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フィリピン:投資を呼び込むための投資は大丈夫か?

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049610

2007年8月

2007年5月に中間選挙が終わり、7月末に開会した議会で、アロヨ大統領は施政方針演説を行った。彼女はちょうど1年前の演説で明らかにした地域圏構想に絡め、そのさらなる進展のために、道路、空港、港湾、電力などのインフラ整備に注力すると述べた。

フィリピンのインフラ整備の不十分さは、投資拡大や国際競争力強化の障害になっていると国内外から長らく指摘されてきた。もちろんフィリピン政府もそれを認識している。それゆえ、アロヨ政権がインフラ整備に焦点を当てることはもっともなことである。

確かにフィリピンの投資は少ない。例えばGDPに占める投資(総資本形成)の割合を近隣諸国と比べてみると、タイやインドネシア、ベトナムが軒並み20%台もしくは30%台を維持しているのに、フィリピンは2000年の21.2%から2006年の14.8%へと下がり続けている。つまりこの間、経済の成長に比べて投資の増えかたが鈍いのだ。減少している年さえある。

そもそもアロヨ政権による「中期開発計画」(2004-2010年)によれば、ほぼ毎年、投資の伸び率はGDP成長率を上回る数値に設定されている。ところが現実は「計画」からほど遠い。例えば2006年の投資の伸び率を11.4%としていたが、実際には2.1%増でしかなかった。一見、目立って良いわけでもないが悪いわけでもないという状態が続いているフィリピン経済だが、こと投資に限ってはかなり深刻である。

とはいえ、海外からの直接投資は年によって増減しつつも流入している。ただし、その規模は近隣諸国と比べるとやはり小さい。問題は現地資本だという指摘もあるが、投資機関が認可した投資額を見るかぎり、海外からの直接投資に引けを取らない。ただ現地の投資は、その大半がサービス産業に向けられている。製造業に比べて大型設備投資を必要としないなど、本来の投資に対する影響が小さくなっている可能性も考えられる。

冒頭の施政方針演説に戻ろう。アロヨ大統領は自分の任期が終了する2010年までに総額1兆7000億ペソをインフラ整備に投じることを明らかにした。そのうち約1兆ペソは中央政府が負担するそうである。これはほぼ1年分の国家予算に匹敵する。来年(2008年)にも均衡財政を目指している政府は、どのようにその資金を捻出するのか。投資を呼び込むための投資も、これまた不透明なのである。