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海外研究員レポート

中国とインドの知的人材の育成――概観と国際的な特色

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050000

大原 盛樹

2007年8月

グローバル化時代の発展途上国におけるイノベーションは、これまでのキャッチアップ (後発産業化)論的な見方を超えた重要な現代的現象である。世界の新しいイノベーションの拠点の一つになると期待されるのが中国とインドである。その期待の根拠となるのが、知的な人材的資源の量的な膨大さである。

本稿は両国における R&D 従事者とその苗床である高等教育における学生数を量的に把握し、次いで米国との関わりから、両国の大まかな発展モデルを類推する。

1.学生数(高等教育)

高等教育(大学・大学院レベル)に在籍する学生数は、2002年の段階で米国が1600万人と最も多く、中国がそれに匹敵する1500万人、インドがそれに次ぐ 1130万人である。日本の400万人と比べて格段に大きな量である(Figure 1)。

中国の高等教育学生者数は1990年代末から急激に伸びていることが注目される。インドは1990 年代まで一貫して高等教育で中国よりも多くの人材を輩出していた(インドが相対的に早くから高等教育を重視していたことはよく知られている)。それに対し、比較的初等・ 中等教育を重視していた中国が、明らかに高等教育の分野で急激な投資を行っている。

Figure 1: Number of students enrolled in the third level education (unit: 1000 persons)

Figure 1: Number of students enrolled in the third level education (unit: 1000 persons)

Source: United Nations Statistics Division, Education enrolment by level (UNESCO estimates) [code 25540] (http://unstats.un.org/unsd/cdb/cdb_series_xrxx.asp?series_code=25540)

中国、インドの高等教育における学生数の増加は、主に大学への進学率の上昇の結果で ある。中国では同年代の人口のうち高等教育機関(主に大学)に入学するものが20%に達した(Figure 2)。インドは12%である。なお日本は5割強だが、米国で8割、韓国で9割に上っていることは注目すべきである。

Figure 2: Gross Enrollment Ratio in Tertiary School

Figure 2: Gross Enrollment Ratio in Tertiary School

Source: World Bank Data (cited from International Statistical Yearbook 2006/2007, National Statistical Bureau, China)

Figure3: The Number of Student Enrolled in the First Level Education (unit: 1000 Persons)

Figure3: The Number of Student Enrolled in the First Level Education (unit: 1000 Persons)

Source: United Nations Statistics Division, Education enrolment by level (UNESCO estimates) [code 25540] http://unstats.un.org/unsd/cdb/cdb_series_xrxx.asp?series_code=25540

より長期的な人材の供給を示唆する初等教育における在籍学生数を見ると、中国・インド両国の潜在力はより圧倒的である(Figure 3)。

中国が人口ピラミッド上の減少局面に入っているのと対照的に、インドではまだ増加局面にあり、絶対数で中国を上回っている。

2.R&D 人員の数

Figure 4は民間、政府部門をあわせたR&D活動に従事するスタッフ数である。米国が最大だが、中国が急激に肉薄している。この分野で中国が量的に米国を追い越すのはもはや時間の問題である。中国国内におけるR&D活動の活況を示唆している。日本は米国のちょうど半分で、人口比(米国が日本の2.3 倍)とほぼ同じである。ただし米国が増加傾向にあるのに対し、日本は横ばいである。

インドは近年の統計が不明だが、1990年代後半に中国の約3分の1の数でしかない。2000年以降の中国の急速な増加を考慮すると、その差はさらに大きくなっているものと推測できる。圧倒的な大学生を輩出しながらのこのR&D活動の低迷は、国内にR&Dを行う機会が少ないからに他ならない。大学生数の多さと相対的に低い R&D活動は、インドほどではないが、韓国についても言える。

Figure 4: Number of R&D Researchers (unit: 1000 persons)

Figure 4: Number of R・D Researchers (unit: 1000 persons)

Source: United Nations Statistics Division, Statistics Code 25660 (http://unstats.un.org/unsd/cdb/cdb_series_xrxx.asp?series_code=25660)、およびChina Statistical Abstract 2007

