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海外研究員レポート

ジュネーブの国際機関事情――SDGsへの取組みと直面する課題

 

PDF版ダウンロードページ:http:/hdl.handle.net/2344/00051710

2020年4月

(5,868字)

国際機関が林立するスイスの街
フランスの国境にほど近い山々に囲まれたスイスの都市・ジュネーブ。ジュネーブ州全体の人口50万人のおよそ4割が外国籍であり、バスやトラムに乗れば様々な国の言葉が飛び交う。国連欧州本部(国際連合ジュネーブ事務所、UNOGとも呼ばれる)はこの街を拠点としている。ここには世界179カ国の代表部が置かれ、国連開発計画(UNDP)、国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)などの国際機関(政府間機関、国連プログラム含む)が38、さらに非政府組織(NGO)が420ほど存在する。およそ2万7千人、州人口全体の約5%がこの小さなメトロポリスに拠点を置く国際機関で働いている。

写真1 国連欧州本部

写真1 国連欧州本部

ジュネーブにある国際機関の設立経緯や目的は様々だが、おおむね①平和構築・安全・軍縮、②人道的支援・人権・移民、③労働・経済・貿易・科学・通信、④保健医療、⑤環境・持続可能な開発の5つの専門エリアに集約される(表1参照)1

表1 ジュネーブにある主な国際機関(テーマ別)

表1 ジュネーブにある主な国際機関(テーマ別)

(注)上記表は国際機関の一部を抜粋して紹介している。
*は本部が置かれている機関。UNAIDSはILO、UN Women、UNDP等から構成されるプログラムの名称。
(出所)筆者作成

ジュネーブの国際都市としての始まりは、19世紀にさかのぼる。1863年に赤十字国際委員会が設置されたことをきっかけに、第一次世界大戦後の反省から生まれた国際連盟の本部をジュネーブに置くことが1919年に決定された。当時はブリュッセルなど他の候補地も挙げられたが、すでに国際人道支援の礎である赤十字国際委員会が設置されていること、さらに永世中立国・スイスの都市であることが決め手となった。

第二次世界大戦終結後、国際連盟は解体され、国際連合本部はニューヨークに設置されたが、ジュネーブには国連の欧州本部が置かれ、現在も多くの国際機関、NGO、研究機関が集まるハブとしての機能を果たしている。2018年には国連欧州本部内だけで1年間で965もの国際会議が開催されており、単純に平均すると1日に2つ以上の国際会議が開催されていることになる2。筆者は昨年11月より国連欧州本部内で勤務しているが、ほぼ毎日必ずどこかで国際会議が行われている場面に遭遇している。

国連欧州本部の建物であるパレ・デ・ナシオン(Palais des Nations)は、ジュネーブの名家であるレヴィリオ・ド・リヴ(Revilliod de Rive)家から市に遺贈された土地に1929年から1936年にかけて建設された。アリアナ公園として整備された敷地に建てられたパレ・デ・ナシオンはその後増改築が行われ、現在では全長約600メートル、2800のオフィスと34の会議室を有するニューヨークに次いで大きな国連の施設となっている 3。晴れた日には内部からレマン湖と遠くにアルプスの山々を一望できる。現在は年間10万人以上が見学に訪れるほか、正面玄関前では毎週のように様々な団体によるデモが行われており、政治や人権問題などを訴える象徴的な場所となっている4

一方でパレ・デ・ナシオンは建設から80年以上が経過し、建物や電気設備などは老朽化が進み、早急な対策が必要となっている。国連加盟国はこうした建物への予算配分を2013年に決定した。2017年から戦略プラン(Strategic Heritage Plan)に沿って、設備工事および新たな建物の工事に着工しており、2023年の完了が予定されている。

写真2 国連欧州本部内部から望む山々

写真2 国連欧州本部内部から望む山々
持続可能な開発目標(SDGs)への取組み

SDGsは、2015年に国連加盟国で策定された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に示された、貧困や気候変動、保健医療などグローバルな課題に取り組むための具体的な17の目標である。誰一人取り残されない世界の実現のため、それぞれの国際機関が多くのプロジェクトを進めているが、どの国際機関が何を行っているのか、全体像を把握することは難しい。そこで、国連欧州本部はジュネーブの国際機関やNGOがSDGsについて「誰がどのように」取り組んでいるのかを可視化することでパートナーシップの向上を目指すSDGsマッピング・プロジェクトを2018年に実施した5

写真3 SDGsマッピングの例

写真3 SDGsマッピングの例。例は目標8(持続可能な経済成長と働きがい)。各目標について取り組みを行っている機関の数が示されている。写真3のようなイメージ図のほか、ウェブサイトで目標をクリックすると機関名や具体的な内容を見ることができる。

SDGsマッピングでは、それぞれの目標について、各機関がどのように貢献しているのかを10のカテゴリー(①規範・標準設計、②法的枠組み、③キャパシティ・ビルディング・研修、④調整・調停、⑤研究・データ収集、⑥政策形成、⑦アウトリーチ・啓蒙・コミュニケーション、⑧データ分析・調和・統計、⑨フィールドでの活動、⑩資金調達)に分類している。ウェブサイトで目標別に機関名や具体的なプログラムを検索できるほか、各機関がどの目標に中心的に取り組んでいるのか、強弱がわかるよう色分けされたリストを見ることもできる。

17の目標のうち、ジュネーブの最も多くの国際機関やNGOが取り組んでいる目標を順に3つ挙げると、目標17(パートナーシップで目標を達成しよう)、目標16(平和と公正をすべての人に)、そして目標5(ジェンダー平等を実現しよう)である。反対に目標14(海の豊かさを守ろう)、目標15(陸の豊かさも守ろう)は取り組んでいる機関数が少なかった。また、各機関がどのような取組み方法で貢献しているかを見ると、アウトリーチや啓蒙活動、人材育成、研究・データ収集が比較的多いようである6

