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スリランカ:政府軍、東部地域を制圧

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049608

2007年9月

前回のレポートで報じたように、タミル・イーラム解放の虎(LTTE)が3月と4月、コロンボに空爆を敢行した。規模としては小さいものだったが、スリランカ政府を驚かすには十分だった。

政府は空爆を受けて2007年初頭から実施していた東部における作戦を強化した。これにより政府が話し合いによる政治的解決よりも軍事的勝利を重視していることが明確になった。LTTEを軍事的に追いつめながら相手の妥協を待つ戦略である。政府軍はトリンコマリーの南およびアンパライを本格的に攻め始めた。政府軍の本気度は度重なる空爆や、一般市民の早急で大規模な避難を強行させたことにも表れている。東部からの避難民は10万人以上にのぼった。

東部だけでなく、LTTEへの締め付けは強化された。各地で爆弾や爆薬が大量に発見されたことも関係している。その余波は民間人にも及んだ。6月末にはコロンボに一時的に滞在しているタミル人300人以上が一斉に摘発され、その晩のうちにバス7台で北部に送還されそうになった。さすがにこのような乱暴な手段に対してはスリランカの最高裁判所も取り消しを求める判断を下し、大統領および首相が陳謝した。しかしその後も人権団体や国際機関が最近のスリランカにおける人権侵害についてしばしば警告しているところを見ると民間人への抑圧状態は続いているようだ。スリランカ政府は強硬な手段を用いても早急に事態を打開したいと考えていたようだ。

結果として、7月初めには東部トッピガラ地区が政府支配下に入った。この地域は過去13年間LTTE支配下にあった。東部出身のカルナ・グループの協力を得て地の利を活かして制圧が可能となった。政府は大規模な式典を開催し、東部の制圧を祝った。

政府は制圧後も復興プロセスを早急に進めたいらしい。早々に東部開発計画を打ち出し、年内に選挙を行うと宣言している。政府は東部の経済的開発と政治的安定を実現して東部のタミル人および国際社会の承認を得ようとしているのだろうが、あまりにも性急で、反動が懸念される。強制的に避難させた人々の帰還も安全の回復が定かでないまま治安部隊によって強行に行われた模様であるし、選挙の実施に関しても既にタミル・政党間の意見の相違・対立も見え始めている。

スリランカは、軍事的な強硬路線をとると同時に、分権化を検討する全政党委員会を設置して妥協案を模索している。しかし、このような強硬な手段を執っていると、いくら見映えの良い権限委譲案を提案したとしても、タミルの側には不信感が先に立つ。いざ話し合いが可能になったとしても、なかなか前進しない。幾度もたどった道のりをまた繰り返すのだろうか。