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海外研究員レポート

シリアの新聞広告事情

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050010

高橋 理枝

2007年3月

どこの国でもそうだが、新聞には様々な広告・広報が掲載される。シリアの新聞でも、企業の販売促進のための製品広告に留まらず、政府機関からのお知らせ、お悔やみ、行方不明者捜索願まで、多様な内容の広告・広報が掲載されている。日本の新聞でも見られるような広告もある一方、我々にはあまり馴染みのないようなものもあり、広告・広報からはこの国の社会生活を垣間見ることが出来る。そこで、本報告では、シリア新聞紙上に掲載されている広告・広報について、どんな種類のものが掲載されているのか、その社会背景等と合わせて簡単に紹介したい。なお、シリアには大手の全国紙としてバアス紙、ティシュリーン紙、サウラ紙があるが、今回取り上げるのは、ティシュリーン紙(日刊、販売部数50,000部1)のみである。広告の大きさは、下記に述べるどの種類も特に決まっておらず広告主の経済状況と広告の重要性等によると考えられる。

最も多くみかける広告は、葬儀関係と祝儀関係、そして入札情報である。紙上に決まったコーナーが設置されているわけではないが、この種の広告はほぼ毎日掲載されている。

葬儀関係の広告は、①訃報、②訃報に対してお悔やみを述べるもの、さらに③弔問やお悔やみに対する親族からの謝意、④法要への出席の呼びかけの4種類がある。訃報では、中ほどに大きめの文字で故人の名前が書かれており、亡くなった日付、葬儀の日付、弔問客を受け入れる場所と日時などが掲載されている。シリアでは、だいたい3日間くらい弔問客を迎える(弔問を受ける日数や時間帯は、都市か田舎か、また宗派や亡くなった人物の重要性等によって異なる)が、特に都市では自宅の他、葬儀用のサロンを借りて弔問を受けることも多い。自宅で弔問を受ける場合で、自宅が狭く (都市では1戸建ては少なくマンションが多い)多くの弔問客を受け入れられない場合などは、隣近所の家も弔問客の受け入れに協力することになる。

こうしたお悔やみや弔問のための訪問に対して、親族側は、謝意を伝える広告を出す。内容はだいたい「○○家は、故人X の訃報に際して弔問、電報や電話によるお悔やみを述べられた皆様に感謝いたします」というものである。特に重要人物から弔問や弔電があった場合は、その人物の名前を挙げて謝意が述べられることもある。これには謝意を示すだけでなく、重要人物から弔問を受けたという名誉を誇示する機能もある。またシリアでは、亡くなってから1週間、40日、1年等のタイミング (宗派によって多少異なる)で法要を行うが、親族からの謝意に加えて、これらの法要への出席を合わせて呼びかけるものも多い(ただし管見の限りでは1週間忌と40日忌以外は目にしない)。余談になるが、葬儀のお知らせは、新聞紙上に限らず、亡くなった人の自宅のある街区等にベタベタと張られていることも多い。

葬儀関係よりも量は少ないが、それでもほぼ毎日のように掲載されているのが、祝儀関連の広告である。結婚・婚約祝いや出産祝いで、これらは富裕層や、安い料金で広告を掲載できる新聞社等の職員が広告主であることが多い。また極めて困難な結婚(例えば異なる宗教間での結婚)を祝福するために出されることも稀にある。筆者が目にしたものでは、ドルーズ教徒とアルメニア教徒との結婚を祝うものがあった。これには広告主の名前が明記されておらず、ただ「友人及び親戚一同」とのみ書かれていた。広告にはもちろん所属する宗教名が書かれているわけではないのだが、地元の人は名前からその人物が属する宗教をほぼ推測できるため、この広告が意味するところを理解できるわけだ。

