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中国:深圳のスタートアップとそのエコシステム(Ver.3)

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2016年11月
1. はじめに

中国経済の成長が減速したため、経済構造の転換が進むのか否かに、世界の注目が集まっている。中国政府も、減速を「新常態(ニューノーマル)」と表現することで中国経済が新しいステージに入ったことを強調するとともに、産業構造の転換と高度化のために、「互聯網+(インターネットプラス)」や「大衆創業、万衆創新(大衆の創業、万人のイノベーション)」(「双創」)、「中国製造2025」、「供給側改革」など、各種政策を打ち出してきた。しかし、企業にとって成長戦略を変えることは、これにともなうリスクやコストも考慮しなければならない。また、政府にとって構造改革を行うことは、既得権にメスを入れる難しさや、改革にともなう成長率の鈍化や失業率の上昇といった痛みをどこまで許容できるかというバランスの問題もある。そのため、これまでの成長パターンを転換することは本質的に難しく、構造転換が遅々として進まない部分も出てくるが、一方で、産業によっては新たな成長の担い手がたくさん生まれていることも事実だ。中国人成人のうち創業準備中か起業して間もない人の割合は13~24%程度で、日本の同3~5%程度よりもずっと高い(丸川2016a)1

したがって、中国経済の行方を理解するためには、停滞する部分ばかりでなく、勢いが増す部分にも注目していく必要がある。今、多くのハードウェア系スタートアップ/メイカーが生まれている街として、世界の注目を集めているのが広東省深圳(シンセン)市だ2。ハードウェアの開発と量産には多くのコストがかかるため、ソフトウェアやインターネット関連事業に比べれば起業が少なかったものの、近年、深圳を中心に増加傾向にある。

そこで木村(2016a)では、スタートアップ増加の背景や政府の関連政策を紹介した。スタートアップ増加の背景を大別すると、(1)中国製造業の変調と、(2)世界的な事業環境の変化の二つに分けることができる 3 。(1)は、2000年代半ばから賃金が高騰し、廉価で豊富な労働力を活かした加工・組立が困難になった点が主因だ。1990年代末から、中国は製造業「大国」だが「強国」ではない、といった表現で製造業の費用構造などの課題は認識されていたが、成長パターンを維持できる限りにおいて課題は潜在的なものに留まった。しかし、賃金高騰と、景気減速がとどめとなって課題が顕在化すると、産業構造の高度化や製品の高付加価値化が重大テーマとなった。既存企業が成長パターンの転換に取り組む一方、製品開発に取り組むスタートアップが増えるようになった。つぎに、(2)は、これをさらに大別すると、(2-1)新しい市場の誕生と、(2-2)生産システムの変化という需給双方の変化に分けることができる。(2-1)の市場面では、インターネットの影響がモノの領域にもおよんだり(IoT)、スマホが普及したりしたことで、新製品開発の余地が生まれた。また、現時点では消費者向けのIoT製品は市場全体を合わせても、10年以上におよんだケータイ/スマホ・ブームに比べれば小規模なものの、製品開発のための「スタートアップ/メイカー市場」といったものが大きくなっている4。つぎに(2-2)の生産システム面では、オープンソースのソフトウェアやハードウェア、3Dプリンター、Kickstarterなどのクラウドファンディング、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などのクラウド・コンピューティング・サービスの登場によって、事業を立ち上げるコストが低下した。中国製造業が変調をきたすようになったタイミングで、事業環境が世界的に変化したことで、中国における産業構造の転換と高度化は、この変化を積極的に取り込んでいくことになる。上述の「双創」政策はこの動きを後押ししようというものだ。

本レポートの以前にも、深圳のハードウェア系スタートアップ/メイカーとそのエコシステムを紹介してきた(木村2016a, b, c, d)。執筆にあたって筆者は、自身の現地調査(随時)やAmerican Chamber of Commerce in Hong Kongの調査ミッション(2016年6月28日)への参加に加え、高須正和氏(チームラボ)が企画する第4~6回ニコニコ技術部深圳観察会に参加した5。第4回は2016年4月開催(表1)、第5回は同年8月開催(表2)、第6回は同年10月開催(表3)であった。本レポートでは、メイカー・フェア深圳2016(Maker Faire Shenzhen 2016)と第6回ニコニコ技術部深圳観察会(それぞれ表3の前後半)に参加した成果を、第4回と第5回の報告(木村2016b, c)に続くVer. 3として報告する。観察会やメイカー・フェアに参加することで深圳経済の新しい動きをあらためて知ることができたことはもちろん、各回の観察会における約25名の参加者の多くが、企業や大学などでモノづくりやプログラミングに携わっているため、交流を通じて技術の見方について理解を深めることができた。以下では、中国経済の変化という視点から観察会で見聞きしたことと、その後調べたことを整理したい。これが中国経済の行方を考えるための一助になれば幸いである。

表1 第4回ニコニコ技術部深圳観察会
月・日 訪問先
4月13日 深圳矽递科技有限公司(Seeed Technology Limited)
光陽模具製品(深圳)有限公司(Guangyang Molds Products Co., Ltd. (Shenzhen))
深圳市豊達興線路板制造有限公司(Shenzhen Hopesearch PCB Manufacturing Co., Ltd.)
4月14日 深圳開放創新実験室(Shenzhen Open Innovation Lab;SZOIL)
深圳市楽美客科技有限公司(Shenzhen LeMaker Technology Co., Ltd.)
深圳市創客工場科技有限公司(Shenzhen Maker Works Technology Co., Ltd.)
創世訊聯科技(深圳)有限公司(Jenesis (Shenzhen) Co., Ltd.)
4月15日 深圳市賽格創業匯有限公司(SegMaker)
HAX(旧HAXLR8R[ハクセラレーター]。SOSV LLCの一部門)
電気街(華強北)の見学

