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インドネシア:ゴルカル党のアブリザル・バクリ党首が2014年大統領選出馬を宣言

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049554

2012年7月

7月1日、ゴルカル党の指名を受けて、党首のアブリザル・バクリ(Abrizal Bakrie:65歳)が2014年大統領選への立候補を宣言した。プリブミ(マレー系原住民)系の企業グループ、バクリ・グループの代表であるバクリは、2004年のスシロ・バンバン・ユドヨノ政権発足とともに重要閣僚として入閣して政界入りし、2009年からはスハルト時代の与党で、現在の議会第2党であるゴルカルの党首に就任している。

今回バクリ党首が行った立候補宣言の演説は、スハルト時代を思い起こさせるような言説が多く含まれていて興味深い。

たとえば、バクリは理想の指導者像を語るにあたって、独立前に活躍したジャワ出身の民族主義運動家キ・ハジャール・デワントロの思想(Ing ngarso sung tulodo, Ing madya mangun karso, Tut wuri handayani――「前に立って模範となり、中に入って鼓舞し、後ろに立って導く」というジャワ語の慣用表)を引用している。この表現の最後にある「トゥット・ウリ・ハンダヤニ」は、スハルト大統領が政治指導のあり方を語るときに好んで使った表現である。

また、バクリは、自らの経済政策のコンセプトとして、スハルト時代の第2次開発5カ年計画(1974~1979年)から採用された「開発の三原則」(Trilogi Pembangunan)を持ちだしている。開発の三原則とは、(1)十分に高い経済成長、(2)全国民の社会的公正の実現を目標とした開発のその成果の平等、(3)健全でダイナミックな国家の安定、の3つの課題を達成することを開発政策の目標とすることである。この三原則は、スハルト時代を通じて、開発政策を立案するうえでの基本的指針となったものであった。バクリは、この開発の三原則を経済政策の中心に据えようというのである。

ただし、バクリは、この 「開発の三原則」 に 「新しいナショナリズム」 という要素を加えた 「国家開発成功の4本柱」(Catur Sukses Pembangunan Nasional)を自らの経済政策として提唱している。4本柱とは、経済成長の実現、開発の成果の平等、政治的安定の達成、そしてグローバル化に即したナショナリズムだという。経済成長の分野では、建国100年の2045年までに先進国入りすべくインフラ開発を大規模に推進すること、分配政策では、中高等教育の向上、最低賃金引上げ、福祉国家の実現、国営銀行を使った中小企業融資などが政策手段としてあげられている。政治的安定については民主主義の堅持が謳われている。

「開発の三原則」の概念は、1998年の民主化後は使われなくなっていた。バクリが再びこの言葉を使ったことは、バクリが考える開発がスハルト時代の開発とシンクロするものだということを示唆している。この三原則が示す開発政策の内容は、スハルト政権が崩壊した後も、各政権が大枠として引き継いできたものでもある。その意味で、バクリが大統領になったとしても、開発政策の大きな方向性が変化することはないだろう。

問題は、バクリが三原則に加えた「新しいナショナリズム」の内容である。その意味は明示されてはいないが、エネルギーの国内優先が演説で触れられているなど、国内産業の保護を示唆している可能性がある。民主化後に実業家の政界進出が進み、経済関係の閣僚にも実業界出身の人物が就任する機会が増えている。それと並行して、経済政策にも保護主義的な方向性が表れつつある。バクリが大統領に選出されれば、保護主義的な方向性がますます強まる可能性はあるだろう。

ゴルカル党は、他党に先駆けていち早く大統領候補を指名したが、バクリと組んで大統領選挙をたたかうことになる副大統領候補は決めていない。副大統領候補は、大統領選の前に行われる議会選の結果を受けてゴルカル党がどの政党と連立を組むのかということと関わるため、正式な立候補の直前まで正式には決まらない。しかし、最近党内からは、ユドヨノ大統領の義弟で陸軍参謀長のプラモノ・エディ・ウィボウォ(Pramono Edhie Wibowo:57歳)の名前や、ユドヨノ大統領の次男で現在の与党・民主主義者党幹事長のエディ・バスコロ(Edhie Baskoro:31歳)の名前があがってきている。父親がスマトラ島ランプン州出身のバクリにとって、ジャワ出身の軍人であるプラモノ・エディ・ウィボウォや、同じくジャワ出身の若手政治家であるエディ・バスコロは自らの経歴を補完する人物として魅力的であろう。一方、現与党ながら次期選挙では第3党以下に転落する可能性の大きい民主主義者党とその実質的な指導者であるユドヨノ大統領にとっても、これらの組合せは悪い話ではない。先手を打ったゴルカル党に対して、他党がどのような動きに出るのか、今後の展開が注目される。