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海外研究員レポート
中国における「農民専業合作経済組織」の変遷とその実態――概況の整理と実地調査に基づく考察――
PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050053
寳劔 久俊
2006年5月
1. はじめに
2006年の年初に中共中央・国務院によって公表された政策方針(「一号文件」)は「社会主義新農村建設を推進することに関する若干の意見」であり、2004・05年に引き続き、3年連続で 「三農問題」(農村、農民、農業に関する問題)が取り上げられた。今年の政策方針の特徴は、 2005年10月の中国共産党・第16期五中全会で批准された「第11期五カ年規画」に盛り込まれた「社会主義新農村建設」を前面に打ち出し、農村の全面的な「小康」(まずますの生活水準) と現代化の実現を目指すことを明記した点である。
「社会主義新農村建設」とは農村生産力の強化や農民の生活水準向上にとどまらず、農村における社会保障体制の整備、農村義務教育の無料化、衛生事業の発展、農村労働力の都市への移動・移住の促進、都市と農村との連携・統一、さらには農村基層の民主化や文化建設など、多様な内容を含んだものとなっている1。ただし、そのような農村を具体的にどのような政策を通じて実現するのか、あるいはどの地域からどのようなタイムスケジュールで実施していくのかなど、詳細なプランと具体的な政策は「一号文件」のなかでは曖昧模糊としており、専門家の間でも必ずしも一致した見解に達していない2。むしろこの政策指針は、「三農問題」に取り組む政府の強い姿勢を表現した1つの「スローガン」と解釈した方が妥当と思われる。
その一方、農業税の全面撤廃(2006年)や農村義務教育の段階的無料化(2007年までに実現) など、個別分野では「三農問題」の解消のための様々な政策が講じられている。その点を考慮すると、政策方針や五カ年計画の文言を詳細に解釈するよりも、「三農問題」に関する個別政策の動向から「社会主義新農村建設」のあり方を理解し、スローガンの実際の意義を肉付けしていくことが適切な手法と報告者は考える。そこで本報告では、農業産業化や農業構造調整において中心的な役割を担うことが期待されている「農民専業合作経済組織」を取り上げ、合作経済組織の変遷と概要を整理するとともに、報告者による実地調査に基づいて合作経済組織の実情とその問題点について考察していく。
2. 農民専業合作経済組織の変遷と概要
2.1.農民専業合作経済組織の変遷
中国では、合作組織(「合作社」)という名称は1949年の中華人民共和国成立以前から存在しており、共産党、国民党などによって数多くの合作組織が設立された。そして中華人民共和国の成立を契機に、中央政府によって農業生産合作社や消費合作社、信用合作社、農村供銷社(購買・販売組合)など、多様な合作社が設立された。中国の左翼化傾向の強化とともに、これらの合作社は国営化されたが、改革開放が実施された1980 年代には民営化が進展する一方、従来とは異なる新しいタイプの経済合作組織が展開してきた(青柳[2001]、57-60ページ)。その背景には、以下のような中国農村の構造的問題が存在している。
中国の農村部では、改革開放政策によって人民公社における集団農業体制が見直され、農業生産責任制を導入された。この制度は農業生産に対する農家の権限を高め、農業生産へのインセンティブを引き出すためのものであった。そして、個別農家による農業生産を基礎とした上で、基層政府(郷村政府、村民委員会)が農家による農業生産を様々な形で支援するという「双層経営」体制が形成されてきたのである。
しかし、基層政府の農業関連部門によって提供される技術指導や新品種の普及、農業機械による耕起作業などのサービスは、必ずしも十分な形で農家に提供されておらず、農業生産や農産物の販売において、農家は孤立した形で市場と対峙することを余儀なくされていた。他方、農産品の加工企業にとっても、原材料となる農産品の規格化や品質向上、安定的な供給を確保するためには、分散している農家を取りまとめる仲介組織が必要であった。
そのような状況のもと登場してきたのが、新しいタイプの合作組織(「農民専業合作経済組織」) である。これらの組織は、地元政府の農業部門や「龍頭企業」(農産物加工のリーディング企業)、あるいは供銷社や農民自身が中心となって設立されたものであり、一般に「農民専業(技術)協会」や「農民専業合作社」などと呼ばれることが多い。業務内容としては、農業技術の普及はもとより、農産物の共同販売や生産資材の共同購入、統一品種の栽培や低農薬・有機農産品の生産、さらには農産物の加工施設も保有してブランド商品の開発を行う組織も登場してきており、中国の農村経済において重要な役割を担うようになっている3。
さらに「中国農村専業技術協会」などの農業技術の普及に関する全国レベルの協会組織が形成されていたり、複数の農民専業合作社が連携した農民合作聯社、そして同一農産品の生産者団体である産業協会(「行業協会」)が形成されるなど、農民専業合作経済組織の間の連携や協力も進んでいる4。