表2 第5回ニコニコ技術部深圳観察会
月・日 訪問先
8月15日 敏捷製造中心(Agile Manufacturing Center;AMC。Seeedの一部門)
景豐電子有限公司(Shenzhen Kingvinew PCB Co., Ltd.)
深圳創想未来機器人有限公司(NXROBO)
Kitten Technology Co., Ltd.
8月16日 深圳開放創新実験室(Shenzhen Open Innovation Lab;SZOIL)
深圳市格外設計経営有限公司(inDare Design Strategy Limited)
柴火創客空間(Chaihuo Makerspace。Seeedの一部門)
深圳市創客工場科技有限公司(Shenzhen Maker Works Technology Co., Ltd.)
創世訊聯科技(深圳)有限公司(Jenesis (Shenzhen) Co., Ltd.)
8月17日 HAX(SOSV LLCの一部門)
賽格国際創客産品展示推広中心(賽格創品;SEG Cpark)の見学
香港創意服務有限公司(Hong Kong Innovation Services Limited;HKIS)
(注)8月17日の日程は、筆者が参加した部分のみ。
表3 メイカー・フェア深圳2016と第6回ニコニコ技術部深圳観察会
月・日 訪問先
10月23日 メイカー・フェア深圳2016(初日)の見学
潘昊(Eric Pan)氏(Seeed総経理)と銭源(Alex Qian)氏(万科集団城市規画院・院長)の囲み取材に、高口康太氏(KINBRICKS NOW)の招待で参加
10月24日 メイカー・フェア深圳2016(最終日)の見学
DJI旗艦店(歓楽海岸)の見学
HAX(SOSV LLCの一部門)のオープン・ハウスに参加
10月25日 深圳創想未来機器人有限公司(NXROBO)
敏捷製造中心(Agile Manufacturing Center;AMC。Seeedの一部門)
深圳市創客工場科技有限公司(Makeblock Co., Ltd.)
創世訊聯科技(深圳)有限公司(Jenesis (Shenzhen) Co., Ltd.)
10月26日 華強北国際創客中心(Huaqiangbei International Maker Center)
Troublemaker Shenzhen
深圳市薈図科技有限公司(Shenzhen HiTon Technology Co., Ltd.)
深圳市賽格創業匯有限公司(SegMaker)
賽格国際創客産品展示推広中心(賽格創品;SEG Cpark)などの見学
(注)10月26日の日程は、筆者が参加した部分のみ。
2. エコシステム
Seeed

深圳におけるエコシステムの源流の一つは、2008年に潘昊(Eric Pan)氏が、スタートアップ/メイカーをサポートするための深圳矽递科技有限公司(Seeed)を設立したことに始まる(高須ほか2016)(写真1)。Seeedの事業はプリント基板の製造受託から始まったが、現在のサポートは製品の設計から製造、販売にいたる幅広い領域におよんでいる。同社のサービス・ラインナップには、プロトタイピングから大量生産、流通までのワン・ストップ・サービスを提供するPropagateや、製品のオンライン・マーケットであるBazaarなどがある。また、メイカースペースの柴火創客空間(Chaihuo Makerspace)を開設しており(写真2左)、柴火が中心となってメイカーのイベント・メイカーフェア深圳を開催してきた(写真3)。柴火には、李克強首相が「双創」を盛り込んだ政府活動報告を公表(2015年3月)する少し前に視察で訪問(同年1月)しており、李首相が起業を通じたイノベーションを重視している様子をうかがい知ることができる。また、製造拠点の敏捷製造中心(Agile Manufacture Center;AMC)には、表面実装(SMT)のための装置も備えており、本製造拠点の売上の多くは自社製品の組立だが、受託製造も行っている(写真2右)。受託製造については、中国国内からの注文も増加傾向にあるが、今のところ、約90%が海外からのものだ。Seeedは世界中の起業家にとって有名な存在となっている。

写真1 Seeedの本社と創業者

写真1 Seeedの本社と創業者

(出所)筆者撮影。

写真2 Seeedの事業

写真2 Seeedの事業

(出所)筆者撮影。

写真3  メイカー・フェア深圳2016

写真3  メイカー・フェア深圳2016

(出所)筆者撮影。

幅広い事業のなかで、収益の柱となっているのは製品開発のためのキットの販売だ。キットには、タッチセンサーなどの各種機能が搭載されたモジュールのGroveシステム(写真4左)や、ウェアラブル・デバイスを作製するためのXadowシステムといったオープンソース・ハードウェアがある。製造受託同様、キットも海外からの注文が多い。なお、Seeedは今後、IoTをキーワードにした産業界向けの事業と、子どもがモノづくりを体験することができる教育用キットの販売の二方面から、さらなる成長を目指したいとのことであった。アマゾンのAWSなど、大手の製品・サービスを活用したシステムを開発するためのキットもすでに販売している(写真4右)。

