時事解説:南アフリカ2014年総選挙と第2次ズマ政権発足

アフリカレポート

No.52

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■ 時事解説:南アフリカ2014年総選挙と第2次ズマ政権発足
牧野 久美子
■ 『アフリカレポート』2014年 No.52、pp.41-45
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はじめに
2014年5月7日、南アフリカで総選挙が実施された。アフリカ民族会議(African National Congress: ANC)は、前回選挙よりも若干得票率を落としつつも、国民議会(National Assembly)選挙で62.15%を得票して圧勝し、同月末にはANC党首のジェイコブ・ズマ(Jacob Zuma)が2期目の大統領に就任した。本稿では、今次選挙結果と第2次ズマ政権の組閣の概略を報告する 1

1. 総選挙結果
南アフリカでは、中央(National)、州(Provincial)、地方(Municipal)の3レベルで選挙が行われ、そのうち中央および州レベルの選挙は同時に実施される。今回実施されたのは、中央・州レベルの選挙である。国会、州議会とも比例代表制が採用されており、有権者は候補者名ではなく政党名で投票する。有権者はNationalとProvincialの2票を持ち、前者により国会下院にあたる国民議会、後者により州議会と国会上院にあたる全国州評議会(National Council of Provinces)の政党別議席配分が決定する。比例代表制を採用している国のなかには、政党が議席を獲得するうえで必要となる最低限の得票率を定める場合も多いが、南アフリカでは、そうした閾値は設けられておらず、得票率がそのまま獲得議席率に反映される。大統領は直接選挙ではなく、総選挙後の国民議会開会初日に国民議会議員のなかから選ばれる。

表1に、今回の国民議会選挙の結果と、前回2009年の選挙結果との比較を示した。冒頭で述べた通り、結果は62.15%を得票したANCの圧勝であったといってよい。アパルトヘイトが撤廃された1994年以降、一貫して政権与党であるANCの勝利はもとより確実視されていたが、今回の選挙では、マリカナ鉱山での虐殺事件 2 や、ズマ大統領の故郷ンカンドラの私邸の改装に多額の公費が支出された問題 3 などをめぐって、ズマやANCへの風当たりが強まるなかで、ANCがこれまでの選挙と比べてどれほど得票率・議席数を減らすのかが注目されていた。従来ANCの強力な集票マシンとなってきた有力労組のひとつである南アフリカ全国金属労働者組合(National Union of Metalworkers of South Africa: NUMSA)がANC不支持を決め、またかつて情報相を務めた経験のあるロニー・カスリルズ(Ronnie Kasrils)らが、「Noと投票せよ(Vote No)!」というキャンペーンを展開するなど 4 、これまでANCの中核的支持基盤と見られてきた層からの離反も相次いだ。しかし、ふたを開けてみると、ANCは前回と比べて得票率で3.75ポイント、議席数では15議席減らしたものの、その減少幅は限定的であり、ANCの一党優位が依然として確固たるものであることが改めて浮き彫りになった。

これまで選挙のたびに議席を増やしてきた民主同盟(Democratic Alliance: DA)は今回さらに議席を伸ばし、国民議会で初めて20%を超える議席を獲得して第2党となった。また、州政府与党として選挙に臨んだ西ケープ州議会選挙ではANCを大きく引き離して勝利した。DAは、西ケープ州で勝利するのみならず、南アフリカ経済の中心であるハウテン州でもANCを過半数割れに追い込むことを視野に入れていたが、その目標には届かなかった(表2)。今回の選挙でのDAのパフォーマンスや課題については、本誌所収の佐藤[2014]に詳しい分析があるので、そちらを参照されたい。

第3党になったのは、ANC青年同盟の元総裁で、ズマと対立してANCを追放されたジュリアス・マレマ(Julius Malema)が率いる新党、経済的自由戦士(Economic Freedom Fighters: EFF)である。EFFは、鉱山の国有化や、土地再分配のための大土地所有者からの補償金の支払いなしでの土地収用などを公約に掲げており、民主化後の経済変革のペースの遅さに苛立ちを募らせる貧困層の一部(主に若年層)から支持を得たものとみられる。鉱山労働者やメイドの作業服を模したお揃いの赤い服に身を包み国民議会に登院するEFFの新人議員たちは、議場でひときわ異彩を放っており、少なくとも見た目のインパクトは議席数以上のものがある。

