2007年9月 経済成長の目標達成なるか?
月間ブラジル・レポート
ブラジル
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経済
第2四半期GDP:
2007年第2四半期のGDP(速報値)が発表され、前期比0.8%、前年同期比5.4%となった。この数値は、市場関係者の予想(前年同期比5.9%)を若干下回ったものの、過去最長となる22四半期連続のプラス成長となり、堅調な経済成長を示すものとなった。
その内訳を見ると、家計消費支出と投資を示す総固定資本形成の伸びが高く、前回同様に引き続き国内市場が拡大していることが裏付けられた。また、長引くレアル高による輸入増加に加え、為替のマイナス影響にも関わらず、一次産品の国際価格上昇などから輸出が安定した伸びを記録した。一方、部門別では、工業(前期比1.3%、前年同期比6.8%)が成長を牽引したことに加え、サービス業(同0.7%、同4.8%)も堅調な伸びとなった(グラフ1)。今回の第2四半期GDPの成長率に関して、工業の高さと農業の低さが顕著であったものの、全体的な特徴は過去1年間の傾向を引き継ぐものといえる(グラフ2及び3)。更に、半期ベースのGDPの推移を見ると、成長ペースはBRICsの他の成長率著しい諸国には及ばないものの、近年の成長率が以前よりも高くなっていることがわかる(グラフ4)。
第2期Lula政権の至上命題ともいえる更なる経済成長を達成すべく、今年1月、「成長加速プログラム(PAC:Programa de Aceleração do Crescimento)」が発表されたが、政府が掲げた2007年のGDP目標値4.5%に対し、GDPの計測方法が変更される前だったこともあり(3・4月レポート参照)、当時は懐疑的な見方が多かった。しかし、第1四半期のGDP発表後、2007年のGDPに関する市場関係者の大方の予測は4.5%前後となり、今回発表された第2四半期の数値を受け、総固定資本形成の伸びが大きいことへの期待感も含め、政府目標の達成もある程度現実味を帯びてきたといえよう
グラフ1 内訳および部門別第1四半期GDP
(出所)IBGE |
グラフ2 四半期GDPの推移
(出所)IBGE |
グラフ3 四半期GDPの内訳および部門別推移:前年同期比
(出所)IBGE |
グラフ4 上下半期GDPの推移
(出所)IBGE |
貿易収支:
9月の貿易収支は、営業日が19日と少なかったため前月比ではマイナスとなったが、輸出サイドではブラジルの主要輸出産品に対する国際的な需要増と価格の上昇、輸入サイドでは為替相場のレアル高により、輸出入とも9月としての過去最高額を記録した。輸出額はUS$141.66億(前月比▲6.2%、前年同月比12.6%増)、輸入額がUS$106.95億(同▲7.5%、31.9%増)で、貿易黒字額はUS$ 34.71億(同▲1.8%、▲22.3%)となった。また、年初からの累計額は、輸入額の大幅な増加から貿易黒字額がUS$309.47億(同▲9.5%)と前年同期比でマイナスとなったが、輸出額のUS$1,165.99億(前年同期比15.5%増)、輸入額のUS$856.52億(同28.3%増)を足した貿易取引額は、先月に引き続き過去最高額を更新した。
輸出に関しては、完成品がUS$76.49億(一日平均額の前月比22.0%、前年同月比22.2%増)、半製品がUS$ 18.02億(同6.4%、8.9%増)、一次産品がUS$ 44.44億(同4.9%、16.8%増)となった。製品別では、大幅に増加した完成品の中では航空機、半製品の中では大豆油、一次産品の中では収穫期を迎えたトウモロコシや綿花の輸出額の伸びが顕著であった。
一方の輸入に関しては、資本財がUS$ 22.69億(同13.1%、49.0%増)、原料・中間財がUS$ 50.91億(同4.7%、30.1%増)、耐久消費財がUS$ 7.74億(同15.0%、41.2%増)、非耐久消費財がUS$ 6.21億(同8.6%、22.4%増)、原油・燃料がUS$19.40億(同34.7%、60.0%増)となった。長期のレアル高に加え、発表された四半期GDPが示すように国内市場が拡大していることなどから、引き続き輸入額は全体的に増加した。
