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海外研究員レポート

シンガポールのGDP

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050060

鮎澤 良史

2006年3月

2006年の経済成長

リーシェンロン首相は新年挨拶1の中で、2005年のシンガポール経済は堅調な対外経済環境と政府の優れた経済政策によって5.7%の成長であったこと、また 2006年の経済成長率は3~5%を見込んでいることを示した。製造業については、ニッチ分野で世界最先端に立つためのR&Dを行い、これに加えて化学や薬品、電子機器産業の投資を重点的に行うものとした。サービス業については、IMF/世銀の年次総会開催やIR(統合リゾート施設)の建設による活性化が見込めるものとした。

一方、マイナス要因としては、テロの脅威は経済に影響を及ぼすとし、昨年7月のロンドン同 時爆発事件や10月のバリ島爆発事件の例を取り上げた。

これら政府の見通しに対して、民間シンクタンク各社は政府見通しの3~5%は慎重すぎるとし、鳥インフルエンザの拡大や原油価格の更なる上昇等のリスクが顕在化しないならば 5.5%~7.0%の経済成長が見込めるとした。

その後、2月16日に公表されたEconomic Survey of Singapore 20052において、2006年のシンガポールの経済成長率は4~6%に上方改訂された。今後半年間の企業業況についてのビジネスアンケートによると、引続き強気の水準にはあるものの前期(第3四半期)と比較すると若干低下するものと見ている。2006年上半期については、製造業はネットで20%の企業が更に改善されるものとしており、またサービス業はネットで18%の企業が強気の見方をしている。

世界経済の先行きについては、世界銀行の予測である3.2%を主な根拠として、昨年と同様に堅調なものと考えている。具体的には、アメリカは高金利政策にもかかわらず堅調、欧州及び日本は楽観的、中国及びインドは高成長、といずれの国々の経済も順調に進むと見ている。またガートナー社の半導体需要に基づいて、2006年の電子機器の需要は昨年と程度に順調とみなしており、これらの世界経済の状況を背景として国内経済も順調に進むとしている。

一方、ダウンサイドリスクとしては、石油産業の需給の逼迫を挙げ、この他にテロリズム及び鳥インフルエンザの拡大を挙げている。

シンガポールのGDP速報値(Advance GDP Estimation)の特徴

上述の新年挨拶との関係もあるためにシンガポールでのAdvance GDP Estimation(我が国の1次QEに対応、以下「GDP速報値」)の公表日は非常に早く、新年休日明けの1月3日にシンガポール統計部及び通産省からGDP速報値が公表された3

2005年第4四半期のGDP速報値は、前期比9.7%(実質値、季節調整済、年率換算)であっ た。その他の項目は以下の表1のみであり、速報値の段階では日本のように消費や設備投資、輸出入等の詳細な項目を公表していない。

製造業は、バイオや輸送機器、電機に牽引されて11.5%の伸びを示し、建設業は第3四半期から連続してプラスとなっており一時期の低迷を脱したようである。サービス業は、卸小売業や飲食宿泊業等が成長を牽引したものの、金融業等は停滞している。

2005年通年については5.7%の成長を記録し、政府予想の3~5%を上回っている。製造業は8.6%の高成長、サービス業も5.4%と好調である。今回の公表対象ではないものの、4%程度の賃金上昇とともに過去最高の雇用創出や14%程度の対外貿易の増加があった模様である。

表1 シンガポールの2005年10-12月期GDP速報

(実質値、前年同期比、%)

Q4/04 2004 Q1/05 Q2/05 Q3/05

Q4/05

2005

GDP 6.5 8.4 2.7 5.2 7.2 7.7 5.7
生産部門 製造業 14.1 13.9 3.5 5.8 13.2 11.5 8.6
生産部門 建設業 -8.4 -6.5 -5.6 -1.6 0.3 0.8 -1.5
サービス業 4.8 7.5 3.6 5.2 5.8 7.0 5.4

