IDEスクエア
海外研究員レポート
2007年度のインド二輪車産業動向
PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049994
島根 良枝
2007年12月
1.全体的な動向
2007年度4~10月期の二輪車販売台数は425.9万台(前年同期比 8.5%減)にとどまり、2007年初来の伸び悩み傾向が続いている(表参照)。カテゴリー別にみると、スクーターの販売台数が62.9万台と前年同期比で 19.6%増加しているものの、オートバイは販売台数が 337.9万台(前年同期比 13.7%減)と不振が目立っている。二輪車販売台数の伸び悩みは、需要の二輪車から乗用車へのシフトが早くも始まったこと、金利の上昇によるものである。
ただしそうした全体的な動向の中で、メーカー別には、日系メーカーの健闘と地場メーカーの不振というようにパフォーマンスの格差が際立っている。インド二輪車産業の上位メーカーは、表中に個別に国内販売・輸出台数を示した4社である。ヒーローホンダ社は本田技研工業と地場資本の合弁企業、HMSI社は本田技研工業の単独出資企業であり、バジャージオート社とTVSモーター社は地場資本企業である。日系メーカー2社がオートバイについても国内販売台数を増加ないし微減にとどめているのに対して、地場メーカー2社はオートバイの国内販売をそれぞれ21.9%、43.4%減少させている。
2.日系メーカーの健闘
オートバイの国内販売において日系メーカー2社が地場メーカーと比べて際立ったパフォーマンスを示した背景には、モデル数を増やして顧客の需要により良く対応した点が指摘できる。すなわち、ヒーローホンダ社は従来、CD100およびスーパースプレンダーなどのベーシッククラス(厳密な定義はないが、主に排気量が100~125ccのモデル)を中心に販売台数を拡大してきたが、ここ数年の間にCBZ、Karizmaなどベーシックよりも上位クラスであるプレミアクラスのモデルを導入し、新規顧客の開拓に努めてきた。その結果、ベーシッククラスの販売不振を補うかたちで、プレミアクラスにおける新規モデルの販売台数が増加し、オートバイ全体としては 0.7%の微減にとどまった。
HMSI社は、従来のスクーターに加えて2000年にオートバイの生産を開始して以来、プレミアクラスに特化し、新規モデルを導入しながら順調に生産を拡大してきている。
3.地場メーカー:国内販売の不振と輸出の拡大
地場上位メーカー2社は、ヒーローホンダ社とは対照的に、ベーシッククラスの上と下、すなわちエントリークラスとプレミアクラスを中心にモデルを投入してきた。バジャージオート社は、最近はエントリークラスの Boxerなどのモデルを廃止するとともにDiscover-1-などベーシッククラスのモデルを投入するなど、ベーシッククラスの市場開拓に注力しつつあったが、オートバイ全体としての国内販売減少は、エントリークラスでの販売減少をベーシッククラスでの販売増加によってカバーしきれなかったことによる。TVSモーター社は、引き続きエントリークラスとプレミアクラスに特化していたため、エントリークラスでの販売減少がオートバイ全体の販売減少につながった。結果的に見ると、乗用車への需要シフトや金利の上昇は、購買力の低い顧客層の需要するエントリークラスの市場を最も縮小させた。
国内販売が不振であった一方で、地場メーカーについて特筆すべきは輸出の拡大である。とくにバジャージオート社のオートバイ輸出台数は、2005年度の16.5万台から 2006年度 には 29.8万台へと約8割増加した後、2007年度に入ってからも4~10月期ですでに28.5万台に達しており前年同期比で62%増を記録した。2006年度にはナイジェリアへの、2007年度にはインドネシアへのCKD(Complete Knock Down)輸出が始まったことも、輸出の拡大につながっている。
輸出の拡大自体、地場メーカー、とくにバジャージオート社の国際競争力獲得を示唆するものであるが、国際競争力を評価する上での試金石として注目されるのが、2007年度に開始されたインドネシアでのCKD生産の成否である。同社のこれまでの輸出先は、日系オートバイメーカーの影響力の少ない低開発国であったのに対し、インドネシアでのCKD生産開始は、日系メーカーと直接競合する市場への進出である。インド地場メーカーの輸出を展望する上でも、同社がインドネシア市場で日系メーカーとどれだけ競争できるかどうかが今後注目される。
(表)二輪車国内販売・輸出台数
(台)
国内販売 | 輸出 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
メーカー |
4~10月期 |
変化率 |
4~10月期 |
変化率 |
||
2006 |
2007 |
2007 |
2008 |
|||
スクーター | ||||||
バジャージオート社 | 11,358 | 15,769 | 38.8 | 1,103 | 8 | -99.3 |
HMSI社 | 275,281 | 365,214 | 32.7 | 16,675 | 6,894 | -58.7 |
ヒーローホンダ社 | 53,915 | 60,303 | 11.8 | 976 | 896 | -8.2 |
TVSモーター社 | 153,744 | 167,721 | 9.1 | 6,048 | 6,123 | 1.2 |
合計 | 526,222 | 629,182 | 19.6 | 25,751 | 15,981 | -37.9 |
オートバイ | ||||||
バジャージオート社 | 1,265,918 | 989,039 | -21.9 | 176,353 | 284,826 | 61.5 |
HMSI社 | 77,583 | 144,716 | 86.5 | 2,150 | 14,020 | 552.1 |
ヒーローホンダ社 | 1,829,161 | 1,816,532 | -0.7 | 64,087 | 46,777 | -27.0 |
TVSモーター社 | 535,716 | 303,028 | -43.4 | 48,761 | 59,700 | 22.4 |
合計 | 3,914,705 | 3,379,164 | -13.7 | 332,528 | 447,581 | 34.6 |
モペット | ||||||
TVSモーター社 | 183,658 | 228,604 | 24.5 | 9,924 | 7,678 | -22.6 |
合計 | 195,730 | 239,466 | 22.3 | 25,873 | 13,301 | -48.6 |
電動バイク | ||||||
合計 | 15,546 | 10,935 | -29.7 | 0 | 0 | – |
二輪車合計 | 4,652,203 | 4,258,747 | -8.5 | 384,152 | 476,863 | 24.1 |
(出所)Society of Indian Automobile Manufacturers(SIAM)発表。