他方、前回選挙で30議席を獲得し第3党であった人民会議(Congress of the People: COPE)は、今回の選挙で3議席と惨敗した。COPEは、ANC内の反ズマ勢力が分裂して、2009年に初めて総選挙に参加した政党である。インカタ自由党(Inkatha Freedom Party: IFP)は前回同様第4党の位置につけたが、議席数は18議席から10議席へと大幅に減らし、IFPから分裂してできた国民自由党(National Freedom Party: NFP)が新たに6議席を獲得した。かつての黒人意識運動の創始者のひとりで、民主化後はケープタウン大学学長や世界銀行専務理事など要職を歴任した著名知識人であるマンペラ・ランペレ(Mamphela Ramphele)が立ち上げたアハングSA(Agang SA)は、結党当初は大きな話題となったが、政党としての組織の脆弱さ、さらにはDAとの合流話をめぐる混乱がたたり、結果はわずか2議席と惨敗した。しかも選挙後にランペレ自身は議員就任を辞退したことから、アハングSAはすでに過去のエピソードとなりつつある。
表1 国民議会選挙結果
政党名 (略称) 得票率(%) 獲得議席数 2009年選挙での議席数 2009年選挙からの議席増減
アフリカ民族会議 (ANC) 62.15 249 264 -15
民主同盟 (DA) 22.23 89 67 +22
経済的自由戦士 (EFF) 6.35 25 不参加 +25
インカタ自由党 (IFP) 2.40 10 18 -8
国民自由党 (NFP) 1.57 6 不参加 +6
統一民主運動 (UDM) 1.00 4 4 ±0
自由戦線プラス (VF Plus) 0.90 4 4 ±0
人民会議 (COPE) 0.67 3 30 -27
アフリカ・キリスト教民主党 (ACDP) 0.57 3 3 ±0
アフリカ独立会議 (AIC) 0.53 3 不参加 +3
アハングSA (Agang SA) 0.28 2 不参加 +2
パンアフリカニスト会議 (PAC) 0.21 1 1 ±0
アフリカ人民会議 (APC) 0.17 1 1 ±0
その他の政党 0.97 0 8 -8
合計 100.00 400 400 ±0
(出所)南アフリカ選挙管理委員会ウェブサイト(http://www.elections.org.za/、2014年5月30日アクセス)の情報をもとに筆者作成。
表2 州議会選挙結果(上位3政党の議席数)
東ケープ州 フリーステート州 ハウテン州 KZN州 リンポポ州 ムプマランガ州 北西州 北ケープ州 西ケープ州
ANC
45
ANC
22
ANC
40
ANC
52
ANC
39
ANC
24
ANC
23
ANC
20
DA
26
DA
10
DA
5
DA
23
DA
10
EFF
6
DA
3
EFF
5
DA
7
ANC
14
UDM
4
EFF
2
EFF
8
IFP
9
DA
3
EFF
2
DA
4
EFF
2
EFF
1
その他
4
その他
1
その他
2
その他
9
その他
1
その他
1
その他
1
その他
1
その他
1
(出所)南アフリカ選挙管理委員会ウェブサイト(http://www.elections.org.za/、2014年5月30日アクセス)の情報をもとに筆者作成。
(注)略称で記した政党の日本語名については表1参照。表中のKZN州はクワズールー・ナタール州を指す。
2. 第2次ズマ政権発足
選挙結果の確定後、5月21日に開催された国民議会において、ズマが大統領に正式に選ばれた。大統領就任式は5月24日に行われ、翌25日に閣僚名簿が発表された。新たに通信・郵便大臣やスモール・ビジネス開発大臣のポストが設けられたこともあり、大統領と副大統領を除く新閣僚の人数は大臣35名、副大臣37名の総勢72名に膨れ上がった。

副大統領に任命されたシリル・ラマポサ(Cyril Ramaphosa)は、同時に国家計画委員会(National Planning Commission)委員長にも就任した。ラマポサは、一時期ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)元大統領の後継者と目されていたものの、タボ・ムベキ(Thabo Mbeki)にその座を奪われたことで政界を離れて実業家に転じたが、2012年末のANC執行部選挙で副党首に選ばれ、政界に復帰していた。南アフリカの憲法では大統領の3選は禁じられているため、ラマポサは次期大統領の最有力候補ということになる。

