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中国の空は青くなるか?――資源エネルギーから見た低炭素社会への道――

 
第4回 天然ガスは中国に根付くか?

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051516

森永 正裕

2019年12月

(7,140字)

はじめに

気付いたら連載第3回から1年が経っている。もはや「連載」とは言えないとお叱りの声も聞こえる。お詫び申し上げたい。気を取り直して「中国の空は青くなるか?」考えていきたい。第4回目となる今回は「天然ガス需給」の話をすることになっているが、その前に前回までのおさらいと、この1年間の状況に触れておく。

連載第1回目「中国の空を汚しているもの」では、大気汚染の実態と政府による対策、エネルギー消費とCO2排出の現状を概観し、既に改善傾向にあることを示した。2018年の数値でも大気汚染改善傾向は続いている。2018年、北京市では「重度汚染」とされるAQI1300以上の年間日数が15日まで減少、また京津冀地区(北京市、天津市および河北省の28市)の年間平均PM2.5濃度も前年の64μg/m3から60μgまで減少した(連載第1回表2参照)。

CO2排出量も順調に減少しているかと言えば、実はそうではない。2013年をピークに僅かながら減少傾向にあったCO2排出量は、2017年に再び上向き2018年には9400百万トンを超え過去最高値を記録した(連載第1回図3参照)。2018年の世界の総CO2排出量は前年比1.7%増、中国はそれを上回る2.5%の増加であった。2015年11月にパリで開かれた気候変動枠組条約第21回締結国会議(COP21)において習近平国家主席は「中国は2030年までにCO2排出をピークアウトさせる」との自主目標を宣言した2。これに関して連載第1回では2016年までの数値を示し、「今後再び上向くことがなければ2014年でピークアウトしたことになる」と述べたが、残念ながらそれは覆された。中国は引き続きこの自主目標に向き合うこととなった。

CO2排出量の増加は、ひとえに堅調な経済成長を背景にしたエネルギー消費量増加の加速による。連載第2回「中国はどのようなエネルギー・ミックスを目指すのか」では、中国のエネルギー構造を概観し、政府によるエネルギー構造改革の方向性について解説した。エネルギー消費総量は、2014年から2016年にかけて停滞したが2017年に再び加速(連載第2回図3参照)、2018年にはさらに加速し伸び率は5.0%と前年の2.9%を大きく上回った。大気汚染対策において重要なのがエネルギー消費構造の改革、すなわち石炭から天然ガスや非化石エネルギーへのシフトである。総量は増加を続けるエネルギー消費だが、その内訳を見ると、2018年の速報値では石炭が初めて60%を下回り、天然ガスは7.8%、非化石エネルギーは14.2%と前年度比で上昇、政府目標に向けて順調な推移を見せている(2017年までの比率は連載第2回図3参照)。

連載第3回「石炭大国・中国のいま」では、エネルギー構造改革においてカギとなる石炭の需給状況を概観し、「石炭を減らす」という目標に向けた政策動向を解説したが、次項より今回の主題である「天然ガスを増やす」という部分について解説する。

政策的な天然ガス需要喚起と市場の混乱

「エネルギー発展“十三五”計画」における政府目標は、2020年までに一次エネルギー消費に占める石炭比率を58%以下まで減らし、天然ガス比率を10%以上にするというものだ。天然ガス比率は2018年に7.8%まで上昇しているが、過去数年間の増加率から計算すると「2020年に10%」という目標達成は難しいと言わざるを得ない(連載第2回参照)。

それでも中国における天然ガス消費量は増加を続けている(図1)。2017年は2007年比で3倍を超えた。国別で見ても、世界の天然ガス消費に占める中国のシェアは7.4%で、米国(21.2%)、ロシア(11.8%)に次いで第3位である(2018年)3。2006年にシェア1.9%で国別10位にも入っていなかった中国は急激に天然ガスの一大消費国となった。

