IDEスクエア

海外研究員レポート

米国の養子縁組制度

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050009

明日山 陽子

2007年3月

米国に来て驚いたことの一つに、孤児や虐待など家庭に事情を抱える子供を養子として引き取って育てる人がかなりいることがある。筆者が現在所属しているコーネル大学の教授の中にも、韓国や中国から養子を迎えて育てた、育てているという人たちがいる。もちろん自身に子供がなく養子を迎えるケースもあるが、実の子供がいても養子を迎えるケースがあることには驚いた。また、自身が養子縁組によりフォスター・ケア(児童養護)制度を離れ、養父母に育てられたという友人もいる。

有名芸能人の相次ぐ国際養子縁組のニュースも昨年以来、メディアをにぎわしている。女優のアンジェリーナ・ジョリーは既にカンボジアから男の子とエチオピアから女の子を養子に迎えており、2007年3月にはベトナムでも養子縁組を申請したと報道されている。また、歌手のマドンナは 2006年にマラウィから養子を迎えたが、その法的手続きなどに問題があるとしてマラウィの人権保護団体が訴え出たことで話題となった。なお、アンジェリーナ・ジョリーはパートナーの俳優ブラッド・ピットとの間に実子をもうけており、マドンナにも2人の実の子供がいる。他にも女優メグ・ライアンが中国から、ユワン・マクレガーがモンゴルから養子を迎えている。芸能界以外では例えば、ジョン・ロバーツ連邦最高裁主席判事が2人の子供を養子として育てている。

残念ながら筆者は児童福祉について全くの素人だ。しかし、今回米国で9カ月近く生活して、児童虐待やネグレクトをする親がいる一方で、そうした子供たちに手を差し伸べ養子縁組を通じて家族の一員として育てる人たちも多数存在することに、感嘆の念を覚えた。そこで今回の報告では、米国の養子縁組制度と特に国際養子縁組に関する最近の動きについて概観したいと思う。

<米国の養子縁組制度:概観>

米国の養子縁組制度については、U.S. Department of Health and Human Services, Children's Bureauが運営する Child Welfare Information Gateway のウェブサイトに概要や統計、関連の情報ソースへのリンクがまとめられている1。以下、主に同サイトの情報を使いながら、米国の養子縁組制度を概観する。

養子縁組の数:全米で養子として育てられている子供の数は、2001年時点で約127,000人と推定されている。養子縁組の数全てを網羅する統計が存在しないため、残念ながら最新のデータは入手できなかったが、その数は 1987年以降 2001年まで毎年 118,000人から 127,000人の間で推移している2

養子縁組のタイプ:養子縁組のタイプは大きく3つにわけられる3。一つ目は、米国の公的なフォスター・ケア制度から養子縁組につながるタイプ。里親や親戚、公的機関によって選ばれた親が養父母になる。二つ目は、私的な機関または弁護士を通じて米国内の子供を養子として迎えるケース。三つ目は、海外から養子を迎えるケース(国際養子縁組)である。

2001年時点において、39%が公的フォスター・ケア経由タイプ(タイプ 1)、15%が国際養子縁組(タイプ 3)、46%が私的な機関などを通じた国内養子縁組(タイプ 2)となっている。依然、タイプ2が多いものの、1992年時点と比べるとタイプ 1(92 年では 18%)、タイプ3 (同 5%)の割合がかなり増加している4

タイプ1とタイプ3については、最近の統計が入手可能だ。タイプ1の公的フォスター・ケア制度から養子縁組に至った子供の数は、2005年に51,000人(ちなみに、フォスター・ケア制度下にある子供の数は同年9月末時点で 513,000人)5、タイプ2の国際養子縁組は 2006年に 20,679人となっている6

養子縁組をする理由:当然だが、子供を引き取って実の子と同じように育てるには費用がかかる。それでも、孤児や虐待など家庭に事情を抱える子供を養子として引き取り育てる理由は、大きく2つケースにわけられるだろう。一つ目は、子供が欲しくても恵まれないために養子を迎えるケース。二つ目は、恵まれない子供たちに手を差し伸べたいという思いから養子を迎えるケースだ。

養子のプロフィール:タイプ1~3の全体を網羅するデータを入手できなかったため、まず公的フォスター・ケア経由で養子縁組に至った子供のプロフィールを見てみると、平均年齢は 5.7歳、養子縁組成立に至るまでの平均待機期間は 15.2カ月、人種構成は43%が白人、 30%が黒人、18%がヒスパニック、残り9%がその他人種となる7表1)。 表1 養子のプロフィール (2005年度公的フォスター・ケア経由) 養子縁組を希望する子供と養子縁組が実際に成立した子供のプロフィールを比較すると分かるように、年齢の高い子供より低い子供、黒人より白人の子供の方が養子縁組が成立しやすい傾向にある。なお、過去、異なる人種間での養子縁組は子供のアイデンティティ・クライシス(自己同一性の危機)をもたらす可能性が高いなどといった理由で敬遠されていたようだが、94年の Multi-Ethnic Placement Act (MEPA, 96 年改正)により、養子縁組における人種や国籍による差別は禁止された。年齢が高い、マイノリティである、兄弟姉妹一緒での養子縁組を希望している、障害を抱えているといった事情を抱える子供たち(Special needs children)の養父母を見つけるのは比較的難しく、課題となっている。

