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海外研究員レポート

深化する台湾とチェコの関係――アダモヴァー下院議長の訪台

Deepen relationship between Taiwan and Czech Republic

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00053699

柏瀬 あすか
Asuka Kashiwase
2023年4月
(4,868字)

2023年3月25日に、チェコのアダモヴァー下院議長率いる訪問団が台湾を訪れた。チェコからは2020年にヴィストルチル上院議長も訪台しており、要人の往来が続いている。

本稿では、直近の台湾・チェコ間の交流や、両者の貿易・投資におけるつながりを概観するとともに、今回の訪問団の活動および成果を整理する。

過去最大規模のチェコ訪問団が訪台

台湾は、欧州においてはバチカン市国以外とは国交を有していないが、近年、一部の中東欧諸国との交流が活発化している。例えば、新型コロナ禍でのワクチン含む医療物資の提供や、代表団の訪問と、それに伴う覚書の締結等が挙げられる。代表団による交流としては、龔明鑫国家発展委員会主任委員1率いる中東欧3カ国経済貿易投資視察団(中東欧三国経貿投資考察団)が2021年10月に組織され、スロバキア、チェコ、リトアニアを訪れた。視察団は政府関係者や研究者、各産業分野の代表者など66人で構成され、各訪問先で覚書を締結した2。中東欧からの訪台としては、2021年11月のバルト3国の議員団、2022年6月のスロバキア国会およびブラチスラバ県の訪問団、2023年1月のリトアニア議会国家安全・国防委員会訪問団等が挙げられる。また、リトアニアとの関係では、2021年にヴィリニュスに台湾の代表機関3を、2022年には台北にリトアニア貿易代表処を開設した。

チェコはこの流れのなかで、近年台湾との交流が盛んになっている国の一つだ。チェコは中国と国交を結んでおり、台湾との国交はない。ただ、駐チェコ台北経済文化弁事処(1991年設立)や台北市内にあるチェコ経済文化弁処(1993年設立)などの機関を中心に経済貿易、文化、学術、科学技術、観光などの交流が行われている。

最近では2020年に台北市とプラハ市が姉妹都市協定を締結したほか、同年以降、訪問団による交流が続いている。2020年9月にはヴィストルチル上院議長率いる89人の訪問団が訪台した。翌年10月に中東欧3カ国経済貿易投資視察団がチェコを訪れた際は、グリーンエネルギーやスマート機械分野の協力に関する覚書に署名した。さらに、2022年にはチェコのドラホシュ上院議員率いる訪問団が訪台し、半導体技術、博物館、教育分野等の6項目おける覚書を締結した。

外交部(外務省に相当4)によると、今回のチェコの訪問団は議員、政府関係者、メディア関係者、産学界の代表など160人で構成され、台湾とチェコ間での訪問団としては、過去最大の規模となった。また、中央通訊社(3月25日)によると、今回の訪問団は、チェコが過去5年間で組織した訪問団としても最大の規模だったという。

なお、これらの交流に対し、中国は反発を示している。例えば、台北市とプラハ市の姉妹都市協定締結を受け、上海市とプラハ市の姉妹都市協定を解消したほか、訪問団の訪台にあわせた大規模な軍事演習などを行ってきた。今回の訪問団に対しては、在チェコ中国大使館が、中国と外交関係を有する国と台湾とのいかなる公的交流にも断固として反対すると表明している。

