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韓国の大学入試制度改編

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050669

二階 宏之

2019年1月

(3913字)

はじめに
韓国教育部は2018年8月17日に「2022年度大学入学制度改編方案と高校教育革新方案」を発表した。韓国ではあまりに激しい受験戦争が社会問題ともなっているが、今回の大学入試制度の改編案は、2017年新たに発足した文在寅(ムン・ジェイン)政権の下で、学生の入試負担の緩和を最大の目的としてまとめられた。しかし、この改編案が本当に学生の負担を軽減するものとなっているかについて、早くもいくつかの問題点が指摘されている。本稿では、韓国の大学入試選考の現況と今回の改編案の概要を紹介する。
大学入試選考の現況

韓国の主な大学入試選考は、大きく分けて随時募集と定時募集があり、随時募集の中心が学生生活記録簿(以下、学生簿という)選考であり、定時募集の中心が大学就学能力試験(以下、修能という)である。随時募集は6回、定時募集は3回受験できるが、随時募集合格者は定時募集に応募できない。学生簿選考は国語、数学、英語のような授業科目の習熟度を評価する教科型と、授業科目以外の活動を評価する非教科型がある。非教科型は学生簿総合選考とも呼ばれ、2007年から開始され、各大学に配置された入学査定官を中心に学生簿、自己紹介書、推薦書、面接、修能最低基準などを参考にして、学生を多面的に総合評価する(表1)。学生簿は高校3年間にどのような活動をしたかを記録する公式的な資料である。科学発表や英語発表などの大会受賞や、クラブ活動、ボランティア活動、進路活動、創意的活動、読書活動などが記録される。修能は日本のセンター試験に相当し、政府が韓国教育課程評価院に委託し施行する試験で、1994年に開始された。国語、数学、英語、韓国史、社会探求/科学探求/職業探求、第2外国語/漢文の科目がある。現在の試験制度では英語と韓国史が絶対評価で、それ以外の科目は相対評価である。

表1 大学入試選考の種類

表1 大学入試選考の種類

(出所)「大学入試制度改編公論化Eラーニング熟議資料」 大学入試制度改編公論化委員会 2018.7
2015年度から2020年度までの随時募集と定時募集の比率をみると、随時募集が徐々に増加し、2020年度には8割近くを占める。一方、定時募集は減少していることがわかる(表2)。次に、学生簿と修能の比率を見てみると、学生簿教科と学生簿総合は増加を続けているが、修能は減少している(表3)。特に、ソウルの上位校で学生簿総合選考の採用率が高くなっており、ソウル大学は8割近くを占めている(表4)。

表2 大学入試選考の種類 (単位:人、%)

表2 大学入試選考の種類 (単位:人、%)

(出所)「大学入学選考施行計画主要事項」(2016年度、2018年度、2020年度) 韓国大学教育協議会

表3 選考別募集定員(内訳)(単位:人、%)

表3 選考別募集定員(内訳)(単位:人、%)

(出所)「大学入学選考施行計画主要事項」(2016年度、2018年度、2020年度) 韓国大学教育協議会
(注)各年度の上段が定員、下段が比率

表4 修能選考比率が30%未満のソウル主要大学 (単位:%)

表4 修能選考比率が30%未満のソウル主要大学 (単位:%)

(出所)毎日経済新聞2018年8月18日  *資料:教育部(各大学の2020年度選考計画)

2017年度には修能準備による私教育費の増加や暗記教育、選択式試験などが問題視され、修能を絶対評価化するよう入試制度改編を検討していたが、その後、学生簿総合選考の問題が浮上し、逆に修能を拡大すべきだとの声が高まった。また、学生簿の成績が悪く学生簿選考で失敗してしまった学生に再挑戦を与える機会が必要だということも、修能拡大の一つの理由となっている。

学生簿総合選考は上で述べたように、科学や語学大会などの受賞歴や、クラブ活動、ボランティア活動、創意的活動、小論文作成、自己紹介書作成などのスキルが求められる。創意的活動や小論文作成などは、学校教育では習得できないことが多く、これらのスペックを充足するために、塾に通うなどの過度の私教育が誘発されている。そのため、親の経済力や情報力によって学生間に格差が生じ、“金のさじ選考”だとささやかれている。“金のさじ”とは富裕層を意味する新造語で格差社会を表現するときに使われる比喩的表現である。また、学生簿が各学校の各担当教師によって作成されるため、主観的判断が働き、成績の水増しや不正などの操作が発生しやすく、透明性、公正性の観点から問題が指摘されている。

韓国には一般高校以外に、エリートを育てる自律型私立高校(自私高)や科学、外国語、国際を専門とする特別目的高校(特目高)などが開設されている。そこでは、学校独自の進学プログラムや専門的なプログラムが用意されているため、学生簿総合選考には有利な環境にある。自私高や特目高などには成績優秀者が集まってくるため、教科の内申成績を上げるための競争が厳しいが、ある大学の入学査定官によると、自私高や特目高での内申成績が中位程度であっても、一般高校での上位程度と評価しているようである。

2022年度大学入学制度改編方案の概要
2022年度の大学入学制度改編方案は、国民参加の熟議・公論化のもとに、公正・単純を目的として学生の負担を緩和し、2015年に改訂された教育課程の安定的運営を図り、公共性と責務性の調和を推進することを背景にまとめられた。主な課題は表5の通りである。

