、同+2.0%)は今期も比較的堅調な伸びであった。

グラフ2  2014年第1四半期GDPの需給部門の概要

グラフ2  2014年第1四半期GDPの需給部門の概要

(出所)IBGE
グラフ3 四半期GDPの需給部門別の推移:前期比

グラフ3 四半期GDPの需給部門別の推移:前期比

(出所)IBGE

貿易収支: 5月の貿易収支は、輸出額がUS$207.52億(前月比+5.2%、前年同月比▲4.9%)、輸入額がUS$200.40億(同+4.3%、同▲4.8%)で、貿易収支はUS$7.12億(同+40.7%、同▲6.7%)と3カ月連続の黒字を計上した。また年初からの累計は、輸出額がUS$900.64億(前年同期比▲3.5%)、輸入額がUS$949.18億(同▲3.8%)で、貿易収支は▲US$48.54億となり赤字額は前月比で9.8%減少した。

輸出に関しては、一次産品がUS$113.87億(1日平均額の前月比+2.2%)、半製品がUS$21.94億(同▲2.6%)、完成品がUS$66.76億(同▲1.7%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$50.20億、同+6.6%)、2位が米国(US$22.32億、同▲12.5%)、3位がアルゼンチン(US$13.55億、同+0.5%)、4位がオランダ(US$12.02億)、5位がドイツ(US$6.62億)だった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では銅鉱石(+234.1%、US$1.97億)と鋳造鉄管(+138.4%、US$1.56億)が100%を超える伸びを記録し、減少率では葉タバコ(▲51.9%、US$1.59億)、精糖(▲46.6%、US$1.17億)、アルミニウム(▲45.9%、US$0.37億)などが顕著であった。また輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$38.66億、同▲6.9%)、鉄鉱石(US$25.94億、同▲12.1%)、原油(US$14.36億、同+30.9%)の3品目がUS$10億を超える取引高を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$41.79億(1日平均額の前月比▲5.8%)、原料・中間財がUS$93.69億(同+5.8%)、非耐久消費財がUS$15.60億(同+4.8%)、耐久消費財がUS$17.60億(同▲6.3%)、原油・燃料がUS$31.72億(同▲10.0%)であった。主要輸入元は、1位が中国(US$31.00億、同▲5.4%)、2位が米国(US$30.16億、同+0.1%)、3位がアルゼンチン(US$12.57億、同▲1.4%)、4位がドイツ(US$11.47億)、5位がナイジェリア(US$7.13億)だった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では衣類とその他繊維(+30.4%、US$1.93億)、減少率では原油(同▲31.6%、US$9.80億)がそれぞれ30%以上の増減率を記録した。また輸入額では、原料・中間財である化学薬品(US$24.61億、同+1.1%)や鉱物品(US$18.97億、同+11.6%)などの5品目、その他の燃料(US$21.92億、同▲18.1%)、資本財である工業機械(US$11.22億、同▲23.8%)がUS$10億を超える取引額を計上した。

物価: 発表された4月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.67%(前月比▲0.25%p、前年同月比+0.12%p)で、予想よりは低い数値だったが、食料品価格が1.19%(同▲0.73%p、+0.23%p)と2カ月連続で1%を超える高い上昇率を記録した。また、年初累計は2.86%(前月同期比+0.36%p)と前月より上昇し、過去12ヶ月(年率)は6.28%(同+0.13%p)と政府目標の上限である6.5%に近い数値となった。

食料品に関しては、前月30%超の値上がりをしたトマト(3月32.85%→4月▲1.94%)がマイナスを記録するなど、一部の品目では価格が下落した。しかし、ジャガイモ(同35.05%→22.26%)の価格が高止まりしたことに加え、日常的に消費されるフェイジョン豆(fradinho:同3.43%→9.81%、carioca:同11.81%→4.71%)の値上がりも続いたため、前月に続いて家庭消費用(同2.43%→1.52%)の食料価格が外食用(同0.96%→0.57%)を上回って上昇した。また非食料品では、医薬品の価格調整が行われた影響で健康・個人ケア分野(同0.43%→1.01%)の上昇が顕著だったことに加え、一部の大都市圏で電気料金が値上げされたこともあり住宅分野(同0.33%→0.87%)が高い伸びとなった。ただし、燃料価格が落ち着いたことで、前月高騰した航空運賃がマイナスを記録するとともにバス運賃の上昇も抑えられたため、運輸交通分野(同1.38%→0.32%)の伸び率が低下するなど、その他の分野での上昇は小幅なものにとどまった。

金利: 政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は27日、市場関係者の大方の予想通り、Selicを11.00%に据え置くことを全会一致で決定した。Selicは前回まで9回連続で引き上げられてきたが、高い水準ではあるものの4月の物価指数(IPCA)が事前の予想を下回ったことや、更なる金利の引き上げは停滞気味の景気の回復を鈍化させる要因になることから、金融引き締めのサイクルを一旦中止する判断が下された。また、10月の大統領および総選挙を控え、しばらく政策金利は引き上げられないのではとの見方も一部で見られている。

為替市場: 5月のドル・レアル為替相場は、US$1=R$2.20~2.25の狭いレンジでの取引となった。ウクライナ情勢の悪化による有事のドル買い、中国の鉱工業生産指数の予想外の低下、世界経済の弱い景気回復にもとづく新興諸国通貨売りなど、ドル高レアル安の要素がある一方、ブラジル中央銀行による連日のSwap為替介入の効果もあり、為替相場はほぼ横ばいの推移となった。ただし月の後半、中央銀行のTombini総裁が日常的なSwap取引の為替介入を中止する可能性に言及したことや、30日に発表された第1四半期GDPがブラジル経済の弱さを示すものだったことから、若干ドル高に振れた。月末の終値はUS$1=R$2.2384(買値)で、ドルは前月末比0.13%とほぼ同じレベルで5月の取引を終えた。

株式市場: 5月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は“行って来い”の展開となった。月の前半は、米国の4月の雇用統計が予想を上回ったこと、発表された大統領選の世論調査でDilma大統領の支持率が低下したこと、大手小売業のPãoo de AçúcarとVia Varejoがフランス系Casinoグループとインターネットなどの電子取引部門を統合すると発表したこと、Petrobrásをめぐる汚職疑惑でDilma大統領の責任が問われていることで同社の経営が改善するとの期待感が高まったこと、ブラジル銀行や鉄鋼大手Gerdauの第1四半期決算が好調だったことなどが好材料視され、株価は右肩上がりで続伸した。早期自主退職費用や原油生産減少の影響でPetrobrásの第1四半期の純利益が前年同期比▲30%だったこともあり、一時値を下げる場面もあったが、中国経済に対する楽観的な見通しが世銀や格付け会社から発表されたことや、米国株価の上昇を受け、14日には今年の最高値となる54,413pを記録した。

しかし月の後半になると、世界経済の先行きに対する不透明感の高まり、鉄鉱石の国際価格が過去20ヶ月で最も低下した影響で鉄鋼大手Valeの株が売られたこと、選挙戦に関する世論調査でDilma大統領の支持率が上昇するとの噂が流れたこと、サンパウロ州を中心とした旱魃により電力供給の懸念が高まったことなどで、株価は下落に転じた。そして月末の30日、予想を下回るブラジルの第1四半期GDPが発表されると1,000pの大幅下落となり、5月は今年の最高値を記録したものの、結局は前月末比で▲0.75%のマイナスとなる51,239pで取引を終了した。