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ミャンマー総選挙とその後(3) 結果速報

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049576

2010年11月

2010年11月7日に行われた総選挙の結果が、ほぼ出揃った。連邦選挙管理委員会は、11月8日、及び11日から18日にかけて、選挙区ごとの当選者を英語国営紙(New Light of Myanmar)に掲載した(インターネット版が http://www.myanmar.com/newspaper/nlm/index.html で利用できる)。

掲載された当選者の数は、人民代表院が326議席中325人、民族代表院が168議席中168人、地域・州議会は663議席中661人である。未だ若干名の当選者が公表されていないが、11月19日の英語国営紙には当選者の発表がなかったため、これで全当選者が発表されたとみることも出来る。この場合、当初想定されていた選挙区数が間違っていた可能性、筆者の集計ミスの可能性、一部開票作業が遅れている可能性などがあり、最終的な選挙結果には修正が必要となる。しかし、いずれにせよ、今回の総選挙の結果の大勢は判明した。本稿では上記1,154人の当選者を対象として、選挙結果を紹介する。

なお、ビルマ語国営紙(Myanmar Alin)には当選者別の得票数など詳細な数字が掲載されている。こちらについても並行して分析をすすめ、順次紹介していく予定である。

連邦団結発展党の「圧勝」

今回の総選挙には37政党が参加し、連邦議会(人民代表院及び民族代表院)及び地域・州議会に、22政党から1148人、無所属から6人の合計1,154人が、現在までに議席を得た(表1)。第一党となったのは連邦団結発展党(USDP)で、1154議席中883議席(76.5%)を獲得して「圧勝」した。連邦議会(人民代表院及び民族代表院)で78.7%、地域・州議会においても74.9%の議席を獲得しており、全ての議会選で圧勝であった。連邦団結発展党からは1112人の候補者が立っていたため、勝率(当選率)は79.4%を記録した。

表1 政党別議席数


政党名 連邦議会 地域・州議会 2010年総選挙の
合計
構成比
(%)
(参考)
人民
代表院
民族
代表院
連邦議会に
おける議席数
連邦議会に
おける構成比
議席数 地方議会に
おける
構成比
立候補者数
連邦団結発展党 259 129 388 78.7% 495 74.9% 883 76.5% 1112
国民統一党 12 5 17 3.4% 46 7.0% 63 5.5% 995
シャン民族民主党 18 3 21 4.3% 36 5.4% 57 4.9% 156
ラカイン民族発展党 9 7 16 3.2% 19 2.9% 35 3.0% 44
国民民主勢力 8 4 12 2.4% 4 0.6% 16 1.4% 162
全モン地域民主党 3 4 7 1.4% 9 1.4% 16 1.4% 34
チン進歩党 2 4 6 1.2% 6 0.9% 12 1.0% 40
パオ民族機構 3 1 4 0.8% 6 0.9% 10 0.9% 10
パロン・サウォー民主党 2 3 5 1.0% 4 0.6% 9 0.8% 18
チン民族党 2 2 4 0.8% 5 0.8% 9 0.8% 22
ワ民主党 2 1 3 0.6% 3 0.5% 6 0.5% 25
カレン人民党 1 1 2 0.4% 4 0.6% 6 0.5% 41
タアン(パラウン)民族党 1 1 2 0.4% 4 0.6% 6 0.5% 15
統一民主党(カチン州) 1 1 2 0.4% 2 0.3% 4 0.3% 9
イン民族発展党 1 0 1 0.2% 3 0.5% 4 0.3% 5
民主党(ミャンマー) 0 0 0 0.0% 3 0.5% 3 0.3% 47
カレン州民主発展党 0 1 1 0.2% 1 0.2% 2 0.2% 4
カヤン民族党 0 0 0 0.0% 2 0.3% 2 0.2% 5
国民発展民主党 0 0 0 0.0% 2 0.3% 2 0.2% 22
88世代学生青年党 0 0 0 0.0% 1 0.2% 1 0.1% 39
少数民族発展党 0 0 0 0.0% 1 0.2% 1 0.1% 3
ラフ民族発展党 0 0 0 0.0% 1 0.2% 1 0.1% 9
無所属 1 1 2 0.4% 4 0.6% 6 0.5% 88
合計 325 168 493 100.0% 661 100.0% 1154 100.0%

