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海外研究員レポート

南北経済回廊の進捗状況と周辺の経済状況

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050030

恒石 隆雄

2006年11月

2006年10月29日から11月9日の間、南北経済回廊に沿って陸路で雲南省の昆明から景洪、ラオスのルアンナムタ-を経て北・東北タイを訪問する機会を得た。以下は、その概況である。

1.南北経済回廊の現況

中国雲南省の昆明からタイのバンコクに至る南北経済回廊(中国内827km+ラオス228km)は、2008年中の完成を目指して急ピッチで工事が進捗している。

①昆明→景洪 568km
  • 昆明→玉渓市 98km 国道213線に沿って片側3車線の高速道路である。
  • 元江(216km):世界一高い橋桁(200m以上)の橋もありトンネルも多い。中国の道 路建設は、渓谷を橋で繋ぎ、山にトンネルを通すというやり方であり、コストは高いが、距離は大幅に短縮されている(中国内の既存道路827kmが690kmに短縮されるという)。途中、少数民族の村、トウモロコシの棚田、茶畑が山の斜面に多い。
  • 黄庄(317km):高速道路を出ると片側1車線となる。
  • プアール(390km):プアール茶で有名な茶の生産地である。
  • 思茅市(442km):バナナ(タイと異なり整然と集約的に栽培されている)、茶、ゴム、稲の栽培が行われている。
  • 景洪(568km):市内に入る手前26kmは工事中。景洪は西双版納タイ族自治州(1180年パヤー・スンカムンが景洪で王を称し建国)の州都。1960年代に紅衛兵が始めたゴム栽培の農場が多い。中国のゴム生産は海南省、西双版納が中心である。

写真:高架橋

(高架橋)

写真:ミャンマー国境打洛に向かう道路・拡張中

(ミャンマー国境打洛に向かう道路・拡張中)

②景洪→打洛(ミャンマー国境)片道 137km

景洪市内を出ると途中から道路は悪くなる。2車線にする計画があり現在、工事中である。途中、プーラン(布朗)族等少数民族の村が点在している(雲南省は中国でも少数民族が一番多い地域)。打洛は、人口2万人の町であり、軍、銀行、小さな商店がみられる。ビルマ領内のカジノが数年前に禁止になり中国観光客が来なくなりさびれている。現在、中国人はミャンマーにここからは入国出来ないとのことである。ミャンマー側からは、少人数入国してきている様子。ミャンマー国境(孟板)からチャイントン経由でタチレク(タイ国境はメ-サイ)に至る南北回廊(R3B)も既に完成しているが通行料が高いとのことである。ワ族にコンセッションを与えたので障害が生じているという話もある(道路に沿って任意の徴収者が大勢出てくるとのこと……Mae Fah Laung大学での聴取)。

③景洪→ルアン・ナムター(ラオス) 296km
  • 景洪→モンラー 175km
    既存道路は山道であり、トラックのすれ違いは無理な状況である。高速道路は別に建設中(2007年11月完成予定)である。途中ゴムの植林が多い。ゴムの採取は3月から11月までの間の雨季に採取されるとのことである。ゴムの木は、吸水力が強いので他の作物への影響が強いので中国政府はゴム栽培の拡大を禁止(植え替えのみ許可)しているとのことである。
  • ラオスへの国境の町モーハン、景洪からの距離235km
  • モーハンの入管とボーテン(ラオス)の入管の間は約2km
④ラオス内のボーテン→ルアンナムター間 59km

この間の道路(2車線)は、既に中国の援助で舗装済みである。途中少数民族(モン族、レンテン族等)の村やトウモロコシの棚田等がみられる。

⑤ルアンナムター→ファイサイ間 195km

中国、ADB、タイの3者の援助により工事が進んでいる。この間の舗装は約3割終了している感じである。タイはこの間の85km(タイの援助機関NEDAによれば11月時点の完成率は6割とのことであったが、それ以下という感あり)を支援している。

市内から21km走った地点から道路は工事中(山側を削り拡張中、舗装はまだ)となる。途中少数民族の村が点在している。途中のNameng村(53km地点)では、トウモロコシをタイから買い付けにきている業者もみ受けられる。55km地点から道路は良好となる。Veng Phuka村(63km)では、道路工事関係者の宿舎・事務所もある。Xot村(102km)Tafa村(114km)では山肌に陸稲が多く栽培されている。Namthung村(155km)付近では道路は殆ど未舗装であり、乾季につき土埃が厳しい状態となる。Pung村(157km)に入ると舗装が多くなる。ファイサイのバス・ターミナルまで184km、またファイサイ港まで195kmの走行であった。

⑥ファイサイ港→チェンコン港(タイ)