写真4 Seeedのキット

写真4 Seeedのキット

(出所)筆者撮影。
HAX

Seeedとともに深圳のエコシステムの発展を担ってきたのがHAXだ(写真5)。HAXはベンチャーキャピタル(VC)SOSVの一部門で、Cyril Ebersweiler氏やBenjamin Joffe氏らが2011年、潘氏も関わりながらハードウェア系アクセラレータとしてこれを設立した6。ハードウェア事業はソフトウェア事業と比べて、プロダクトを物理的につくってみなければならない分、リスクやコストが大きくなる。そのため、投資家もハードウェア事業よりもソフトウェア事業への投資を好む傾向があるが、HAXはハードウェア系スタートアップに特化した投資を行っている。

写真5 HAX

写真5 HAX

(注)HAXは第5回観察会の約半月前に華強北のなかで移転した。上段の2枚は移転前、下段の2枚は移転後。
(出所)筆者撮影。

HAXは半年ごとに15チーム(チームは3~5名体制が多い)を選んで、各社に資金を提供するとともに、事業を軌道に乗せるため、プロトタイピングやサプライチェーン管理、マーケティング、クラウドファンディングなどの各種アドバイスを111日間にわたって行う(最後の2週間はサンフランシスコでデモを行う)7。これに対してHAXは、10万米ドルの資金提供に対して9%の株式を取得し、最終的にはスタートアップがIPO(新規株式公開)かM&A(合併・買収)でエグジットする際に資金回収することを目指す。卒業チームの出自と割合は、北米が約60%、欧州が約20%、アジアが約20%(中国が多い)であり、世界中の起業家が珠江デルタのサプライチェーンを活用しながら、新製品を開発してきた。急成長した企業には、後述の深圳市創客工場科技有限公司(Makeblock)や、家庭用調理器具のNomikuなどがある。

起業の拠点

SeeedやHAXのほかにも、ハードウェア系スタートアップ/メイカーを支援するための組織や施設は増えており、新しい深圳を生み出そうとするうねりは大きくなっている。深圳市南山区政府と中国科学院深圳先進技術研究院(Shenzhen Institutes of Advanced Technology, Chinese Academy of Science)は2014年、深圳国際創客中心(International Maker Hub)やここをベースにした中科創客学院(Maker Institute, CAS)を設立した8。また、深圳市は2015年、中央政府の関連政策を受けて、「深圳市促進創客発展三年行動計画(2015–2017年)」を発表している(深圳市人民政府2015)。同計画によれば、市内に「創客中心」(メイカースペースやファブラボ)を毎年50カ所新設することや、2017年末までにこれを200カ所にすることを目標とするほか、各種イベントを開催していこうとしている。類似の政策が中国全土で実施されており、深圳も含めた中国のハードウェア系エコシステムは、2015年から政府の後押しが強くなった。これがいつまでどのようなかたちで続くか、それが起業を通じたイノベーションにどのような影響をおよぼすのか、その実態を細かに見ていく必要がありそうだ。

2015年には、木村(2016a)でも紹介した華強北国際創客中心(Huaqiangbei International Maker Center)に加え(写真6)、深圳開放創新実験室(SZOIL)や深圳市賽格創業匯有限公司(SegMaker)もオープンしている。華強北国際創客中心には現在、34チームが入居している。うち4チームは海外(ノルウェイ、フランス、インドネシア、韓国)からだ。これまでに80~100チームが入居したが、半分がすでに撤退した。滞在期間は平均すると半年だが、短いチームだと3カ月、長いチームだと開所当初から入居しすでに約1年におよぶところもあり様々だ。開所当初は多くの問い合わせがあったが、今は少し落ち着いているとのことであった。起業熱の高まりとともに、開業のための拠点も急増したことが背景にある。華強北国際創客中心には、知的財産権(IP)に関わるオフィスのほか、ハードウェア系アクセラレータTroublemaker Shenzhenも入居している(写真6下の右)。Troublemakerは、自身がスタートアップに投資しているわけではないが、プラットフォーム・コミュニティのため、投資家や製造業者など、様々なリソースを結び付けている。顧客は欧米からのチームで過半を占めるが、アジアからのチームも多い。また、華強北国際創客中心は、新しく開発された製品の販売を行う深圳市薈図科技有限公司(Shenzhen HiTon Technology)とも提携している(写真7)。入居チームの製品だけを取り扱っているわけではないが、ドローンや家庭用ロボット、ホバーボード、スマートライトなど、新しいジャンルの製品を取り扱っている。ドローンなどいくつかの製品の売上は好調とのことだったが、ロボットはまだ実用性に乏しいためこれからのようであった。

写真6 華強北国際創客中心

写真6 華強北国際創客中心

(出所)筆者撮影。

写真7 薈図科技

写真7 薈図科技

(出所)筆者撮影。

つぎに紹介するSZOILは、創客大爆炸(Maker Collider)と深圳市工業設計行業協会(SIDA)によって設立されたメイカーのためのプラットフォームで、深圳市からの支援によって運営されている(写真8左)。2015年10月の第1回全国大衆創業万衆創新活動周(「双創周」)深圳会場の運営にも関わった。なお、SZOILが入居する中芬設計園(Sino-Finnish Design Park)は、2013年に深圳市がフィンランド・ヘルシンキ市と友好交流都市となった後に、両市がデザイン業の発展のために設立した施設である。同園には深圳市格外設計経営有限公司(inDare Design Strategy Limited)を始めとした多くのデザイン企業が入居している。最後に、SegMakerは、深圳市所管の国有企業である深圳市賽格集団(Shenzhen Electronics Group)によって設立されたオフィス・スペースだ(写真8右)。開設にあたっては、DMM.comのDMM.make AKIBA(東京都)も参考にしたようだ(写真9)。SegMakerは政府系の施設のため、政府からの資金が得やすいというメリットが入居チームにあることを強調していた。2016年4月時点の入居企業は、ロボット作成プラットフォーム企業を含めた6社で空きスペースも目立っていたが、同年10月時点では30社に増えていた。今回訪問したフロアは大部屋だったが、成長したチームのための個室も別フロアに用意されているようだ。また、賽格集団は2015年11月から製品の展示場も運営しており、起業家や消費者の交流を促進しようとしている(写真10)。