(出所) New Light of Myanmar (2010年11月8日、11~18日)。

第二党となったのは国民統一党(NUP)であったが、63議席(5.5%)を獲得するに留まった。国民統一党は995人の候補者を立てたので、当選率はわずか6.3%に過ぎなかった。第三党にはシャン民族民主党(SNDP)が57議席(4.9%)で、第四党にはラカイン民族発展党(RNDP)が35議席(3.0%)で入った。いずれも少数民族政党である。国民民主連盟(NLD)から分かれた国民民主勢力(NDF)は16議席(1.4%)で、第五党に留まった。

不正な選挙?

惨敗を喫した民主化政党や少数民族政党の一部は、選挙に不正があったとして、選挙管理委員会に不服申し立てをする構えである。また、投票日から6日後の11月13日に7年半ぶりに自宅軟禁から解放されたアウンサンスーチー(以下、スーチー)氏も、選挙における不正行為の証拠を集め、総選挙に異議を申し立てると言われている。

たしかに、私の周りの友人のなかでも、連邦団結発展党に投票したという人はほとんどいない。多くの国民は連邦団結発展党を国軍の傀儡政党と見なしており、根本的に不人気であるというのが、私の正直な印象でもある。そのため、今回のような8割を超える「圧勝」は、にわかには信じられない。有権者が自分の意思で自由に投票した結果には見えない。半強制的な動員や不正行為があった可能性は高いだろう。

それでは、どのような不正があったのか。そして、選挙結果を無効と主張するに足る不正の証拠は出てくるのか。じつは話はそれ程、簡単ではない。選挙運動期間中の動員や圧力はあったであろうが、投開票については深刻な不正が行われた証拠は—様々な噂話はあるにしても—まだ明らかになっているとは言えないからである。

今回の総選挙において投票所での開票は、選挙法の規程により、その場で投票所のスタッフ、投票所代理人、及び一般市民の前で行われることになっていた。これは 1990年総選挙と同様である。但し、今回の総選挙においては、いくつか事情が異なる点があった。第一に投票所が4万箇所と多く、また全国政党が連邦団結発展党と国民統一党のみであったため、全国の選挙区を民主化政党の関係者が監視することができなかった。また、民主化政党が候補者を立てた選挙区であっても、資金的・組織的制約から全ての投票所に候補者の代理人を派遣することができなかった。第二に、民主化政党間、あるいは国民統一党を含めて野党間での連携がなく、投開票の状況を十分に監視できなかった。民主化勢力を含む野党は、こうした点で事前に準備をするべきであったが、これを怠った。

今後、選挙戦に敗れた候補者が連邦選挙管理委員会に不服申し立てをするためには、相手候補や投開票時の不正の証拠を集める必要があるが、これは容易ではないだろう。しかも、1件につき100万チャット(1000ドル以上)の費用が必要になる。連邦選挙管理委員会は11月6日に各政党に対し、選挙結果に不服がある場合は法律に基づき、正式に申し立てをするようにとのレターを出した。その中で、外国メディアに不正を告発することは、選挙法違反であると警告している。

こうした状況の中で、第三党となったシャン民族民主党や、第四党となったラカイン民族発展党などは、「連邦団結発展党の不正は分かっているが、時間とお金を無駄にしないために、不服申し立てはしない」(Irrawaddy, 2010年11月20日)と発言している。これは現実的な判断をしたとも言えるが、両党が相応に高い当選率(シャン民族民主党が36.5%、ラカイン民族発展党が79.5%)を誇っており、とくに投開票においては大きな不正がなかったと判断していることが背景にあるようにも思われる。