Advance GDP Estimation より引用

シンガポールのGDPは何よりも速報性を重視しており、新年挨拶が関係する第4四半期を別にしても、それ以外の四半期でも10日程度で公表される。このように公表時期が非常に早いこ とやシンガポール経済自体がGDPの3倍にも及ぶ貿易を行っていることから、シンガポールのGDPは貿易収支が景気動向を左右しているアジア経済を最も早く反映する指標とされている。そのため人口400万人程度の小国シンガポールのGDP速報値が、人口1億3000万人の大国 日本の為替レートにも影響を及ぼすということが過去にあった。

このスピード重視(第4四半期の場合、GDP総額だけは大晦日発表)から容易に推察できるように、四半期GDPの推計に用いられているデータは一月目と二月目のみであり、速報値の精度は相当粗い。

後ほど示す表3と表1の数値を比較すると、2005年第4四半期(実質値、季節調整済、年率換算ベース)については、9.7%から12.5%に上方修正されていることがわかる。また、第3四半期についても速報値は3.2%成長だったが確報値は9.6%に修正されており、速報値と確報値の間に相当の幅が生じていることがわかる。

これらの理由として、もともと貿易等の対外要因に左右されやすい不安定な経済であり厳密な季節性が観測されにくいことや近年バイオ産業が急激にシェアを増し欧米等の本社で変動することがあり、その結果として経済変動における季節性が失われてきていることが挙げられる。

これらの問題は政府当局も当然認識しているようであり、政府がGDP速報値を公表する際には表1のとおり前年同期比を用いて頑健に経済を評価しようとしている。しかし、公表数値、特に季節調整済の値が非常に不安定であることから、速報値だけでシンガポール経済の評価を行うことが難しくなってきている。

シンガポールのGDP確報値(GDP)の特徴

2月16日に我が国の2次QEに相当するGDP(以下「GDP確報値」)がEconomic Survey of Singapore 2005において公表され、2005年第4四半期の数字は9.7%から12.5%と上方に修正された。

製造業は第3四半期から引続き大幅なプラスとなっており、特に半導体産業の伸びており、建設業も一時期の低迷を脱したが、これまで牽引役であったバイオ産業は低迷したとのことである。サービス業については、卸小売業が引続き牽引役となっている一方、一般ビジネス部門が振るわなかった。

表2 シンガポールの2005年10-12月期GDP確報値(実質値、季節調整済)

Singapore Million dollar 2005 Q2 2005 Q3 2005 Q4 (p)
GDP AT 2000 MARKET PRICES 47,806.2 48,909.0 50,372.3

Goods Producing Industries

14,632.0 15,313.4 16,179.9
Manufacturing 12,226.7 12,944.5 13,770.3
Construction 1,626.1 1,584.4 1,606.1
Utilities 733.1 737.5 753.4
Other Goods Industries1 46.1 47.0 50.1
Services Producing Industries 30,379.0 30,869.6 31,400.3
Wholesale & Retail Trade 7,551.8 7,757.3 7,998.5
Hotels & Restaurants 888.7 887.1 897.2
Transport & Communications 5,661.3 5,721.1 5,804.0
Financial Services 5,224.6 5,251.7 5,387.1
Business Services 6,032.0 6,156.5 6,194.8
Other Services Industries 5,020.6 5,095.9 5,118.7
Ownership of Dwellings 1,950.0 1,967.9 1,982.7
Less: FISIM 2,458.8 2,442.1 2,476.6
Gross Value Added At Basic Prices 44,502.2 45,708.8 47,086.3
Add: Taxes on Products 3,304.0 3,200.2 3,286.0

Economic Survey of Singapore 2005より一部抜粋

また、同時に公表された2005年通年は、6.4% (2000年基準の実質成長率) に上方修正された。製造業は、2004年には及ばないものの9.3%もの成長を達成したが、これは輸送機器やバイオ、 電子機器産業に牽引されたとのことである。この背景として、世界経済の順調な回復や海運業の強い需要を挙げている。また、建設業も第3四半期を底にして回復傾向にある。サービス業は6.0%の成長と2004年の7.6%には満たないものの引き続き堅調であったが、これは卸小売業の10.5%や金融業の6.5%という堅調さに負うところが大きい。