写真8 SZOILとSegMaker

写真8 SZOILとSegMaker

(出所)筆者撮影。

写真9  DMM.make AKIBA(東京都)

写真9  DMM.make AKIBA(東京都)

(出所)筆者撮影。

写真10  SEG CPARK

写真10  SEG CPARK

(出所)筆者撮影。
製造業者

深圳でハードウェア系の起業や本節で紹介したような起業支援企業が増えているのは、深圳を含む珠江デルタにモノづくりのためのサプライチェーンが整っているからだ。深圳は、1979年に輸出特区、1980年に経済特区の一つに指定されてから、安価で豊富な労働力を求めて多くの製造業者が集積する街となった。その過程で華強北にはエレクトロニクス製品・部品の市場も形成された。世界を代表するこの中国エレクトロニクス産業には、主に先進国企業が開発した高価な新製品を安価にした、「山寨」製品などと呼ばれるコピー品を製造・販売するための高度な分業体制も含まれている。「山寨」製品は、ただの安価な粗悪品ばかりではなく、「山寨」業者間の競争も激しいため、消費者の利便性を向上させたかゆいところに手の届くアイディア商品が多いことも非常にユニークな特徴だ。商機を見出した人々がサプライチェーンと結びつくことで、多様な製品を早いテンポで市場に投入してきた。

しかし、中国における賃金高騰や世界的な景気不透明感に加えて、先進国で開発・市場創出された製品の多くが中国市場でも普及した今、今度は中国のなかで新製品を生み出すことに期待が高まっている。これを受けて、スタートアップ/メイカーのモノづくりを支える製造業者も増えている。プラスチック加工の光陽模具製品(深圳)有限公司や、プリント基板製造の深圳市豊達興線路板制造有限公司や景豐電子有限公司は、Seeedと提携することで、起業家向けの製造も行っている(それぞれ写真11の左、央、右)。光陽と豊達興は、年々厳しくなる顧客の要求に応えるため、製造過程の多くを自動化することで品質を向上させていることと、研究開発(R&D)チームを抱えることで数々の技術的課題をクリアできるようにしている点を強調していた。また、景豐も品質向上に力を入れており、日本からの注文が売上の約20%を占める。同業他社との競争は激しくなっており、多額の設備投資を行うだけの資金が準備できなければ、事業の存続は難しい。そのため、光陽では従業員の約10%にあたる10数名が、豊達興では同約5%の約20名がR&D人員である9。また、景豐も数名のR&D人員を有しているとのことであった。どのようなスペックの生産設備を持ち、どれくらいの人月を技術開発にあてるのが最適なのかは別途検討する必要があるが、人件費が高騰するなか深圳市内で操業を続けていくためには、品質の向上が不可欠のようだ。

写真11 製造企業

写真11 製造企業

(出所)筆者撮影。

写真12は藤岡淳一氏が2011年に創業した創世訊聯科技(深圳)有限公司(Jenesis)だ。深圳のJenesisを含むジェネシスホールディングス(東京都)は、日本企業のために小ロットから中ロット(1,000~10,000台)の製造受託や、品質管理検査代行、アフターサービス(宮崎県)などの各種サービスをワンストップで提供している。藤岡氏は1990年代末からさまざまな企業で製造受託業に携わっていたが、日本企業が要求するロット数や仕事の進め方に対応してくれる製造企業が少なくなったため、組立・検品を行う工場を設立するにいたった。近年は学習塾やカラオケ店用の端末や、日本交通のタクシー用ドライブレコーダーなど、非電子メーカー向けの専用ハードウェアを製造する機会が急増している10。また、ICT/IoT産業の発展のため、スタートアップ/メイカーが製品を量産化する際のサポートも行っている。

写真12 Jenesis

写真12 Jenesis

(出所)筆者撮影。

スタートアップ/メイカーの小ロット生産に対応する製造企業も増えているが、大ロット生産と比べれば単価の上昇は不可避のため、発注側でもさまざまな工夫が必要となる。藤岡氏によれば、まず、機能の多くはソフトウェア側で実現するようにし、ハードウェア側は最低限の機能を盛り込むに留めた方がよいとのことであった。また、ハードウェアを既製部品の組み合わせで構成可能なものにすれば、金型を起こす必要がないため、IoTデバイス1台を約40米ドル(加工賃込み)で組み立てることができるようになり、1,000台を調達するための予算も約40,000米ドルに抑えられる。100台程度の際も、金型を用いた量産を選択すべきではなく、3Dプリンターやコンピュータ数値制御(CNC)工作機械を用いて1台1台製作することで、低コストを実現することができる。限られた予算で事業を軌道に乗せるためには、量産にともなうコスト構造を理解したうえで、それに適した設計・製造を選択する必要があるようだ。