閣僚人事では、2013年7月に内閣改造を行っていたこともあり留任者が比較的多かったが、財務大臣として堅実な手腕を見せていたプラヴィン・ゴーダン(Pravin Gordhan)が地方政府との連携を担う協力統治・伝統問題大臣へと異動になったことが驚きをもって受け止められた。表向きは、歳入庁長官や財務大臣時代に証明済みのゴーダンの問題解決手腕を、課題が山積している地方レベルのガバナンスの立て直しに発揮してもらうため、ということになっているが、事実上の更迭人事との受け止め方もある。

このほかに目を引くのは、安全保障クラスター 5 の閣僚が大幅に入れ替えられたことである。同クラスターのうち、防衛・退役軍人大臣のみ留任し、司法・矯正サービス(司法・憲法開発と矯正サービスの2ポストを統合)、警察、内務、国家安全保障の各大臣はいずれも交代した。ンカンドラのズマ大統領の私邸改装への公費支出は安全保障名目で行われたため、各大臣は責任をとらされた形だが、このうち国家安全保障大臣であったシヤボンガ・ツウェレ(Siyabonga Cwele)が新設の通信・郵便大臣に任命されたことが波紋を呼んでいる。ツウェレは、野党や市民社会から強い批判を受けている国家情報保護法案(Protection of State Information Bill, 通称Secrecy Bill)を推進してきた人物であることから、この人事を「国民の知る権利」への脅威と受け止め、警戒する見方が出ている。

また、今回の省庁再編により女性・子ども・障害者省が廃止された。女性に関わるイシューは大統領府付の女性問題担当大臣が管轄することになり、子どもと障害者に関しては社会開発省に全面的に移管されることになった。これに対しては、とくに障害当事者団体から、障害のメインストリーミングに逆行するものであるとして、強い抗議の声が挙がっている。

おわりに
今回の総選挙では、ANCが逆風にさらされながらも結局は勝利を収めた。前回よりも議席を減らしたとはいえ、ANCは国会において引き続き安定多数を確保しており、ANC主導の国政運営に支障をきたすような状況にはなっていない。しかし、2013年末のマンデラ元大統領の追悼式典において客席からズマ大統領へのブーイングが起き、ンカンドラ問題をめぐってはANC内部からも公然と批判の声が挙がるなど、2期目を迎えたズマ大統領の足元は磐石とはいえない。ANCはもともと「ブロードチャーチ」といわれ、多様な勢力をひとつの傘の下に収めることで多数派を形成してきた政党であり、党内に常に緊張や対立を孕んでいる。ズマにとっては、野党からの攻撃に対処すること以上に、まずは党内でいかに自身への批判をかわし、各勢力のバランスをとり分裂を避けながら基盤固めをするかが最大の課題であるといえよう。党内の舵取りを誤れば、ズマがかつて追い落としたムベキのように、大統領2期目を全うできず、途中降板を余儀なくされる可能性もあるからである。


(まきの・くみこ/アジア経済研究所)
《参考文献》

脚 注
  1. 本稿の執筆にあたっては、インターネット上の以下のニュースソースを参考にした。Mail & Guardian ( http://mg.co.za/ ), Business Day ( http://www.bdlive.co.za/ ), Times Live ( http://www.timeslive.co.za/ ), IOL ( http://www.iol.co.za/ )。
  2. 2012年8月、北西州マリカナのプラチナ鉱山でストライキに参加していた労働者に警察が発砲し、多数の死傷者が出た事件。事件の詳細やその後の調査の進捗状況については、佐藤[2013]を参照。
  3. この問題をめぐっては、政府のあらゆる行為に関する独立した調査権限を持つ護民官(Public Protector)による報告書が出されている。Secure in Comfortと題された報告書は護民官ウェブサイト( http://www.pprotect.org/ )で入手可能である。
  4. このキャンペーンは、ANCへの不満を示すために、ANC以外の政党に投票するか、投票したい政党がない場合には無効票を投じることを呼びかけるものであった。
  5. 南アフリカでは閣僚を分野別のクラスター委員会に分ける制度があり、各クラスターは全体閣議よりも頻繁に協議を行う。2013年7月時点でインフラ開発、経済・雇用、人間開発、社会的保護、国際協力、ガバナンス、安全保障の7つのクラスターが設けられていた[Calland 2013, ch.3]。