ただし農民専業合作経済組織の名称は、中国国内でも地域や事業内容によってかなりの相違が存在しており、行政機関はもとより、研究者の間でも分類方法や名称が統一されていない。また、同じ名称であっても地域によって業務内容が異なっていたり、逆に名称が違っていても業務内容が類似していたりするなど、非常に混乱した状況にある(青柳[2001]、60-61ページ)。
その主たる原因は、中国の現行法律では農民専業合作経済組織に関して、組織ないし法人の明確な規定が存在しないことが挙げられる。2003年3月から施行された「農業法」では、農民専業合作経済組織の経営活動について合法的地位が与えられている。しかし、農民専業合作経済組織の所轄官庁は明記されておらず、登記先機関は不明確であり、経営活動を法的に保障する具体的な規定や紛争解決に関わる条文も存在しない。
実際、農民専業合作経済組織が登記する際には、「社会団体」や「民弁非企業単位」(ともに登記先機関は民政部門)として、あるいは「協会」(主管部門は科学技術協会)や「企業法人」 (登記先は工商部門)という形式で行うことが多い。寧夏回族自治区に対する調査によると、全地区の215の合作組織のうち、16%が民政管理部門に登記、32%が科学技術協会、17%が工商管理部門、そして35%は登記されていないという(李・汪・李・張[2004]、228-230ページ)。また、農民専業合作経済組織の発展が比較的進んでいる江蘇省でも、2002年末時点で未登記の合作組織が36%の割合を占めている(姜[2006]、8-9ページ)。
さらに、農民専業合作経済組織の育成において、供銷社系統5に加え、農村経済管理部門や科学技術協会、農学会、農村貧困対策部署、郷村政府、さらには郷鎮企業や龍頭企業など、様々な行政部門や社会団体、企業法人が関わっていることも、混乱に拍車をかけている。
そこで青柳[2001]に基づき、農民合作経済組織を機能とその性格を整理した(図1)。農民合作経済組織は「継続的な事業活動」の有無で合作社型と協会型に分類される。合作社型とは、専従職員や固定的施設・建設等の経済実体があり、農産物販売、生産資材購買など経常的な経済活動を行う共同組織である6。協会型とは経済的な事業活動を伴わず、主に栽培技術等の研修会や講習会を行う組織であり、関係行政機関では「技術交流型」と呼ばれるタイプに対応する。
また合作社型も、社員の生産ないし事業自体を共同(経営)化する「③生産(事業)合作社」と、社員=利用者の協同組合のタイプの「④農民専業合作社」に分類される。協会型についても、農業生産者の集まりである「①農業生産者組織」と農業以外の生産者による「②非農業生産者組織」に区分できる。
④の農民専業合作社はその組織化の担い手によって、さらに4つに分類される。すなわち、地元政府(県、郷鎮、村)の主導によって組織され、経営者のほとんどは行政幹部が兼任している 「郷村集団企業型」、供銷社の組織を利用して設立され、経営の様々な面で供銷社とのかかわりが深い「供銷社系列型」、龍頭企業などの農産物加工企業によって組織化された「企業インテグレーション型」、大規模経営農家や篤農家の先導によって形成された「個人企業型」、そして協同組合的な規範によって運営されている「農協型」である。もちろん、これらは概念上の分類であり、実際には幾つかのタイプが入り混じった形で合作経済組織が運営されている。
本報告では、農産物の共同販売や生産資材の共同購買、あるいは講習会や研修会などによる技術普及を行い、農家が直接的に関与している農民専業合作組織(図1の①と④)に主として焦点をあてて考察していく。
図1 中国の農村合作経済組織の諸形態
協会型(非事業組織) | ①農業生産者(専業戸)組織=農民専業協会 | ||||
②非農業生産者組織 | |||||
合作社型(事業組織) | ③生産合作社 | 農業サービス事業合作社 | |||
農業生産合作社 | |||||
農村商工業等合作社 | |||||
④農民専業合作社 | 郷鎮集団企業型 | ||||
供銷社系列型 | |||||
企業インテグレーション型 | |||||
個人企業型 | |||||
農協型 |
(出所)青柳[2001]、図2に基づき報告者作成。
2.2. 農民専業合作経済組織の現状と政府による政策
農業部のデータによると、農民専業合作経済組織の組織数は 2004年末には15万社を越え、会員数は2,363万人(郷村全農家数の 9.8%)に達しているという。業種別構成比を見てみると、耕種業が40%、養殖業(畜産、漁業)が27%、加工運輸業が18%、その他が15%となっている。 2004年の農村専業合作組織による農産物の販売量は2億トン以上で、化学肥料、飼料、農膜など の生産資材の代理購入量は1億トン近くに達している。2004年の営業利益は187億元であり、うち 19%の36億元が会員に返還され、26%の50億元が配当金として利用された。会員 1人あたりの平均の返還金・配当金は364元となっている(『中国農業発展報告 2005』、51ページ)。