3. スタートアップ
Makeblock

充実する深圳のエコシステムのなかで急成長してきた企業の一つが、深圳市創客工場科技有限公司(Makeblock)だ(写真13)。Makeblockはロボット作成プラットフォームMakeblockを販売している。同社が提供する各種パーツやプログラミング・システムを利用することで、ロボットや3Dプリンターなどの組立・コントロールが可能となる。王建軍氏が2011年に創業した同社は、2016年8月時点で約250人の従業員を擁する企業となった。王氏は上述の柴火やHAXでMakeblock事業を構築してきた。売上の約70%は欧米向けで、とくに売れているのはSTEM教育用のロボットキットmBot(74.99米ドル)だ(写真14上の左)。これを通じて、プログラミングや電子工学、ロボット工学の基本を学ぶことができる。最近開発した製品には、プログラミングの基礎を学ぶことのできるCodeybot(Kickstarterでの資金調達に成功)や、ドローンを組み立てることのできるAirblock(Kickstarter出品中)があり、ラインナップを拡充させている。事業が急拡大してきた一方で、Makeblockに似たシステムを販売する企業も増えている(写真14上の左以外)。従業員によれば、Makeblockの優位性はプログラミング・システムやコミュニティなどさまざまなファクターから成り立っているため、完全な模倣は難しいはずとのことであった。模倣の被害を減らすためには、知的財産権を守るだけでなく、簡単に模倣できないよう、事業をさまざまなファクターから構成することも必要なようだ。海外市場ではブランド力のあるMakeblockだが、価格が高いこともあって、国内市場では安価な製品が出回る可能性も高い。今後どのように国内外で事業を拡大していくことができるのか興味深い。

写真13 Makeblock

写真13 Makeblock

(出所)筆者撮影。

写真14 「青いロボット」の増殖

写真14 「青いロボット」の増殖

(出所)日本現代中国学会第66 回全国学術大会(期間:2016年10月29日・30日、会場:慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス[SFC])
分科会(座長:丸川知雄教授[東京大学])での報告スライドより。写真は筆者撮影。
LeMaker

2014年創業の深圳市楽美客科技有限公司(LeMaker)は、Banana Piや上位機種のBanana Proを始めとしたオープンソースの小型コンピュータ(single board computer;SBC)を販売している(写真15)。先発製品である英国のRaspberry Piとスペックなどは異なるが、互換性も備えているようだ。また、LeMakerは、自転車のスポークに装着し、走行中の車輪部分に動画を表示することのできるBalightも開発しており、その製品ラインナップは広がっている(写真15右の黄色いX型の製品)11。同社は上述の中科創客学院を活用して事業を構築したり、華為(Huawei)からの出資を得たりするなど、深圳で利用可能なリソースを活用して成長してきた。

写真15  LeMaker

写真15  LeMaker

(出所)筆者撮影。

SeeedやMakeblock、LeMakerは、モノづくりのためのプラットフォームとなる製品やキットを提供しており、スタートアップ/メイカー市場やSTEM教育市場の拡大とともに、その事業も拡大しそうだ。メイカー・フェア深圳2016を見ても、開発ボードなどを提供するインテルをはじめとしたチップベンダーや、SeeedやLeMakerのように開発キットを提供する企業、Makeblockのようにロボット用プラットフォームを提供する企業、STEM教育スクールなどが多数出展しており、スタートアップ/メイカー市場が広がっている(あるいは広がりへの期待)を感じた。

NXROBO

本節最後に紹介するのは、2015年創業で、家庭用ロボットBIG-iを開発した深圳創想未来機器人有限公司(NXROBO)である(写真16)。人の音声や動作でロボットに機能を追加することで、BIG-iは条件に応じて家電を操作したり、必要な情報を報告したりすることができる。香港出身の創業者Tin Lun Lam博士(ロボット工学)は、約20名の従業員とともに約1年でこれを開発した。開発期間中は、3Dプリンター・メーカーの光韵達から提供された資金も使用した。音声プログラミングに関わる部分を始め、ソフトウェアに関しては多くの領域を自社開発したが、ハードウェアのほとんどは外部企業のリソースを活用した。2016年8月時点ではKickstarterに出品中であり、2016年末から量産を開始し、2017年4月の販売を予定している。NXROBOはBIG-iプロジェクトに加えて、ロボット開発のための教育用ロボットSparkも開発しており、現在、製品ラインナップの充実を図っているところだ。

写真16 NXROBO

写真16 NXROBO

(出所)筆者撮影。
4.考察

エコシステムの充実とスタートアップ/メイカーの増加によって、深圳の街はその姿を少しずつ変化させている。HAXやSegMakerを拠点にする起業家は模倣品も多い電気街(華強北)の一角で、SeeedやLeMakerはかつて多くの工場があったエリアで、そして、MakeblockやNXROBOは深圳をイノベーションの街にするため市政府が開発に関わった真新しいオフィス街や大学街で、新製品の開発と新しいビジネスの構築に取り組んでいた。この動きの意味を、中国経済の変化という観点から最後に整理しておきたい。

ウォークマンは生まれるか?

