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アフリカ情勢 バボ氏拘束で新局面を迎えたコートジボワール情勢

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050859

2011年4月

2010年11月末に行われた大統領選挙の決選投票以降、コートジボワールでは、ともに勝利宣言を行った現職大統領のバボ氏(メディアでは「バグボ」氏とも表記される)とワタラ元首相が対立する状況が続いてきたが、2011年4月11日にバボ氏が拘束されたことによって、情勢は新たな局面を迎えた。

まず、バボ氏拘束に至った経緯と背景はどのようなものか?

初代大統領のウフェ・ボワニが政権についていた1960年の独立からの33年間、コートジボワールは総じて安定してきたが、93年に彼が亡くなると国をまとめられるリーダーが存在しなかったため、政党同士の対立が激化するようになり、ここしばらくの不安定化の土壌が作られることになった。

1999年の軍事クーデタのあと、翌2000年に民政移管の選挙が行われたが、軍事政権のトップが選挙結果を捏造して一方的に勝利宣言したことから、大規模な暴動が発生した。この混乱を経て大統領に就任したのがバボ氏である。バボ氏は優れた政治手腕を持つ大統領だったが、2002年に国軍からの逃亡兵を主体とする反乱軍が蜂起し、内戦に突入してからは、政権維持のため強権的な姿勢を強めるようになった。

2010年11月の大統領選挙は、この内戦の和平プロセスの締めくくりとして行われたもので、現職大統領のバボ氏とワタラ元首相の間の決選投票に持ち込まれた。対立候補のワタラ氏は、過去の政治的弾圧を乗りこえての初の国政選挙への挑戦であり、この点でもこの国の今後を左右するきわめて重要な選挙であった。

開票にあたった選挙管理委員会はワタラ氏勝利と発表したが、バボ氏は自身の影響力の強い憲法裁判所に選挙結果の審査を委ねた。この憲法裁判所が、投票の15%にあたる70万票近くを無効とする判断を下し、一転してバボ氏の勝利を発表した。

これを受け、ワタラ氏、バボ氏がともに大統領への就任宣誓を行い、「2人の大統領」がともに自らの正当性を訴えて、一歩も譲らない形になった。アフリカ諸国による調停作業も実を結ばないなか、2011年3月末にワタラ氏側が本格的な軍事進攻を開始し、今回の最大都市アビジャンでの両軍の戦闘へと至った。

4月4日と10日には、国連PKOがフランス軍の協力を得て、民間人保護を目的にバボ氏側拠点への空爆を行った。軍事的に追い詰められたバボ氏は、4月11日に、籠城を続けていた大統領公邸内において、突入した兵士によって身柄を拘束され、ワタラ氏の拠点に移送された。

バボ氏の拘束をどのように評価したらよいのか?

選挙結果をめぐる昨年からの混乱にはひとまずの区切りがついたが、ワタラ新政権にとって前途は多難だと言わざるを得ない。

本来、最善の策として考えられていたのは、平和的手段によってワタラ氏とバボ氏が合意に達し、双方の勢力が協力して国家運営にあたることだった。兵士による身柄の拘束という強硬手段が取られたことで、ワタラ氏がバボ氏の支持者から信頼を得ることは難しくなった。

また今回の対立についてアフリカ連合(AU)は、2011年3月上旬に「ワタラ氏が大統領に就任すべきである」との見解を確立していたが、ワタラ氏側が武力でバボ氏を打倒することまで容認していたわけではない。ワタラ氏は今後AU諸国からも説明を求められるであろう。

また、国連とフランスはバボ氏側拠点への空爆について、「国連安保理決議に依拠した、民間人保護のための行動であった」と正当性をアピールしているが、ワタラ氏側への軍事的支援という性格を持ったことは否めない。これは結果として、ワタラ氏の側に「外国頼みの自立できない政権」というイメージを付与し、ワタラ政権の正当性に傷をつけた。

ワタラ氏は国連、EU、フランス、アメリカなどからの全面的な支援を取り付けており、当面はこれら外部の主体と協力して、対立の収拾、日常生活への復帰、国民和解に取り組んでいくことになろう。しかし、ワタラ政権がどれほどの成果を上げられるものか、展望は開けていない。

今後の事態を見守る上での注目点は何か?

