アジア経済
2017年3月 第58巻 第1号
開発途上国に関する和文機関誌—論文、研究ノート、資料、現地報告、書評等を掲載。
■ アジア経済 2017年3月 第58巻 第1号
■ 投稿募集中
■ 2,200円(本体価格 2,000円)
■ B5判
■ 139pp
■ 2017年3月
CONTENTS
論 文
満洲国立開拓研究所の調査と研究(939KB) / 小都晶子
2-34pp.
タイ立憲革命期の華人新興企業家と官僚――サイアム商業会議所創設メンバーの政治・経済活動の分析――(809KB) / 船津鶴代
35-72pp.
資 料
73-96pp.
書 評
97-101pp.
安達祐子著『現代ロシア経済――資源・国家・企業統治――』(340KB) / 中兼和津次
102-107pp.
108-111pp.
伊藤亜聖著『現代中国の産業集積――「世界の工場」とボトムアップ型経済発展――』(304KB) / 大原盛樹
112-116pp.
衛藤安奈著『熱狂と動員――一九二〇年代中国の労働運動――』(305KB) / 泉谷陽子
117-120pp.
安田慎著『イスラミック・ツーリズムの勃興――宗教の観光資源化――』(324KB) / 橋本和也
121-125pp.
久保忠行著『難民の人類学――タイ・ビルマ国境のカレンニー難民の移動と定住――』(271KB) / 石井由香
126-130pp.
押川文子・南出和余編著『「学校化」に向かう南アジア――教育と社会変容――』(278KB) / 茶谷智之
131-134pp.
紹介
戸堂康之著『開発経済学入門』(156KB) / 稲田光朗
135p.
佐藤仁著『野蛮から生存の開発論――越境する援助のデザイン――』(194KB) / 佐藤 寛
136-137pp.
2016年寄贈図書リスト(220KB)
138-139pp.
要 旨
満洲国立開拓研究所の調査と研究 / 小都晶子
本稿は,これまで本格的に取り上げられることのなかった満洲国立開拓研究所(以下,開拓研究所)の組織と調査研究活動を明らかにする。開拓研究所は,1940年6月,新京に設立された「満洲国立」の研究機関である。開拓地における農業経済,農村建設,土地の利用開発,生産技術,農民生活,農村文化その他の諸般の事項に関する総合的かつ実践的な研究を実施するために設立された。本稿では,開拓研究所の設立の経緯を明らかにし,次いでその調査研究の性格,とくに活動の中心となった現地調査について検討する。
開拓研究所は,開拓総局などとの兼務制によって開拓行政を支える機能を与えられた。同時に,その研究は初代所長橋本傳左衛門の思想に規定され,満洲在来農法に対する評価は低かった。「京大式簿記」による農家経済調査を実践し,この方法は中国人研究士の調査にも用いられた。開拓研究所は政策研究機関としてのみならず,京大農業経済学の実践の場としても機能した。
タイ立憲革命期の華人新興企業家と官僚——サイアム商業会議所創設メンバーの政治・経済活動の分析—— / 船津鶴代
本論は,タイ現代史の出発点である1932年立憲革命期にさかのぼり,絶対王政から官僚・軍中心の政治体制への転換期に経済ナショナリズム政策の意思決定過程に加わった華人の新興企業家の活動について実証研究を行っている。具体的には,サイアム商業会議所創設メンバーの履歴と,1920年代からの活動をたどり,1933年の同会議所の創設とその後の公企業に関する提言活動,経済ナショナリズム政策への関わりを文書から裏づけた。本論では,従来「パーリア(賤民)的企業家」説に一括りにされ,先行研究でも扱いが不十分であったサイアム商業会議所創設に関わった新興企業家団体の形成過程とその活動を明らかにする。この団体は,1940年代初めに一時期であっても権力者である官僚に対して政策形成の上で影響力を行使できる場を確保し,徐々に経済ナショナリズム政策を担う側へと主体的適応を遂げた。これによって,人民党の官僚エリートとの間に従属と異なる関係を構築した華人企業家が存在したことを指摘し,官僚エリートと華人企業家の間に意思決定を分有するような政策決定過程が生まれたことを示す。
インド高等教育の発展動向——高等教育機関データベースAll India Survey on Higher Educationの検討—— / 佐々木 宏
2000年代以降,急拡大しつつあるインドの高等教育をめぐっては,近年インド国内外で様々な政策的あるいは学術的議論がかわされている。しかしこれらの議論には,高等教育の実際の姿を知るための良質なデータを欠いたまま,すすめられてきたという問題があった。そこで本稿では,この問題を克服するためにインド政府が整備しつつあるデータベースAll India Survey on Higher Education(AISHE)に着目し,AISHEの最新のデータを全インドと県の2つのレベルで検討した。ここで扱った県は,ウッタル・プラデーシュ州ワーラーナシー県である。その結果,インド高等教育の現在と独立以降の発展の姿がこれまで以上にはっきりとみえてきた。県レベルでの分析においては,いくつかの興味深い新知見も得られている。また,この作業を通じては,高等教育の現状を把握するためのデータベースとしてのAISHEの有用性がまずは確認されたが,同時に現時点での限界もあきらかとなった。