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海外研究員レポート

ASEAN経済共同体構築に向けたIMT-GTの動向

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049896

2012年10月

1.第19回IMT-GT次官級会合

2012年9月24日~27日、マレーシアのヌグリ・スンビラン州の州都ポート・ディクソンで、IMT-GT(Indonesia–Malaysia–Thailand Growth Triangle)大臣会合、次官級会合および関連会合が開催された。IMT-GTはインドネシア・スマトラ島の10州、マレーシア半島部の8州およびタイ南部14州が参加するサブリージョナルな協力枠組みであり、1993年に設立されたものの、これまで目立った成果を上げることがなく、国際的な関心のみならず、参加3カ国内での位置付けも、現時点では低いと言わざるを得ない。

BIMP-EAGA(Brunei Darussalam – Indonesia – Malaysia – The Philippines East ASAN Growth Area)と同様、IMT-GTにおいてもアジア開発銀行(Asian Development Bank: ADB)の存在感が際立っている。ADBの東南アジア担当部局のなかに、サブリージョナルな協力枠組みを支援する部署があり、その担当者は次官級会合においてお目付役のような位置づけであり、各国次官と同等あるいはそれ以上の発言力を持っている。これは、IMT-GTにとってはADBのみが継続的な支援(会議の運営、各種調査、戦略立案、融資まで)を行っているドナーであるためである。日本を含むその他ドナーは基本的にプロジェクト毎に支援しているだけであり、必要に応じて会議に招待されるにとどまる。今回は、JICAも招待されていたが、それはJICAが対ASEAN(IMT-GTではない)協力として実施している「ASEAN RoRoおよび短距離海運に関するフィージビリティ調査」の経過報告のためである。このようなADBの役割は、IMT-GTという協力枠組みの安定に寄与する一方で、他ドナーがIMT-GTへの協力を躊躇する一因ともなっているように見受けられる。

2012年4月、プノンペンで開催されたASEANサミットと並行して開催されたIMT-GTサミットにおいて、IMT-GTの今後5年間の戦略を定めた「実行ブループリント」(Implementation Blueprint: 2012-2016)が採択された。ASEAN全体で経済共同体構築、接続性強化が進められるなか、IMT-GTにおいても「目に見える成果」をあげる必要性が強調され、プロジェクトの優先順位付け、資金調達メカニズムにまで踏み込んだ内容となっていることがIBの特徴であり、その点は文書の表題にも反映されている。

次官級会合の冒頭、事務局であるCIMT(Centre for IMT-GT)から、2012年4月のサミットにおける首脳からの指示、およびそれへの対応が報告された点も、「実行」を重視する姿勢がうかがわれる。

2.「実行ブループリント」の概要

実行ブループリントでは、主要な協力分野として、(1)インフラと運輸、(2)貿易投資、(3)観光産業、(4)ハラル製品・サービス、(5)人的資源開発、(6)農業・農業関連産業・環境、の6分野が規定されており、分野毎に実務を担当するワーキング・グループが設置されている。下表に示すとおり、12の旗艦プログラムがあり、個々のプログラムは2年毎の実行計画(rolling pipeline)、個別プロジェクトから構成されるように設計されている。

IMT-GT実行ブループリント:2012-13年実行計画

Flagship programs and projects Cost
US$ Mil.
Flagship program 1: Five connectivity corridors 732.80
  Flagship Program 1a: Extended Songkhla – Penang – Medang corridor  
1. Hat Yai – Sadao intercity motorway 300.00
2. Nathawi Ban Prakob – Durian Burung
  1. Nathawi Ban Prakob (construction of CIQ facilities)
  2. Durian Burung – Pedu – Gubir – Kupang (road upgrading)
  3. Alor Setar – Kuala Nerang – Durian Burung(road upgrading)
69.00
66.00
77.00
3. Ipoh – Medan direct flight TBD
4. Southern region cargo distribution center at Thungsong 28.00
5. Integrated CIQ at Bukit Kayu Hitam 120.00
6. Northgate manufacturing park at Pengkalan Hulu 47.00
7. Narathiwat special border economic zone TBD
  Flagship Program 1b: Straits of Malacca Corridor  
8. Development of Kantang coastal port at Naklua 22.00
9. Road upgrading of Kaki Bukit – Wang Kelian 3.80
Flagship program 2: Streamlining of trade regulations and procedures 1.16
10. Simplification of CIQ regulations and procedures TBD
11. CIQ complex development at Narathiwat and Songkhla 0.16
12. Exchange of study visit of CIQ personnel 1.00
Flagship program 3: Promotion of logistics/supply chain and business services 2.85
13. Bukit Bunga – Jeli strategic implementation plan 1.59
14. IMT-GT annual trade missions and trade fairs 0.26
15. IMT-GT contact center 1.00
Flagship program 4: Marine fisheries and aquaculture development TBD
16. IMT-GT fisheries conference and partnership arrangemnet TBD
Flagship program 5: Application of new technologies for livestock 0.07
17. IMT-GT network for animal production and biotechnology 0.07
Flagship program 6: Trade in agriculture 14.50
18. BIMP-EAGA and IMT-GT high-value agriculture business conference and trade expo 2012 TBD
19. Narathiwat agricultural market 14.50
Flagship program7: Environment-friendly agriculture 1.00
20. Development of agro-eco-friendly agriculture through adoption of appropriate technologies 1.00
Flagship program 8: Halal integrity (standards and certification) 1.17
21. Integrated halal superhighway IMT-GT hot system 1.17
Flagship program 9: Industry development 21.07
22. Perlis halal park 3.13
23. Tok Bali fisheries integrated park in Kelantan 17.94
Flagship program 11: Develop thematic tourism routes or circuits with a logical sequence of destinations and sites 0.10
24. International homestay promotion fair 0.10
Flagship program 12: Enhanced labor mobility by adopting mutual recognition agreements along the lines of the ASEAN framework 0.14
25. Enhancement of the quality of human resources in the IMT-GT subregion through capacity building programs
  1. Training and workshop for IMT-GT executives/mid-management at Prince Songkhla University
  2. Workshop on IMT-GT cooperation for management and skills development in tourism
  3. Workshop on the effectiveness and efficiency on technical and vocational training
  4. Workshop on project method in vocational training
  5. International seminar on women participation in the labor market
0.14
TOTAL: 774.86

(出所)IMT-GT, Implementation Blueprint: 2012-2016, Appendix 2, pp.59-60.