表1 養子のプロフィール(2005年度公的フォスター・ケア経由)

養子縁組を希望する子供 養子縁組が成立した子供
性別 53% 51%
47% 49%
平均年齢 8.6 5.7
平均待機月数 41.6 15.2
人種 白人 40% 43%
黒人 36% 30%
ヒスパニック 15% 18%
その他 9% 9%
合計人数 114,000 51,000

[資料]注7に同じ。

養父母のプロフィール:冒頭で挙げた有名人や大学教授に限らず、養子縁組制度に詳しい筆者の友人によれば、ブルー・カラーの労働者に至るまで様々な人たちが養子を迎えているという。また、養父母は既婚の夫婦とは限らない。例えば、2005年度に公的フォスター・ケア制度から養子縁組につながった 51,000ケースの養父母の内訳をみると、66%が既婚カップル、27%が独身女性、3%が独身男性、2%が未婚カップルとなっている。また、前述のSpecial needs children を養子として育てることに関心をもっている女性のプロフィール (2002年)を見ると、比較的高齢で(54%が35~44歳)、白人で(47%)、結婚しており(63%)、所得が高く(56%が貧困所得水準の300%以上)、都市に住んでおり(93%)、プロテスタントである(64%) といった傾向が見られる8

養子縁組のプロセス:養子縁組成立に至るまでには、養父母の適正審査やトレーニング (2~10カ月)、公的・私的機関や弁護士を通じた養子となる子供の審査と特定、通常6ヵ月の共同生活を経た後での裁判所での法的手続きといったプロセスを経る必要がある9

養子縁組の費用:当然のことながら、子供を養子として迎え育てるのには費用がかかる。まず、養子縁組を成立させるまでに、子供や養父母の審査にかかる費用、裁判所に支払う手続き費用、カウンセリングやトレーニング費用、旅行費用、国際養子縁組の場合、ビザ取得や健康診断、翻訳費用などがかかる。費用はどの機関を通じて養子縁組を行うか、どの国から養子を迎えるか、また子供個々人の事情によって様々だ。フォスター・ケア経由の場合、0ドル~2,500ドル、私的機関・弁護士経由での国内養子縁組の場合、5,000ドル~40,000 ドル、国際養子縁組の場合、7,000 ドル~30,000ドルといった具合だ10。これはあくまで、養子縁組成立までの費用で、その後はもちろん実の子供と同様に育てるわけであるから、食費、衣料費、医療費、教育費など様々な養育費用がかかる。なお、連邦や州政府による税額控除や補助金の支給、企業による補助金支給、養子ローンや助成金といった費用負担軽減制度もある。

<国際養子縁組をめぐる最近の動き>

概観でも多少触れたが、近年、国際養子縁組が増加している。1990年に 7,093人であった国際養子縁組の数は 2004年に 22,884人とピークに達し、その後、多少減少するももの 2006年には 20,679人となっている(図1)。乳幼児など年齢の低い子供を見つけることができる(2005年度、40%が1歳未満、45%が1~4 歳)、比較的低費用であるなどの理由で多くの米国人が国際養子縁組を活用しているようだ。

海外各国の政治経済情勢や人口政策、国際養子縁組政策も国際養子縁組の動向を大きく左右する。米国の国際養子縁組における子供の国籍の内訳の推移を見ると(表2)、1994年度以降上位5カ国には常に、中国、グアテマラ、ロシア、韓国の4カ国が入っている。中国は一人っ子政策の影響で女の子の捨て子が増加したという国内事情が背景にあり、2005年度、中国からの養子の95%は女の子だ。ロシアは旧ソ連崩壊以降急増した。一方、韓国は朝鮮戦争直後の戦争孤児の養子縁組から始まる長い歴史ともつ。

図1 国際養子縁組-海外の孤児への米国移民ビザの発行数

図1 国際養子縁組-海外の孤児への米国移民ビザの発行数

[資料]U.S. Department of State (http://travel.state.gov/family/adoption/stats/stats_451.html)

また、2000年度時点で 1,122人の子供たちを養子として米国に送り出したルーマニアは、2004年度以降、上位20カ国から姿を消している。これは、2001年にルーマニアが国際養子縁組を凍結、2005年1月より国際養子縁組を禁止する法律を発効させたことが原因だ。国際養子縁組が児童売買の温床になっているとのEUからの批判を受けたもので、EU加盟のための解決策が国際養子縁組の禁止という形で現れた。ルーマニアでは旧チャウシェスク政権時代に避妊や堕胎が禁止された結果、孤児の数が増加、89年の同政権崩壊以降、国際養子縁組の活用が進んでいた。確かに、児童売買は取り締まる必要があるが、一方で国際養子縁組の禁止政策は多数のルーマニアの孤児たちから海外で新しい家族を見つける機会を奪ってしまった。2000年度時点で米国だけで 1,122人のルーマニアの子供たちが新しい家族を見つけたが、2005年度にその数はゼロである。