物価:
発表された8月の IPCA(広範囲消費者物価指数)は、前月比で約2倍となる0.23%ポイント、前年同月比で0.42%ポイントと大幅に高い0.47%となった。この結果、年初来の累計値は昨年同期の1.78%に比べ1.02%ポイント高い2.80%となった。
8月の物価上昇は、食料品価格が全体で1.27%(7月)→1.39%(8月)上昇したことが影響した。また、7月に▲0.03%下落した非食料品価格も、8月は0.22%の上昇となった。食料品の中でも、牛乳及び乳製品が上昇率で11.31%(同)→5.77%(同)と低下したものの、依然として高い水準であったことをはじめ、世界的なバイオ・エネルギー需要の増加によるトウモロコシなどの家畜飼料作物の価格上昇や農作物の転換の影響を受け、主要食料品価格が軒並み上昇した。一方、エタノール需要の高まりからサトウキビ生産が増加していることもあり、アルコール価格が▲3.76%、ガソリン価格が▲0.89%と前月に引き続き下落した。
金利:
9月4、5日に開催されたCopom(通貨政策委員会)において、政策金利であるSelic金利(短期金利誘導目標)が11.50%→11.25%へと引き下げられた。8月の世界的な金融市場の混乱から、9月の引き下げは行われないのではないかとの観測も一部であったが、8月後半には金融市場が落ち着きを取り戻したことから、▲0.25%ポイントと引き下げ幅は前回より小幅であったものの、18回連続の金利引き下げとなった。
為替市場:
世界的な金融市場の混乱から、先月、US$1=R$2を超えるレベルまでドル高レアル安が進んだ為替市場であるが、世界の金融市場が落ち着きを取り戻したことから、今月は再びドル安レアル高の傾向が強まった。次項の株式市場で挙げたポジティブな要因などにより、先月、一時225まで上昇したブラジルのカントリー・リスクも、今月20日には167まで低下。そして、このような流れから新興市場への資金流入の動きが再び活発化すると、レアルは一方的に買われる展開となり、月末には約7年ぶりの高値水準となるUS$1=R$1.8381(買値)をつけ、今月の取引を終えた。
株式市場:
先月、米国の低所得者向け住宅ローン(サブプライム・ローン)問題に端を発した世界同時株安の影響を受け、乱降下したサンパウロ株式市場(Bovespa指数)であるが、8月後半以降には落ち着きを取り戻し、9月の半ばからは一方的に値を上げる展開となった。この要因として、発表された第2四半期GDPが堅調な数値であったこと、米国の金融当局が18日に0.5%という更なる大幅な金利下げに踏み切ったこと、エネルギー関連をはじめとするブラジルの輸出産品の国際価格が上昇したことなどが挙げられる。そして、月の後半には連日史上最高値を更新しながらBovespa指数は続伸し、27日には初めて60,000ポイントを超える61,052ポイントまで上昇し、ほぼそのままのレベルで今月の取引を終えた。
政治
2008年度予算:
政府は8月31日、総額R$1兆3,525億に上る2008年度の連邦政府予算案を提出した。内訳は債務元本返済費が37.3%と最も多く、次に社会保障及び扶助費の17.2%、利払い等費用の11.3%となっている。今回の予算案は、暫定的な税制措置であるCPMF(金融取引暫定納付金)を2011年まで延期することを前提としており、歳入として2007年の12.1%増となるR$6,827億(対GDP比24.9%)を見込んでいる。また、現在R$380である最低賃金をR$407.33へ増額することや、プライマリー・サープラス(利払い費を除く財政収支黒字)の対GDP比を4.25%から3.8%へ引き下げることが盛り込まれている。
しかし、政府が作成する連邦予算額は、実際の歳入額を上回ることなどから、実施年には大幅に削減されることが多く、その削減額は2005年から2007年までで、それぞれR$159億、R$142億、R$165億に達している(『Veja』21 de fevereio)。この予算の大幅な削減が、カーニバルの時期である2月に行われることが多いため、華やかではあるが一瞬にして終わってしまう“カーニバルの幻想”にかけて揶揄されている。
