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海外研究員レポート

コーネル大学図書館事情

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050037

明日山 陽子

2006年9月

筆者は 2006年6月下旬より、米国ニューヨーク州イサカ(Ithaca)に位置するコーネル大学に所属している。第1回目の報告となる今回は、主に、高い水準を誇るアジアコレクションや労使関係分野の蔵書、日本と比べて非常にユーザーフレンドリーな図書館システム、先駆的なデジタル図書館構築の取り組みなどが特筆されるコーネル大学の図書館について紹介する。

1. コーネル大学図書館概要

コーネル大学図書館(Cornell University Library)は20の図書館から構成され、800万近くの書籍、6万 3000以上の雑誌、20万以上の電子書籍、2万7000 の電子ジャーナルを所蔵する1。総合大学であることから、人文科学、社会科学、自然科学の分野の資料を幅広く所蔵している。北米の大学図書館の中では、蔵書数で11位、年間受入資料数で8位、逐次刊行物数で5位、スタッフ数で8位(プロおよびサポートスタッフ合計)、図書館経費支出額で8位の規模を誇る(2004 年、Association of Research Library(ARL)資料、表 1)。ARLの2004年の北米大学図書館の総合ランキングでは9位に位置する。なお、ARLの資料を見るとほとんどの分野でハーバード大学、イエール大学が1位、2位を占めている。

表1 北米大学図書館ランキング
順位 蔵書数 1000部 年間受入資料数(グロス) 1000部 逐次刊行物数 1000部
1 HARVARD 15,392 HARVARD 302 HARVARD 100

2

YALE

11,390

YALE

281

ILLINOIS, URBANA

89

3 ILLINOIS, URBANA 10,192 TORONTO

230

CALIFORNIA, BERKELEY 79
4 TORONTO 10,032 CALIFORNIA, BERKELEY 200 CALIFORNIA, LOS 78
5 CALIFORNIA, BERKELEY 9,813 WASHINGTON

186

CORNELL

73
6 COLUMBIA 8,650 ILLINOIS, URBANA

178

INDIANA

70

7 TEXAS 8,482 TEXAS 174 MICHIGAN 68
8 CALIFORNIA, LOS 7,989 CORNELL 172 GEORGIA 67
9 MICHIGAN 7,958 MICHIGAN 171 YALE 67
10 WISCONSIN 7,807 CALIFORNIA, LOS 168 COLUMBIA 66
11 CORNELL 7,365
順位 スタッフ数(プロおよびサポートスタッフ合計) 図書館経費支出額 1000ドル 総合ランキング ARL
指数
1 HARVARD 1,137 HARVARD 100,892 HARVARD 2.5
2 YALE 604 YALE 65,213 YALE 1.6
3 TORONTO 539 CALIFORNIA, BERKELEY 53,264 TORONTO 1.2
4 PENNSYLVANIA STATE 527 CALIFORNIA, LOS 47,692 CALIFORNIA, BERKELEY 1.2
5 COLUMBIA 479 TORONTO 47,556 CALIFORNIA, LOS ANGELES 1.0
6 MICHIGAN 475 MICHIGAN 46,738 ILLINOIS, URBANA 1.0
7 TEXAS 436 COLUMBIA 46,200 COLUMBIA 1.0
8 CORNELL 433 CORNELL 42,561 MICHIGAN 1.0
9 CALIFORNIA, LOS 432 PENNSYLVANIA STATE 40,610 CORNELL 0.9
10 CALIFORNIA, BERKELEY 426 WISCONSIN 39,252 TEXAS 0.7

〔資料〕Association of Research Libraryウェブサイトより作成。http://fisher.lib.virginia.edu/arl/index.html

2. 東南アジアコレクションは世界最大:Kroch Library

コーネル大学のアジアコレクションは、特に歴史や文学の分野で北米でも最大規模の資料を保有している2。コーネル大学Kroch Libraryに、アジアに関連する約130万の書籍および逐次刊行物、アジア19カ国の新聞約100部、別館の中に20万部のアジア関連資料を所蔵する。また、アジア各国の映画などDVD約2000本、ビデオ約4000本のほか、音楽CD、カセットも保有している。

アジアコレクションは、東南アジアに関するJohn M. Echols Collection、東アジアに関するCharles W. Wason Collection、南アジアに関するSasa Collectionから構成される。カバーする国・地域は、東南アジアはASEAN10カ国および東チモール、東アジアは中国、日本、香港、韓国、マカオ、モンゴル、台湾、チベット、南アジアはバングラディシュ、ブータン、インド、ネパール、パキスタン、スリランカである。

特に東南アジアコレクションは、全米のみならず世界最大の規模を誇る3。これは、高い水準を誇るコーネル大学東南アジアプログラムの教授陣が同プログラム立ち上げ(1950年)の早い時期から積極的に東南アジア各国から資料の収集を推進してきたことが背景にあるという(Kroch Libraryの司書の話による)。