現在は、渡し舟で渡るしかないが、現在のチェンコン港から東南にメコン河を10km下ったDon Mah Wan村に第3の友好橋の架橋が予定されている。タイとラオスが資金を出し建設の予定(2007)であったが、ラオスの資金不足の問題が生じている。橋と国道1020号間はバイパス(128km)の建設計画がある。また、橋周辺には税関、コンテナ・ヤード等の建設計画もある。

写真:ボーテン入管事務所

(ボーテン入管事務所)

写真:ルアンナムターとファイサイ間道路工事中

(ルアンナムターとファイサイ間道路工事中)

2.関係機関における主なヒアリング内容
<雲南省>
①ランソーコウ・ビール社(Lan Cang River Beer Enterprise)昆明

28支社あり従業員3000人を擁しており、ビール、白酒生産で最大企業である。国内は、350市場(広州、西部、南京等)にわたり、ミャンマー、ラオス、タイにも輸出している。輸出は全売上げの20%ある。タイでは 2000年にチェンライに投資し生産している。物資輸送は、現在は、陸運と水運(タイ・チンセン港)の双方を利用している。

②Yunnan Research &Coordiantion Office for Lancang-Mekong Subregional Cooperation/雲南省科学技術発展中心、昆明

雲南省の科学技術の振興と訓練、及び GMS関係国との研究交流や研修生の交換等を実施しており、農村開発コース(50人)もドイツ人講師等を招聘し開設予定である。タイのGMS研究所(コーンケーン大学)と連携し 10年間に240人の研修生を同研究所に派遣済みである。社会科学の研究も実施しておりGMS諸国と雲南省との経済関係の調査も2004年に実施済みである。

③Royal Thai Consulate-General

雲南省とタイとの貿易は2003年のFTA合意以降順調に増加しており、中国の輸出はりんご、ニンニク等、タイの輸出はドライ竜眼、ゴム、ダイアモンド、ポリエチレン等である。タイから中国への南洋果物の輸出に関しては検疫等中国側の規制が厳しい状況であり、適切な温度で輸送できるコンテナも必要となっている。タイは、昆明、西安、上海等にDistribution Centerを造り対応する予定である。

④西双版納国際物流有限公司(景洪)

運送(船、陸運)、貿易、観光の3分野で事業展開しており、従業員は 100 人を擁し船8(内客船2、6貨物-300トン前後)、トラック10台所有している。タイ(チェンセン港)との貿易は増加しており、同社の取り扱い量では、輸出はりんご(大連等北部生産のものをトラックで景洪まで輸送)が3分の1を占める。輸入はゴム、ドライ竜眼が主であるがドライ竜眼が3分の1を占める。チンセン港にも駐在員を派遣しており輸出入手続きも同会社が行っている。景洪港→チンセン港(メコン河下り)は1日半、チンセン港→景洪(昇り)は2~3日かかっている。陸路(景洪→モーハン→ボーテ ン→ルアンナムター→ファイサイ→チェンコン→チンセン)が完成すれば7~8時間に短縮される。メコン河沿いの港は関累(クアンレイ)と景洪である。これ以上上流は無理である。陸路完成後は、コストと時間を考慮して陸送と水運のバランスは考えるとのことである。中国内の通行料は高いが、乾季は大型船の使用不可能である。

<ラオス>
①ルアン・ナムター県庁

ルアン・ナムター県は、人口145,000人(2006年)であり労働力人口は、59,000人(農業74%、工業14%、サービス12%)である。1人当たりGDPは年313ドルである。タイと同県との経済関係では、タイからの投資(1件だけ)により県政府との間で金鉱業が実施(年間250トン生産)されており、歳入の大半をまかなっている。したがって同県からタイへの輸出は金、輸入は金鉱のための機械等である。その他のタイからの投資は輸送会社、観光(エコ・ツーリズム)で現在2~3社申請がなされている。水力発電へのタイの投資はボケオ県が中心である。 中国から同県への投資は1991年からの累計で25件9百万ドル(ゴム植林、砂糖キビ、バナナ栽培等農業関係が14件、鉱工業は家具、鉱業、鉄鋼等8件)あり更に10件が現在審査中である。同県は道路完成によりエコ・ツーリズム等観光産業が促進されることを期待している。現在観光客は年間22,000~45000人、年間収入2百万ドル。経済協力は、ドイツ(GDZ)、EU、UNESCO、ADB等が実施しているが、観光関係が多い。

②ルアン・ナムター空港建設

既存の空港に隣接して新空港を建設中(2006年9月から18カ月の予定)であり既存空港の使用は中止されている。

<タイ>
①Mae Fah Laung University(チェンライ)