表3 シンガポールの2005年GDP確報値(実質値、季節調整済、年率換算、%)

Annualised Percentage Change 2004 2005p 05 Q2 05 Q3 05 Q4p
TOTAL 8.7 6.4 14.6 9.6 12.5

Goods Producing Industries

10.5

7.7

19.5 20.0 24.6
Manufacturing 13.9 9.3 28.2 25.6 28.1
Construction -6.1 -1.1 -20.5 9.9 5.6
Services Producing Industries 7.6 6.0 13.4 6.6 7.1
Wholesale & Retail Trade 15.6 10.5 17.5 11.3 13.0
Hotels & Restaurants 11.5 4.6 17.8 0.7 4.6
Transport & Communications 8.5 4.5 7.4 4.3 5.9
Financial Services 5.4 6.5 27.6 2.1 10.7
Business Services 2.8 4.9 9.1 8.5 2.5

Economic Survey of Singapore 2005より一部抜粋

当該期間終了から1カ月+2週間程度でEconomic Survey of SingaporeにおいてGDPが公表される。つまりこの段階でGDPが確定され、季節調整値等についての修正を行う場合でも、特段の告知は行われずに最新版の Economic Survey of Singaporeに修正された値が掲載される。 数値は本文とは別にStatistics Appendix4として40頁強にわたり金額ベースの名目値、実質値、季節調整値や需要項目別の数値他の一通りの情報が掲載されている。分量自体は日本のGDP確報より少ないものの、四半期ベースの分野別政府投資額(Government Development Expenditure)等のような、経済動向の把握に重要でありながら日本では整備されていないも公表されており、必要な項目だけをコンパクトにまとめている。

統計ではないが、当該年度の見通しも四半期毎に公表している。例えば、2005年Q2版では3.5%~4.5%としていたものが、Q3版では3%~5%に修正されている。残り期間が少なくなったにもかかわらず、幅が拡大することには疑問が残るが、本心が上方修正であったことを考えれば、適切な情報提供であったと考えられる。日本の場合、経済見通しの公表は通常年に1回だけであるが、シンガポールのようにGDPの公表毎に経済見通しを公表していくことは、自然なだけではなく、機動的な経済運営を行う上でも望ましいと思われる。

一方、シンガポールのGDP推計に必要な基礎統計及び手法はあまり公開されておらず、外部から見た場合には相当程度のブラックボックスが存在しているものの、その点については、当地のシンクタンクやマスコミはあまり問題にしていないようである。

(参考)日本のGDPの特徴


通常、期間終了後1カ月+2週間で1次速報が公表される5。シンガポールの速報版はあくまでも表1の項目だけで非常にシンプルだが、日本の場合はGDP総額だけではなく、消費や設備投資等の需要項目、雇用者所得等の分配項目を公表し、また一部の項目を除いて最終月のデータも採用しており詳細な推計が行われている6

2次速報は約2カ月半後に公表されるが、公表される項目は1次速報とほとんど同じであり、こちらはシンガポールの方が詳細なデータが示されている。

更に「国民経済計算年報」の公表の際にGDPが再推計されるが、この場合も速報と推計方法が全く異なるにもかかわらず、GDP等の主要項目が大幅に修正されることは少ない。また、日本はGDP推計に用いたデータや手法等は原則公表としており、大半の数値は追跡可能となっているので、他国と比較してもその透明性は非常に高い。

最近、景気指標としてのGDPの重要性が高まり、以前より公表時期を前倒したが、仮に更なる公表日の前倒しが求められた場合、シンガポールのようなシンプルな形式に変更することは重要な選択肢の一つになると思われる。

脚注