ただし、農村専業合作組織といっても名義のみで実態が伴わないものや、規模が小さく適切な 運営がなされていないものも数多く存在する7 8。また、所轄官庁が統一化されていないため、合作組織の定義が各省庁によって異なっていたり、合作組織が重複してカウントされていたりしており、データの取り扱いについては注意を要する。2004 年の全人代に提出された資料によると9、15万社の農民専業合作組織うち、比較的規模が大きく管理状況も良好で、活動が規範化されているものは 9万5,330 社(チベット等を含まず)であり、会員数は 1,150万人であるという。
また同様の資料を省別に整理した表1を見ると、農民合作経済組織数が最も多いのは山東省で約1.5万社(16.6%)、次いで湖南省、陝西省の順になっている。会員数では河南省が最も多く、183万人(15.9%)を占めており、江蘇省、山東省と続いている。他方、各省の農村世帯に占める会員比率で見ると、北京市が圧倒的に高く(35%)、陝西省と吉林省が10%台にあるのみで、その他の地域では会員世帯比率は10%を下回っている。
表2では、地区毎に農民合作経済組織の組織化状況をまとめた。表を見ると、組織数や会員数では中部地区が全体の50%弱の割合を占めている一方、経済的に遅れている西部地区は組織数の構成比では24%、会員世帯の割合でも18%と低い水準にとどまっている。さらに組織あたりの平均会員数や会員比率でも、西部地区は東部・中部地区に比べて規模面や組織化面で相対的に劣っており、農民専業合作経済組織の育成が遅れていることがわかる10。
表1 農村専業合作経済組織の設立状況(省別)
組織数 | 成員数 | 郷村戸数に占める成員比率 | |||
---|---|---|---|---|---|
社 | % | 万人 | % | ||
北京 | 1,547 | 1.7 | 44.7 | 3.9 | 34.9 |
天津 |
1,438 |
1.6 |
3.6 | 0.3 | 3.2 |
河北 | 2,694 | 2.9 | 105.6 | 9.2 | 7.4 |
山西 | 1,664 | 1.8 | 30.4 | 2.6 | 4.9 |
内蒙古 | 2,642 | 2.9 | 11.3 | 1.0 | 3.2 |
遼寧 | 1,900 | 2.1 | 25.0 | 2.2 | 3.6 |
吉林 | 3,458 | 3.7 | 41.8 | 3.6 | 11.1 |
黒龍江 | 2,816 | 3.0 | 43.2 | 3.7 | 9.1 |
江蘇 | 5,167 | 5.6 | 133.6 | 11.6 | 8.6 |
浙江 | 1,969 | 2.1 | 22.8 | 2.0 | 2.0 |
安徽 | 3,845 | 4.1 | 90.0 | 7.8 | 6.9 |
福建 | 995 | 1.1 | 10.3 | 0.9 | 1.5 |
山東 | 15,395 | 16.6 | 126.0 | 10.9 | 6.2 |
河南 | 8,473 | 9.1 | 183.0 | 15.9 | 9.2 |
湖北 | 6,513 | 7.0 | 22.9 | 2.0 | 2.3 |
湖南 | 10,438 | 11.3 | 49.5 | 4.3 | 3.4 |
広東 | 1,426 | 1.5 | 10.5 | 0.9 | 7.3 |
海南 | 348 | 0.4 | 1.4 | 0.1 | 1.3 |
重慶 | 1,590 | 1.7 | 25.9 | 2.2 | 3.6 |
四川 | 3,623 | 3.9 | 49.0 | 4.2 | 2.5 |
貴州 | 1,079 | 1.2 | 6.9 | 0.6 | 0.9 |
陝西 | 9,800 | 10.6 | 97.0 | 8.4 | 13.9 |
甘粛 | 2,607 | 2.8 | 11.3 | 1.0 | 2.5 |
青海 | 128 | 0.1 | 0.3 | 0.0 | 0.4 |
寧夏 | 394 | 0.4 | 4.0 | 0.3 | 4.5 |
新疆 | 731 | 0.8 | 3.9 | 0.3 | 1.8 |
合計 | 92,680 | 100.0 | 1153.9 | 100.0 | 5.3 |
(資料)全国人民代表大会農業与農村委員会課題組『農民合作経済組織立法専題研究報告』2004年3月。ただし報告者は原資料を未見のため、徐[2005]の掲載データを再整理して作成。
表2 農村専業合作経済組織の設立状況(地区別)
組織数 | 会員数 | 平均会員数 | 会員比率 | |
---|---|---|---|---|
東部地区 | 32.2% | 32.6% | 126 | 4.8% |
中部地区 |
43.4% |
49.2% | 141 | 6.5% |
西部地区 | 24.4% | 18.2% | 93 | 3.9% |
合計 | 92,680 | 1,154 | 124 | 5.3% |
(資料)表1と同様。
表3 農民専業合作経済組織に関する通達・決定
政策・通達 | 公布元官庁 | 年・月日 | 主な内容 |
---|---|---|---|
浙江省農民専業合作社条例 | 浙江省 | 2004年11月11日 | 農民専業合作社の法人格を全国で初めて条例によって認定 |
浙江省農民専業合作社のモデル定款に関する通知 | 浙江省農業庁 | 2005年4月15日 | 条例に基づいて規定された農民専業合作社のモデル定款様式を通達 |