掲載頻度、広告量いずれにおいてもトップを占めるのは、入札関係の広告である。国内入札から国際入札まで、毎日のようにかなりの数の広告が掲載される。公的機関では日本同様に入札が義務付けられており、広告量が増えるのだと思われるが、物資調達から工事の発注と内容も多様である。広告主は公的機関が多数を占めるが、国際機関や民間団体等でも広告を出しているのをみかけることがある。入札に関しては、他の種類の広告と同様に様々な大きさがあるが、一般の記事から分離されて枠で囲まれている入札広告だけでなく、一般の記事よりも細かい文字でずらずらと書き並べられている入札情報もあり(しかし決まったコーナーがあるわけではない)、入札の多さを目の当たりにさせる。また特に国際入札に関しては英語のみで書かれた広告もよく見かける。しかし、日本でも入札の際の談合等がよく問題になるが、シリアでもこれらの入札が実際に機能しているのかどうかは別の話である。

続いて日本では見かけない広告の例として、医療関係者への謝意を述べる広告が挙げられる。これはシリアでは珍しくない。この種の広告の掲載頻度は葬儀関係や祝儀関連ほど多くはないが、それでもよく見かける。医者の個人名(だいたいこれが一番大きな文字で目立つように書かれる)と病院名を挙げて、手術の成功に対して礼を述べるものである。中には、患者一人が、主治医、副主治医、病院関係者のそれぞれに対して、別々に謝意の広告を出しているものもあった。

求人広告は、日本の新聞ではかなりの分量を占めているが、シリアの大手新聞では、あまり多くは見かけない。というのも、大手新聞よりも、求人広告に関しては地域毎に出されているフリーペーパーの方が断然よく利用されているからだ。一般紙に掲載されている求人広告は、国際機関や大企業、または湾岸諸国で働く労働者を求めるものがほとんどである。また公的機関の求人は、雇用事務所 (日本の職業安定所のようなもの)が管轄することになっているのだが、公的機関が個別に求人広告や試験日程を公表しているのを見かけることもある。中には職業軍人採用試験に関する募集要項もあった。これが興味深いのは、合格すると軍の費用で国外の大学に送られヘブライ語の学位をとることが義務付けられている点である。シリア国内には「敵国」であるイスラエルの言語を学べる機関はないが、軍においてはヘブライ語を習得している人材が必要というわけだ。

また日本と違って時々見かけるのは、各団体の会議開催に関する広告である。商工業会議所の年次総会開催のお知らせ等もあるが、特に住宅共同購入協同組合関連の広告が多い(これはだいたい「住居と別荘のための○○(固有名詞が入る)協力協会」という名称になっている。住宅共同購 入のシステムを知る前は、なぜこの協会がたくさんあるのかよくわからず不思議に思ったものだ)。シリアでも住宅の購入は、サラリーマンには夢の一つである(特に近年は住宅価格が高騰しており、ますます手の届きにくいものとなっている)。そこで住宅購入希望者が集まって毎月少しずつ出資し、共同で土地を購入しマンションを建てるという方法がよく採られている。協同組合では、収支決算の報告をしたり進捗状況を報告したりする年次総会や重要事項を話し合う会議が開かれるのだが、新聞ではその日時や場所を掲載し出席を呼びかける広告を時々見かける。この住宅協同協会に関して は、毎月の支払いが滞っている参加者に脱退手続きをとるよう促がすもの、協会解散に際した清算内容を公表するもの等いろいろな内容の広告が出ていて、何かと目にする機会が多い。

続いて、広告と言うよりは公示といった方が適切かと思われるが、公的機関・国際機関からの各種お知らせ、企業の収支決算報告や裁判関連の命令も新聞紙上に掲載される。公的機関からのお知らせは多種多様で、ざっと集めただけでも以下のようなものがある。公立病院の健康診断実施や新 規部門開設のお知らせ、電話料金支払い期限のお知らせ(シリアでは 2 ヶ月毎に公立電話会社に支払いに行くのだが、支払い期間が決まっていて遅れると電話が止められる)、徴兵の対象となる年齢に達した男性に対して手続きに必要な書類・日時や場所を知らせるもの、観光省が開くトレーニングコースの実施を代行する私立専門学校の募集広告、外務省の筆記採用試験の合格者発表のお 知らせ、シリア国外で教育を受けた医学生に対する受入試験実施のお知らせ、道路沿いの看板撤去の要請、etc……加えて公立・私立を問わず大学や専門学校の学生募集や登録開始時期・入学条件の公表も新聞を通じて行われる。

