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ラオス:貧困削減政策と末端組織の再編

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049637

2006年11月

ラオス政府は現在、貧困削減政策の一環として、ケシ栽培の撲滅と焼畑削減に取り組んでいる。これに伴って、住民の移住や土地分配政策が実施され、全国各地で人の移動や村の統合、さらに村のグループ化が進んでいる。村のグループ化とは、近接する複数の村を一つのグループにまとめ、村単位ではなくグループ単位で開発を進めようという政府の開発戦略である。ラオスの貧困地域の大部分は、インフラが未整備であり、焼畑農業と自然採取を主な生業とする山岳少数民族が暮らす地域である。政府は、地理的要因を貧困の主たる原因と捉え、彼らを経済・社会インフラへのアクセスが容易な平地へ移住させることが、ケシ栽培撲滅と焼畑削減、ひいては貧困削減につながると考えているようである。もちろん、このような政策については賛否両論ある。市場や社会サービスへのアクセスが、生活レベルを引き上げるという意見がある一方で、山岳少数民族が、水田稲作を中心とする慣れない平地で十分な食糧を確保することは難しく、反対に生活レベルを低下させるとの指摘もあり、国際機関や研究者を含めて議論が行われている。

貧困削減政策にはもう一つの側面がある。住民の移住や土地分配政策には、国民の管理や国民統合という政治的意図を看取できる。山岳少数民族の平地への移住が進めば、地理的理由によりこれまで管理できなかった多くの人々を、党や行政組織の管理下に置くことが可能となる。また彼らをラオ人社会に取り込むことは、彼らの「ラオ化」を促進することにもなる。つまり移住や土地分配政策の実施は、国民管理と国民統合という現在のラオスが抱える問題の解決にもつながるのである。実際、ケシ栽培や焼畑に関係なく、少数民族の移住が行われるケースがあり、また平地でも村の統合が進められている。

これらの政策と並行して行われているのが、ラオス人民革命党末端組織の再編である。党規約は、3人以上の正党員がいる場合に党組織を形成できると定めているが、実際は、3人以上の党員がいる村でも、近隣の村と合同で党組織を形成するケースが増えている。つまり、これまでのように、一つの党組織が一つの村を管理するのではなく、複数の村を管理するグループ管理に移行しつつある。これは、村のグループ化に対応した措置といえる。このように、貧困削減政策は経済と政治の二つの側面から実施され、末端の党・政府組織を大きく変えようとしている。