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海外研究員レポート

インドネシアの第二回目内閣改造

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050006

作本 直行

2007年5月

スシロ・バンバン・ユドヨノ大統領(SBY)による2回目の内閣改造が実施された。これまで改造の有無に関する報道もしばしばなされてきたが、5月7日に、新内閣が発足した。8日付のJP紙等によると、SBYは、6日に留任対象の大臣をボゴールの自宅に呼び寄せ、7日に残りの大臣を官邸に呼び寄せたと報道している。更迭されたのは、サレ検事総長、ユスリル国家官房長官、スギハルト国営企業担当国務相、ハミド法務人権相、サイフラへき地開発促進担当国務相の5名、異動したのは2名で、ソフヤン元情報通信相が国営企業担当国務相に、ハッタ元運輸相が国家官房長官にである。新閣僚は5名で、3名が民間、2名が政党から、それぞれ登用された。ただし、マルフ内務相については、シンガポールでリハビリ入院中のため、医師団からの報告を受けてから判断することになった。

法務人権相のハミッド・アワルデインと国家官房長官ユスリル・イフザ・マヘンドラは、元スハルト大統領の三男フトモ・マンダラ・プ゚トラ(トミー)との間で1000万ドルの金銭授受があったとの批判により更迭され、法務人権相にアンデイ・マッタラタ(ゴルカル党出身)、国家官房長官にハッタ・ラジャサ(元運輸相)が、それぞれ就任した。ハッタはこれまでの重なる運輸事故で批判が強かったにもかかわらず、官房長官の席に返り咲いたことになる。新運輸相には、ユスマン・シャフィル・ジャマル(国営の飛行機会社役員を務めた元官僚)が民間から登用され、元情報通信相のソフアン・ジャリルは、国営企業担当国務相スギハルトが更迭された後に、このポストに異動された。情報通信相には、元スラバヤ工科大学学長のムハマッド・ヌーが民間から登用された。へき地開発推進担当相には、民族覚醒党(PKB)幹事長のムハマッド・ルクマン・エデイが、所属政党を開発統一党(PPP)に変更した元サイフラ・ユスフの更迭後に、新任登用された。さらに、アブダル・ラフマン・サレ検事総長が更迭され、ヘンダルマン・スパンデイ元特別犯罪検察副長官が任命された。

各政党への配分に影響があるのかどうかまたは個別の大臣の去就をめぐり様々な憶測が報道されてきたが、法務人権相のポストと2009年の選挙で資金源となる国営事業国務相の職には、ゴルカル優位が確保され、経済関連の大臣更迭は行なわれなかった。特に、国民福祉調整相のアブリザル・バクリーはラピンド火山泥事件での混乱の当事者であったにも関わらず、責任が不問に付された。同紙2面の評論によると、36名の大臣議席で、半分が8政党からの代表を並べている点で、なおも虹色内閣であると評している。政党別には、ゴルカル党が法務人権相のアンデイの1名増加により4名に、月星党が国家官房長官ユスリルの1名減少で1名となった。SBYは、任期後半に向けても、ゴルカル党-カラ副大統領の軸を引継ぎ、なおも独自の政治色を出せないままで船出することになったとの危惧も報道されている。

とりわけ国家行政の中枢的な地位にある国家官房長官と法務人権相が、それぞれスハルト・ファミリーとの間で汚職事件に関わっているとの疑いで更迭されたことは、国民にとって大きな関心事である。これまでスハルト元大統領の民事訴追が何度となく議論されてきたものの昨年の検事総長通達で将来に向けての訴追を中止したと決定され、さらにスハルトの息子のトミーは刑期半ばで昨年夏に刑務署から出所してしまった。9日付けの JP 紙は、新検事総長のヘンダルマン氏は、ユスリルとハミッドの両氏に対し、汚職などのいわゆる特別犯罪として訴追が可能かどうかを検討するとメデイアに発表した。さらに、シンガポールとの間で犯罪人引渡し条約が締結され、シンガポールに汚職問題で逃亡している15名のインドネシア人の引渡しを要求する方向で議論が進んでいる。また、10日付けのコンパス紙は、SBYは、既に2002 年までに4回実施してきた憲法改正に関し、さらに憲法改正を実施するため、憲法が定める国家機関の代表者を集めて、国民協議会(MPR)で協議を行なうべき指示を行なったと報じている。