2008年3月 2007年GDPと2008年政治の季節到来
月間ブラジル・レポート
ブラジル
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経済
GDP: 2007年のGDP(速報値)が発表され、成長率は政府や市場関係者の事前予想を若干上回る5.4%を記録した。また、2007年時点の人口が約1億8,930万人であることから、1人当たりGDP成長率は4.0%となった。過去10年間の年間と1人当たりGDP成長率の推移を見ると、双方とも2004年に次ぐ高い数値となっている(グラフ1)。特に、ここ数年の経済成長がより安定していることに加え、更なる経済成長を目標に掲げた第2期ルーラ政権にとって、2期目の初年度となる2007年の経済成長が良好だったことは、同政権の高い支持率の要因の1つになっているといえる(政治欄参照)。しかし、2008年は世界的な景気後退が予想されることなどから、ブラジル政府の研究所IPEA(応用経済研究所)は2008年のGDP成長率を2007年よりも低い4.2%~5.2%と予測している。
(出所)IBGE
また、2007年GDPの内訳および部門別で見ると、ほぼ各項目とも昨年および一昨年よりも高い数値となっている(グラフ2)。特に内訳の中では、家計消費支出が1995年の8.6%以来の高い数値となる6.5%を記録し、国内消費市場の拡大を裏付けるものとなった。これには、労働者の賃金が実質ベースで3.6%上昇したことや、個人向け信用市場(融資分野に制限のない自由枠)が名目ベースで28.8%拡大したことなどが影響した。また、総固定資本形成も1994年の14.3%に次ぐ13.4%という高い伸び率となり、増加する海外直接投資をもとにした投資の拡大を確認することができる。さらに、為替相場におけるドル安レアル高の進行を受け輸入が大きく伸びた一方、為替の影響にも関わらず一次産品の国際価格の上昇から輸出も堅調な伸びとなっている。一方、部門別では輸出向け農産品に支えられた農業をはじめ、加工業やインフラ整備関連産業、鉄鋼業などが順調であった工業、国内消費市場の拡大に牽引されたサービス業ともに、好調な伸びを記録した。
(出所)IBGE
また、同時に2007年第4四半期GDP(速報値)も発表され、前年同期比で6.2%、前期比(季節調整済み)で1.6%の成長率となった(グラフ3)。内訳および部門別の成長率はグラフ4の通りであり、2007年の年間GDPと同じような特徴を確認することができる。特に、第4四半期のSelic金利の平均が2007年中最も低い11.2%(年率)になったことが(第1四半期:12.9%、第2:12.3%、第3:11.5%)、家計消費支出の17期連続の上昇(前年同期比)や、設備機器の生産と輸入の増加による総固定資本形成の大幅な伸びの一要因となった。また、部門別では農業の伸び(前年同期比)が顕著であったが、これは主要農産物の生産量の増加などによるもので、IBGE(ブラジル地理統計院)は小麦とサトウキビの2007年生産量がそれぞれ62.3%と13.2%増加したとの調査結果を発表している(Levantamento Sistemático da Produção Agrícola)。
(出所)IBGE
(出所)IBGE
貿易収支: 3月の貿易収支は、輸出額がUS$ 126.13億(前月比▲1.5%、前年同月比▲2.1%)、輸入額がUS$116.01億(同▲2.7%、21.1%増)となり、輸出入ともに前月より減少したものの3月としては過去最高額を記録した。また、貿易黒字額は前月比で3ヶ月ぶりの増加となるUS$ 10.12億(同14.7%、▲69.4%)となった。この結果、年初からの累計額は輸出額がUS$386.90億(前年同期比13.8%増)、輸入額がUS$358.53億(同41.8%増)、貿易黒字額がUS$28.37億(同▲67.5%)となった。
輸出に関しては、一次産品がUS$36.64億(1日平均額の前年同月比8.0%増)、半製品がUS$16.45億(同10.8%増)、完成品がUS$69.88億(同5.4%増)となった。主な輸出品目では、今回の輸出額で最高となるUS$5.83億を記録した航空機(同61.1%増)やセルロース(US$2.62億、同22.6%増)をはじめ、鉄鋼および大豆関連が大きなウェイトを占めた。また、主要輸出先は1位が米国(US$18.37億、同▲0.5%)、2位がアルゼンチン(US$13.44億、同27.6%増)、3位が中国(US$6.73億、▲8.5%)、4位がオランダ(US$6.66億)、5位がドイツ(US$5.57億)であった。