実際、後でみるように、連邦団結発展党の動員が効かなかった地域では、民主化政党や少数民族政党が勝っているケースも観察されるのである。連邦団結発展党の大きな組織・資金力による動員と利益誘導が、彼らの「圧勝」をもたらしたことは間違いないが、投開票における深刻な不正は多くはなかったように思われる。なお、期日前投票の影響についても議論がなされているが、この問題は次回に検討したい。

国民統一党と民主化政党の惨敗

表2は、連邦団結発展党、国民統一党、民主化政党(NDF及び民主党(ミャンマー)の2党)、少数民族政党(17党)、それ以外(88世代学生青年党及び無所属)の政党類型別に、獲得議席数と当選率(勝率)を示したものである。

今回の総選挙で「圧勝」した連邦団結発展党は、いずれの議会においても8割近い当選率を誇っている。これに対して、国民統一党は連邦議会においては3.8%、地域・州議会においては8.3%と、いずれの議会においても惨敗を喫した。民主化政党は地域・州議会で18.9%とやや高い当選率を記録したものの、全体としては1割を切る惨憺たる成績であった。

表2 政党類型別の選挙結果


政党名 連邦議会 地域・州議会 総選挙の合計
人民代表(獲得議席) 当選率(人民) 民族代表院(獲得議席) 当選率(民族) 連邦議会(獲得議席) 当選率(連邦) 地方議会(獲得議席) 当選率(地方) 獲得議席 当選率(合計)
連邦団結発展党 259 82.2% 129 81.6% 388 82.0% 495 77.5% 883 79.4%
国民統一党 12 4.1% 5 3.4% 17 3.8% 46 8.3% 63 6.3%
民主化政党(1) 8 6.3% 4 8.9% 12 7.0% 7 18.9% 19 9.1%
少数民族政党(2) 45 38.5% 29 36.7% 74 37.8% 108 40.6% 182 39.4%
その他(3) 1 1 2 5 7 5.5%
合計 325 168 493 661 1154

(注)(1) 民主化政党は国民民主勢力、及び民主党(ミャンマー)の2政党を含む。
   (2) 少数民族政党はシャン民族民主党など17政党を含む。
   (3) その他は88世代学生青年党及び無所属議員を含む。
(出所) New Light of Myanmar (2010年11月8日、11~18日)。

国民統一党の惨敗は、国民から、連邦団結発展党と同じく軍政寄りの政党であると冷ややかにみられる中で、組織力、資金力、動員力のいずれにおいても連邦団結発展党より劣っていたためである。正確な数は確認できていないが、全選挙区の約4分の1に及んだ連邦団結発展党と国民統一党との一騎打ちの選挙区においても、前者が概ね勝利した模様である。

民主化政党については、ヤンゴンを中心とする都市部においてはそれなりに善戦したものの、地方や農村部で支持を得ることができなかった。国民民主勢力はヤンゴンで16議席全てを獲得し、民主党(ミャンマー)はマンダレーで1議席、ヤンゴンで2議席をいずれも地域議会において獲得した。地方・農村部で支持を拡大できなかったのは、総選挙の日程が発表される直前まで国民民主連盟との総選挙ボイコット論争が続いており、地方・農村部での党の組織化及び有力候補者の擁立が遅れたことが背景にある。また、地方・農村部では、都市部と比べて連邦団結発展党の動員や圧力がより効果的であったという点も指摘できるだろう。

しかし、ヤンゴン地域に限って国民民主勢力の選挙結果をみてみると、意外に健闘している姿が浮かび上がってくる。これは次回、紹介する。

健闘する少数民族政党

これに対して、少数民族政党はいずれの議会においても当選率が40%前後となっており、連邦団結発展党が圧倒的に有利な状況下にあって、健闘している姿が伺える。これは少数民族政党が地元に集中的に候補者を立て、選挙戦を戦った成果である。