蔡総統とアダモヴァー下院議長率いる訪問団の会談

蔡総統とアダモヴァー下院議長率いる訪問団の会談
台湾・チェコ間の貿易は機械が主、2023年には直行航空便も開通

今回の訪問団の活動を整理するに先だって、まずは台湾とチェコの貿易と投資におけるつながりを概観する5。貿易では、2022年の台湾の対チェコ輸出額は6億8295万ドル、輸入額は4億6412万ドルだった。同年の台湾の貿易総額は輸出が4795億ドル、輸入が4276億ドルであるため、全体に占める割合は大きくない。主な貿易品目(HSコード2桁ベース、金額ベース)は、対チェコ輸出では、一般機械(構成比41.3%)、電気機器(24.5%)、鉄道を除く車両およびその部品(12.1%)、卑金属製の工具・道具・刃物・スプーン・フォーク等(4.6%)、鉄鋼製品(4.1%)だった。輸入では、鉄道を除く車両およびその部品(35.2%)、電気機器(18.4%)、光学・精密・医療・検査機器など(15.8%)、一般機械(12.4%)、ゴムおよびその製品(2.8%)だった。輸出入ともに、機械類が主要品目となっている。

対外直接投資について、台湾からチェコ向けの投資残高(認可ベース)は、1952年~2022年末までで1億6690万ドル、チェコから台湾への投資残高は118万ドルとなっている。企業の進出状況を見ると、電子機器受託生産(EMS)で世界最大手の台湾の鴻海精密工業がプラハとクトナー・ホラに製造拠点を構えるほか、EMS大手のウィストロン(緯創資通)やペガトロン(和碩聯合科技)もチェコ内に製造拠点を有している。

また、双方の企業の協力を後押しするしくみづくりも進む。2020年5月に台湾・チェコ間の二重課税を回避する協定(台捷避免双重課税協定)が発効したほか、2022年1月には国家発展委員会が2億ドル規模の「中東欧投資基金」、10億ドル規模の「中東欧融資基金」を設立した6。なお、同委員会の発表資料によると、中東欧には、本稿冒頭でも触れたリトアニアやスロバキアなども含まれるという。経済部投資業務処7の張銘斌処長は、3月27日に台北市で開催された「前進中東歐—チェコ投資商機説明会」において、これらの協定や基金が、双方の企業が協力を行うインセンティブおよび資金的なサポートになると説明している8

さらに、台湾の中華航空は2023年3月14日に、同年7月18日から、台湾では初となる台北・プラハ間の直行便を運航すると発表しており、新型コロナの落ち着きも相まって、人の往来も盛んになることが期待される。

台湾とチェコは自由と民主主義を重んじるパートナーと表明

アダモヴァー下院議長率いる訪問団は3月25日から29日まで台湾に滞在した。訪問団は、蔡英文総統と面会したほか、国家発展委員会、行政院(内閣に相当)、デジタル発展部なども訪問した。また、滞在期間中には第18回台湾チェコ経済協力会議の開催や、Czech Hub in Taiwan9の開設、覚書(MOU)締結なども行われた(表参照)。さらに、表に記載はないものの、訪問団にあわせ、チェコ企業による台湾の関係機関視察なども実施された10

表 訪問団の日程

表 訪問団の日程

(出所)総統府、外交部、行政院、国家発展委員会、デジタル発展部、中央通訊社等を基に作成。

蔡英文総統は、3月27日の会談で、過去のチェコとの交流などに触れたうえで「台湾とチェコはいずれも権威主義的な政治を経験しており、民主主義が容易に実現できないことを理解している。民主主義と自由の堅持にあたり、互いに確固たるパートナーになることができる」と述べた。アダモヴァー下院議長は、今回の訪問は、台湾の民主主義に対する支持を表明し、台湾とチェコ共和国が相互に、ひいては第三のパートナーにもたらす利益を拡大・深化させ、双方が実質的な協力を行う決意を示すためだと説明した。さらに、「チェコと台湾は、普遍的な価値観を共有しており、そのなかでも最も重要なのが自由、民主主義、人権(保護)だ」と述べるとともに、世界保健機関(WHO)や国際民間航空機関(ICAO)などの国際組織への台湾の加入支持を表明した。なお、双方が自由と民主主義の重視を表明したのは、今回に限らない。2020年のヴィストルチル上院議長率いる訪問団や、2022年のドラホシュ上院議員率いる訪問団が蔡総統と面会した際にもこの点が言及されており、チェコと台湾がお互いを共通の価値観を有するパートナーと認識して交流を続けていることがうかがえる。