平和構築やジェンダーの分野で取り組んでいる機関数が多いのは、ジュネーブには伝統的に人道主義のもとに設立された機関が多く設置されているためであろう。一方で、マッピングを見ると国際機関の横断的な協力関係も浮かび上がってくる。例えば気候変動(目標13)は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や国連環境計画(UNEP)といった気候変動や環境に特化した専門機関のみならず、近年では様々な機関が関与している目標のひとつである。気候変動問題は、海面上昇や異常気象などのために居住地や農地を離れざるを得ない環境難民や、温暖化対策が講じられるなかで今後縮小が見込まれる石炭採掘などの産業で働く人々の雇用問題など、社会的・経済的な問題と深く関わっている。そのため、ILOが労働問題、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が人権、国連女性機関(UN Women)がジェンダーの観点からそれぞれ気候変動の影響とそれに対する支援や人材育成などの取組みを行っているのである。

そうした横断的な取組みの促進とシナジー効果発揮のため、国連欧州本部では「SDG LAB」という専門部署も設立されており、各種セミナーやイベントを通じて各機関、NGOなど関係団体の積極的な交流を促進している。

国連が直面する財政問題

現在国連欧州本部が直面する最大の課題は財政問題であろう。ジュネーブに限らず、国連全体の財政危機は、国連改革を迫る米国のトランプ政権の分担金削減の要求などのために近年悪化している。昨年10月、グテレス国連事務総長は国連がここ10年で最も深刻な財政危機にあると発表し、加盟国の分担金未払いが続けば翌月の職員給与の不払いも起こりうるだろうと危機感をあらわにした。2019年12月の時点では米国を含む51カ国が分担金を支払っておらず、現金不足に陥っている。2019年の予算総額は28億5000万ドルだが、12月時点で7億6800万ドルが不足していると報じられた7。こうした分担金の未納や延滞は過去数年続いており、国連の活動に深刻な支障をきたしているという。

こうした事態を受けて、国連内では職員の雇用や出張を制限するなど経費節約の対策がとられてきた。国連欧州本部では国連の建物内の一部の照明やエレベーターの使用を制限し、暖房の設定温度を下げるなどの措置がとられた。筆者が到着した2019年11月にはそうした決定からすでに2カ月が経過し、当初は寒い執務室で持参の毛布にくるまって仕事をしていた(2020年2月現在は温度設定が引き上げられたとみられ、状況は改善している)。また通訳者や技術者の人件費、マイクやスクリーン使用などの電気代などの節約のため、会議時間も短縮が求められていたようである。こうした経費節約は全体予算から言えば少額であるため、あくまで予算不足を全職員に訴えるアピールにすぎない、という声も聞く。また外交官にわずらわしさを感じさせて分担金の支払いを促しているのではないか、という意見すらあるという8

さらなる流動性危機と現金の枯渇を避けるため、2020年予算の決定が急がれていたが、2019年末の国連総会本会議において、2020年の年間予算を約30億ドルとする決議案が採択された。ムハンマド=バンデ国連総会議長はSDGs活動のために必要な予算を十分に計上していると発表した9。ただし、国連の財政危機は今後も続くと予想される。

国連貿易開発会議(UNCTAD)が発表した2014年の世界投資報告書によると、SDGsの達成に必要とされる民間投資は不足しており、ODAなどの公的資金も十分ではない。途上国でのSDGs活動に必要な年間投資額は274兆円不足していると推定されている10。民間セクターのSDGs活動への参加が停滞し、民間投資の不足の状態が続くと、SDGsの目標の達成は難しいという。

一方、前述の米国トランプ政権による国連への分担金削減や世界貿易機関(WTO)の貿易紛争処理機能の停止、あるいは国連職員の高い給与への批判など、国際機関そのものに対する信頼の揺らぎも見られる。また現在世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスによる経済・社会への深刻な影響も懸念される。

SDGs達成のタイムリミットである2030年まであと10年。2020年からはSDGsを実践に移す「行動の10年(Decade of Action)」とされており、ジュネーブの国際機関においても2030年に向けて一段とSDGs達成に向けた活動が活発になっていくだろう。そのなかで財政危機や国際機関に対する不信がどのような影響を与えていくのか、国際機関を取り巻く今後の動向を注視していく必要がある。

写真の出典
著者プロフィール

佐々木晶子(ささきあきこ) アジア経済研究所 海外派遣員(スイス・国連社会開発研究所)。2013年より研究マネジメント職として国際共同研究のコーディネートやアジ研の研究内容のアウトリーチなどに従事。2019年11月より国連社会開発研究所(UNRISD)にて客員研究員として、低炭素社会に向けたトランジッション(Just Transition)における社会的企業、協同組合などの役割について研究を行っている。

  1. ジュネーブ州の機関であるインターナショナル・ジュネーブ事務所(Office of International Geneva)による分類を参考にした。
  2. UNOG 2019. UNOG Annual Report 2018.
  3. UNOG n.d. Construction of the Palais des Nations.
  4. 新型コロナウイルスの影響により見学ツアーは休止されている。(2020年4月現在)
  5. SDGs マッピングの詳細はウェブサイトを参照。
  6. 詳細は国連の欧州本部ウェブサイトを参照。
  7. Farge and Mantovani 2019.
  8. Farge and Mantovani 2019.
  9. Leone 2020.
  10. UNCTAD 2014. 推定額は2014年に発表されたが、それ以降UNCTADから新たな推定額は発表されていないため、直近のデータであると思われる。2019年に発表された2030年までの国連総会の金融戦略(UN Secretary-General’s Strategy for Financing the 2030 Agenda)でも同推定額について言及されている。