当座の問題は2点ある。

第1に、2002年以降の内戦とこの度の戦闘で発生した虐殺や人権侵害などの犯罪をどのように裁くかという問題がある。真相究明と裁きは、国民和解に欠かせないステップであるため、避けて通れない。

ワタラ氏側は、バボ氏とその側近たちを司法の裁きにかける意向を示しており、国際刑事裁判所(ICC)への提訴も視野に入れている。ただバボ氏の支持者からの反発を招くことは避けられないため、不安定化を避けるためには慎重な対応が求められる。

他方、今回の戦闘では、ワタラ氏側にも西部地域での虐殺事件に関する説明責任が課せられている。自らの関与も公明正大に捜査に委ねることは、ワタラ氏が国民から広く信頼を勝ち得るうえでも欠かせない。

第2の問題は、国内に存在する軍事的勢力の解体・統合である。ワタラ派の軍隊である「コートジボワール共和国軍」(FRCI)は、ワタラ氏が大統領としての資格で設立した新国軍であるが、これをバボ氏側についていた従来の国軍と統合して、国家の治安部隊を再建しなければならない。

また、バボ氏側の民兵組織と、今回の対立時にアビジャン市北部で独自のゲリラ闘争を展開していた「見えないコマンド」(commando invisible)なる組織の武装解除が必要である。さらに、西部地域での混乱を解消するためにも、多数流入しているリベリア人傭兵への対策が求められる。

今回の事件に関する国際社会の対応をどう見たらよいのか?

アメリカのクリントン国務長官は、バボ氏の拘束を、「アフリカ地域の独裁者たちに強烈なシグナルを送るものだ」と指摘し、フランスのフィヨン首相も同様の発言を行っている。「選挙を通して表出される民意を無視することは、もはや国際的に看過されえない」という主旨の主張である。

しかし、この種の主張は一面的である。国連とフランスの軍事介入には、戦闘拡大と民間人への暴力を阻止したいという狙いがあったにせよ、武力では民主主義を実現できないこともまた真理である。武力で「独裁者」を排除したとして、それで即、民主主義への展望が開けるわけではない。

今回の対立の発生後、カメルーンの歴史家アシーユ・ンベンベは、「コートジボワールには、一人の天使と一人の悪魔がいるわけではない」と警告を発している。ここで言う「天使」と「悪魔」とは、国際社会の目線でそれぞれワタラ氏とバボ氏にあたる。ンベンベはこの表現を使うことで、善悪二元論的な構図で対立を捉えることによって、話し合いによる解決の可能性があらかじめ排除されてしまうことへ懸念を表明したのである。実際、バボ氏拘束後も事態の根本的収拾への展望が開けず、残念ながらンベンベの懸念は現実のものとなっている。

経済面についての展望はどうだろうか?

今回の対立では最大都市アビジャンで10日近くも戦闘が繰り広げられた。民生への打撃は大きい。速やかな安定化についての見通しも立っていないだけに、短期的には経済活動が一定程度沈滞することは避けられないだろう。

とはいえ、世界最大のカカオ生産国であり、近年は石油・ガス部門の成長も著しいコートジボワールの経済的ポテンシャルは、今回の混乱を経ても損なわれていない。フランスがいち早くワタラ政権に対して4億ユーロ(約460億円)の支援を表明するなど、主要ドナーからの援助も期待できる。

安定化と国民和解に着実な成果が上がれば、中長期的には、経済の回復が成し遂げられる公算が高い。

〈さらに深く知りたい方のために〉

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