21世紀の経済発展における政府の役割とは?

2011年2月16日(水曜)
グランドプリンスホテル赤坂  五色2階 五色の間
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主催:ジェトロ・アジア経済研究所、朝日新聞社、世界銀行

コメント

谷口 和繁 氏  世界銀行駐日特別代表

本日の大きなテーマは開発と政府の役割でした。世界銀行の特色の一つは、貸し出しの相手先が国だということです。したがって、基本的には国の役割を肯定しながら開発に臨んでいるというのが世界銀行のビジネスモデルになるわけです。ただし、世の中が変わってきていますので、これもアダムズ副総裁が説明しましたが、同じ世界銀行グループの中にIFCという機関とMIGAという機関がございます。この二つは民間企業に直接貸し出ししたり投資したり、あるいは企業による民間投資に対してさらにそれを保証するという役割の機関になります。これだけ取ってみても、伝統的な開発と国の関係と民間の関係といったものの流れが多少分かると思います。

先ほど冒頭のあいさつで申し上げたとおり、今、世界全体でGDPそのものの規模とすれば、アメリカ・ヨーロッパ・日本が大きく、中国がこれに追いつき追い越してきたわけですが、世界経済の中でまだ先進国全体のGDPというものは大きいです。ただし成長エンジンとしてどこが大きくなってきているかというと、残念ながら日本が典型で20年間ほとんど成長しておらず、アメリカ・ヨーロッパも成長率としてはそれほど高いものは望めません。今後10年、20年というタームで取ってみても、途上国の成長率の方がはるかに高いです。

したがいまして、これから日本企業に限らず、グローバル企業がもし自分の国、自分の会社の売り上げや利益を伸ばそうと考えれば、どこに進出すべきかということはもう明らかになっています。途上国に進出して途上国のマーケットと一緒に伸びない限りはその企業の発展はないと言えると思います。私が若いころは、国際的に活躍したいなと思えばロンドンやパリやニューヨークを目指したわけですが、これからの若い人や企業が世界を目指す場合は、中国やインド、アフリカを目指していくことにならざるを得ないし、そうしない限り活力は生まれてこないということだと思います。

それから国との関係ということで世界銀行が感じていることを申し上げます。これまで世界銀行と途上国との関係として、日本も含めて60年くらい世界銀行は開発に関して経験を持っていることになります。そのうち、特にアフリカの国々が1960年代に独立して国の数が増えましたので、世界銀行の役割も少しずつ変わってきています。経済の単位で考えると200はあると思います。その中で1年や2年なら、それこそ資源の値段がぱっと上がったり、たまたま商品がヒットすることで成長する国はありますが、戦後年率7%以上の成長を25年以上続けたのは、日本が一番初めの成功例で、香港・台湾含めて13地域しかありません。

その13地域の中に主な東アジアの国が入っていますが、例えばアフリカのボツワナといった国も入っています。そのような国がどういうことをやって世界の200の国・地域の中で一応成功したのかということをまとめたレポートが出ています。先ほどの韓国の戦略の中でも共通点がありますが、例えば輸出市場に対する積極的な関与、それから国内的には基本的に安定した政策運営や貯蓄重視の経済運営といったことが幾つか入っています。そういう意味で少なくとも国としてやるべき共通の戦略がある程度は見えてきます。

ただし、これは理論的に頭の中で考えて実行したらうまくいくというよりは、結果的に成功した国がどんなことをやっていたか後から見てみたというやり方です。一番初めに世銀やIMFなどでいろいろパラダイムがあって、まずこれをやるべきだということでやってみて失敗した、うまくいかなかったという反省の話もございました。

現在の世界銀行はどういう考え方を取っているかと言いますと、基本的に世界中でうまくいくやり方、特に開発の面でそういう万能薬のような政策はないと考えています。したがいまして、その国の置かれている環境や背景、産業構造あるいは人口動態も含めた中で、一番いいやり方をその国自身が本当は見つけるべきで、そのお手伝いを世界銀行や支援国がしていくことになると思います。

支援国の役割と申しましても、先ほど申したとおり、これから途上国の経済成長の方が先進国の経済成長より大きくなっていきますので、助けてあげるというよりは、パートナーとなって一緒に成長していくという考え方の方がむしろ近いと思います。そういう意味では、これから、今日のテーマでもいろいろな議論がありますが、世界銀行からすると、それぞれの国が勝った負けたというよりは、全体としてパイを大きくしながらそのパイをうまくみんなで分かち合っていくというやり方がいいのではないかと考えているところです。

谷口 和繁 氏  世界銀行駐日特別代表

谷口 和繁 氏  
世界銀行駐日特別代表

ベン・ファイン氏 ロンドン大学東洋アフリカ学院教授

議論、ご発言、非常に豊かなものでした。私の方から1時間以上申し上げたいことがあるのですが、10分で抑えたいと思います。

私は通常の考え方ではない非典型的な考え方をしたいと思います。グローバルな危機によって非常に膨大な課題が投げ掛けられ、従来典型的な考え方というのはうまくいかないことが分かり、これは捨てられたのですが、ただ非典型的な考え方を求めるのも非常に難しいものです。しかしながら申し上げておきたいことは、日本であろうとも、韓国であろうとも、もし通常どおりの考え方だけをしていたのであれば今のような成果はなかったと思います。