同じく図1で天然ガスの用途別消費量の推移を見てみると、量的に消費増を牽引しているのは4割程度の比率を維持している製造業部門である。電力用途は比率を高めているが、世界平均40%に対して20%に満たない中国の天然ガス発電は遅れていると言わざるを得ない。発電コストの上昇は消費者が負担する電気料金へ、すなわち国民や企業へ負担が転嫁される。安価な国内産の石炭が豊富でかつ長期にわたって石炭発電を主としてきた中国にとって、天然ガスシフトが急には進まないのはやむを得ない事情と言えよう。また、家庭での暖房や厨房用燃料の天然ガスシフトも、発電と同様に家計におけるコスト増が足枷となる。石炭から天然ガスへの転換によるコスト増に耐えられるのは、発電や家庭消費よりも産業分野、特に高付加価値帯に位置する製造業の工場熱源である。工場熱源の天然ガスシフトは大気汚染の改善にも貢献する。政策的に製造業分野における天然ガスシフトを優先的に進めているというのは頷ける。

図1 天然ガス消費量と用途別割合の推移

図1 天然ガス消費量と用途別割合の推移

(出所)『中国能源統計年鑑2018』より筆者作成。

ここ数年間の中国の天然ガス消費量の増加は、中国政府による介入が大きく影響している。特に2017年に消費量が急増したのは、「煤改気」4と呼ばれる石炭から天然ガスへのシフトを強制的に促す政策が背景となっている。厳格な問責規定も定められたこの強制的な石炭消費抑制政策により、2017年後半から中国北部を中心に天然ガス需要が急激に拡大した。この結果、天然ガス不足が深刻化し価格が高騰する。

9月上旬に10ドル/MMBtu5以下だった液化天然ガス(LNG)の国内卸価格は12月に20ドルを超え、操業停止に追い込まれる工場も続出した。日本のLNG輸入価格も8月に6ドル/ MMBtu程度だったものが12月には10ドルを超えるなど、中国の旺盛な需要増は国外市場にも影響を及ぼした。連載第3回で、政策による強制的な石炭生産量抑制が価格高騰を招いた2016年の事例を紹介したが、翌2017年には天然ガスにおいても強制的な政策介入により市場が混乱したことになる。

輸入比率上昇と伸び悩む国内生産
図2のとおり、急増する天然ガス需要に国内生産が追いつかない中国では、他のエネルギー資源と同様に輸入依存度が高まっている。2006年の天然ガス輸入開始から年々輸入量を増加させてきた中国だが、2018年輸入量は前年比32%増で1250億㎥に達し、日本を抜き世界最大の天然ガス輸入国となった。2005年まで天然ガスを自給していた中国だが、15年足らずで国内消費の半分近くを輸入に頼ることとなった。

図2 中国における天然ガス需給と対外依存度の推移

図2 中国における天然ガス需給と対外依存度の推移

(出所)『中国能源統計年鑑2018』(2017年まで)および『2018年国内外油気行業発展報告』(2018年)より筆者作成。
(注)2018年の輸出量はデータ無し。
中国の天然ガス輸入は、パイプライン(PL)経由での輸入と船舶による液化天然ガス(LNG)輸入との2種類に分かれる。2016年頃まではPL輸入が過半を占めていたが、2017年の半ば以降、LNG輸入がその比率を高めている(図3)。国別では、トルクメニスタン(PL)、豪州(LNG)の2カ国が主要調達先だが、ASEAN各国やカタールからの輸入も比率を高めている。また2017年以降、米国産LNG輸入やロシア極東産ガス輸入(PL)などが開始されており、調達先の多様化と輸入量のさらなる増加が見込まれる。

図3 中国の天然ガス国別輸入量の推移(月次)

図3 中国の天然ガス国別輸入量の推移(月次)

(出所)「ICIS中国天然ガス市場月報」より筆者作成。

PL経由の天然ガス輸入にはインフラ投資が必要だ。そのため急激な需要増への対応はスポット契約によるLNG輸入に頼らざるを得ない。しかしLNGはPLに比して輸入価格が高い。現在、世界一のLNG輸入国は日本であり、東アジアにおけるLNG取引では日本の輸入価格がインデックスとされるが、その価格は北米や欧州での取引と比して割高で「アジア・プレミアム」とも呼ばれる。割高なLNG調達を余儀なくされる天然ガスの国際市場構造は日本にとっても解決すべき課題だが、日本の取引価格をベンチマークとする中国のLNG輸入も同様に割高であり、両国に共通する課題と言える。