東アジアコレクションは、司書の話によれば全米で8~9位ぐらいの規模とのことである。日本に関する資料は、歴史や文化、思想などに関する書籍が多いように見受けられるが、 特に現代の日本文化に関する資料が豊富である。文学については夏目漱石全集などの古典的なものから村上春樹の小説など現代のものも所蔵している。また、面白いことに日本の漫画コレクションが大変充実しており、書棚10列ほどにずらりと日本の漫画が並んでいる。

「手塚治傑作選集」、「さざえさん」(長谷川町子)、「タッチ」(あだち充)、「ドラゴンボール」(鳥山明)、「ゴルゴ13」(さいとう・たかを)、「花より男子」(神尾葉子)、「ゴーマニズム宣言」(小林よしのり)など、これらはほんの一例に過ぎないが、比較的最近の漫画まで幅広くカバーしている。なぜこれほど日本の漫画が充実しているのか日本担当の司書に尋ねたところ(アジアコレクションでは各国言語の堪能な各国専門の司書がいる)、日本の歴史や文化などを理解するために日本の漫画が授業や研究に使われており需要があるからだという。

(参考) なお、コーネル大学は前述の東南アジアプログラム(SEAP)が有名であるが4、このほかにも学部の枠を超えた学際的教育・研究プログラムとして、東アジアプログラム(EAP)、南アジアプログラム(SAP)を提供している5ほか、2005年10月にはChina and Asia-Pacific Studies(CAPS)という学部生用のプログラムが創設された。

また、図書館事情からは多少外れるが、米国のほかの大学と同様、コーネル大学もアジアからの留学生が多い。特に、コーネル大学には韓国人留学生が日本人留学生の3.5倍もおり(表2)、キャンパスではよく韓国語を耳にする。コーネル大学のステータスが韓国で高いことが一因であるようだが、米国全体の大学留学生数の推移を見ても、韓国人留学生数は 2001年度に日本人留学生数を抜き、インド、中国に次ぐ留学生数を記録している(Open Doors)。人口5000万人弱と人口では日本の半分にも満たない韓国が米国留学生数で日本を 上回っていることは興味深く、今後その背景を調べてみたい。

表2 コーネル大学の留学生の出身国トップ10(Fall 2005)

出身国 人数(人) シェア(%)
1 カナダ 472 15.3

2

中国

410

13.3

3 韓国

399

12.9

4 インド 346 11.2
5 日本

115

3.7

6 シンガポール

111

3.6

7 台湾

93

3.0

8 トルコ

85

2.8

9 タイ

74

2.4

10 ドイツ

49

1.6

他108カ国 932 30.2
留学生合計

3,086

100.0

〔資料〕コーネル大学ウェブサイトより作成

(参考)米国の大学留学生の出身国トップ10(2004-05年度)

出身国 人数(人) シェア(%)
1 インド 80,466 14.2
2 中国 62,523 11.1
3 韓国 53,358 9.4
4 日本 42,215 7.5
5 カナダ 28,140 5.0
6 台湾 25,914 4.6
7 メキシコ 13,063 2.3
8 トルコ 12,474 2.2
9 ドイツ 8,640 1.5
10 タイ 8,637 1.5
その他 229,609 40.6
留学生合計 565,039 100.0

〔資料〕Open Doors ウェブサイトより作成

3. 豊富な労使関係コレクション:Martin P. Catherwood Library

コーネル大学には、School of Industrial and Labor Relation(以下、ILRスクール) という労使関係専門の教育・研究機関がある。このILRスクールは114人もの教授陣を有し、労使関係に特化した様々な専門教育・研究プログラムを提供する、全米でも最大規模の労使関係の教育・研究機関である6。この労使関係学部の図書館がMartin P. Catherwood Library7で、労使関係、団体交渉、労使紛争、 労働経済、 労働史、 労働組合問題、人的資源学、組織行動学、国際比較労使関係学などの分野における約23万の蔵書を有している。また、米国の労使関係の歴史的資料などを保存しているKheel Center for Labor-Management Documentation and Archivesも併設されている。

後述するように、コーネル大学は電子図書館構築の取り組みに積極的であり、ILRスクール教授陣の論文等研究成果は、DegitalCommons@ILRというリポジトリ(電子書庫)に蓄積されている。同リポジトリは http://digitalcommons.ilr.cornell.edu/のウェブサイトから、学内外から誰でも閲覧・ダウンロードすることが可能となっている。

