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フィリピン:日・フィリピン経済連携協定に署名

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00049644

2006年9月

アロヨ大統領と小泉首相は9月9日、アジア欧州会議が開かれているフィンランドにおいて日・フィリピン経済連携協定に署名した。フィリピンにとっては、初めての本格的な二国間自由貿易協定である。同協定では、フィリピン側がほぼすべての鉱工業品につき10年以内に関税を撤廃することになった。他方、日本側もパインアップルや鶏肉などで関税割当を設定して輸入枠を徐々に拡大し、また、一定要件を満たすことを条件に、看護師や介護福祉士なども受け入れることになった。

ここで交渉の経緯を振り返ると、両国政府は2004年2月に交渉を開始してから約5回の会合を経たのち、2004年11月に大筋合意に達した。当初は、フィリピン側の関心事項である農産品の輸出や看護師・介護福祉士の日本における就労などが争点となって交渉が長引くと思われたが、一年以内に合意にこぎつけた。これは日本がほぼ時を同じくして交渉を開始していたタイやマレーシアと比べても一番早い合意である。

ところが大筋合意後、詳細を詰めていく過程において合意内容を修正せざるを得ない案件が出てきた。自動車の関税である。2004年の合意時点では、2010年までに例外なく関税を撤廃、うち一部の大型車などについては即時撤廃することになっていた。だが自社にとって不利になると判断した米系メーカーが、内容を修正するようフィリピン政府に強く働きかけたようである。フィリピン政府は、この米系メーカーが自動車輸出プログラムに参加している唯一の完成車輸出企業であること、また2005年9月の日タイ大筋合意が、フィリピンよりもタイ側の自動車産業に有利な内容になっていたことから、改めて再交渉に持ち込んだ。最終的に、3000cc超の完成車は原則2010年、遅くとも2013年に関税を撤廃する、また3000cc以下については2009年までの間に現行の30%を20%に段階的に引き下げ、2009年に改めて再協議するという内容になった。

通常こうした二国間交渉は、自国の産業動向を事前に把握し、時には業界の意を受けながら一定の産業発展戦略を描いた政府が、相手国政府と様々な駆け引きをしつつ合意に達するものではないだろうか。しかし、今回のフィリピン政府の対応はいったん合意した内容をくつがえそうとするなど、主体性を持って交渉しているようには残念ながら見えない。こうした自由貿易協定を今後どのように経済発展の糧とするか、試されている。