表3はビルマ族が多く居住する7つの地域(Regions)と、少数民族が多く居住する7つの州(States)とに分けて、政党類型別に獲得議席をみたものである。少数民族政党が州において健闘している姿が明らかである。第一に、人民代表院においては、少数民族政党は7つの地域においては1議席も獲得していない。これに対して、7つの州においては4割近くの議席を獲得した。第二に、民族代表院においても、少数民族政党は7つの地域においては1議席も獲得していないが、7つの州においては34.5%の議席を獲得した。第三に地域・州議会においては、7つの地域においても5議席を獲得し、7つの州においては4割を超える議席を獲得した。7つの州議会においては連邦団結発展党の議席が5割超であったので、少数民族政党がほぼ拮抗する勢力を形成することとなった。

表3 地域・州別議席数

人民代表院


  7地域 7州 合計
議席 構成比 議席 構成比 議席 構成比
連邦団結発展党 192 92.8% 67 56.8% 259 79.7%
国民統一党 7 3.4% 5 4.2% 12 3.7%
国民民主勢力 8 3.9% 0 0.0% 8 2.5%
少数民族政党(1) 0 0.0% 45 38.1% 45 13.8%
無所属 0 0.0% 1 0.8% 1 0.3%
合計 207 100.0% 118 100.0% 325 100.0%

(注)(1) 少数民族政党はシャン民族民主党など12政党。

民族代表院


  7地域 7州 合計
議席 構成比 議席 構成比 議席 構成比
連邦団結発展党 79 94.0% 50 59.5% 129 76.8%
国民統一党 1 1.2% 4 4.8% 5 3.0%
国民民主勢力 4 4.8% 0 0.0% 4 2.4%
少数民族政党(1) 0 0.0% 29 34.5% 29 17.3%
無所属 0 0.0% 1 1.2% 1 0.6%
合計 84 100.0% 84 100.0% 168 100.0%

(注)(1) 少数民族政党はシャン民族民主党など12政党。

地域・州議会


  7地域 7州 合計
議席 構成比 議席 構成比 議席 構成比
連邦団結発展党 364 89.2% 131 51.8% 495 74.9%
国民統一党 31 7.6% 15 5.9% 46 7.0%
国民民主勢力 4 1.0% 0 0.0% 4 0.6%
民主党(ミャンマー) 3 0.7% 0 0.0% 3 0.5%
88世代学生青年党 1 0.2% 0 0.0% 1 0.2%
少数民族政党(1) 5 1.2% 103 40.7% 108 16.3%
無所属 0 0.0% 4 1.6% 4 0.6%
合計 408 100.0% 253 100.0% 661 100.0%

(注)(1) 少数民族政党はシャン民族民主党など17政党。
(出所) New Light of Myanmar (2010年11月8日、11~18日)。

地元の州における少数民族政党の健闘は、自宅軟禁から解放されたスーチー氏の政治活動にも影響を与える可能性がある。スーチー氏は解放から1週間が経った11月20日に、ヤンゴンで少数民族政党の指導者らと会談し、軍政との対話を目指して国民会議を創設することで合意したと伝えられた(日経新聞、2010年11月21日)。また、少数民族指導者は、スーチー氏の父で独立の英雄アウンサン将軍が1947年に開催し、ビルマ族と少数民族との共存共栄を約束したパンロン会議の2回目の開催を目指しているとされる。今回の総選挙における少数民族政党の善戦が、こうした動きを加速する可能性はあるだろう。

他方、少数民族政党の強い州において、連邦団結発展党を含むビルマ族政党が支持を拡大できなかったのは、1990年総選挙における国民民主連盟のケースと同様である。この結果はミャンマー政治において、「連邦団結発展党vs.民主化勢力」という対立軸に加えて、「ビルマ族vs.少数民族」という対立軸が依然として存在していることを示したとも言える。少数民族をめぐる問題は、国境警備軍への編入をめぐり国軍との対立が深まる少数民族武装勢力の動向と合わせて、注視していく必要がある。

続く