リセッション入りした第2四半期GDP

ブラジル経済動向レポート(2014年8月)

地域研究センター 近田 亮平

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第2四半期GDP: 2014年第2四半期のGDPが発表され、前期比▲0.6%、前年同期比▲0.9%、年初累計比+0.5%、直近4四半期比+1.4%、時価額がR$1兆2,712億であった(グラフ1)。また、第1四半期GDPが0.2%から▲0.2%へと下方修正され、ブラジル経済は2期連続でのマイナス成長となった。そのため今回のGDPは、ブラジルの経済が景気後退を意味するリセッションに入ったことを示すものとなり、発表前の予測も良くはなかったが、市場関係者の間では2014年のGDP予測を0%程度まで下方修正する動きが見られた。第2四半期は、経済効果が観光業など一部に限られ製造業などの経済活動が停滞したサッカーW杯の影響もあった一方、第3四半期は営業日が相対的に多いことから、次回のGDPは回復の兆しが見られるだろうとの見方もある。しかし、10月に大統領選挙を控えたDilma政権にとって、テクニカルな意味であれリセッションを示す今回のGDPは、明らかなマイナス要素になったといえる。

グラフ1 四半期GDPの推移

グラフ1 四半期GDPの推移

(出所)IBGE
(注)成長率は左軸、時価額は右軸(Bは10億)。

第2四半期GDPの需給に関して(グラフ2と3)、まず需要面を見ると、家計支出(前期比+0.3%、前年同期比+1.2%)はかろうじてプラス成長だったが、政府支出(同▲0.7%、同+0.9%)は低調で、特に投資を示す総固定資本形成(同▲5.3%、同▲11.2%)が前期比で4期連続のマイナスとなるなど落ち込みが顕著だった。また、輸出(同+2.8%、同+1.9%)は相対的に好調だったが、輸入(同▲2.1%、同▲2.4%)は前期比および前年同期比ともマイナスを記録した。

供給面は、第1四半期に好調だった農牧業(同+0.2%、同0.0%)の伸びが大きく低下した。工業(同▲2.9%、同▲8.7%)は、W杯期間中に経済活動が停滞したことが建設業(同▲2.9%、同▲5.5%)や製造業(同▲2.4%、同▲8.7%)の数値にも表われ、前期比で4期連続のマイナスとなった。また、今まで堅調だったサービス業(同▲0.5%、同0.2%)も、商業(同▲2.2%、同▲2.4%)が伸び悩んだ影響もあり、2011年第3四半期以来の前期比マイナスを記録した。

グラフ2  2014年第2四半期GDPの受給部門の概要

グラフ2  2014年第2四半期GDPの受給部門の概要

(出所)IBGE
グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

グラフ3 四半期GDPの受給部門別の推移:前期比

(出所)IBGE

2014年上半期のGDP成長率は前年同期比+0.5%となり、リーマンショック後のマイナス成長(▲2.6%)に次ぐ低い数値となった(グラフ4)。需要面は、家計支出が同+1.7%、政府支出が同+2.1%とプラスだったが、総固定資本形成は同▲6.8%と投資の落ち込みを示すものであった。また、輸出は同+2.3%、輸入は同▲0.6%であった。一方の供給面は、農牧業が同+1.2%、工業が同▲1.4%、サービス業が同+1.1%であった。上半期GDPでも、建設業(同▲4.9%)や製造業(同▲3.1%)が大きく落ち込むなど、工業における景気低迷が突出するかたちとなった。

グラフ4 上下半期GDP(前年同期比)の推移:2005年以降(過去10年間)

グラフ4 上下半期GDP(前年同期比)の推移:2005年以降(過去10年間)

(出所)IBGE

貿易収支: 8月の貿易収支は、輸出額がUS$204.65億(前月比▲11.1%、前年同月比▲4.5%)、輸入額がUS$192.97億(同▲10.0%、同▲4.5%)で、貿易収支はUS$11.68億(同▲25.8%、同▲4.5%)の黒字であった。また年初からの累計は、輸出額がUS$1,540.20億(前年同期比▲1.7%)、輸入額がUS$1,537.71億(同▲4.1%)で、貿易収支はUS$2.49億(同+106.6%)と今年初めて黒字を計上した。

輸出に関しては、一次産品がUS$98.02億(1日平均額の前月比▲7.7%)、半製品がUS$25.63億(同▲0.9%)、完成品がUS$74.81億(同+2.7%)であった。主要輸出先は、1位が中国(US$37.16億、同▲1.6%)、2位が米国(US$22.57億、同▲10.7%)、3位がスイス(US$11.91億)、4位がアルゼンチン(US$11.63億、同+2.7%)、5位がオランダ(US$10.49億)だった。輸出品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では綿(+80.7%、US$1.53億)と圧延鋼材(+80.0%、US$1.10億)が80%を超える伸びで、減少率では先月に続き自動車(▲49.8%、US$2.67億)や航空機(▲43.7%、US$1.19億)が顕著だった。また輸出額では(「その他」を除く)、大豆(US$21.35億、同▲22.7%)、鉄鉱石(US$19.09億、同▲24.3%)、原油(US$14.89億、同+43.4%)の恒例の3品目に加え、単発的に受注した石油採掘プラットフォーム(US$11.16億)がUS$10億を超える取引高を計上した。