一方の輸入に関しては、資本財がUS$30.94億(同69.7%増)、原料・中間財がUS$46.01億(同6.5%増)、耐久消費財がUS$8.95億(同54.1%増)、非耐久消費財がUS$ 7.29億(同12.9%増)、原油・燃料がUS$22.82億(同70.2%増)であった。3月も輸入額は全体的に大幅に増加したが、その中でも耐久消費財に含まれる自動車の輸入額の伸び(同76.6%、US$3.66億)が顕著であった。また、主要輸入元は1位が米国(US$16.74億、同27.1%増)、2位が中国(US$12.83億、同49.7%増)、3位がアルゼンチン(US$10.21億、同25.1%増)、4位がドイツ(US$8.01億)、5位が日本(US$5.21億)であった。
物価:発表された2月の IPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比で0.05%ポイント低いものの、前年同月比では0.05%ポイント高の0.49%となった。食料品全体の価格は0.60%の上昇となり、1月の1.52%に比べ上昇幅は縮小した。具体的には、フェイジョン豆の価格は8.21%の上昇を記録したものの、1月の上昇率14.02%に比べ低いものとなったことや、肉類の価格が0.29%(1月)→▲1.00%(2月)へと下落したことが影響した。一方、非食料品価格は全体で0.29%(同)→0.46%(同)へと上昇した。これは主に、ブラジルでは2月が学校の新学期に当たることから、教育関連品目の価格が3.47%と大きく上昇したことによる。しかし、燃料価格が▲0.33%(同)→▲1.42%(同)と前月よりも更に下落したことから、大幅な価格上昇は抑えられることとなった。
金利:Copom(通貨政策委員会)は3月5日、政策金利のSelic金利(短期金利誘導目標)を4回連続で11.25%に据え置くことを全会一致で決定した。今回もSelicが据え置かれた主な要因として、原油や穀物価格が世界的に上昇傾向にある一方で国内消費が過熱気味であり、需給のアンバランスによるインフレ懸念の高まりが挙げられている。また、今回のCopomにおいて金利の引き上げ効果が話し合われたことから、市場関係者の間では4月に行われる次回のCopomでのSelic引き上げを予測する声が高まっている。 為替市場: 3月の為替相場は、2月に強まったドル安レアル高傾向に歯止めがかかり、緩やかながらドルが値を戻す展開となった。ドル・レアル相場は5日に買値でUS$1=R$1.67を下回った後は、Selic金利の据え置きや、世界的な金融市場の混乱の影響を受け新興市場からの資金引き上げが強まるとドルが買われる展開となった。また、為替市場におけるドルの余剰状態と更なる流入を抑え、ドル高レアル安へ歯止めをかけることを目的に、政府が12日に発表した為替対策((1) 輸出企業に対する一部税金(IOF:0.38%)の免除および(2) 売上金の海外での外貨建て保有上限の撤廃(2006年7月レポート経済欄参照)、(3) 海外からの短期投資に対する課税(IOF:1.5%))も効を奏したと考えられる。そして、月末にはUS$1=R$1.7491(売値)までドルが値を戻し3月の取引を終えた。しかし、米国のサブプライム・ローン問題やその対策としての金利引き下げから世界的にはドル安傾向になっているため、今後ドル高レアル安が若干強まったとしても、トレンドが大きく変化する可能性は低いと考えられよう。
株式市場:サンパウロの株式相場(Bovespa指数)は、サブプライム・ローン問題に起因する米国経済の景気後退懸念の影響を受け、世界の主要株式市場と同様に3月を通じて軟調に推移した。また、国内のインフレ懸念によるSelic金利の据え置きに加え、公開されたCopom議事録により今後の金利引き上げの可能性が高まったことや、一次産品の国際価格が一時大幅に下落したことなどから、カントリー・リスクは17日に1年2ヶ月ぶりの300ポイント超えとなる304ポイントまで上昇した。そして、発表されたGDPの数値は良かったものの、今後に対する内外の不安要素からBovespa指数は19日には58,827ポイントまで下落した。しかし、その後は買い戻しが入り60,968ポイントで3月の取引を終えた。
政治
ルーラ政権支持率:ルーラ政権および大統領の支持率に関する世論調査の結果が発表され、ルーラ政権に関しては政権発足以来、最高の支持率を記録するとともに(グラフ1)、ルーラ大統領個人に対する支持率も2番目に高い数値となった(グラフ2)。これは、GDPに表れているように2007年の経済が好調であったことが1番の要因であるが、昨年は重要な選挙がなく、汚職事件の発覚や暴露などの政治的に深刻な問題が発生しなかったことも影響したといえる。なぜなら、ルーラ政権発足以降、概ねブラジルの経済は好調であるとともに、社会政策が功を奏し国民間の不平等も是正傾向にあることから、ルーラ政権および大統領の支持率が低下したのは大規模な汚職事件が問題化したときにほぼ限られているからである。