表5 2022大学入学制度改編課題

表5 2022大学入学制度改編課題

(出所)『2022年度大学入学制度改編方案と高校教育革新方向』教育部 2018年8月

当初教育部は2017年8月に、文在寅大統領の公約でもあった修能全科目を絶対評価に転換すべく2つの案を発表したが、両案いずれも世論の反対が多く、改編を1年延長した。2018年4月30日に教育部傘下の国家教育会議が公論化委員会を立ち上げ、4つの議題をベースに市民参加団を構成し、討論会やワークショップを多数開催してきた(表6)。しかし、修能の比率拡大と絶対評価化について賛否両論がわかれ、8月3日の公論化委員会の調査結果発表の際には、上位2つの案には統計上では差がないということだけを示して、明確な案を打ち出すことはできなかった。公論化委員会での議論の意義が問われる中、続く8月7日に国家教育会議が発表した最終勧告案でも、修能比率の拡大は勧告するものの、具体的な数字を示すことはできなかった。

表6 2022年度大学入試制度改編公論化の4議題

表6 2022年度大学入試制度改編公論化の4議題

(出所)毎日経済新聞 2018年8月4日 *資料:国家教育会議大学入試改編公論化委員会

8月17日に発表された教育部の入試制度改編方案においては、修能に主眼を置いた選考の割合を30%以上に拡大するという結論に落ち着くことになった。2017年度の修能の比率は26.3%で今回わずかな拡大にとどまったことにより、現制度と大差がないという批判をあびた。なお、産業大学、専門大学、サイバー大学などは、この条件から除外される。財政支援については、修能選考の割合が30%以上の大学に“高校教育貢献大学支援事業”の参加資格を付与することにした。2015年に改訂された教育課程では高等学校における文・理系区分の廃止が主な目的であった。今回の入試制度改編法案では、その趣旨を受け、修能の国語・数学・探求科目については共通選択科目とし、学生の選択権の拡大と負担の緩和を図った。修能の評価方法については、国語、数学、探求科目は相対評価を維持し、絶対評価は、英語、韓国史に第2外国語/漢文を追加した。

改編案では選択科目の科目数が大幅に増え、計算上816科目の組み合わせ(第2外国語を除く)となった。簡素化をうたってきた入試制度改編であるが、逆行する形になった。どの科目を選ぶかによって、学生たちにとって有利・不利の差が生じ、負担と混乱が予想される。

今回の大学入試制度改編の過程で大きく争点に出てこなかった学生簿総合選考の改善であるが、公正性や信頼度を向上するために、学生簿の記載改善、選抜の透明性向上、大学入試情報の解消など、様々な課題を実施することにした。過度な教科外活動の実施で学生の負担が大きかったが、記載内容が縮小することで内申書競争も一段落することが期待される(表7)。

表7 学生簿総合選考の主な改善事項

表7 学生簿総合選考の主な改善事項

(出所)『2022年度大学入学制度改編方案及び高校教育革新方向』教育部 (2018年8月17日)より筆者作成
おわりに

今回の改編案では修能の拡大・絶対評価化について賛否両論がわかれ、中間的な内容になった。今後も継続的に議論していくテーマであるが、なかなか結論が見えない。修能は客観的であり、相対評価により弁別力が確保されているため、公平な評価が期待できる。一方、暗記式教育や選択式試験などが過当競争を招き、学生や大学を序列化し、私教育を拡大する。また、学生簿総合選考は、問題解決能力、創造力、リーダーシップ、奉仕性など多様な能力を持つ学生を育成し、公教育の正常化に貢献する。一方、親の社会経済的地位による影響力、複雑な試験制度、学生簿の不正などが、学生間の格差を招き、私教育を拡大する。どちらに転んでも学生にとっては熾烈な競争から逃れることはできなく、私教育費の負担は減少しない。

今回の改編過程で争点となったのが、修能の拡大、絶対評価化であるが、もう一つ重要な点として学生簿総合選考の記述内容が縮小されたことである。修能を数パーセント増加することよりも、私教育費削減、格差解消という面では効果が高いという意見がある。

韓国社会を眺めてみると、どこかに集中する現象が見え隠れする。大学は地方からソウルへ、住居は地方からソウルへ、企業は中小企業から大企業へなどである。その結果として、地方大学の衰退、地方経済の縮小、中小企業の弱体化や若者の就職難などの歪みが生じている。上昇志向が強い韓国社会であるが、集中から分散していくように意識を変えていく、あるいは変わるような環境になれば、大学入試に関わる難題にも解決の糸口が見えてくるのではないか。

著者プロフィール

二階宏之(にかいひろゆき)。アジア経済研究所海外調査員(在ソウル)。

参考文献

〈韓国語資料〉

  • 韓国教育部『2022年度大学入学制度改編方案及び高校教育の核心方向』2018年8月
  • 韓国大学教育協議会「2020年度大学入学選考施行計画重要事項(報道添付資料)」2018年5月
  • 韓国大学教育協議会「2018年度大学入学施行計画重要事項(報道添付資料)」2016年4月
  • 韓国大学教育協議会「2016年度大学入学施行計画重要事項(報道添付資料)」2014年8月
  • 『毎日経済新聞』2018年8月4日号
  • 『毎日経済新聞』2018年8月8日号
  • 『毎日経済新聞』2018年8月18日号
  • 大学入試制度改編公論化委員会「大学入試制度改編公論化Eラーニング熟議資料」2018年7月