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海外研究員レポート

ジョージ・ブッシュ・アメリカ大統領のインド訪問

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050063

2006年3月

ジョージ・ブッシュアメリカ大統領が3月1日から4日までインドを訪問した。過去のアメリカ大統領の訪印すなわち、1959年12月のアイゼンハワー、1969年7月のリチャード・ニクソン、1978年1月ジミー・カーター、2000年3月ビル・クリントンにつぐ5人目のアメリカ大統領訪問である。近年の両国の関係はこの半世紀の間で最も良好であるが、今回の訪印はそれを象徴するものとなった。今回は昨年2005年7月18日にマンモハン・シン首相およびジョージ・ブッシュ大統領によってワシントンで発表されたインド・アメリカ共同声明を受けてのものである。

今回の訪問によって両国間で合意された最大の成果は、アメリカが、国際社会における責任ある核兵器保有国としてインドの特別の地位を実質的に認めたことにある。すなわち、アメリカはインドに対する民生用核技術協力体制を整える、特に1974年のインドの核実験以降途絶えていたアメリカによる民生用原子炉への核燃料供給の再開にむけての道筋を示した。それに対してインドは核関連施設を民生用と軍事用にわけ、前者を国際原子力機関(IAEA) の査察体制の下におくことを表明した。インドは現在に至るまで核拡散防止条約(NPT) を核クラブ5大国(国連安全保障理事会の常任理事国=P5)による不平等な核の独占体制であるとして、同条約には加盟しておらず査察体制下にない。このようなインドをアメリカが核不拡散の例外として実際上認知することとなったのは次のような理由があるものと考えられる。①1998年の軍事目的の地下核実験の実施によりインドを実際上核兵器保有国として認知せざるを得ず、孤立させておくよりも国際的な枠組みの中に取り込むのが現実的であるとの認識を持つに至ったこと。②世界最大の民主主義国として責任ある管理を期待できること。これは次に訪問したパキスタンに対する認識と決定的に違う点である。③近年のインドの急速な経済成長により協力関係を強化するアメリカの経済界の思惑。④中国と並んで経済成長急なインドでもエネルギー需要が急速に増大し、化石燃料の世界的な争奪戦が展開されているが、民生用原子力発電の拡充によりインドのエネルギー需要の問題を緩和すること。⑤表だって述べられてはいないが、急速な経済発展を背景に軍事力を増強する中国の牽制役としてインドを考えていること、などである。

1998年の核実験後インドの核兵器保有国としての特別な地位を実際上認めたのはアメリカが最初ではない。ロシアは1998年の核実験の後先進各国や中国がインドへの核燃料供給を停止したのに対して、低濃縮ウランを2001年に輸出している。ロシアにとっては原子力供給国グループ(NSG、現在45カ国)の足並みを乱すことよりも自国の利益とインドとの関係をより重視したわけである。しかしこのような先例はあるものの、インドを実際上核クラブ国とほぼ同等に扱うという今回のアメリカの政策変更、および、インドがIAEAの査察受け入れ範囲を広げて民生用に限ってではあるが大部分の核施設で受け入れるというのは遙かに大きなインパクトがある。

このようなアメリカの政策変更が実質化されるのは、今後結ばれるであろう条約(今回の訪問では共同声明止まりで条約は後日)、アメリカ議会の承認、NSGの説得、そしてインドとIAEAの査察措置に対する合意などを経てである。もし、このようなプロセスがアメリカの後押しの元に順調に進めば、インドは民生用の核燃料および核技術をよりスムースに輸入する道筋がひらけ、また、国際政治でもより大きな影響力を持つことになる。とりわけ核燃料や原材料の輸入はインドの急拡大しつつあるエネルギー需要の一翼を原子力発電でまかなうことを考えるインド政府にとって大きな意味を持つものと考えられる。以上のように両国の戦略的パートナーシップの深化という意味では今回の訪問は重要なポイントとなった。その概要を3月2日のに発表された「2005年7月18日のインド-アメリカ共同声明の実施」という今回発表された文章から、少し長いが以下概要を述べてみたい。

インドとアメリカの間で民生用核エネルギー協力が全面的に再開される背景には、インドが加速する経済成長率を保つために適切なエネルギー供給が必要で、かつインドが優れた技術能力を持つとの認識がある。これに先立ちブッシュ大統領とマンモハン・シン首相の間でグローバルなエネルギー・シナリオ、および、炭化水素資源の供給に対する長期的圧力ならびに高沸する原油価格が議論され、それが、石油とガスから石炭、代替燃料および民間の核エネルギーまで及ぶエネルギー・オプションの全範囲を含む2005年4月のインド・アメリカ・エネルギー対話の発表に結びついた。このような継続的な対話により、インドの増大する必要性に適切に対処する解決策が模索されたが、そのようなエネルギー技術は環境的にクリーンでかつ効率的でなければならないということで同意を見た。核燃料サイクルも含む核分野で、インドの能力は証明済みで、インドが以上のような目的を果たすためユニークな貢献を行っていることは国際的にも認識されている。

2.エネルギー安全保障および環境保護という一対の問題への解決策として民生用核エネルギーが中心的役割を果たすことに鑑みて、両政府は、この分野で全面的な協力を再開するためのフレームワークを作成することを2005年7月18日に約した。アメリカはそのために議会に必要な法や政策の改正を行うよう求め、インドとの民生用核エネルギー協力を全面的に実現するため同盟国などに国際的体制を調整するよう働きかけ、また、査察下にあるタラプルの原子炉に核燃料を供給するように関係国に求める。

3.インドは、アメリカのような高度な核技術を持った国々と同じ責任を負うと同時に同じ便益を享受することを宣言した。そのためにインドは、段階的に民生用と軍事用の核施設および核プログラムを分け、IAEA に民生用施設に関して報告し、それを自発的にIAEAの査察体制の下におく決定を行った。