自動車分野などでさらなる協力を模索

蔡総統との会談後には、台湾の国際経済協力協会(中国語は中華民国国際経済合作協会)とチェコ工業総会が共同で台湾チェコ経済協力会議を開催した。同会議では、電気自動車(EV)やイノベーション、エネルギー、航空宇宙産業など多岐にわたる分野での交流が行われたという。経済部の王美花部長は「台湾はICTや半導体分野で蓄積された強みは、EV分野の発展の良い基礎となっており、多くの部品業者がEVのサプライチェーンに参入している。チェコの自動車工業は世界をリードする立場にあり、(台湾は)チェコとのさらなる協力の機会を模索したいと考えている」と述べた。また、閉会後には、王部長は台湾企業の対チェコ投資時の従業員採用や投資インセンティブの問題についてアダモヴァー下院議長と議論し、チェコ側が問題を受け止め改善策について話し合う姿勢を示したほか、アダモヴァー下院議長も王部長を、2023年7月に開通する台北・プラハ間の直行便を活用した、企業グループのチェコ訪問に招待した。そのほか、経済部の陳正祺政務次長と、チェコ産業貿易省のオチコ次長が、リチウム電池リサイクル、医療機器、精密機器などの5分野の業界における覚書締結に立ちあった。

なお、同会議で言及されたEVについては、台湾の様々な企業がサプライチェーンの川上から川下を担っている11。とくに、川上と川中の材料、部品、システムを供給する企業の層が厚い。2020年には、電子機器受託生産で世界最大手の鴻海精密工業が、EV向けのハードウエアとソフトウエアのオープンプラットフォームであるMIH(Mobility In Harmony)立ち上げた。MIHを通じて、EV関連のキー技術やツールへのアクセスを可能にし、EV産業の参入障壁を排除し、同産業全体の発展を狙うという。また、台湾当局は、大気汚染防止や脱炭素化に向けた車両の電動化目標の設定などを背景に、EVを含む次世代自動車産業を「重点発展産業」と位置づけ、税制優遇や補助金の提供等による外資系企業の誘致も行っている。他方、チェコにとっても自動車は重要な産業であり、チェコ自動車工業会(Auto SAP)が2020年6月に公表した自動車産業の概要を見ると、同産業は国内の工業生産の28%、輸出の19%を占めた。また、EUにおける自動車生産台数は、ドイツ、スペインに次いでチェコが3位(約109万台、2021年)12となっており、国内だけでなく欧州における存在感も大きい。自動車産業は台湾とチェコの双方が重視する産業であることから、協力・提携に向けた取り組みが今後進む可能性がある。

多分野で覚書締結、産官学分野の交流に期待

訪問行程の最終日には、台湾とチェコの関係機関により、11の覚書および声明に署名がされた。覚書は、国立台湾博物館とチェコ国家博物館による協力合意、国立政治大学とプラハ・カレル大学によるサプライチェーンレジリエンス教育研究センターに関する覚書、そして台湾のシンクタンクである国防安全研究院とプラハ国際関係研究所による研究協力の覚書に加え、企業および学術界からの参加者による7つの覚書が含まれる。また、立法院とチェコによる友好協力声明も署名された。立法院の游院長は、議員間の緊密な交流に期待を示すとともに、議会は人民主権の象徴であり、同声明を通じて、自由で民主的な台湾とチェコの連帯・相互扶助の重要性を示すことができると述べた。外交部の呉部長は、「世界的な権威主義の拡大とより困難な国際情勢に直面するなか、台湾はチェコなどの共通価値を持つパートナーと積極的に協力し、民主的なサプライチェーンを強化する」と強調した。また、アダモヴァー下院議長は、今回の訪問は、多分野にわたる覚書の締結など実り多いものだが、双方の関係の深化には終わりがなく、共通の価値観を守り続けていくことを固く信じているとの見解を示した。