前のスピーカーに関して私自身の区分けをしたくないのですが、スピーカーが話しておられたのは開発主義国家をどうやって維持するかでした。つまり後発国の産業化が達成された中でどうやって開発主義国家をするか。そして一方では、グローバルな状況が変わってきているということでした。私が最初に申し上げたように、この変化したグローバルの状況の中で、金融化が非常に重要であるということを再度強調したいと思います。後発国の産業化の作業というのはこれから達成される、これから直面しなければならない問題です。先進国、それから後発国の問題に対応するならば、まず開発主義国家という考え方が登場しなければ何の前進もないわけです。福祉国家の概念もそうですし、社会経済的なインフラ、そして援助の役割というものも考えなければなりません。これがなければ前進がありません。これは日本にとっては決定的な問題です。新しい成長戦略を考えているし、こういう問題は非常に重要なのです。非典型的な考え方でこれに対応しなければなりません。

これは私の無知から来るのかもしれませんが、日本の伝統的な産業政策が、少し時期尚早に捨てられているのではないか、却下されているのではないかと懸念しています。ここで、ある程度批判的な考え方をしなければならないと私は思います。これだけが主要な問題ではないのかもしれませんが、私どもが典型的な考え方しかできないのは、ある程度世銀のせいもあるわけです。

最新のノーベル賞受賞者に3名のエコノミストがいます。金融危機までその傾向としてはノーベル賞は金融経済学の人たちに与えられましたが、それは今変わってきており、最新のノーベル賞の授賞者は労働経済学の授賞者でした。その前提として、すべてのセクターで同時に失業が増大するのは無理だという議論です。典型的な考え方から脱却するというのは、まさにこういうことです。

私が申し上げたかった主要な点というのは、非典型的な考え方をする一つの方法として、ミクロとマクロの経済学の区別をなくす、そしてマクロをミクロに従属させることをやめるということなのです。国家の役割を理解する上で、今までの考え方ではこれが非常にダメージが大きかったのです。国家の役割から、ミクロとマクロの経済学の区別を撤廃すべきなのです。特に産業政策あるいは医療、教育、福祉、金融化という話をする際には、伝統的なミクロとマクロの経済の区別は、国家の役割を理解する上で不適切なのです。

金融のミクロ経済学、そして有効市場の仮説というのは一方で成立し、マクロ経済というのは金融政策であって、全くお互いに関係ないと言われていました。IMFも「これは間違いだった」と今は認めています。私は金融のミクロ経済ではなくて世界の金融化だと思っているのですが、このミクロ経済、経済の金融化がマクロ経済的にも重要だということを理解すべきだったとIMFは認めています。今日の世界ではそれが十分に理解されるべきだと考えます。

少し長く話しすぎましたが、最後にもう一つだけお話を申し上げたいと思います。私の専門分野の南アについてです。金融化が南アの経済にどういう影響を与えたかという話です。ジム・アダムズさんは南アの不平等は世界でも最悪の状況だと示されました。アパルトヘイト以後、むしろ悪化したのです。過去20年南アで金融についてどういうことが起きたか、そして経済にとって金融化が何をもたらすかということを申し上げます。

学者、政策立案者、政府、すべてが認めている点ですが、まず第1に金融サービスの南アでのシェアというのは非常に急速に伸びてきて、ほかのセクターをしのいでいます。金融サービスがGDPの20%くらいになっているのです。しかしながら、人口の40%は全く金融サービスを受けていません。それが最初の点です。

それから2番目に、金融が何を達成すべきなのか。金融とは効率的に有効に資源を動員し、投資のために配分されます。南アの投資のレベルはGDPの10%をやや上回るという程度で、世界でも最下位です。経済の20%は金融サービスですが、投資のレベルはこれだけ低いのです。

なぜこうなっているのかは非常に明白です。かなりの資本逃避があるからなのです。これはアフリカでも政策上最も深刻な問題でしょう。そのほとんどが不法の非合法の資本逃避です。南アは2007年、ピーク時には資本逃避がGDPの20%もありました。投資がGDPの10%の中でそれだけの資本逃避があったわけです。そして不法の非合法の移転価格でこういうものが起きていました。

それから資源が否定されている中で、南アでは為替レートも非常に高いです。それで資本逃避の価値が高くなる、金利も非常に高くなっています。短期の流入によって、長期の資本流出の埋め合わせをしようとしています。為替レートが非常に高い、金利が非常に高いということは、30%の失業を抱える経済にとって非常に悪影響を及ぼします。

私が申し上げたいのは、この場合、南アの経済の脈略の中で金融化を見る場合に、ミクロやマクロなどという区別を撤廃することが重要なのです。どうやって政策をうまく考案して、資源を最も開発の目的に活用できるかということを考えていかなければなりません。

ベン・ファイン氏 ロンドン大学東洋アフリカ学院教授

ベン・ファイン氏
ロンドン大学東洋アフリカ学院教授