中東レビュー
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論稿
地政学的変動の中のエジプト・スーダン関係
Housam Darwisheh
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2020 年 7 巻 p. 65-79

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抄録

現代史の殆どの期間、共和国体制のエジプトと南に隣接するスーダンは緊張関係にあった。それはエジプトとスーダンの支配者の政治志向の違いや、中東・北アフリカ(MENA)地域内での対立するブロックとの連携に起因していた。物質的・観念的および外交的な資源と影響力により、そして自らの政治的目標の追求のために、エジプトはスーダンや他のナイル川流域国家の行動を抑制し左右することができていた。それはとりわけエジプトの国家的存在と繁栄が依存するナイル川の水資源の利用に関わる問題について顕著にみられた。しかしながら中東およびアフリカの角における地域的・国内的な変動、とりわけ2011年以降の同地域の地政的な変化により、エジプトのスーダンに対する影響力は顕著に後退し、水資源を巡る新たな政治力学はスーダンをナイル河畔における地政的アクターとして登場させるに至っている。スーダンはかつてナイル川の水問題ではエジプトの忠実なパートナーであったが、現在では上流の国家との連携関係やナイル川の水資源の自国での利用についてより柔軟な立場を主張するようになっている。

本論は以上のような文脈でエジプト・スーダン関係を歴史的に回顧し、また2011年以降の中東およびアフリカの角地域の地政的な変動を概観しようとするものである。エジプトのスーダンおよび他のナイル川流域国家に対する影響力の低下の要因は、(1)エジプト国内の不安定化および中東地域全体への影響力の低下、(2)同国の体制維持と国内安定化のために地域の主要国にさらに依存するようになっている事、そして(3)同国のナイル川流域における覇権の喪失に拠ることを議論する。

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© 2020 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所
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