3.R&D 活動の成果:米国における特許申請数数

各国におけるR&D活動の成果を表す一つの参考指標として、米国における特許申請数を見てみよう(Figure 5)。2003年の米国における特許申請数は、本国(米国)企業が約18万件なのに対し、日本企業が6万件に達し、外国企業としては断トツに多い。日本企業(および韓国・台湾企業)が米国で特許を取得する性向が高いことは知られており、特許取得数が必 ずしもイノベーションを生み出す能力の大小を正確に反映しているとは限らないが、しかし韓国、台湾企業と比較しても相当高いレベルにあることから、やはり今のところ世界有数と言っていいだけのイノベーションを行っていると考えていいだろう。

中国の特許取得数の低さは、その膨大なR&Dスタッフ数と比べると、非常に印象的である。これは中国企業の海外進出がまだ本格化していないことも原因の一つであろう。中国のR&D活動は、主に国内向けに行われていると考えられる。ただこの数字の低さは、本質的にはR&D活動の内容の先進諸国との質的違いが最も重要な要因であろう。即ち、中国国内で膨大な数のR&Dスタッフを使って行われているのが、主に「キャッチアップ」型の「ラーニング」的要素の強い活動だと推測するのが妥当だろう。一方、韓国企業、台湾企業は独自性の高い R&D を本格化させて久しいことがわかる。

この図では見にくいが、インド企業の特許申請の実績は中国企業とほとんど同じ水準にある。中国と比べた R&D スタッフの少なさと比べれば、相対的にはR&Dの対外思考が強く、パフォーマンスがいいと考えていいかもしれない(それは中国と比べて相対的にR&D活動が国内で充実していないことと同義である)。

中国・インド両国のR&D活動の独自のイノベーションを生み出す程度が、これまでのところ、少なくとも国際的な舞台で低調であることは間違いない。本質的には、両国の発展途上段階を反映しているということであろう。

Figure 5: The Number of Patent Application in US by the Nationality of Technology Ownershipersons

Figure 5: The Number of Patent Application in US by the Nationality of Technology Ownership

Source: Science and Engineering Indicators, Chapter 6: Industry, Technology, and the Global Marketplace (National Science Foundation) http://www.nsf.gov/statistics/seind06/append/c6/at06-13.xls

4.米国と一体化したR&D活動

中国、インド、韓国等のアジア諸国のイノベーション活動について注目されるのは、米国との一体性である。米国で科学・エンジニアリング関連の職に就く学部卒以上の学歴保有者約400万人のうち23%が外国人であり、うちアジア人が13%、さらにそのうち4.9%(19.6万人)をインド人、3.1%(12.4万人)を中国人が占める(なお台湾、フィリピン人が各1%、韓国人0.7%、日本人0.5%、EU出身者1.9%)。彼等の大部分は米国の大学を卒業した者達だと考えられる1

毎年、米国で博士号を取得する者のうち、中国人が最大であり、次いで韓国、インド、台湾が続く。これら東アジア3カ国(中国、韓国、台湾)とインドの知的人材は、事実上、米国の高等教育システムと密接に連結していると考えるべきである(Figure 6)。

Figure 6: Number of Science and Engineering Doctorate Awarded in US by nationality (unit: persons)

Figure 6: Number of Science and Engineering Doctorate Awarded in US by nationality

Source: Science and Engineering Doctorate Award 2005 and 1996, National Science Foundation/Division of Science Resources Statistics, Survey of Earned Doctorates http://www.nsf.gov/statistics/nsf07305/tables/tab11.xls http://www.nsf.gov/statistics/nsf97329/tables/drf5.pdf

2005年に米国で科学・工学分野(社会科学を含む)で博士課程を取得した中国人は3500人に達した。これは同年の中国国内における博士課程修了者2.8万人(『中国統計摘要2007年』)の13%に相当する。この15年間に米国における中国人博士号取得者は年間 2000~3000名出ており、累積で4万名近くに上る。

インド人も博士号取得では有力だが、数量的には韓国、台湾とほぼ同じレベルにある。韓国と台湾人の博士号取得者数の多さは、両国の人口に比べれば、非常に多い。両国で はほとんど大学院レベルの専門高等教育は米国が主要な舞台であったと言うべきである。ただし台湾人留学生の数が1990年代半ばから一貫して減少しているのは興味深い。

一方、日本はその知的活動の大きさと比べると、米国での博士号取得者は少ない。そしてドイツも同様である。これは先進国として、国内の研究機関が高等専門教育の最も重要な舞台となっているということだと考えられる。