農民専業合作組織の発展を支持・促進することに関する意見 | 農業部 | 2005年4月30日 | 農民専業合作組織の健全な発展を促進するための指導原則や主要な措置を明記 |
農民専業合作社の規範化建設に関する意見 | 浙江省農業庁 | 2005年8月29日 | 合作社の内部管理制度に関する原則や政府部門による規範化支援のための施策を明記し、農民専業合作社の規範化を促進 |
農民専業合作経済組織の実験省の建設を強化することに関する意見 |
安徽省農業委員会
|
2006年1月3日 | 2007年末までの農民専業合作組織の発展・規範化目標を明記、組織強化・発展のための政府部門による具体的な施策を提示 |
社会主義新農村建設に関する若干の意見 |
中共中央、国務院
|
2006年2月20日 | 農民専業合作組織に関する昨年・一昨年の「一号文件」の内容をさらに推し進めており、立法プロセスの加速、支援の強化、合作経済組織発展に有利な貸付・税制・登記等の制度の設立を明記 |
(出所)各種資料に基づき報告者作成。
他方、中央政府による農民専業合作組織に対する財政面での支援を見てみると、2003年から2005年には中央財政から合計1億5,000万元の資金が試験地点設立のために投入された。さらに2004年には、農業部が12省・市を農民合作組織の試験地点と認定し、111(2005年は143)の農民専業合作組織をモデル・ケースとして指定した。財政部も250の農民合作組織試点を選定して いる。そして前者に対しては中央財政から 2,000万元の財政支援が行われた。
中央政府による最近の政策(表3を参照)としては、2005年4月に「農民専業合作組織の発展を支持・促進することに関する意見」が公布され、農民専業合作組織の健全な発展を促進するための指導原則や主要な措置が明記された。また前述の2006年の「一号文件」においても、農民専業合作経済組織の育成に関して記述がされており、立法プロセスの加速、支援の強化、合作経済組織発展に有利な貸付・税制・登記等の制度の建設が提唱されている。これを受け、2006年3月に開催された全人代では、137名の代表者から「農民合作経済組織法」の早急な制定が建議されている。同法は年内には全人代常務委員会に提出され、審議に入る見込みである(『新京報』 2006年3月8日、『中華合作時報』2006年3月10日)。
また、各省でも6,700万元(2005年は1.4億元)の財政資金を動員し、600以上の省レベルモデル地点を設立している。2004年末には23の省において、農民専業合作組織の発展を支援する政策が講じられており、登記や資金・信用貸出面での支援、また税制面での優遇、土地・電力利用や輸送面でも政府がサポートしている(『中国農業発展報告 2005』、51ページ)。
特に、専業合作組織の改革モデル省に認定された浙江省では、農民専業合作経済組織の振興と規範化のための法令・政策が、他の省に先駆けて積極的に打ち出されている(表3を参照)。2004年11月には全国で初めて「浙江省農民専業合作社条例」が浙江省人民代表大会で批准され、2005年1月から施行された。この条例は、農民専業合作経済組織およびその会員の権利の保護、農民専業合作経済組織の規範化とその促進に対して重要な意義を持つものである。さらに浙江省農業 庁は、2005年4月に「浙江省農民専業合作社のモデル定款に関する通知」、2005年8月に「農民専業合作社の規範化建設に関する意見」を公布し、農民専業合作経済組織の規範化を推進している。その他、安徽省や陝西省でも 2005年末から農民合作組織支援のための通達や方案が打ち出されている。
3. 山東省における農民専業合作経済組織の事例
前節では各種資料に基づき、農村専業合作経済組織の変遷とその概要について整理してきた。1990年代から実施されている農業構造調整政策とそれに伴う農業産業化の進展によって、農村・農家のあり方は大幅な変化を示している。特に沿海地域の農村では、都市部の産業化や農村内での非農業部門の発展によって非農業就業者が増大する一方、大規模な農業経営を行う農家が出現し、高付加価値農産品の生産や龍頭企業との契約生産も普及してきた。とりわけ、山東省は農業産業化と食品輸出加工の代表的な地域である。
山東省の青島地域は1980年代末から日本向け野菜の加工工場が集積し、開発輸入型の野菜産地が急速に拡大してきた。青島市近郊の安丘市、潍坊市、蒼山市、日照市、即墨市などがその中心地である。野菜に加え、近年は果物(生鮮、ジュース)や水産品の生産・加工輸出の発展も著しく、煙台市近郊の莱陽市、莱西市、招遠市、威海市近郊には冷凍野菜・果物・水産品加工を中心とする食品企業の展開が見られる(大島[2003]、朴他[2002])。
また表1に示されているように、山東省は農民専業合作経済組織化の先進地域でもあり、農業産業化と農民専業合作経済組織との関係を考察する上で、山東省の事例は示唆に富むものと言える。そこで報告者らは、2006年3月に北京市の果物輸出加工企業(加工工場は山東省招遠市に所在)を訪問すると共に、山東省青島市の農民専業合作経済組織に対してヒアリング調査を実施した11。本節では、供銷社系列型と郷村集団企業型という 2つのタイプの合作組織の事例を取り上げ、山東省の農産品生産の実情と合作組織の機能について考察する。