エネルギー安全保障の観点から言えば、増加する天然ガス需要は十分な埋蔵量があるとされる国内生産で賄うべきだが、国内生産量は思ったように伸びていない(表1)。特に国際的な原油価格が一気に下落した2014年以降、大手国営石油会社による新規の資源開発投資が急激に落ち込み、2015年から2016年にかけ天然ガス生産量は足踏み状態でであった。2016年に国際原油価格が底打ちすると新規資源開発投資が回復の兆しを見せ、天然ガス生産量も再び増加を始めたが、2018年もその増加率は一桁台にとどまった。

表1 天然ガス国内生産量の対前年度比伸び率

2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
18.7% 18.3% 16.0% 6.2% 12.3% 10.0% 5.0% 9.3% 7.7% 3.4% 1.7% 8.2% 6.3%

(出所)『中国能源統計年鑑2018』より筆者作成。

価格が下落すると直ちに生産コストが見合わなくなり新規開発に資金が回らなくなるのは、国内の天然ガス生産コストが国際水準と比して高いことの表れだと思われる。特に中国で天然ガス増産に期待がかかるシェールガスの生産コストが極めて高いという話を筆者は多くの専門家から耳にした。2015年の春頃、筆者は大手国有石油会社の幹部に「現在のガス価格でシェールガス生産はコストが見合うか?」と質問したことがある。その回答は「確かに経済性は無い。しかし既に始めた生産を止めるわけにはいかない。続けることで技術と経験が獲得できるし、何より“中国でシェールガスが採れる”という事実が大事だ」というものであった。当時の国際天然ガス価格は9ドル/MMBtu程度(日本のLNG輸入価格)。一方、経済産業省が発表する『エネルギー白書2015』の第1章「「シェール革命」と世界のエネルギー事情の変化」がBPデータの引用として記載しているところによれば、米国産シェールガスの平均損益分岐点は4.85ドル/MMBtuである。

つまり、米国産シェールガス損益分岐点の2倍の価格でも中国のシェールガス生産はコストが見合わない、すなわち中国の生産コストは米国の2倍以上ということになる。次項では、シェールガスの生産コストを、その生産現場の様子から考察してみる。

コスト優位性の低い中国シェールガス生産

2018年中国の天然ガス生産量1573億㎥のうちシェールガスは110億㎥で、比率こそ10%以下にとどまるが、2012年の生産開始(同年の生産量は0.3億㎥)から生産量は一貫して飛躍的な増加を遂げている。政府目標では2020年に300億㎥まで増やすとされる。

シェールガスは、地下千数百メートルでドリルを水平方向へ移動させる技術(水平坑井)や、地下の高圧環境下で亀裂を安定させてガス抽出を可能とする水圧破砕技術などが1990年代後半に米国で確立され、2000年代に入って本格的に生産が開始された。中国では2012年に生産を開始、可採埋蔵量こそ米国をしのぐと言われるが、経済性すなわち生産コストに大きな課題があると言われている。中国での天然ガス生産コストを知りうる客観的な統計は無いため推測の域を出ないが、ここで米中それぞれのシェールガス田の写真を比較してみたい。

写真1は、米国ワイオミング州のシェールガス生産フィールドである。平坦な荒野に無数のサイト(ガス井設備用地)の跡地が見てとれる。シェールガス田は在来型ガス田と比べ井戸あたりのライフサイクルが短い。一般的に1本の井戸は約5年間で非採算となり休止する。フィールド全体で生産量を維持し採算性を保持するには、断続的に井戸を掘り続ける必要がある。例えば、北米最大のシェール・フィールドであるパーミアン地区6では、最盛期(2015年頃)の稼働リグ(坑井掘削装置)数は1000を超え、2017年末時点で掘削済み生産待ち井戸数は約2600にも上った。つまり、シェールガス生産では断続的に井戸を掘り続けることができる地理的条件が必要となってくる。中国はどうだろうか。

写真1 米国ワイオミング州のシェールガス生産フィールド

写真1 米国ワイオミング州のシェールガス生産フィールド
写真2は、現在中国で最大産出量を誇る重慶市フーリン区に位置するシノペック社のシェールガス田のサイトの一つである。この時は水圧破砕作業の段階であった。サイトは山間の小さな平地に建設され、周囲は起伏に富み農家や畑も隣接している。前述のとおりシェールガス田は断続的に井戸を掘り続ける必要があるため、この山岳地帯一帯に同様のサイトが無数に点在している。あるサイトから別のサイトまでの移動は曲がりくねった山道である。サイト建設には多数のトラックや重機が必要だが、一歩間違えれば谷底へ転落するような難路を通す必要がある。またシェールガス生産には大量の水を必要とするが、各サイトでは数キロ離れた河川から起伏ある地形にパイプラインを敷設して運んでくる。北米のように平坦で広大な荒野にシェールガス・フィールドを建設するより、遥かに多大なコストがかかっていることが容易に想像できる。

