ラテンアメリカへの対外進出を強める中国を考えるとき、孔子学院の設置は中国の文化面からの世界展開と各国の警戒感を顕著に映し出す好事例である。2000年代になり中国とラテンアメリカとの関係は緊密化したものの、ラテンアメリカでの孔子学院の設置には不透明な点が多い。中国の文化外交としての孔子学院の設置は、相互依存論または中国脅威論に依拠して認識されている。とくにブラジルでの孔子学院は、文化活動の一環として2008年に初めてサンパウロ州立大学に設置された。しかし中国政府が進める「一帯一路」構想の発表後、この構想に統合されることで、孔子学院の設置は2019年時点で11カ所の大学に拡大した。孔子学院はブラジルでの中国語教育や広報活動だけでなく、中国企業への人材斡旋などの経済活動にも寄与している。設置先地域における中国語教育の普及の遅れなどの諸問題を抱えつつも、孔子学院は中国とブラジルとの文化交流や相互理解の深化に効果を上げている可能性がある。