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海外研究員レポート

英国におけるフェアトレードについて

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049999

2007年9月

英国に滞在して印象に残ったことのひとつにフェアトレード商品の普及が日本に比べてはるかに進んでいることが挙げられる。報告者の住む地方都市ではスーパー、カフェ、大学、駅、チャリティショップなどで食料品を中心とするフェアトレード商品を日常的に目にする。さらに月に一度フェアトレード諸団体が街の中心部に集まりマーケットが開かれる。最近知ったところでは、ブライトン・ホーブ市は2004年にフェアトレード・タウン宣言を出している1。これは2000年にランカシャーのガースタング(Garstang)という街でフェアトレードをコミュニティ全体で推進することを目的に宣言されたのを契機として英国内外に広まり、 2007年3月時点までに国内242の自治体で同様の宣言が出さたという2。また、著名人、政治家などによるフェアトレードの支援が行われており、新聞、雑誌、テレビ等でフェアトレードについて見聞する機会も少なくない。職場で飲むコーヒー、紅茶等をフェアトレード商品に変えた企業もあるという3

今年7月のFairtrade Foundationの発表によると、フェアトレード認証マークを認識できる15歳以上の英国人は57%、認証マークが途上国の生産者へのよりよい取引条件を保証することを理解している人も 53%にのぼる4。2006年の英国のフェアトレード商品年間小売額 (推計)は前年比48%増の4億950万ユーロで米国(推計4億 9900万ユーロ)に次いで第2位であった5。人口一人当たりの小売額でもスイスについで第2位と推計され、文字通り世界 第2位のフェアトレード市場として順調に拡大を続けている。

もっとも英国のフェアトレードの歴史は決して長くない。まず 1990 年代に環境、健康、貿 易などで独自の理念を掲げる生協が先鞭をつけ、その後 1994年よりフェアトレード認証制度が始まり、ここ5~6年で本格的に大手スーパーがフェアトレードに参入した6。現在では1500以上の認証製品が小売り・配膳業者から入手可能である7。大手スーパーに行けば、コーヒー、紅茶、チョコレート、果物、米、ジャム、蜂蜜、ワイン、砂糖、ハーブ、スパイス、菓子類、花、服などのフェアトレード商品が並んでいる。この背景には、企業の社会的責任(CSR)の一環としてフェアトレードへの取り組みが行われていると考えられよう。

以上のようにフェアトレードの普及が進む一方で、報道を見る限りいくつかの課題も指摘されている。報告者が気付いた範囲内では主に以下の三つが挙げられる。第一に、フェアトレードは生産者に対して市場価格にプレミアムを上乗せして払うため、過剰供給が進んで市場価格が下落すること、また生産者はフェアトレードのそもそもの目的であるフェアトレード以外の作物への多様化を図るインセンティブがなくなるというものである(The Economist, 9 December 2006)。市場価格の下落は、フェアトレード製品とそれ以外の製品の価格差の拡大生むことにもつながり、消費者の選択に影響を与えかねない。実際、過去数カ月の間に大手スーパーで度重なる(フェアトレード以外の)バナナの値下げが行われたことに Fairtrade Foundation から懸念の声が表明されている8。第二に、フェアトレードの認証を受けていない商品がフェアトレード商品として市場に出回っている可能性がある(Financial Times, 8 September 2006)。フェアトレードラベル組織(Fairtrade Labeling Organisation)が行っている生産者の認証業務、貿易業者の登録、それらのモニタリングに対して、外部監査の必要性も指摘されている。第三に、生産者の生活向上に関する疑問である。フェアトレードでは生産者の雇用条件や職場環境の改善、生活環境の向上などを目的として、小規模コーヒー生産者や認定を受けた紅茶農園の労働組合などに消費者によるプレミアムが支払われている。しかし法定最低賃金さえも支払われていないケースや繁忙期の長時間労働の問題などは依然として未解決のままと指摘される(The Guardian, 5 March, 2005 and Financial Times, 8 September 2006)。Fairtrade 団体の推測によると、フェアトレードの恩恵に預かっている生産者とその家族は約5億人である9。フェアトレード生産者と家族が1日1ドル以下で生活 する世界の貧困層 9.8億人(国連による2004年時点の推計)に含まるとしても、ミレニアム 開発目標のひとつである「2015 年までに1日1ドル未満で生活する人口比率を1990年から半減させる」の達成に向けてどの程度の貢献ができるのだろうか。また、仮にフェアトレードの恩恵を受けることのできる生産者が増加しても、恩恵を受けられない生産者との所得や生活水準の格差の拡大も懸念される。

「フェアトレード先進国」とも評される英国でもフェアトレード・コーヒーのシェアは、いささか古い数字だが(インスタント及び粗引き)コーヒー市場の3%(2001年)を占めるにすぎない10。大手スーパーや大企業の取り組みも、まだ単なる流行か長期的なコミットメントを期待できるのか判断しかねるところがある。

自然の原料をベースにした化粧品会社ザ・ボディショップは開発途上国などのコミュニティとの公正価格での原材料の取引と長期的関係をひとつのビジネスの柱として掲げてきたことで知られる。先日急逝したその創始者アニータ・ロディックは、「フェアトレードは大企業にとってトロイの木馬である……(中略)。フェアトレードは単に利益と効率をもとにした指標でなく『公正で優れた』社会という指標をもとにした尺度の導入を企業に余儀なくさせるだろう。そしてフェアトレードとは、ビジネス・コミュニティに『いつ』『いくら』と同じ頻度で『なぜ』を問い、社会に『それは何か』と同じように『それはどのようになされたか』を意識させることなのかもしれない」と述べている11。今後のフェアトレードの拡大、定着、透明性の向上は、企業だけでなく私たち消費者にも委ねられていることだけは確かなようである。

脚注
  1. フェアトレード・タウンとは、(1)議会がフェアトレード支援声明を採択し、会議、オフィス、食堂でフェアトレードのコーヒーや紅茶を提供する、(2)多種類のフェアトレード商品が自治体内の店舗、カフェ、配膳業者より入手可能である、(3)フェアトレード商品が職場(不動産屋、美容院等)やコミュニティ組織(教会、学校)で利用されている、(4) メディアへの働きかけ、またフェアトレードのキャンペーンに対する支援を行う、(5)フェアトレードへの継続的なコミットメントを確保するために運営グループを召集する、を満たしていることが求められる。宣言を出すには英国のFairtrade Foundationに申請をする必要がある(http://www.fairtrade.org.uk/get_involved_fairtrade_towns.htm)。
  2. http://www.fairtrade.org.uk/get_involved_fairtrade_towns.htm
  3. http://my.fairtrade.org.uk/work/upload/search
  4. http://www.fairtrade.org.uk/pr100807.htm
  5. http://www.fairtrade.net/fileadmin/user_upload/content/FLO_AR_2007.pdf
  6. http://www.fairtrade.org.uk/about_chronology.htm
  7. 注3に同じ。
  8. http://www.fairtrade.org.uk/ps200607.htm
  9. The Guardian がオックスファム、生協、Cafédirect社の協力によって発行した"Fair trade: A force for social change"という折込み特集より。日付なし。
  10. http://www.open.ac.uk/courses/tasters/dd205/objects/d2965.pdf
  11. 注9に同じ。