また企業の収支決算報告については会社名と数字の入ったリストが並んでいるのでそれとすぐわかる。こうした報告を紙上に掲載しているのは、大企業に限られる。また株主に利益分を配分するので銀行まで赴くよう呼びかける広告も見かけた。

裁判関連の広告はそれほど多くは見かけないが、なかなか興味深い。被告に対して裁判への出頭を求める裁判所からの通告は何件か紙上に掲載されたし、脱税等の不法行為に関する裁判中に、関係者(被告及び親族)名義の財産を差し押さえる財務省命令が掲載されたこともある。また他社か ら出された自社製品の性能を貶める広告の内容を否定し、裁判に訴えると警告を出した会社もあった。加えて、国連世界食糧計画(UNWFP)は、UNWFP の名を騙った詐欺行為(印鑑まで偽造して、イラクからの移住を希望する人に、入国ビザ取得や労働契約締結を代行するとして詐欺を行った者がいるらしい。)に関して、UNWFP の業務とは無関係であること、またイラク政府への通報と詐欺撲滅の協力依頼を行った旨を、紙上に掲載していた。

他にかなりよく目にするもので日本では珍しいのが、腎臓提供のよびかけである。この種の広告は、かなり小さめで地味な体裁をとっており、文面もだいたい同じである。患者の名前はなく、血液型と連絡先が書いてあるのみである。お金のために腎臓を売る人もいるようだが、臓器移植はイスラム教において教義に反するかどうか議論が分かれているところであり、臓器売買は秘密裏に行われているらしい。患者の名前が掲載されないのもこのためかと思われる。

他には、遺失物に関する情報提供を求める広告がある。パスポート、株券を失くしたので、拾っ た人は以下まで届けて欲しい、とか、盗まれたのか、「マツダの車、2002 年モデルカーキ色、ナンバー○○○を失くしました。見つけた方は警察か以下までご連絡を!」というものもある。また行方不明者(子供や精神病患者。だいたい顔写真付で年齢や服装などが記載されている)について、家族が情報提供を求める広告もある。

さて、その他の広告としては、日本でもよく見られる企業の新製品や新規サービスについての広告、催し物案内(ブックフェアや見本市のような大掛かりなものから文化センターでのシンポジウムや講演会といった小規模なものまで)等がある。特に大企業の広告や、大規模なフェアの広告などは写真付の場合もあり、最も広告らしい広告と言えよう。

シリアの広告の多様性及びその態様について紹介してきたが、ITの普及の遅れ(自宅でインターネットを日常的に使用している家庭はまだ少ない。インターネットカフェでは若者の姿を多く見かけるが、それでもまだインターネットを使用するのは人口の一部に限られている)などにより、シリアでは新聞は主要な情報収集手段の一つとして機能している。今回は、大手新聞紙上に掲載されている広告のみを取り上げたが、求人広告のところで述べたように、求人関係のメジャーな媒体は、地域毎に出されるフリーペーパーである。このフリーペーパーには求人情報や企業の製品広告の他、不動産売買・賃貸情報、車の売買・賃貸情報、「売ります!」コーナー(ちなみに日本では「売ります!」とよくセットになっている「買います!」コーナーはない)、住み込み家政婦(主に東南アジアからの女性労働者)派遣といった、大手新聞では見かけない広告が掲載されていて、興味深い。機会があったら改めて紹介したい。


脚注
  1. The Middle East and North Africa 2006, London : Europa