3.1. 供銷社系列型の事例(山東省招遠市、果物・野菜加工 A企業)
A企業は、中華全国供銷合作総社に直属する企業グループのなかの株式会社である。1993年に設立され、設立当初は日本の全農(JA)との補償貿易12の形式で、濃縮リンゴジュース(混濁)13を日本に向けて輸出している。現在は補償貿易以外にも独自に販路を広げており、リンゴ以外の果物ジュースや冷凍野菜の輸出を行っている。
リンゴジュースは生産量(2,000~2,500トン)の約70%を日本に向けて輸出しており、その他韓国やオーストラリアにも輸出している。混濁リンゴジュースについては、その品質の高さから、既に日本市場の半分以上のシェアを占めているという。果物ジュースではリンゴの他に、桃ジュース(200~300トン)を日本に、梨ジュース(400~500トン)を韓国に輸出している。冷凍野菜の輸出先は、ヨーロッパ(オランダ、ドイツ、ベルギーなど)が中心である。また、2005 年の売上高は3,000~4,000万元で、営業利益は400万元前後となっている。
加工用農産品の仕入れについては、契約農園(6,000畝、1畝=0.067ha)からの買付が中心となっている。その他に2002年から直営農園での栽培も始めており、その面積は600畝である。ただし、直営農園は主として新品種の導入とその試験を目的としたものであり、あくまでも補助的な存在である。また契約農園と比べて農園管理のコストは高くつくため、今のところ直営農園を拡大する方針はなく、契約農園での栽培を中心に経営を進めていく方針という。
原材料の仕入れ面で注目すべきは、農薬管理や品質管理を強化するため、2001年から契約先の農園において専業合作社を設立させたことである。専業合作社が設立される以前は、地元の政府やA社の調達部門が直接、農産物の品質管理を行っていた。しかし企業の調達部門は、農業生産や契約農園に関する知識・経験が必ずしも十分ではなく、しかも1,000世帯以上の契約農家の栽培状況(とりわけ農薬散布と施肥)を1つの企業で逐一管理することは、コストがかかりすぎるという問題も存在した。
そのため、A社は鎮政府と共同で鎮を単位とする専業合作社を設立し、農家レベルの栽培・品質管理を専業合作社に委託する形式を採用した。A社は仕入れに関しては農家とではなく、専業合作社と契約し、農家もまた専業合作社と生産・販売契約を結んでおり、A社と農家とを間接的に結ぶ機能を果たしている。
専業合作社の具体的な形態を見てみると、A社が契約している専業合作社は8社あり、すべて既存の供銷社のネットワークをベースに設立された。専業合作社のリーダーは鎮政府の幹部が兼任している。専業合作社の資本金は5つの主体からの出資で構成されており、①専業合作社のメンバー、②A社、③供銷社の末端組織、④招遠市の合作社、⑤農家(ただし契約農家が必ずしも出資する必要はない)という5つの主体がそれぞれ約 20%を出資しているという。
他方、栽培地域の村民が専業合作社のメンバーとして従事しており、彼らは地元の状況に熟知しているため、栽培管理面でも比較優位があるという。A企業は農産品の買付の際に、手数料として専業合作社に1トンあたり 40元程度を支払っている。さらに合作社は各行政レベルからの出資・補助金を受けており、免税措置も講じられるなどの優遇政策も採られている。
また農家レベルでの栽培を管理するため、A社は専業合作社経由で農薬の防除暦を配布し、施肥や農薬散布のすべての記録をつけることを義務づけている。記入が終わった防除暦は栽培農家と専業合作社が署名をした後、A企業が回収・保管する。防除暦を企業が保管することで、残留農薬の検査などで問題が発生した場合、どこに問題があったのかすぐわかるようにしている。
栽培契約の内容としては、事前に最低買取価格(保護価格)や販売数量(栽培面積で推定)、あるいは品質(残留農薬)を設定している。買取価格については、もし市場販売価格がこの水準を上回る際には市場価格で買い取り、市場価格を下回るようであれば最低買取価格で購入するという。このような契約は企業にとってはコストがかかるものであるが、その方が品質の面で確実性が高まるという。
このようにA社の事例は、既存の供銷社のネットワークを利用して専業合作社を設立させることで、農家を組織化して栽培や品質面での管理を向上させると同時に、企業が負担する管理コストやリスクを削減することに成功した1つの事例といえる14。
3.2. 郷鎮集団企業型の事例(山東省胶南市 B 鎮・C サービスセンター)
3.2.1. 胶南市B鎮の概要15
胶南市は山東省青島市の県級市であり、青島市の南西方向に位置する。B鎮は胶南市のなかでも西部に位置する鎮であり、82の行政村と5.1万人の人口から成る。B鎮の総面積は151万平方キロメートルで、青島市の西部地区では面積が最も大きい鎮である。この鎮は自然環境に恵まれており、多くの山林が存在し、林地面積は 10万畝弱で、森林面積比率は46%に達している。また、年間降水量も700~800ミリメートルで、鎮全体を河川が横断しており、農業生産に適している。鎮内の耕地面積は 7.5万畝で、穀物類では小麦、トウモロコシ、落花生、大豆、ジャガイモなどの生産が盛んであり、白菜、大根等の野菜の露地栽培も行われている。果樹類ではりんご、桃、サンザシ、ぶどう、栗、柿などの栽培が行われている。