そして、今年は10月に全国地方選挙(市長および市議会議員)があるとともに、ルーラ大統領が2010年に任期終了を迎えることから、最近、ポスト・ルーラをめぐる争いに注目が集まっている。非常に高い支持率を誇っているルーラ大統領であるが、大統領の連続出馬は憲法により1回のみに限られていることに加え、国民の6割以上が憲法改正によるルーラ大統領の3期目続投には反対との世論調査結果が出ている。一方、ルーラ大統領が所属するPT(労働者党)の次期大統領候補選びに関しては、政権1期目に発覚した同党をめぐる一連の汚職事件により、主要な党内有力者が辞任に追い込まれており、PTとしては持ち駒がない状態であった。
このような状況の中、最近、Dilma文民官がPTの次期大統領候補者として有力視されていた。しかし今月、コーポレート・カード疑惑(先月レポート政治欄参照)で批判を浴びた現政権が、カルドーゾ前政権にも同疑惑が存在していたことを証明すべく、国家機密に関わるため本来は法的な手続きが必要な書類の作成を独断かつ故意に行っていたこと、そして、本件にDilma文民官が深く関与していた疑惑が持ち上がった。本疑惑に関しては設置された議会のCPI(議会調査委員会)で真相の究明が行われているが、“PAC(成長加速プログラム)の母”と言われたDilma文民官が、今後PTの大統領候補となる可能性は限りなくゼロに近くなったといえる。今後、重要な選挙を迎えるブラジルに再び政治の季節が到来したといえよう。
(出所)IBOPE
(出所)IBOPE
社会
デング熱:ブラジルでは今年1月に黄熱病が流行したが(1月レポート社会欄参照)、今度はリオ市を中心としたリオ州でデング熱が大流行する事態となった。リオ市および近郊の病院では全ての患者を往診することができないため、軍隊により急遽設営された野外の診察所において患者への治療が行われている。リオ州の死者数は3月末時点で67名にのぼる一方、デング熱感染者は他の州でも確認されており、保健省が発表したブラジル全国の感染者数は2月末までで12万人を超え、特に子供に多くの犠牲者が出ている。
デング熱は黄熱病と同様に蚊を媒介して感染するが、デング熱の蚊はわずかな量の水でも発生するため都市部でも流行しやすいことや、黄熱病と異なりデング熱には予防するワクチンや薬がない。したがって、デング熱が一度発生すると感染が容易に広まりやすく、その死亡率は1%以下とされるものの、免疫力の弱い子供などが犠牲になる確率が高い。 Bolsa Família: 政府は、対象者が15歳までの子供を有する家庭であった社会政策Bolsa Família(2007年8月レポート社会欄参照)を16歳と17歳の子供を有する家庭にも拡大し、17日から実施を開始した。16歳と17歳の子供を対象とした支給額は1人につきR$30で、1家族2人分の合計R$60までを受給できる。したがって、Bolsa Famíliaにおける1家族の最高受給限度額は以前のR$112からR$172へと引き上げられることになった。これにより113万家族が新たにBolsa Famíliaの対象となる一方、同政策の政府支出額は月にR$3,470万(年間R$4億強)増加する見通しとなっている(変更前の2008年支出予測額は年間約R$100億)。今回の対象者の拡大は、低所得層の子供の多くがBolsa Família の対象外となる15歳を過ぎた時点で、基礎教育過程を終了せずに学校での就学を断念してしまう一方、家計を助けるべく労働市場に劣悪な状態で参加せざるを得ない状況にあるという、政府の調査結果にもとづいている。
また、今月発表されたIBGEの全国家計調査(PNAD)をもとにした調査によると、2006年に全国5,400万世帯のうち1,000万世帯が何らかの社会扶助を受給し、これら世帯の8割以上に当たる810万世帯がBolsa Famíliaの受給者であったとされる。また、全国民に対する社会政策受益者の割合は、2004年の15.6%から2006年の18.3%へ増加したとされる。
最近の景気拡大にともなう税収増により、今年1月の政府の基礎的財政収支黒字額(R$153.62億)は過去最高を記録したが、政府は今年からCPMFという財源を失っていることに加え(1月レポート政治欄参照)、世界経済の先行きに対する不透明感が高まっている。したがって、確かにBolsa Famíliaは国民間の格差是正に効果があり、政府の調査結果も現状を捉えていると考えられるが、この時期にBolsa Famíliaの対象を拡大することと10月の選挙との関連を指摘または批判する見方にも一理あるといえよう。
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