上院議長汚職疑惑の結末:
今年の5月に汚職疑惑が発覚したRenan(PMDB:ブラジル民主運動党)上院議長であるが(5月レポート参照)、その後も同議長が経営する会社が不正に利益を上げていたとの疑惑などが浮上し、Renan議長はますます窮地に追い込まれていった。そしてついに、同議長の議員権剥奪の可否を決める投票が、上院議員によって行われることとなった。
しかし、無記名で行われた投票結果は、議員権剥奪に賛成が35票、反対が40票、棄権が6票となり、Renan議長は議員権剥奪を免れるとともに、上院議長の座に引き続き留まることになった。事の真相は不明であるが、Renan議長が所属するPMDBが議会において最大勢力であり、同党がLula政権にとって重要な連立与党であること、そして、2008年度の連邦予算成立には議会でのCMPF延期の承認が必要不可欠であること(前述)などから、PMDBのRenan議長を議長職に留めた方が今後の議会運営上有利との政治的判断及び駆け引きが、政府連立与党内に存在したことは容易に推測できよう。
今回の結果に対し、野党議員やマスコミ、国民からは怒りと失望の声が多く上がった。しかし、世界180カ国の汚職ランキングで72位にランク付けされたブラジルは、過去の汚職事件同様、今回も歴史を繰り返すこととなった。
社会
社会指標:
ブラジル地理統計院(IBGE)が、「社会指標総括2007—ブラジル人の生活状況分析」(Síntese dos indicadores sociais 2007)を発表した。同指標は、2006年だけでなく、1996年からの過去10年間におけるブラジル人の生活状況の変化をまとめたものであり、その概要は以下のようになっている(表)。また、同指標は、毎年実施され、この9月にも2006年度版が発表された全国家計調査(PNAD)のデータをもとに分析が行われている。
これによると、近年、ブラジル人の生活状況は全体的に改善する傾向にあるものの、地域、人種・民族、階層などにより、依然として様々な格差が存在することがわかる。
表 ブラジルの社会指標の概要
概要 | 補足 | |
---|---|---|
基礎教育 | 非標準就学率(年齢と学年の不一致):2006年25.7%、1996~2006年の減少率▲41.6% | 2006年の最大は北東部37.9%、最小は南部15.5%。1996~2006年の最大減少率は南東部▲41.6%。 |
高等教育 | 学生の23.6%が公立(無料・より優秀)、76.4%が私立で就学(2006年) | 公立の学生の54.3%が所得上位20%の出身(2006年) |
就学年数 | 5.7→7.2年(1996~2006年:15歳以上) | 所得下位20%3.9年⇔上位20% 10.2年、白人8.1年⇔黒人・混血6.2年(2006年) |
非識字 | 15歳以上の非識字者1440万人中1000万人が黒人・混血(2006年) | 機能的非識字率(2006年):白人16.4%、黒人27.5%、混血28.6% |
所得 |
家族1人当たり月額所得の平均R$596、半数以上はR$350以下(2006年:最低賃金R$350) 23.4→18.2倍(1996~2006年:下位所得40%vs上位所得10%) |
同学歴の白人-黒人・混血間の賃金格差:約40%、所得層の白人割合:下位10%は26.1%、上位1%は86% |
児童労働 |
2006年で270万人が就労(5~15歳) 420→250万人(1996~2006年:10~15歳) |
北東部を中心に140万人が農業に従事(2006年) |
高齢者 | 60歳以上(1900万人):年金需給者76.6%、労働者30.9%、月額所得が1/2最低賃金12.4%(2006年) | 北東部の月額所得1/2最低賃金23.5%、白人57.2%⇔黒人・混血41.6%(2006年) |
その他 | 合計特殊出生率:2.7→2.0人、平均寿命:68.9→72.4歳、乳幼児死亡率:36.9→25.1%、家族人数:3.6→3.2人、女性家主:1030万→1850万人(1996~2006年)、都市部の生活インフラ整備率 61.5%:北部10.5%⇔南東部84%(2006年) |
(出所)IBGE