農業以外の産業としては、紡績機械の生産や製紙業、ゴム製品(ベルト)やトラクターの生産も行われているが、経済全体に占める割合は低い。産業の構成比としては、農業が60%、工業が30%、サービス業が10%となっている。また、胶南市や黄島などの近隣都市への出稼ぎも多く、未婚者を中心に5,000~8,000人が出稼ぎに出ている。
豊富な農業資源と農業労働者の相対的な減少は、農民専業合作経済組織の発展のための1つのチャンスである。B鎮では後述のCサービスセンターをモデルケースとして、専業合作組織の発展を財政や金融、人材育成の面から政策的に支援しており、鎮内には既に14の専業合作社が設立されている。
3.2.2. Cサービスセンターの概要16
Cサービスセンターの前身は、2002年に設立された胶南市専業協会である。Cセンターは協会が所在する行政村の書記による強力なリーダーシップのもと設立され、設立当初の会員数は80人程度であった。この専業協会が設立された背景には、農産品販売での過去の苦い経験が存在する。すなわち、この地域で収穫される栗は甘味が高いにも関わらず、一般のものと比べて形状が小さく見栄えがしないため、買いたたかれて安価で販売せざるを得なかったという。
このような状況を解消するため、村幹部が中心となって専業協会を設立し、協会の活動によって販路の拡大をはかり、農家が安心して農産物の生産をできる環境を整備することを目指したのである。また、農家は新しい品種や技術の導入に消極的であるため、協会がモデル地域を指定して新品種の栽培を行い、その成果に基づいて農家への普及を行い、地元ブランド育成のための産品の標準化を推し進める機能も果たしている。
そして2003年には、農産品の生産技術と販売組織に対する管理を強化するため、専業協会の組織を母体にCサービスセンターが設立された。専業協会時代は、協会と農家との関係は比較的緩やかなものであったが、サービスセンターに転換してから、両者の関係はより緊密になっている。具体的に言うと、技術サービスや販売促進のみならず、農作物の品種や農薬の管理、センターによる統一的な製品加工、統一した包装によるブランド産品の販売など、農業生産のすべての段階において農家にサービスを提供している。さらに、センターと農家との間には生産契約が存在しており、センターが事前に種と肥料などを提供(買取の際にそのコストを差し引く)する一方、農家は施肥や農薬散布を管理・制限(防除暦に記入)がする必要がある。
また、協会時代は農家が会費を支払い、センターからサービスを受ける関係にとどまっていた。しかしセンターになると、会費の他に農家からの自由意思による出資(1株200元で10株まで保 有可能、センター全体の資本金は50万元)も受けており、農家がセンターの株主になることで、経済利益共同体的な性格が強くなってきているという。
他方、専業協会の形態では工商局に登記することが難しく、金融機関から融資を受けるのも困難であった。そのため、サービスセンターを設立する際に定款を定め、董事会や監査機関、企業の財務部門を設立するなど組織を規範化するとともに、工商局への登記を行い、税制面での優遇措置を受けているという。
このように農家とセンターとの緊密化と組織の規範化が進むことによって、農産品の品質管理が強化され、統一ブランドによる宣伝効果も高まった。例を挙げると、地元で生産される通常のキジの卵に比べて、センターによる統一ブランドで販売されるキジの卵は、倍の価格で販売されており、前述の栗についても従来の 3 倍以上の価格で販売できるようになったという。
ただし、センター専属の職員はおらず、箱詰め作業などのパート労働者を除き、村民委員会の職員が兼務している。例えばセンターの董事長は村書記であり、センターの財務担当者は村の会計係が担当しており、職員の給料も村の財政のみから支出されている。またセンターの設立時には、人材や情報等の面で村民委員会が保有する資源が活用されたという。従って、センターの設立・運営は村行政と不可分の関係にあるといえる。
センターの売上高は、2004年は198万元、2005年は320万元と大幅な上昇傾向を示している。会員数についても2005年には235世帯に増加しており、株式保有農家は185世帯である。またセンターによる主要な製品としては、肉類(牛、豚、羊、家禽類)、キジの卵、栗、りんご、小麦粉、無公害野菜、落花生、緑茶等が挙げられる。サービスセンターの管轄区域内には、畜産団地が15あり、大規模畜産農家は235世帯、平均飼育頭数は豚が3万頭、牛が1.2万頭、羊が1.5万頭、家禽類が15万頭である。他方、主要農産品の栽培面積では、栗園が500畝、りんご園が2,000畝、ジャガイモが400畝となっている。センターによるサービスの範囲は村内のみにとどまらず、周辺の10以上の村にまで及んでいる。
