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ブラジル情勢レポート ブラジルの大統領選挙とルーラ大統領

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050879

2010年8月

デイリープラネット(CS放送)「プラネットVIEW」『いまブラジルが熱い!大統領選間近』(2010年8月17日)解説用に作成。(近田亮平研究員)

1.10月の大統領選挙

Question この前終了したサッカーのワールドカップの次期開催国というだけでなく、2016年にはリオデジャネイロでオリンピックが開かれることから、最近ブラジルへの注目が高まっています。そのブラジルで10月に大統領選挙が予定されているそうですが。

Answer はい。10月最初の日曜日となる3日に大統領をはじめ、連邦上下院議員、州知事、州議員の選挙が行われることになっています。

Question 現在の大統領選挙の状況はどうなっているのですか?

Answer 現状は有力な候補者2名による一騎打ち、という展開になっています。1人は現政権与党(労働者党:PT)のジルマ・ロウセフ候補で、もう1人は野党(ブラジル社会民主党:PSDB)のジョゼ・セーハ候補です。このグラフ(1)は各候補者の支持率に関する世論調査の結果を表したものです。当初は最有力視されていたセーハ候補が優勢で、現政権のロウセフ候補は劣勢だったのですが、徐々にロウセフ候補が支持率を伸ばし、最近は形勢が逆転しているのがわかります。

グラフ1 各候補の支持率の推移

グラフ1 各候補の支持率の推移

(出所)IBOPE
2.ルーラ大統領の影響力

Question なぜ現政権与党の候補者の支持率が上昇したでしょうか?

Answer いくつかの要因が考えられますが、最も注目すべき点は現在のルーラ大統領の存在です。このグラフ(2)は、ルーラ大統領が就任した2003年から現在までの世論調査による支持率を表したものですが、2期8年目になる現在も国民から非常に高い支持を得ていることがわかります。2005年に政権与党に関する一連の汚職事件が発覚し、一時的に支持率は低下しましたが、今年6月の調査結果では支持率が86%と実に9割近くに達しています。

この圧倒的な人気を誇るルーラ大統領が、当初知名度の低かったロウセフ候補を常に帯同し、自らの後継者として主にメディアを通じ積極的にアピールしました。このことが、「ルーラ大統領が推す候補者」としてのロウセフ氏の知名度を高め、支持率の上昇に大きく影響したと言われています。世論調査でも、投票者の約半数がルーラ大統領の推薦する候補に投票すると回答しています。

グラフ2 ルーラ大統領の支持率

グラフ2 ルーラ大統領の支持率

(出所)IBOPE


3.ルーラ大統領の人生とブラジルの発展

Question なぜルーラ大統領はそこまで国民から支持されるのでしょうか?

Answer この点については様々な指摘がありますが、国民にとってルーラ大統領の人生が、ブラジルの近代国家としての発展を体現化するようなものである、という点が挙げられるでしょう。

ルーラ大統領はブラジルの貧困地域の貧しい家庭出身で、子供の頃から物売りなどをして働き、学校教育も最低限の義務教育しか受けていません。ですが、ブラジル社会が経済では発展とともに債務・インフレなどで低迷もし、政治的には軍事政権終了による民主化や混乱を経る中、労働組合のリーダーとして頭角を現し、ついには大統領にまで上り詰めたのがルーラ大統領です。一方、国家としてのブラジルも以前、政治経済的不安定さや山積する社会問題などから、「永遠に未来の大国」と揶揄された時代もありました。しかし、近年は経済の成長、政治の安定、貧困の削減を実現しつつあり、新興国のリーダーとして世界的にも注目を集める国へと変容しました。このようなルーラ大統領の人生と近代国家ブラジルが歩んできた軌跡とを国民は重ね合わせ、「ルーラ大統領はまさにブラジルの申し子だ」という、ある種の共感や連帯感を抱くに至り、ルーラ大統領の高い人気に結びついているとも言えます。

なお、この9月から10月にかけて東京などで開催される「第7回ラテンビート映画祭2010」において、『ルーラ、ブラジルの息子』という映画が上映されることになっています。この映画は今日お話しした内容を理解する上で参考になりますので、ご覧いただければと思います。

4.大統領選挙と今後の展望

Question 最後に10月の大統領選挙の予測をお聞かせいただけますか?

Answer 現在は与党と野党の候補のほぼ互角の戦いとなっていますが、ルーラ大統領の影響力や政治手腕を考えると、近年のブラジルで発言力を増してきた大衆層や支持団体の組織票の獲得という点で、与党候補の方がやや有利ではないかと思います。ですが、両候補ともに政治的には中道左派であるため、国家発展戦略における政府のプレゼンスや外交姿勢などに違いはあるものの、どちらの候補が勝利してもブラジルの大局的な方向性に大きな変化はないと思われます。