一方の輸入は、資本財がUS$37.31億(1日平均額の前月比+1.3%)、原料・中間財がUS$93.66億(同+7.5%)、非耐久消費財がUS$15.95億(同+12.6%)、耐久消費財がUS$16.29億(同+1.9%)、原油・燃料がUS$29.76億(同▲28.8%)であった。主要輸入元は、1位が中国(US$30.78億、同+6.5%)、2位が米国(US$27.62億、同▲6.9%)、3位がドイツ(US$12.93億)、4位がアルゼンチン(US$10.78億、同▲3.8%)、5位がナイジェリア(US$9.04億)だった。輸入品目を前年同月比(1日平均額)で見ると、増加率では原油(+71.9%、US$11.42億)、減少率では家庭用機器(同▲26.5%、US$3.26億)の増減率が顕著だった。また輸入額では、原料・中間財である化学薬品(US$24.25億、同▲1.1%)や鉱物品(US$16.69億、同▲1.3%)などの5品目、資本財である工業機械(US$10.93億、同▲14.1%)、前述の原油とその他の燃料(US$18.34億、同+13.6%)がUS$10億を超える取引額を計上した。

物価: 発表された7月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は0.01%(前月比▲0.39%p、前年同月比▲0.02%p)と、2010年7月(0.01%)以来の低い数値となった。食料品価格が▲0.15%(同▲0.04%p、+0.18%p)と、前月よりマイナス幅が大きくなったことが影響した。年初累計は3.76%(前月同期比+0.58%p)、過去12ヶ月(年率)は6.50%(同▲0.02%p)と前年同期に比べて低く、政府目標の上限である6.5%と同じ数値となった。

食料品に関しては、前月マイナスだったジャガイモ(4月▲11.46%→5月▲18.84%)やトマト(同▲9.58%→▲17.33%)の価格が今月も2桁の値下がり率となったことをはじめ、主食の一つであるフェイジョン豆(fradinho:同▲6.00%→▲7.54%、carioca:同▲6.78%→▲6.42%、preto:同▲3.76%→▲4.22%)など、多くの品目でマイナスを記録した。また、家庭消費用(同0.60%→▲0.51%)がマイナスとなったことに加え、外食用(同0.82%→0.52%)も前月より上昇率が低下した。

非食料品に関しては、W杯開催中に高騰していた航空運賃が▲26.86%も値下がりした関係から、運輸交通分野(同0.37%→▲0.98%)が大幅に下落したことをはじめ、冬物のバーゲンセールが行われた衣料分野(同0.49%→▲0.24%)や、固定電話料金が引き下げられた通信分野(同▲0.02%→▲0.79%)でもマイナスを記録した。一方、電気料金が値上げされた住宅分野(同0.55%→1.20%)や家財分野(同0.38%→0.86%)では、価格上昇の伸びが大きくなった。

金利: 8月は政策金利のSelic(短期金利誘導目標)を決定するCopom(通貨政策委員会)は開催されず。次回のCopomは9月2日と3日に開催予定。

為替市場: 8月のドル・レアル為替相場は、米国の雇用統計が市場予測を下回ったことからドル安で始まったが、ロシアとウクライナの間での緊張感が高まるとドルが買われ、8日にはUS$1=R$2.2986(売値)と月内のドル最高値を記録した。しかし、中東での一時停戦やウクライナ情勢の緊張緩和とともに、中央銀行が大規模な為替介入を行ったことでドル安レアル高に振れた。そして、ブラジルで大統領選の有力候補だったCamposが飛行機事故で死亡し、Camposの代わりに知名度の高いMarinaが大統領選に立候補すると、経済運営を批判されているDilma大統領との接戦だけでなく、政権交代の可能性まで取り沙汰され、さらにレアルが買われる展開となった。

その後、発表された米国FRBの議事録やYellen議長が金利引き上げの可能性を示したことで、金利上昇を見越したドル買いの動きが一時強まった。しかし、大統領候補のMarinaが世論調査で躍進したことや、景気後退を示すGDPが発表され政権交代への期待感がさらに高まったことで、月末に向け再びレアル高が進んだ。そして、月末最終日にはUS$1=R$2.2390(買値)と月内のドル最安値を記録し、ドルは前月末比▲1.23%の下落で8月の取引を終えた。

株式市場: 8月のブラジルの株式相場(Bovespa指数)は月の前半、ロシアと欧米諸国間の関係が悪化したこと、Petrobrasの2014年上半期の純利益が前年同期比▲25%と大幅なマイナスになったこと、大統領選の世論調査でDilma大統領有利の情勢に変化がなかったことなどから、軟調な推移となった。Dilma大統領やPetrobrasの幹部が燃料価格の引き上げについて言及したため、Petrobrasの財政状況が改善するとの期待が高まり同社株が買われる場面もあったが、大統領選で支持率3位だったCampos候補が飛行機墜落事故で死亡したことで選挙戦の混迷度が増すとの見方が強まり、株価は一時大幅な下落となった。

しかし月の後半、株価は右肩上がりで上昇する展開となった。その要因としては、Camposの代わりに無党派層に人気の高いMarinaが立候補を表明し、大統領選をめぐり決選投票だけでなく政権交代の可能性までも予測されるようになったこと、その後も世論調査でMarinaへの支持が高まり政権交代が現実味を帯びてきたことで、政府系企業の経営が改善するとの見方が強まりPetrobrasなどの株が買われたこと、発表されたGDPはブラジル経済がリセッションに入ったことを意味するものだったが、悪いGDPは大統領選で野党候補に有利な材料になると考えられたことなどが挙げられる。そして株価は月末、今年の最高値となる61,288pまで値を上げ、前月末比で+9.78%もの上昇で8月の取引を終了した。