1998年国王の母(Mae Fah Laung愛称)の同地域への貢献を記念して国立大学として設立。29のschool(学科)、5000人の学生、法律を除き基本的に英語で教育。中国との協力によりスリントン中国言語・文化センター、フランスとの協力によりFrench-Upper Mekong Subregion Academic Cooperation Centre設立済み。周辺国の学生に奨学金を支援して招聘(ミャンマー3、カンボジア6、中国30、ラオス2、ブータン2等)している。チェンライ県との協力の下、教師の能力向上プロジェクト実施(数学、英語、科学の3分野で年間200人の教師の訓練)及びBorder Patrol Study Project(少数部族学生等の能力向上)実施中である。また、コーンケーン大メコン研究所と連携してGMS地域のPolicy Research、労働力調査、HRD(特に観光業)も実施中である。

②チェンライ県庁

160課にわたり県職員は4,000人(除く・警察)を擁する。ヒアリングした開発戦略 部門(Strategy Dept)は6人。チェンライを含む北部8県で同地域の産業振興の計画書「ランナー・クラスター分析 2005‐2008年」を策定済みであり同時に「県の開発アクション・プラン 2005‐2008」もある。チェンライ県はGMS諸国へのゲート・ウェイとしてタイ政府の「国境特別経済地区」として開発される予定であり、メーサイ、チェンセン、チェンコンで国境貿易振興のための各種プロジェクトが進行中である。

③メーサイ税関と第2メサイ橋

同税関はミャンマーとの取引専用となっており 2006財政年度の輸出は2,112 百万バーツ(前年同期比 10.2%増)、輸入は306 百万バーツ(-20.7%)合計2,418百万バーツ(5.0%増)である。 新税関は既存のメーサイ・マーケット側の税関から北東に3km離れた第2メサイ橋(ミャンマー国境、2006年1月竣工式)側で工事中であり、ICD(輸出用と輸入用の2箇所)、税関、国境関連処理施設等が2008年に完成予定である。予算350百万バーツ。現在は仮税関事務所・入管が設置されているが、ミャンマー側の都合で常時は使用されていない状況である。ミャンマーに商品(セメント等)を搬出したトラックが空で帰ってきている様子がみうけられた。第2メサイ橋は1日当たりトラックが20~50回程往来しているとのことである。ミャンマーの政治問題等あるが、国境貿易は長期的には拡大すると予想している。

④チェンセン港税関……(中国景洪、関累との貿易拠点)

2006財政年度の輸出は6,031百万バーツ(10.4%増)であり輸入1,163百万バーツ(-8.9%)であり合計7,194百万バーツ(10.4%増)。中国、ラオス、ミャンマーの3国向けに使用されているが、2006年の輸入割合では各々90.78%、2.62%、6.61%、輸出では70.45%、6.70%、22.85%。殆ど対中国貿易に使用されており貿易拡大中である。OSS(ワンストップ・サービス:入管、検疫、等貿易手続きを1つの建物で処理)は 2005年10月から導入済みである。 既存港から東へメコン河を12km下ったSob Kok村に2007年から新港の建設予定であり敷地は、コンテナ・ヤードを含め400ライ。南北経済回廊が完成しても水運がコストは安価であり利用されると予測している。

写真:第2メーサイ橋

(第2メーサイ橋)

写真:チェンセン港

(チェンセン港)

⑤チェンコン港税関

2006財政年度の輸出1,125百万バーツ(20.6%増)、輸入587(19.1%増)、計1,712百万バーツ(20.1%増)。対ラオスと中国に使用されておりラオスとの取引が8割を占める。施設は貧弱でラオスのファイサイ港との間でフェリーが1日2便運航されている。

水量の調整は中国の支配下(灌漑への使用との調整)にあり、また、船主は中国人が多い等水運は中国の支配が強いとの意見あり。また、南北経済回廊の完成を期待しており、それにより貿易商品の多様化が進むことを期待している。しかし、ラオスは中央政府と地方政府の指示が異なること、ミャンマーは少数民族の問題等があることも指摘している。第3友好橋に新税関が完成したら貨物関係は新税関に移動の予定である。

⑥チェンマイ大学アカデミック・サービス・センター/International Center

チェンマイ大学はターク県から同県の国境特別経済圏開発F/Sを受託(2006年1月から11月中旬完了予定)しており、現在9割は完了済みでターク県で11月15日セミナー発表予定である。同大の12学部から150人の研究者を動員し工業団地設置、環境・社会インパクト調査、農業・産業振興・再編、国境経済圏の管理・法的側面等を含む包括的な調査を実施した。2500ライの工業団地開発を想定しており、候補地9箇所をあげ特に3箇所(いづれもメソット)を有力地と評価している。