第一の変化は、エコシステムの充実によって、新製品開発に携わる企業の層がその厚みを増したことだ。賃金高騰などによって事業環境が変化するなか、GDPに対するR&D支出の割合が年々増加し、既存の中国電機・電子企業もR&D活動に注力するようになっているが、大企業や国有企業などが主で企業の規模や所有制に偏りがあった(木村2016e)。また、政府・国有企業主導のイノベーション活動は、市場を歪ませる結果にもなっていた(金2015)。

しかし、スタートアップ/メイカーが増加したことで、既存企業群の外にも中国経済を変容させる担い手が形成されつつある。10年以上におよんだケータイ/スマホ・ブームや、その後のタブレット型PCと比べると、爆発的に普及している製品はまだないものの、さまざまなIoT製品市場が急拡大しているため、複数の技術を組み合わせて新しい機能や市場を生み出すタイプのイノベーションが今後も増えるだろう12。ちょうど深圳が輸出特区や経済特区に指定されたころに開発されたウォークマンのような、私たちのライフスタイルを変える新しいコンセプトの製品が生まれるかもしれない。また、豊富なオープンソース・ソフトウェア/ハードウェアが利用可能になるなど、上述したとおり生産システムの変化も著しいため、製品開発のスピードがさらに上がっていく可能性が高い。深圳のイノベーション力の実際とその背景については、今後も注視していく必要がありそうだ。

中国生まれの生まれながらのグローバル企業(ボーン・グローバル企業)

第二の変化は、最初からグローバル市場を狙う企業が増えたことだ。中国企業の成長プロセスを市場から見ると、中国国内市場でシェア上位となってから、海外に進出する流れが一般的だった。また、海外市場も、先進国市場ではなく、発展途上国・新興国市場であることが多かった。比較的新しい製品であるスマホでも同じパターンだ。また、中国政府による「走出去(海外進出)」政策の後押しもあって海外進出は増えているが、一部の企業を除けば、まだそれほどグローバル市場を獲得しているわけではない13

しかし、ドローンの大疆創新科技(DJI)や、プラットフォーム製品を提供するSeeed、Makeblock、LeMakerは、大きな国内市場を擁する家電やスマホのような製品とタイプが異なるという背景もあるが、いずれもが海外市場、とりわけ欧米市場から開拓が始まっている14。グローバル化やスタートアップ・エコシステムの充実などを背景に、創業当初から海外進出を果たす、生まれながらのグローバル企業(born global firmあるいはborn global companyと呼ばれる)が世界的に増えているが、中国でも注目を集めるようになったことは新鮮だ。中国のハードウェア系ボーン・グローバル企業は、世界各地の新技術に敏感なユーザーや積極的にモノづくりを行うユーザーに向けて、新しいカテゴリーの市場創出にあまりタイムラグなく関わりながら成長してきた。中国の産業や市場が成熟してきたということも背景にあるが、メイカームーブメントという新しいモノづくりのあり方が国境を越えて広がっていることや(写真17)、深圳がサンフランシスコ・ベイエリア(シリコンバレー)などのエコシステムともつながりを深めていることも大きな特徴だ。つまり中国の経済構造をバージョンアップしなければならないタイミングで、スタートアップ/メイカーが世界的に増えていることは、中国経済のさらなる成長にとってはチャンスとなる。イノベーションと海外進出の双方で、中国を代表するグローバル企業がたくさん生まれる可能性がある。

写真17 メイカー・フェア・シンガポール2016に出展するSeeed

写真17 メイカー・フェア・シンガポール2016に出展するSeeed

(注)同フェアは2016年6月25日・26日の期間、シンガポール工科デザイン大学(SUTD)で開催。
(出所)筆者撮影。
グローバル都市・深圳になるか?

第三の変化は、深圳が世界のハードウェア系スタートアップ/メイカーの製品開発・製造拠点になっていることだ。もちろん、従来から多くのベイエリア企業が珠江デルタのサプライチェーンを活用しながら、製品開発や量産化を行ってきたため、ベイエリア企業と深圳のあいだにはつながりがあった。

しかし、最近は、世界中の起業家と中国の製造業をつなぐための硬蛋(IngDan)などが誕生したり(“Special Report: Hi-Tech Shenzhen,” South China Morning Post, May 11, 2016)、HAXの参加チームを始めとして深圳で製品開発を行ったりする外国人も少しずつ増えており、拠点化の流れはすでに新しいステージに入っている。HAXのJoffe氏によれば、外国人が深圳で製品開発をする際、言葉のカベやビジネス・スタイルの違いの存在が問題になっていることから、外国人と中国メーカーを仲介する組織の存在や、HAXが提供するトレーニングは重要となる。世界中でハードウェア系スタートアップ/メイカーは増えているものの、製造業が不十分な都市も多いため、これらの問題を解決するような仕組みがさらに整備されれば、深圳を軸に世界各地のハードウェア系エコシステムの一体化は加速するだろう15。世界の都市システムのなかで、深圳はイノベーションから見たグローバル都市としてその存在感を高めることになるか否か今後も注目していきたい。

スタートアップ/メイカー増加の先は?

以上、深圳のスタートアップとそのエコシステムについて紹介した。今後の課題として、つぎの点について引き続き注目していく必要があるだろう。一つは、「第一の変化」とも関係するが、ハードウェア系スタートアップ/メイカーのイノベーションや新製品、事業の特徴についてである。上述した生産システムの変化は、あらゆる起業家の製品開発のハードルを引き下げるものであるため、また、資金面でも中国国内のVCが充実し起業しやすい環境のようであるため、開発をめぐる競争は激しさを増すことになる。また、もともと模倣が多いことから、開発から得られるはずの利益が一部漏出してしまう可能性もある。