3. JICAによる「ASEAN RoRoおよび短距離海運に関するF/S」の中間報告概要
IMT-GTのうち、マレーシアとタイは陸路で繋がっているが、インドネシア(スマトラ島)はマラッカ海峡により隔てられている。IMT-GTの旗艦プログラムでは5つの接続性回廊が取り上げられているが、そのうち3つはマラッカ海峡を越える海路を含んでいる。

IMT-GTの接続性回廊
地図:IMT-GTの接続性回廊

(出所)IMT-GT, Implementation Blueprint: 2012-2016, Figure 2, p.8をもとに一部加工。

マラッカ海峡を越える海洋接続性(maritime connectivity)の強化については、ASEAN全体としてもその重要性が認識・合意されている。2015年までの5年間のASEAN交通協力計画であるブルネイ行動計画(Brunei Action Plan: BAP)の提言を受け、ASEAN首脳はASEAN接続性マスタープラン(Master Plan on ASEAN Connectivity: MPAC)において「ASEAN RoRo および短距離海運に関するフィージビリティ調査」の実施を15の優先プロジェクトの1つと位置づけた。これを受けて、日本政府がMPAC実施支援の一環として協力を決定し、現在はJICAが同調査を進めている。

同調査では第一段階として、(1)Belawan–Penang、(2)Belawan–Phuket、(3)Dumai– Malacca、(4)Muara–Labuan–Brooke's Point、(5)Muara–Zamboanga、(6)Davao–Genaeral Santos–Bitung、(7)Johor–Sintete、(8)Tawau–Tarakan–Pantoloan、の8航路に関する予備調査を実施し、現在の交通量、インフラの整備状況、法制度面での各国政府の支援可能性などを検討し、2012年7月にASEANメンバー国に中間報告を行っている。その中間報告を受けて、ASEANは、[1]Belawan–Penang–Phuket((1)と(2)を繋いだ三角航路)、[2] Dumai–Malacca、[3] Davao–Genaeral Santos–Bitungの3航路を今後の詳細調査の対象とすることを決定した。

4. マラッカ=ドゥマイRoRo航路

マレーシアのマラッカ州には北からクアラ・リンギ港、タンジュン・ブルアス港、マラッカ港の3つの港がある。

クアラ・リンギ港では小型船を使った貿易がインドネシア(ルパット島)との間で行われている。インドネシアからの輸入財は木材など、輸出財は缶・ペットボトル飲料、菓子類、鮮魚、瓦などがある。これら輸出財はインドネシアでも手に入るものであり、価格もインドネシアの方が安いが、品質がいいのでマレーシアからの輸入に需要があるとのことである。以下、写真はすべて2012年7月下旬に筆者が撮影したものである。

クアラ・リンギ港
写真:クアラ・リンギ港

写真:クアラ・リンギ港

マラッカ州政府関係者によれば、マラッカ=ドゥマイ間のRoRo航路には、タンジュン・ブルワス港を使う予定とのことである。CIQ施設はある。タンジュン・ブルワス港はマラッカ市中心部から北に約8kmに位置する小規模港である。現時点では港湾インフラは国有だが、運営は民営化されており、2013年11月までを期限としてSPPG社が運営している。RoRo船用の固定桟橋2本(満潮用と干潮用)を右側の先端部より手前の位置に設置する予定である。総工費は1200万リンギと実ともられており、すでにマラッカ州政府が資金拠出することが決定している。関係者の話では、すでにRoRoターミナルおよびRoRo船の設計は行われているが、中央政府の承認を待っている状況とのことである。

タンジュン・ブルワス港
写真:タンジュン・ブルワス港

マラッカ港は現在、客船(ジェッティ)のみが就航しており、対岸のドゥマイとの間を結んでいる。マラッカ港の税関職員によれば、このジェッティを使い、クアラルンプールの貿易業者が週1回程度、衣類などの小規模輸出をしているが、マラッカ港として個別の貿易統計を出すほどの規模ではない。マラッカ港の対岸に建設済みの新しいCIQ施設があり、8月1日に開業予定とのことであった。ドゥマイ行きジェッティは午前10時発、2時間半で到着する。ジェッティは250人乗り、60%程度の乗客率であった。

マラッカ港
写真:マラッカ港

注)左岸が2012年7月時点のジェッティ・ターミナル。右岸の白いビルが新しいCIQ施設。

ドゥマイ港は原油、パーム油の積み出し港として機能しており、現在はコンテナ・ターミナルがない。河川港のプカンバル港には小さなコンテナ・ターミナルがあり、ジャカルタなどからの日用品・飲食料品などが運ばれている。ドゥマイ港から約2km離れたところに、ルパット島行きのRoRoターミナル(国内線)があり、一日4往復就航している。RoRo船は、バイク70台、車8台を収容する規模であり、運賃はバイクが9,500ルピア、車が65,000ルピアである。このターミナルは国内線専用として使われているため、CIQ施設がない。

ドゥマイのRoRo桟橋
写真:ドゥマイのRoRo桟橋

本稿の内容及び意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。