4.インドによって既に実行されたコミットメントとしては、インドが核不拡散で責任ある行動をとっていること、インドは NSG およびミサイル輸出管理レジーム(MTCR)のメンバーではないものの輸出管理をNSGおよびMTCRのガイドラインに沿うように調整したこと、2005年5月の大量破壊兵器法によってインドは核不拡散規制および輸出管理を強化したこと、濃縮および再処理技術を他の国に移転しないようにしていること、 核実験を独自に自制していること、兵器用核分裂性物質生産禁止条約の締結のためにアメリカと協力する意志を示していること、などである。

5.2005年7月18日の共同声明は、インドの核プログラムが軍事および民生両方の部分を持っていることを認める。双方は、声明の目的がインドの戦略プログラムを抑制するためのものではなく、むしろ民生用核エネルギー協力の再開によって、グローバルなエネルギー、および環境の安全保障を拡大することを可能にするためのものであると合意した。そのような国際的な民生用核エネルギー協力は、第1に、民生用以外の目的 のためには利用されないこと、第2に、インドから第三国へ移転されない、という前提に基づいている。このような点がインドとIAEAとの間で取り決められる査察体制合意に反映される。

6.インドの核戦略プログラムは原子力研究プログラムの一部であるが、そのような戦略プログラムとその他の民生用のプログラムを識別することは難しい。査察体制の下に置く民生用核施設の識別はインドが行う。

7.インドの原子力発電の開発は、加圧重水炉(PHWR)、高速増殖試験炉、プロトタイプの高速増殖炉という順で進んできた。現在トリウムを利用する原子炉の開発に取り組んでいる。

8.燃料資源の持続性、技術的デザイン、経済性、および原子炉をスムースに運転する能力などが考慮すべき重要な要素である。

9.インドの核プログラムの基盤がまだ比較的狭く、大国が取るような解決策をインドはとれないことを認識すべきである。

10.インド独自の原子炉は小規模で査察措置の適用を考えるにあたり、その数と発電能力の両方を考慮する必要がある。

11.民生用と軍事用に分ける過程は複雑であるが、インドはP5諸国に比べて原子力事業に割ける資源が限られているので対応がより困難である。インドが国際協力を押し進めるにつれセーフガードの下で設置される民生用原子炉の能力は拡大することになる。

12.インドの民生用の核施設の識別は以下の諸原則に基づいて行う。すなわち、透明性、昨年7月18日の声明における了解、インドの安全保障および研究開発の必要性、コスト的に実行可能であること、国会および世論に受け入れられるものであること、である。

13.インドは戦略的に重要でないものを民生用のリストに入れる。その際、決定的に重要なのはIAEAの査察体制下に入れることによって国家安全保障に負の影響を与えるかどうかというインドの判断である。すなわちインドが戦略的に重要でないと判断したものだけが民生用のリストに加えられる。

14.インドはアメリカとの協調の基に、以下のアプローチをとる。インドは2006年から2014年の間に稼働中または建設中の動力炉22の内、14を査察のために認定する。インドは高速増殖試験炉、プロトタイプの高速増殖炉は査察下におかない。将来的にはインドは民生用の原子炉は全て査察下に置くが、民生用か否かはインドが判断す る。CIRUS(=Canadian-Indian-U.S.)研究用原子炉は2010年に廃止する。

15.アメリカは確実な核燃料供給を約束するとインドに伝えた。またアメリカは関連の法規を改正するよう議会から同意を得ることを約し、原子力供給国グループを説得してインドが国際市場で核燃料を十分に得られるような状況を作り出すことを約す。また核燃料供給の継続を保障するためにアメリカは議会に提出する2国間の協定で燃料供給を保障する用意がある。アメリカはインドが特別な燃料供給条約をIAEAと交渉する場合インドと歩調を合わせる。アメリカは、インドが燃料供給が中断される場合に備えて核燃料を備蓄することを支持する。このような準備にもかかわらず、核燃料供給が中断した場合、アメリカとインドは共同して、ロシア、フランス、英国のような友好的な核燃料供給国と協議しインドへの核燃料供給を回復するようにする。

以上から、繰り返しになるがアメリカはインドにP5とほぼ同様となる特別な地位を認めようとしていることは明らかである。

インドにとってはIAEAの査察体制を民生用に限ってであるが大幅に拡大受け入れるということに関しては国内の一部からナショナリスティックな反対があるが、拡大するエネルギー需要の一翼を原子力でまかない、先進的な民生用核関連技術を輸入する道が開けたことは大きな収穫であった。インドはウラン(ジャールカンド州ジャドゥゴダ)やトリウムの採掘、放射能汚染物質の処理、管理などで大きな問題を抱えているのは明らかであって、もしこのような分野で先進諸国の協力が得られれば大きな前進になろう。

ブッシュ大統領の今回の訪印のもう一つのねらいは経済関係の強化であった。経済界のミッションも今回同行し、「アメリカ・インドCEOフォーラム」を行いインド側経済界との関係を深めた。フォーラムは、物理的インフラストラクチュア開発、エネルギー安全保障、人的資源開発、技術交流、貿易および産業促進、知的所有権保護の6分野を主要な協力分野と宣言した。また、フォーラムは両国政府の政策イニシアチブによって貿易や投資が著しく増強する可能性を持つ15のビジネス部門で特に行動をとるよう政府に求めた。

最後に国際的影響に関しては、インドを例外的に扱うことによって不拡散体制がさらに曖昧なものになることが懸念され、イラン、北朝鮮などへの影響も懸念される。中国はインドを例外扱いにすることに対して懸念を表明したが、主要先進国、IAEAは一定の評価を示している状況である。