写真2 重慶市フーリン区に位置するシェールガス田の第51号サイト

写真2 重慶市フーリン区に位置するシェールガス田の第51号サイト(2014年12月)

中国が高まる天然ガス需要への対応として国内増産を目指すには、生産コストの高さが一つの足枷になると思われる。2017年頃から資源価格の上昇を背景に国内資源開発投資額は再び増加傾向にあり、2019年から天然ガス生産量もその増加速度を増すことが予想されるが、それを上回るスピードで需要が伸びれば引き続き輸入に頼らざるを得ない。

まとめ――天然ガスは普及するか?

中国における天然ガス需要は、強引な政策運営が市場混乱を招くことはあるものの、政府主導により順調に総量を伸ばしている。しかし、解決すべき課題は残る。

例えば、中国国内では天然ガス普及のため国内取引価格が政府により低く抑えられてきた。特に国際的に天然ガス価格が高騰していた2012年から2014年頃は、消費地における卸売価格が輸入価格を下回る現象も生じた。仮に輸入価格と卸売価格が同額であっても、輸入業者にとっては小売業者に販売するまでの国内流通コスト分が損失となる。それはこれまで補助金等で政府により補填されてきたが、そういった市場原理に反する国内価格統制は長期的に見ると天然ガス普及の足枷になる。2015年頃からは国際価格と連動して中国の天然ガス輸入価格も下落し、補助金が必要な“逆ザヤ”現象は解消されているが、2018年5月に国家発展改革委員会が「家庭用天然ガスのシティゲート価格調整に関する通知」を出すなど政府は国内市場の健全化を進めている。

また、天然ガスの普及には全国津々浦々に天然ガスを届けるインフラ整備も不可欠だ。既出のとおり現在は製造業における天然ガスシフトが消費増を牽引しているが、交通分野や家庭消費を増やそうとすれば都市を中心に末端パイプライン網を整備しなければならず、また発電部門における天然ガス消費を世界標準まで増やそうと思えば石炭との価格競争が足枷となる。

「2020年までに天然ガス比率10%以上」という目標達成には、2019年、2020年と、天然ガス消費量の増加ペースを速めなければならない。消費量が拡大すればそれを満たす供給も確保しなければならない。また前例のとおり政策による強引な需要喚起は市場に混乱を及ぼしかねない。クリーンエネルギーへのシフトは、無理なく着実に進める必要がある。

「石炭を減らし、天然ガスを増やす」。このもっとも重要なエネルギー転換につき、連載第3回、第4回で解説してきたが、次回以降は、中国における大気汚染対策に必要な他の要素、すなわち、石炭のクリーン利用、再生可能エネルギーの導入、排気ガス等の環境規制について現状と課題を見ていきたい。

写真の出典
  • 写真1 Peter Aengst, Shows the potential surface impact of vertically drilled wells (Wyoming)(CC-BY-SA-4.0[https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/ deed.en]).
  • 写真2 筆者撮影
著者プロフィール

森永正裕(もりながまさひろ) アジア経済研究所研究企画部研究企画課長。1996年、北京大学へ短期留学。2006~2010年、ジェトロ上海事務所にて知的財産権事業担当。2014~2017年、(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)北京事務所長。合計で8年近く中国の空の下で暮らす。

  1. 「AQI」=Air Quality Index:中国生態環境部(旧環境保護部)が発表する空気質量指数。
  2. 「习近平在气候变化巴黎大会开幕式上的讲话(全文)」新華社、2015年12月1日。
  3. BP Statistical Review of World Energy 2019より。
  4. 「煤改気」とは「煤=石炭」を「気=天然ガス」に転換(=「改」)するの意。
  5. 「MMBtu」=百万英国熱量単位(1 million British thermal unit)。1MMBtu=約0.021トン(LNG)=約25㎥(気体ガス)。
  6. テキサス州からニューメキシコ州にまたがる盆地。
【連載目次】

(世界を見る眼)中国の空は青くなるか?――資源エネルギーから見た低炭素社会への道――