そのため、HAXのJoffe氏によれば、ハードウェアとしての製品そのものをコピーすることは容易だが、複数の機能を組み合わせたり、ユーザーとのコミュニティを構築したりすることで、模倣される可能性は低くなる、とのことであった。HAX卒業組のMakeblockも同様のことを、上述したとおり、同社製品の優位性に対して語っていた。ほかの企業でも中核となる技術を内部で開発することで、優位性を構築しようとしている(表4)。しかし、写真13のように「青いロボット」は増殖しているし、それ以外の製品カテゴリーでも写真18のように激しい競争が展開されている。ほかの企業も自社で認識する事業の強みはあるものの、成功すればするほど追われる身になっていく。あるいは、価格帯や品質による市場の違いで棲み分けが進むのであれば、中国発ボーン・グローバル企業が引き続き先進国市場や中国国内のハイエンド市場を牽引し、「山寨」も含む後発企業が中国国内のボリュームゾーンを攻めることになるのかもしれない。その場合には、中国地場のスタートアップ/メイカーと言っても、二つのグループに分ける必要がありそうだ。スタートアップ/メイカーが今後も増加するようであれば、各社がどのように競争力の源泉を確保しているのか、どのような成長戦略を描いているのか、各社の取り組みについても注目しなければならない。

写真18 製品カテゴリー内の激しい競争

写真18 製品カテゴリー内の激しい競争

(出所)写真14に同じ。

表4 各社が認識する事業の強み

企業 事業の強み
DJI 主要部品を外販しているが、すべてを購入した場合、DJI製品の方が割安
Makeblock コントロール用ソフトウェアや品質、ユーザーとのコミュニティなど、すべてを模倣することはできない
NXROBO 音声プログラミングは自社開発した

(出所)写真14に同じ。

もう一つは、「2.エコシステム」で述べたことと関係するが、起業を後押しする政策の効果や、政策が下火になった後の影響についてである。2015年に「双創」政策が始まったことで、今は起業の拠点やメイカースペースなどの設立が相次いでいるが、どの程度利用されているのか、また、政府による経済的な支援がなくなった後はどうなるのかに注意する必要がある。深圳を始めとした大都市の起業熱については、政策が実態を後追いしている部分もあるので、政策が熱に大きな影響をあたえないかもしれないが、その他の都市については政策によって左右されるのかを確認する必要がある。

中国の産業構造が変化しつつある今、起業を通じた成長や、起業を通じたイノベーションが、中国経済の行方にあたえる影響は非常に大きい。深圳を始めとした中国各都市のスタートアップとそのエコシステムの発展に今後も注目していく必要がありそうだ。


参考文献

〔日本語〕

  • 伊藤亜聖(近刊)『中国ドローン産業報告書:14億人の「空の産業革命」』(草稿版)。
  • 大槻智洋(2014)「そのタクシー会社は、なぜ“機器メーカー”の道を選んだのか:国内最大手がハードウエアベンチャーに異例の出資をした理由」、『日経テクノロジーオンライン』ウェブサイト
    http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20140523/353781/)、2016年5月5日閲覧。
  • 木村公一朗(2015)「香港のスタートアップ」海外研究員レポート、アジア経済研究所ウェブサイト
    ( http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Overseas_report/1511_kimura.html)、2016年2月21日閲覧。
  • 木村公一朗(2016a)「中国:『創新(イノベーション)』政策が広がり、『創新』は広がるか?」海外研究員レポート、アジア経済研究所ウェブサイト
    (http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Overseas_report/1602_kimura.html)、2016年2月25日閲覧。
  • 木村公一朗(2016b)「中国:深圳のスタートアップとそのエコシステム」海外研究員レポート、アジア経済研究所ウェブサイト
    (http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Overseas_report/1605_kimura.html)、2016年8月25日閲覧。
    →要旨が『日経産業新聞』(2016年6月9日)で、記事「深圳でハード関連起業活発」として掲載された。
  • 木村公一朗(2016c)「中国:深圳のスタートアップとそのエコシステム(増訂版)」海外研究員レポート、アジア経済研究所ウェブサイト(http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Overseas_report/1608_kimura.html)、2016年8月31日閲覧。
  • 木村公一朗(2016d)「中国・深圳市:『デザインド・イン・シェンヂェン』」、『アジ研ワールド・トレンド』、2016年11月号(ダウンロード可:)http://d-arch.ide.go.jp/idedp/ZWT/ZWT201610_012.pdf
  • 木村公一朗(2016e)「技術開発環境とR&D:電機・電子産業のケース」、加藤弘之・梶谷懐共編『二重の罠を超えて進む中国型資本主義:「曖昧な制度」の実証分析』ミネルヴァ書房。
  • 木村公一朗(2016f)「中国経済の変化とグローバル経済への影響:ASEANのケース」、『東亜』No. 589:pp. 30–39。
  • 金堅敏(2015)「変化する中国のイノベーション活動:『政府主導』から『大衆創新』へ」、富士通総研ウェブサイト
    http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/newsletter/2015/no15-015.html)、2016年2月21日閲覧。
  • 高須正和+ニコニコ技術部深圳観察会編(2016)『メイカーズのエコシステム 新しいものづくりがとまらない。』インプレスR&D。
  • 丸川知雄(2016a)「不透明感増す中国経済(下)大衆の創業、成長の動力に」、『日本経済新聞』2月25日付。
  • 丸川知雄(2016b)「イノベーションの街、深セン」、『ニューズウィーク日本版』ウェブサイト
    http://www.newsweekjapan.jp/marukawa/2016/07/post-16.php)、2016年7月26日閲覧。

〔中国語〕

  • 深圳市人民政府(2015)「深圳市促進創客発展三年行動計画(2015–2017年)」、深圳市科技創新委員会ウェブサイト
    http://www.szsti.gov.cn/info/policy/sz/105)、2016年5月6日閲覧。

および、本レポートに掲載した各社の中国語ウェブサイト。

〔英語〕

  • Di Stefano, Giada, Alfonso Gambardella, and Gianmario Verona (2012) "Technology Push and Demand Pull Perspectives in Innovation Studies: Current findings and future research directions," Research Policy 41(8): pp. 1283–1295.
  • Kimura, Koichiro (2014) The Growth of Chinese Electronics Firms: Globalization and Organizations, New York: Palgrave Macmillan.
  • Liyanage, Nio (2016) "Introduction to the Hong Kong Startups Community," Lectured at The British Chamber of Commerce in Hong Kong on April 21 in Hong Kong.