中国も最近、国際養子縁組に関する規制を強化する動きをみせている。2006年12月20日付けの New York Times11によれば、中国は国際養子縁組における養父母の条件として、既婚していること(結婚して2年以上、離婚歴がある場合は5年以上)、肥満やエイズ、癌などの病気をかかえていないこと、高卒以上であること、原則50歳以下であること、80,000ドル以上の資産を持ち世帯構成員一人当たり収入が10,000ドル以上であることなどを新た に検討しているという。規制が強化されれば中国からの養子縁組の数は減ると予想される。

米国側の国際養子縁組に関する制度変更も国際養子縁組の動向を大きく左右する。米国は 2007年中に1993 年ハーグ養子条約(国際的養子縁組に関する保護及び協力に関する条約)を批准予定だ。この結果、ハーグ養子条約に違反しているグアテマラからの養子縁組が難しくなると見られている12。グアテマラは2006年に 4,135人もの子供たちを養子として米国に送り出しており、グアテマラの子供たちに与える影響は大きいだろう。

これら国際養子縁組をめぐる政策変更が、果たして子供たちにとっても最も望ましい選択しなのだろうか。子供たちから新しい家族を見つける機会をできる限り奪わない形での政策がぜひ検討されてほしいと思う。

表2 米国の国際養子縁組 養子の国籍上位20

FY2006 FY2000 FY1995 FY1990
1 中国 6,493 中国 5,053 中国 2,130 韓国 2,620
2 グアテマラ 4,135 ロシア 4,269 ロシア 1,896 コロンビア 631
3 ロシア 3,706 韓国 1,794 韓国 1,666 ペルー 440
4 韓国 1,376 グアテマラ 1,518 グアテマラ 449 フィリピン 421
5 エチオピア 732 ルーマニア 1,122 インド 371 インド 348
6 カザフスタン 587 ベトナム 724 パラグアイ 351 チリ 302
7 ウクライナ 460 ウクライナ 659 コロンビア 350 パラグアイ 282
8 リベリア 353 インド 503 ベトナム 318 グアテマラ 257
9 コロンビア 344 カンボジア 402 フィリピン 298 ブラジル 228
10 インド 320 カザフスタン 399 ルーマニア 275 ホンジュラス 197
11 ハイチ 309 コロンビア 246 ブラジル 146 ルーマニア 121
12 フィリピン 245 ブルガリア 214 ブルガリア 110 メキシコ 112
13 台湾 187 フィリピン 173 リトアニア 98 コスタリカ 105
14 ベトナム 163 ハイチ 131 チリ 90 エルサルバドル 103
15 メキシコ 70 メキシコ 106 メキシコ 83 タイ 100
16 ポーランド 67 エチオピア 95 エクアドル 67 ポーランド 66
17 ブラジル 66 タイ 88 エチオピア 63 台湾 66
18 ネパール 66 ポーランド 83 日本 63 ハイチ 64
19 ナイジェリア 62 モルドバ 79 ラトビア 59 エクアドル 59
20 タイ 56 ボリビア 60 タイ 53 ドミニカ共和国 58
国際養子縁組合計 20,679 17,718 8,987 7,093

[資料]U.S. Department of State (http://travel.state.gov/family/adoption/stats/stats_451.html)。

脚注
  1. http://www.childwelfare.gov/adoption/index.cfm
  2. Child Welfare Information Gateway (2004) "How Many Children Were Adopted in 2000 and 2001? Numbers and Trends" http://www.childwelfare.gov/pubs/s_adopted/index.cfm
  3. Child Welfare Information Gateway (2006) "The Basics of Adoption Practice" http://www.childwelfare.gov/pubs/f_basicsbulletin/
  4. データ元は注2に同じ。
  5. U.S. Department of Health and Human Services "Trends in Foster Care and Adoption" http://www.acf.hhs.gov/programs/cb/stats_research/afcars/trends.htm
  6. U.S. Department of State, "Immigrant visas issued to orphans coming to the U.S." http://travel.state.gov/family/adoption/stats/stats_451.html
  7. U.S. Department of Health and Human Services "AFCARS Report #13 (Preliminary Estimates for FY 2005)" http://www.acf.hhs.gov/programs/cb/stats_research/afcars/tar/report13.htm
  8. データ元は注 7 に同じ。
  9. Child Welfare Information Gateway (2004) "Getting Started: Adoption General Information Packet 1" http://www.childwelfare.gov/pubs/adoption_gip_one.cfm
  10. Child Welfare Information Gateway (2004) "Costs of Adopting: A Factsheet for Families" http://www.childwelfare.gov/pubs/s_cost/index.cfm
  11. "China Tightens Adoption Rules For Foreigners" (New York Times, December 20, 2006) http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?sec=health&res=9400EFDC1031F933A15751C1A9609C8B63
  12. "Rules set to change on foreign adoptions" (The Wall Street Journal, November 2, 2006)