今回のチェコ訪問団の訪台では、産業、投資、文化等の分野で、覚書締結等による成果があったほか、台湾とチェコの双方が民主主義や自由を重んじることが改めて強調された。また、台湾とチェコの双方が重要視する自動車産業における協力も期待される。さらに、基金の設立や直行便の運航など、産業部門の交流を支える環境づくりも進んでいる。台湾とチェコは、お互いが共通の価値観を有するパートナーであるという堅い信頼関係のもと、今後も産官学の多分野にわたって関係が深化するだろう。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。

写真の出典
  • 中華民國總統府
参考ウェブサイト
著者プロフィール

柏瀬あすか(かしわせあすか) アジア経済研究所在台北海外派遣員(2023年2月~)。2018年ジェトロ入構後、2022年から台湾および中国の貿易・投資に関する調査に従事。


  1. 国家発展委員会は、行政院(内閣に相当)の政策立案機関で、台湾全体の発展について計画・設計・審議・管理を行う。主任委員は同委員会のトップを指す。
  2. スロバキアとは、電気自動車(EV)、宇宙産業、スマートシティ、中小企業のデジタル化、観光、サイエンスパークに関する協力等を含む、7つの覚書を締結した。リトアニアとは、半導体、衛星、バイオテクノロジー、科学研究、融資等の分野における協力を目指し6つの覚書を締結した。
  3. 代表機関の設置をめぐっては、中国がリトアニアに抗議し、リトアニアに大使ではなく代理大使を送る決定をしたほか、リトアニア産品が中国税関で止められる事例や、リトアニアからの輸入許可申請が中国に却下される事例が生じた(吉沼啓介「EU、リトアニアに対する中国の輸入制限でWTO紛争解決手続き開始」ジェトロ・ビジネス短信、2022年1月28日、参照)。
  4. 部は日本の「省」に、部長は「大臣」に相当する。
  5. 貿易・投資ともに台湾の所管機関のデータを参照。貿易統計は財政部および同関務署、投資統計は経済部投資審議委員会のデータを参照した。
  6. いずれの基金も、台湾と中東欧の国との協力を促進させるために立ち上げられたもの。基金の対象は、(1)中東欧へ投資したいと考える台湾企業、あるいは(2)台湾での拠点設立、サプライチェーン構築または台湾企業との合弁事業や技術協力をしたいと考える中東欧の企業。詳細は国家発展委員会ホームページ参照。
  7. 外資系企業による台湾への直接投資や、台湾企業の台湾回帰投資および対外直接投資、海外人材採用の支援などを行う機関。
  8. 龔国家発展委員会主任委員によると、「中東欧投資基金」を活用し、仮想現実(VR)開発を行うチェコ企業の投資案(投資予定額はおよそ500万ドル)が近く可決予定という。
  9. Czech Hub in Taiwanは、非政府組織であるEuropean Values Center for Security Policy(EVC)とチェコ台湾商会等によって共同で設立されたもので、台湾におけるチェココミュニティの立ち上げを、物理的なスペースやノウハウの提供を通じて支援するほか、チェコと台湾の共同プロジェクト等、双方の関係性を強化する役割を担う。
  10. 嘉義県政府によれば、チェコの航空産業関係者は嘉義県のアジア無人機AIイノベーション応用研究開発センターを訪問し、ドローンのテストフライト視察や、商談のほか、台湾とチェコの協力の機会を模索したという。
  11. 経済部国際貿易局の電気自動車産業マップで主要サプライヤーを確認できる。
  12. 滝澤祥子「EUの2021年の乗用車販売・生産台数、新型コロナ直撃の2020年も下回る」ジェトロ地域分析レポート、2022年8月5日(2023年4月13日閲覧)。