4. ユーザーフレンドリーな図書館システム

日本の大学図書館に比べると、コーネル大学の図書館システムは、学生・研究者にとって非常に利用しやすいものとなっている。ただしこれはコーネル大学のみならず、多くのアメリカの大学図書館について言えることかもしれない。コーネル大学では貸出冊数に特に制限はなく、大学院生は180日間資料を借りることができる(大学生は42日間)。ただし、他の学生がその本を借りたい際には、“Recall”というオンラインの請求システムを利用することで、現在当該資料を借りている学生の貸し出し期間を請求日から10日間短縮することができる。この返却期限を守らない場合は、延滞料として原則1日につき3ドル の罰金が科せられるという厳しいものだ。このため、人気のある資料については180日間 継続して借りることができるケースは少ないが、資料の需要にあわせて10日~180日間借りることができるこのシステムはユーザーにとってありがたいものといえるだろう。また、“Recall”以外にも、“Borrow Direct”というオンライン請求を使えば、ブラウン、コロンビア、ダートマス、ペンシルバニア、プリンストン、イエールの大学図書館の蔵書の中から、原則4営業日以内に必要な資料を取り寄せることができる。また、多くの図書館は朝早くから夜遅くまで開館しており、メインの図書館は月曜~木曜は24時間操業である。その他にも、オンラインでの各種手続きシステム、充実したデータベース、専門分野をもった司書の存在、勉強机の長期貸出システムなど、ユーザー、特に研究者の利便性を考えたシステムが構築されている。なお、表3を見ると、日本の大学図書館のサービスと比べていかにコーネル大学図書館のサービスが充実しているかがよく分かる。

表3 コーネル大学図書館と日本の主要大学図書館とのサービス比較

コーネル大学 Uris Library 東京大学総合図書館 早稲田大学中央図書館 慶応大学三田メディアセンター
貸出冊数 制限なし 5冊 30冊 15冊
貸出期間 180日 14日 14~30日 1カ月
開館時間 月曜~木曜:24時間
金曜:22:00閉館
土曜:10:00-22:00
日曜:10:00開館
平日:8:30-22:30
土曜・日曜・祝日:9:00-19:00
月曜~土曜:9:00-21:00
日曜:10:00-17:00
平日:8:45-22:00
土曜:8:45-21:00
日曜:13:00-18:00

〔注〕各大学の総合図書館による大学院生への貸出を想定。貸出冊数は通常の書籍。
〔資料〕各大学図書館ウェブサイトなどより作成。

5. 先進的なデジタル図書館構築の取り組み

コーネル大学図書館は、資料の電子化、電子アーカイブや電子リポジトリの構築などデジタル図書館の構築に積極的に取り組んでいる。

e-bookやe-journalなど書籍・記事の電子化、芸術や地図などのDigital Collection構築を推進しているのはもちろん、有名なものとしては、Arxivという物理や数学、コンピューター科学などの分野における研究者の雑誌掲載前の論文を電子化し蓄積・公開する電子アーカイブがある。同アーカイブのサーバは1991年にロス・アラモス研究所で開発されたものの、その後は、コーネル大学がサーバの設置・運営を担当している。その他、マサチューセッツ工科大学で開発されたオープンソース機関レポジトリシステム(DSpace8)にも参加しており、学内の研究成果のウェブ上での一般公開を推進している。

以上、簡単ではあるが、コーネル大学図書館について紹介した。ユーザー(研究者)の利便性を第一に考えた図書館のシステムや各分野の資料に精通した司書の存在などは、コーネル以外の米国の大学にも当てはまると思われ、米国の大学の質の高い研究活動を支える重要なインフラとして機能している。

脚注
  1. データはCornell University Library Guideによる。
  2. アジアコレクションについては以下のウェブサイトを参照。http://www.library.cornell.edu/Asia/
  3. 以下の東南アジアコレクションウェブサイトおよびKroch Libraryの司書の話による。 http://www.library.cornell.edu/Asia/ECHOLS/index.htm
  4. コーネル大学の東南アジアプログラムには、“Imagined Communities: Reflections on the Origin and Spread of Nationalism”(邦題:「想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行」)の著者として知られるベネディクト・アンダーソン名誉教授(政治学部)が所属しているほか、本著の訳者の一人でもあり日本の東南アジア政治研究者として著名な白石隆教授(現・政策研究大学院大学 副学長・教授)も 1989 年に本プログラムの副所長を務めている。
  5. コーネル大学のアジアプログラム・ポータルサイト:http://lrc.cornell.edu/asian/asian_area_centers/
  6. School of Industrial and Labor Relationウェブサイト:http://www.ilr.cornell.edu/ このほか、労使関係問題に特化した米国の大学の研究機関としては、イリノイ大学労使関係研究所、ミシガン大学労使関係研究所、カリフォルニア大学バークレー校労使関係研究所などがある。
  7. Martin P. Catherwood Library ウェブサイト:http://www.ilr.cornell.edu/library/
  8. Cornell University Library DSpace Open Access Repositoryウェブサイト: http://dspace.library.cornell.edu/index.jsp