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インドネシア:2009年総選挙に向けて動き出したインドネシアの政界

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049602

2007年10月

インドネシアでは、5年に1度選挙の年がやってくる。次の選挙の年は、議会選挙と大統領選挙がおこなわれる2009年である。それまでまだ1年半~2年の猶予があるが、インドネシアの政界はすでに2009年総選挙に向けて動き始めている。最も注目されるのは、次期大統領選挙に誰が出馬するかであるが、9月以降、選挙戦への出馬を表明する政治家が現れ、大統領候補選びの動きが一気にヒートアップした。

現職のスシロ・バンバン・ユドヨノ大統領は、「時期尚早である」として出馬の意向をはっきりとは示してはいないが、再選を目指すと考えてほぼ間違いないであろう。一方、2004年大統領選挙では議会第一党のゴルカル党内での立候補者指名選挙に名を連ねていながら、土壇場でユドヨノと組んで副大統領となったユスフ・カラは、2009年大統領選挙ではゴルカル党党首としてユドヨノと争うことになると見られている。

3年前の大統領選挙に立候補した政治家では、2007年にハヌラ(民衆の真心)党を立ち上げたウィラント元国軍司令官が出馬の準備を進めていると見られている。また、9月10日の闘争民主党全国代表者会議で、メガワティ前大統領も立候補の意向を正式に表明している。しかし、彼らは2004年大統領選挙の「再チャレンジ組」であり、以前から立候補が噂されていたため、それほど耳目を集めたわけではなかった。

これに対して、10月1日、スティヨソ・ジャカルタ州知事が新顔として大統領争いに参戦する意向を表明したことで、2009年に誰が立候補するのかという関心が高まった。スティヨソは、元陸軍将校で、ジャカルタを管轄する第10陸軍軍管区司令官を務めたあと、1997年から今年10月6日までジャカルタ州知事の職にあった。その任期中、強い批判を浴びながらもジャカルタの都市基盤・交通整備を推し進めた。その実績から、政治家としての指導力を期待する声も強い。一方、自前の政党を持たないスティヨソに対して政治基盤の弱さも指摘される。しかし、トリ・ストリスノ元副大統領をはじめ国軍退役軍人の強い支持を受けていると同時に、メガワティ前大統領が党首を務める闘争民主党とも近い関係にあり、最終的には同党がスティヨソを担ぐのではないかとの憶測も流れている。

スティヨソだけでなく、ズルキフリ・ヌルディン(ジャンビ州知事)、ファデル・ムハンマド(ゴロンタロ州知事)、ガマワン・ファウジ(西スマトラ州知事)など、強い指導力で地方政治を取り仕切って、その政治的手腕を評価されている他の州知事も、有力な候補として名前が挙がっている。また、マタラム王家の末裔としてジョグジャカルタ州知事の職を世襲してきたスルタン・ハメンクブウォノ10世が、2008年の任期を最後に州知事の職を辞すると4月に表明したことで、大統領選挙への参戦が取り沙汰されている。2001年から施行された地方分権化によって大幅な権限を移譲された地方政府を運営するなかで、地方首長が政治力と行政能力を身につけたことが、このような動きの背景にあることは確実である。地方から中央へという政治家の流れはまさに民主化の産物であり、新しい政治的リクルートの経路として今後も注目に値するだろう。