米国の高等専門人材の育成システムは、これらアジア諸国の人材育成の重要な一部となっていると同時に、それら諸国に人材を少なくない程度に依存していると言ってよい。そして先に見たように、産業界の知的な現場での一部アジア諸国出身者のプレゼンスの大きさ(特にインド、中国)を考えれば、米国と各自の出身国の知的世界を行き来しながら、諸国のイノベーション・システムが米国を中心にして重なり合っていると考えるべきではないだろうか。

5.留学生の数と質:日米の違い

大学で外国の人材を取り込む方法と程度について、米国の特色を日本と比較しながら見てみよう。概観すると、相対的に日本では学部・文系が留学生の進学先であり、米国は大学院・理系に向かう。日本はほぼ中国人に集中しているが、米国ではインド・中国・韓国等のアジア諸国が多いものの、より多様である。留学生(在籍生)の絶対数は米国で5倍多いが、中国人の数だけだと日本の方が多い。インド人については比較にならない。中国・インドで理系を中心に、すでに母国で高等教育を受けた者が、先端技術を求めて米国に向かっていること、それと比べて、日本にはまだ専門の定まっていない中国の学生が多く向かっている。

以上をより詳しく見てみよう。学部、大学院を含めた全高等教育機関に占める外国人留学生の比率は、米国3.2%、日本2.4%で、全体における人数的プレゼンスという意味では、両国の「国際化」の程度はそれほどかけ離れている訳ではない。しかし外国人留学生の絶対数は、米国53.5万人、日本9.5万人と、日米で約5倍の差がある。より重要なのはその質的相違である。日本では留学生のうち大学院レベルの学生が占める割合が 25%であるに比べ、米国では52%が大学院レベルである。さらに専門についてみると、日本では理系の割合が少ない(1995年に博士レベルで理学7%、工学33%、農学13%等2)のに対し、米国では理系が多い(分類が日本と異なるが、大まかに工学2割、自然科学5割、社会科学3割)。日米で比較すると、相対的に米国では理系の大学院に留学生が集中し、日本は文系の学部に留学生が集中している。

国別で見ると、2004 年の米国の大学院への留学生のうち、インド人23%(63000人)、中国人18%(51000人)、韓国人9%(25000人)、台湾人5%(15000人)で、4カ国で全体の55%を占める。それに対し2005年の学部・大学院を含む日本への留学生数は中国人66%(81000人)、韓国人13%(16000人)で、ほぼこの2カ国に圧倒されている3。米国の学部レベルでの中国人留学生は約 8000人と少なく、学部/大学院合わせて約6万人なので、学部・大学院を合わせた中国人留学生数は日本の方が多い。ちなみにインド人の受入数では、学部/大学院あわせて米国約8万人に対し、日本では410人と非常に少なく、バングラデシュ1331人、スリランカ907人よりも少ない。

なお、米国の学部に在籍する外国人留学生で最も多いのは日本人(2004年28000人)で、短期留学生と女性が多い。見聞を広げる、自分探し、というような意味を多分に含んだ人が多い者と考えられる。一方、同年の大学院への日本人留学生は8700人である。日本と米国の人材育成を通じたハードで直接的な師弟関係的リンケッジは、中国等と比べてあまり強いとは言えない(日本側の米国に対する心情的なつながりは、量的には太そうである)。

無論、それは日本国内が日本人の知的人材の主要な創出の舞台となっていることを意味 しており、必ずしも人材養成の方法として劣っているという訳ではなかろう。むしろ国内にそれだけの教育/技能育成のインフラを築き上げてきており、またパテント取得に代表されるように、現状ではそのパフォーマンスが先進国として劣っているようにも思えない。ただし、日本国内の知識創出の主要舞台として、大学院の役割は米国に比べると(少なくとも規模的に)貧弱で、国際的な魅力(それゆえ留学生を仲介としたダイレクトなリンケッジ)に欠けていること、そして恐らく、企業部門が人材育成の重要な舞台となっていることは、日本の知識創造システムの特色であろう。