このCセンターのケースは、地元政府が強力なリーダーシップをとり、地元政府の資源を利用しながら農民の組織化を進め、農民の経済水準の向上とブランド化に成功した事例と位置づけることができる。このようなタイプの専業合作組織が抱える問題としては、地元政府と合作経済組織をどの段階で明確に分離させ、自立した経済主体に転換させるかにある。合作経済組織が長期的に見て、高い競争力と安定した経営を確立するためには、地元政府への依存(あるいは干渉)から独立し、独自の経営資源を高めていくと同時に、他の合作組織との提携関係を強めていくことが不可欠である。C センターでもその重要性を認識しており、今後は地元政府とセンターとの関係を弱め、Cセンターの経営面での自立化を進めていく方針であるという。
4. おわりに
本報告では、農民専業合作経済組織の変遷について各種の資料や調査データに基づいて整理するとともに、報告者独自の調査データによってその実情を考察してきた。合作組織は龍頭企業などの農産物加工企業と農家とを仲介する役割を果たしており、情報の非対称性の緩和やリスク負担の軽減、農産品の規準化・統一化においても高い機能を発揮している。また、合作組織を通じた投入資材の統一購入や産品の統一販売によって、農家の価格面での交渉力が高まっており、最近では合作組織自体が農産品の加工や直売などに乗り出すケースも出てきている。
その反面、多くの合作組織が郷鎮政府や供銷社、あるいは龍頭企業との設立当初の関係が維持されて状態にあり、経営の独立性や経営資源の蓄積の面で弱点を抱えていることが事例研究によって明らかになった。今後も引き続き、農民専業合作経済組織に焦点をあてた実地調査を行い、その実体と問題点、そして改革の方向性について探ると同時に、農村専業合作経済組織の機能を理論的角度から考察していく予定である。
参考文献
- 敖毅・許鳴[2004]「当前我国農村新型社会中介組織的発展及其再転型」『中国農村経済』2004年第7期。
- 大島一二編[2003]『考えよう!輸入野菜と中国農業――変貌する中国農業と残留農薬問題の波紋』芦書房。
- 大西康雄編[2006]『中国 胡錦涛政権の挑戦――第11次5カ年長期計画と持続可能な発展――』ジェトロ・アジア経済研究所。
- 傅晨[2006]『中国農村合作経済:組織形式与制度変遷』中国経済出版社。
- 国家統計局編[2005]『中国統計年鑑 2005』中国統計出版社。
- 候鋭[2005]「江蘇省農村専業合作経済組織的特点与問題」(中国社会科学院農村発展研究所・国家統計局農村社会経済調査総隊編『2004~2005年:中国農村経済形勢分析与予測』社会科学文献出版社、所収)。
- 姜長雲[2006]「我国農民専業合作組織的発展態勢」『合作経済参考』2006年第2期。
- 李鸥・汪力斌・李凌・張麗[2004]「2003~2004年中国農村農民組織発育与発展」(李小雲・左停・葉敬忠主編『2003~2004 中国農村情況報告』社会科学文献出版社、所収)。
- 朴紅他[2002]「中国輸出向け野菜加工企業における原料の集荷構造――山東省青島地域の食品企業の事例分析(1)北海食品」『農経論叢』第58号、2002年3月。
- 青柳斉[2001]「中国農村合作経済組織の企業形態と諸類型」『農林金融』2001年第12期。
- 徐旭初[2005]『中国農民専業合作経済組織的制度分析』経済科学出版社。
- 苑鵬[2005]「農民合作経済組織発展的新特点」(中国社会科学院農村発展研究所・国家統計局農村社会経済調査総隊編『2004~2005年:中国農村経済形勢分析与予測』社会科学文献出版社、所収)。
- 中華人民共和国農業部編[2005]『中国農業発展報告 2005』中国農業出版社。
脚注
- 2006年2月14日に中共中央開催の「社会主義新農村討論会」において、「社会主義新農村建設」について胡錦涛・国家主席が行った発言は、この問題に対する政府の見解を示すものとして注目される。すなわち、「社会主義新農村建設」の主要な任務として、①農村生産力の建設を全面的に強化する、②農民の所得向上を農業・農村政策の中心とし、農業による所得水準向上のため、食糧の総合生産能力建設を強化し、農業科学技術を加速させる一方、農村余剰労働力の農外就業ルートを拡大する、③農村基層の民主化を拡大し、農民自治を改善する、④ 精神文明の建設を強化する、⑤農村の調和のとれた社会建設を促進し、農村の衛生事業を発展させ、農村社会建設と管理を強化する、⑥社会主義市場経済への改革方針を堅持し、農村基本経営体制を改善し、農村各プロジェクトの改革を計画的に配置する、という6つの項目に要約化している(新華社 2006年2月14日)。
- 2006年4月30日に北京大学・中国経済研究センター主催の座談会(「第5回・CCER中国経済観察」)において、林毅夫・教授が行った講演は「社会主義新農村建設」の具体的なイメージをつかむ上で、比較的有用なものである。(http://www.ccer.edu.cn/cn/ReadNews.asp?NewsID=6609、2006年5月12日閲覧)。
- このような合作組織は、同一作目生産者の組織で、かつ農業関連事業に特化している傾向が強いことから、日本の「専門農協」に性格が近いと指摘されている(青柳[2001]、62ページ)。
- 中国農村専業技術協会は1995年に設立された。2003年の統計によると、各レベルの農村専業技術協会は 9.9万社が存在しており、会員世帯数は729.4万世帯に及んでいるという。同協会の概要については、ホームページ (http://www.china-njx.com)を参照した(2006年5月12日閲覧)。