および、本レポートに掲載した各社の英語ウェブサイト。

脚 注

アジア経済研究所(副主任研究員)。本レポートの執筆にあたり、訪問企業の方々や、高須正和氏(チームラボ)を始めとした観察会参加者、大槻智洋氏(台北科技有限公司)、高口康太氏(KINBRICKS NOW)、伊藤亜聖氏(東京大学)に多くのことをご教示いただいた。また、本トピックに関し、日本経済団体連合会(経団連)勉強会(9月)や、三菱マーケティング研究会(9月)、ジェトロ・アジア経済研究所専門講座(10月)、日本現代中国学会分科会(座長:丸川知雄教授[東京大学])(10月)で報告の機会と多くの質問・コメントをいただいた。とくに日本現代中国学会では、ディスカッサントの中川涼司教授(立命館大学)から多くのコメントをいただいた。ここに記して深く感謝する。もちろん、残された誤りは筆者に帰する。

  1. ただし、成長減速によるビジネスチャンス減少が背景にあるからか、中国の値も下落傾向にある。
  2. 深圳のエコシステムに関するドキュメンタリーが、UK版Wiredのウェブサイトにアップされている(http://www.wired.co.uk/video/shenzhen-full-documentary)。
  3. 起業の増加は以下で述べる世界的な潮流も一因だが、とくに深圳でイノベーション活動が活発なことに注目すれば、深圳固有の要因を考える必要がある。丸川(2016b)は、移住者が多く、また、政府の規制や干渉が少ない点を挙げている。移住者が多い背景として、暫住証の存在がある(日本現代中国学会第66 回全国学術大会での丸川教授の報告より)。
  4. メイカー(maker)とは、3Dプリンターやオープンソース・ハードウェアなどの新しいツールやサービスを活用することで、多くの経営リソースを持つ製造企業(メーカー)にしかできなかったモノ作りを一人や少人数で行う人たちのことだ。
  5. 第1回~第6回の調査結果と深圳における新しいモノづくりの動きについては、高須ほか(2016)や、参加者がインターネットにアップした記事に詳しい(http://ch.nicovideo.jp/tks/blomaga/ar1090136)。
  6. SOSVはハードウェア系のHAXのほか、合成生物系のIndieBio、フード系のFood-X、IT系のChinaccelerator(「中国加速」)といった各種プログラムを取り揃えている。また、新しい都市づくりのためのUrban-Xやモバイルに焦点をあてたMOXもスタートさせており、SOSV全体で400社以上のポートフォリオ企業を擁する。
  7. これはHAXのなかでも深圳を中心に行われるAcceleratorというプログラムの内容だ。より大きな事業規模にするため、サンフランシスコで行われるBoostというプログラムもある。
  8. 中国科学院(Chinese Academy of Sciences;CAS)は1949年設立で、中国自然科学研究における最高学術機関である。
  9. 顧客の要望に応えるための技術開発であるのため、それに関わる特許などの知的財産権を有しているわけではない。
  10. 日本交通はタクシー業のあり方を変え、サービスの価値を高めるため、ジェネシスホールディングスに出資するとともにみずからも開発チームを抱えることで、より効果的な車載機器を開発しようとしている(大槻2014)。
  11. ただし、LeMakerが設立した深圳市悦創空間科技有限公司(MakerScope Technology)の製品として開発された。また、LeMakerは流通業者としてLenovatorも設立している。
  12. イノベーションを分類する際、マーケットプル型(あるいはディマンドプル型やニーズ主導)とテクノロジープッシュ型(あるいはシーズ主導)を軸にすることがあるが、実際には両者が密接に結びついていることに注意する必要がある(Di Stefano et al. 2012)。
  13. 電機・電子産業の場合、通信機器の華為(Huawei)やZTE、PCの聯想(Lenovo)は高い市場シェアを獲得し、家電の海爾(Haier)や一部のスマホ企業は市場シェアを伸ばしているが、中国国内市場で有名な地場企業の数に比べれば少ない。中国市場で効果を発揮した経営リソースとグローバル市場で必要なそれが必ずしも一致しないため、適応するためには時間を要する(Kimura 2014;木村2016f)。
  14. 中国ドローン産業の発展については伊藤(近刊)に詳しい。
  15. たとえば、香港は、深圳に隣接する地の利を活かしてハードウェア系の起業を盛り上げようとしている。香港のエコシステムもここ数年のあいだに急成長しており、IoTデバイスを対象としたハードウェア系アクセラレータBrincも誕生している。しかし、香港やそのエコシステムには課題もあり、多くの香港人が大型の多国籍企業(MNC)での就職を希望していたり(木村2015)、スタートアップが資金調達する場合、成長ステージによっては、香港外のリソースに頼らなければならないケースも多い(Liyanage 2016)。