⑦NESDB 北部事務所(チェンマイ)

北部17県(ピサヌロークを含む)の開発プロジェクトの管理を行っている。チェンコンの工業団地(16000 ライを想定)に関しては中国の動きが早くタイは対応 に苦慮している由。中国は既にラオスに土地を買っており進出に疑問を呈している。

第2チェンセン港の設計は終了しており2007年から建設開始予定である。第友好橋(チェンコン)の建設資金は多分中国、ラオス、タイで出すことになろうとの由。コントラクト・ファーミングは既にミヤワジで実施中であるが、ミャンマー実業家が7~8月に逮捕される事件があり新規投資は危ぶまれている。ミャンマーへの投資を促進するためにはタイ及びミャンマーの投資家に対する保証が必要であろう。ミャンマー国境には少数民族が多く、小さな港は部族によって支配されており調整が困難である。

⑧ピサヌローク県庁 Strategy Management Office

東西回廊は1,450km、内タイ内部で777km。タイ内部では国道12号線の拡張工事はところどころで実施中(片側2車線の4車線化)である。ピサヌロークは国道12号線と1号線の交差するところであり、物流センターとしての開発を期待している。商工会議所大学にDistribution CenterのF/Sを依頼し2005年に完了している。 DCの建設運営は民営化を期待500百万バーツ、8年間、利回り10%等。

⑨コーンケーン県庁

コーンケーン県はインドシナまた東西回廊の中心に位置していることを認識しておりGMSおよびACMECSの枠組を踏まえ、また近隣のマハーサラカム、ロイエット県と一緒に地域産業クラスター計画(2005-2008)を策定済みである。物流(ICD、ITC-City、空港ハブ)、貿易・投資・サービス(DC、博覧会、ロードショ ウ)、教育、医療、観光等で地域のセンターとなるべくプロジェクトを実施中であり、実際にICDに関しては2004 年にコーンケーン大に委託しF/Sを終了しており、詳細研究を現在実施中である。コンテナ・ヤード(CY)をコーンケーン駅に2005年に設置したがまだ未使用である。貿易・投資・サービスに関して博覧会を2006 年にOTOP関係で実施済み、ロードショウもアンニン、ベトナム(フエ)で実施済み。ゴムの生産(採取)は10 年頃前から可能となっており3-4年でピークを迎えるので東西回廊のダナン港を利用して諸外国への輸出が可能と期待。

中国との輸送はトラックが便利となろう(中国奥地はトラック利用しかない)。しかし、中国の通行料は高い。ピサヌロークとコーンケーン間の道路はカーブが多い山道で快適とはいえない。タイ西部の東西回廊道路は中央政府がところどころ4車線に拡充中である。

⑩コーンケーン・シュガー・インダストリー社

コーンケーンでサトウキビからエタノールを生産している。タイでサトウキビあるいはタピオカからエタノールを生産している企業は7社あり実際に操業している企業は2社、そのうちの1社が同社である。同社はカンチャナブリー等計4支社あり従業員は計650人。ラオス等でも事業展開している。

3.まとめ

①南北経済回廊(R3)の状況

  • 昆明-景洪(568km)間は景洪市内手前26kmを除き高速道路は完成済みである。
  • 景洪-ラオス国境モーハン(235km)間は高速道路建設中(2007年11月完成予定)。
  • 景洪-ミャンマー国境モンラー(孟板)間(135km、R3Bへの接続道路)は2車線(片側1車線)に工事中である。
  • ラオスのボーテンからルアンナムター経由ファイサイ(タイ国境)(タイ政府資料では288km(R3A)=中国 69km+ADB74km+タイ85kmの支援計画)。ボーテンとルアンナムター間(59km)は中国支援で完成済み、それ以降は舗装済み3割程であり現在工事中である。
  • 第3友好橋(ファイサイとチェンコン間)はルート決定済み。ラオスの資金問題が生じている。

②回廊完成後も景洪とチェンコン間は陸運と水運が併用されよう。中国の通行料が高い、しかし乾季は大型船の運航は不可能等のため。時季、コスト、運送時間、物量のバランスが考慮されて利用されることになろうとの意見が多くだされた。

③チェンライの国境経済圏構想は関連プロジェクトが実際に展開中である。中国、ミャンマー、ラオスとの国境貿易も伸びてきている。但し、タイの輸出の伸びが輸入より大きい。

④南北回廊沿いのラオスの発展は当面エコ・ツーリズム等観光が中心と想定される。

⑤南北回廊と東西回廊の交差するピサヌローク、コーンケーンは、物流センター構想を重点目標としている。