- 姜[2006]によると、供銷社系統の農民専業合作経済組織は2003年末で1.4万社、会員世帯数は351万世帯となっている。
- 合作社型には、「公積金」(内部留保)や「公益金」(集団福利金)など社員個人に分割できない集団財産(不分割基金)を形成している集団所有制経済組織も含まれる。これらは「公有型」と呼ばれ、特定作目生産の農民に限定せず、地域に居住するすべての農民が組織化の対象となる(青柳[2001]、64-65 ページ)。「公有型」には供銷社や農村信用合作社などが含まれるが、これらは従来から存在する合作組織であり、新興の農民合作経済組織とは性格の違いが大きい。また、農業部等によって公開される農民合作経済組織に関する統計には「公有型」の組織は含まれていないため、本報告では分析の対象とはしない。
- 江蘇省に関する調査によると、約5,200社(2003年末)の農民専業合作経済組織のうち、高い機能を発揮しているものは1/4強で、組織と農家との関係が緊密ではなく、組織の規範化が十分になされていないが、普通程度の機能を発揮しているものが全体の半分程度、残りの1/4は基本的に有名無実化しているという。候[2005]、171-173ページより。
- 報告者は2005年11月に山西省の臨猗県A村を訪問し、実地調査を行った。その村は省内でも有数のりんご産地であり、広東省や上海などの沿海地域から多くの商人がりんごを買付に来ており、村内には6~7年前から果樹専業協会が設立され、技術者の招聘などを行っているという。この協会は行政村の主導によって設立されたものであり、副村長が協会の運営を兼任している一方、協会の登記はされておらず、協会独自の予算も存在していない (村の財政資金を利用)。また、りんごの販売は庭先での仲買人を通じて行われており、協会が農産品の販売や加工に携わることはなく、技術普及についても農家の自発的な学習や技術普及ステーションによる指導が中心である。従って、A村の果樹専業協会は名義上の存在であり、実質的には機能していないものと推察される。
- 全国人民代表大会農業与農村委員会課題組『農民合作経済組織立法専題研究報告』2004年3月。ただし原資料は未見で、徐[2005]から再引用している。
- 農民専業合作経済組織に占める「①専業協会」と「④農民専業合作社」の構成比については、資料によって大きく異なる。李・汪・李・張[2004]では、それぞれの構成比は85%と15%(専業合作社が10%、専業聯合社が5%) と示されている。他方、『農民合作経済組織法立法専題研究報告』では不完全な資料ながら、それぞれの構成比は60%と40%(専業合作社が30%、専業聯合社が10%)となっている。
- 北京市、及び山東省青島市でのヒアリング調査は、山田七絵・アジア経済研究所研究員とともに、2006年3月6~15日に実施した。山東省調査のアレンジは劉志揚・青島市社会科学院教授に担当頂いた。また阿部宏忠・ジェトロ青島事務所所長にも調査にあたってご協力頂いた。
- 補償貿易とは、機械設備などの導入代金をその機械設備を使って生産した製品で支払う方式のことである。補償貿易は2種類があり、該当技術、設備で生産された製品により輸入代金を返済することに限られる直接補償貿易と、一部その他の生産物も返済に当てることができる間接補償貿易からなる(『岩波 現代中国事典』、および中日金網 www.ne.jp/asahi/cn-jp/gold-net/invest/trade.htm(2006年5月10日閲覧)を参照)。A社では直接補償貿易が採られている。
- 清澄タイプのジュース(透明なジュース)と比べて、混濁タイプのジュースは原料となるりんごに高い熟度が要求される。透明ジュースであれば、早稲や中成のりんごが利用され、収穫時期は9月前後から始まるのに対して、混濁ジュースのりんごは晩生が中心で、収穫時期は10~12月頃となる。従って、混濁は収穫時期が短く、ジュースへの加工時期も限られてしまう。加えて、混濁タイプは澱(おり)が混入したままであり(清澄タイプは酵素で澱を凝縮し、濾過して透明にする)、保存期間を延ばすためには冷凍保管する必要がある。このように混濁タイプは生産・保存コストが高くつくため、中国国内では販売することは難しいという。また、A社が混濁ジュース加工用に利用するりんごの品種は、主として「ふじ」(中国では「紅富士」と呼ばれる)であるが、直営農園では「グラニー・スミス」も栽培しており、両者の果汁を混ぜることで酸味を高めている。
- ただし、ここまでの記述はA社からのヒアリングとA社のパンフレットに基づくものであり、専業合作社の実情や農家への影響、専業合作社と地元政府との関係については不明な点も多い。今夏には山東省の招遠市で実地調査を計画しており、より詳細な情報を入手のうえ、専業合作社の意義を考察していく予定である。
- 胶南市B鎮の書記へのヒアリングと鎮を紹介するパンフレットに基づく。
- Cセンターの経営者へのヒアリングとその際に提供された同センターに関するパンフレット、及び同センターが運営するホームページの記述に依拠して整理した。