まとめ:各国の知的人材創出体制の相対的特色

中国、インドのR&Dを担う知的人材の養成システムという視点を考えるには、まず米国、日本、そして韓国/台湾との比較が有効だと考えられる。

言うまでもなく、米国が世界の科学技術、R&Dの中心となっており、中国、インド、韓国、台湾という特定国を中心としたアジア諸国からの留学生を通じた人的(子弟関係)ネットワークが、それを部分的だが、支えるほどの段階に入っている。特に中国、インドには膨大な数の学生が未だ背後に控えており、彼等の中の最優秀な人材が、さらに米国に向かうことだろう。米国を中心にした階層的かつ大規模な世界のイノベーション・システムができあがりつつある。

一方、日本は自国育成型、自国活用である。自国でR&D活動を行い、人材も自国内で養成された者を活用する。これは典型的な「一国キャッチアップ型」「後発工業化」モデルである。相対的に見れば大学における学生の育成は学部が中心で、大学院は少なくとも規模的にあまり充実しているとは言えない。また国際的な魅力も米国と比べれば乏しい。日本人の学生数がますます減少する中で、人材供給が難しくなっていると考えられる。相対的に企業が果たす役割が大きいが、外国人学生の活用が鍵になるだろう。米国を中心とする世界大のイノベーション・システムと比べると規模的に貧弱であるが、システムとしての独立性があるので、独自性の追求ができるというメリットがある。

韓国/台湾は米国の知識システムの積極活用型である。あるいはドミナントな知的システムへの依存型と言うべきかもしれない。人口の小ささに比べて米国で育成される人材の数が極めて多い。むしろ国内の独自の知的基盤の充実よりも、まずは米国の知的世界と一体化してきたと考えることができる。従来、自国の産業界の R&D 基盤は弱いが、「ラーニング」中心の工業化を長らく追求したので、それでもよかった。しかし近年、自国でのR&Dの成果も顕著に向上している。特にIT関連産業が中心だと思われるが、R&Dの国際化の中で、人的なリンケッジを活用して韓国/台湾国内でより多くのR&D活動が行われるようになったものと考えられる。以上も「キャッチアップ」「後発工業化」型ではあるが、知識創造という意味では、日本と大きく異なる。日本との比較からすると「勝ち馬に乗り型」で、米国中心のドミナント・システム内部での知的差別化に向かうことだろう。

中国のシステムは、これら3つのモデルとの対比では、日本的な自国育成型と米国システム活用の両面型と言う他はない。ただし、日本と異なり自国での企業のR&Dの内容が現状ではあまり高度でなく、また恐らく企業内部の人材育成はあまり制度化した安定的なルートとなっていない。ただ、R&D自体は比較的多く国内で行っているので、いずれその成果が現れてくるだろう。同時に、米国を中心にした世界大の知的創造システムに、量的に非常に多くの人材が入り込んでおり、R&D活動の国際化というタイミングに最もよく対応できるだろう。しかし、国際化したR&D活動も、核心部分は最終的に米国に残ると考えられるので、もし知識の独自性を追求するなら、やはり自国の企業および大学院の充実が必要になるだろう。知識システムの一足飛びの充実は難しいと思われるので、ある程度の時間がかかるだろう。

インドは、人材の規模的には自国育成システムが発展する潜在性が無論あるのだが、国内のR&D活動基盤が現状では非常に弱い。やはり国内企業の活動内容の高度化が遅れていることが最大の問題である。米国システム活用という意味では、中国、韓国並みに進んでおり、米国への一極的依存度は中国や韓国よりさらに強いかもしれない(中国が持っている日本とのリンケッジがインドは非常に少ない。ただし本稿では考察できなかったが、インドにとって欧州との繋がりは重要かも知れない)。現状では、中国よりも、韓国により近いと言うべきである。ただし、高等人材の長期的な供給量は格段に大きいので、米国の 知的パートナーとしての重要度は韓国、台湾以上となる可能性が高い。事実、米国に残ってR&D活動に参加する人材はインド人がはるかに多い。


脚注
  1. http://www.nsf.gov/statistics/nsf07319/content.cfm?pub_id=1874&id=3
  2. 科学技術政策研究書「研究科別、国籍別博士課程在学生数並びに課程博士数の推移」 http://www.nistep.go.jp/index-j.html
  3. 日本学生支援機構「留学生受け入れの概況(平成17年度)」 http://www.jasso.go.jp/statistics/intl_student/data05.html