Oi! do ブラジル—リオデジャネイロから徒然なるままに 2006年11月 残された時間でできること

ブラジル現地報告

ブラジル

海外派遣員 近田 亮平

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2006年11月
今月のひとり言—計画通りにはなかなか行かないけど

私のブラジル滞在も残すところ3ヶ月となった。残りの3ヶ月という時間の中で何をどこまでできるのか、今月はかなりの焦燥感とともにこのことについて考える日々が続いた。なぜなら、私は今回のブラジル滞在で何を学び、それらをもとに今後どのような研究を行っていきたいのかという、根本的かつ中長期的な研究の方向性については言うまでもないが、今回のブラジル赴任前に「調査研究計画」なるものを作成しており、この計画をベースに帰国後の成果物の評価が決まるからである(日本は成果主義が厳しいようで・・・)。

しかし、現時点の研究の進捗状況を考えると、全て計画通りに進んでいるわけではなく(大学院、カウンター・パート、受入機関での出来事等々)。2年間というある程度の時間を“生活”していると、いろんな予期せぬことが起こるもので(2人もの大切な人の逝去等々)。事前に計画したことを100%成し遂げるのは非常に困難なのだが、それでも、残された時間でどれだけ計画に近づけ、自分が納得のいく研究を行えるのか、今月はそれを日々考えていた状態。

そんな中、「何はともあれやるべきことはやらねば」ということで、今月後半、サンパウロでアンケート調査を実施。インフォーマントたちの協力を得ながら、各家庭を一軒ずつ訪問。しかし、この調査自体も悪天候やインフォーマントの都合等から計画した通りにはうまく進まず、予想していたよりもかなり時間と労力を必要とするもので。途上国において外国人(私)一人でアンケート調査を実施することの難しさを肌身で痛感。

それでも、アンケートやインタヴュー調査を実施しながら、残された時間で何ができるのかを頭の中で模索するうちに、今後、帰国までと帰国後、現実的に何ができて何をすべきなのかという研究の方向性が何となく見えてきて。そのことは、当初の計画とは多少(?)異なるが、残された時間等の制約を考慮した中でフィージビリティが最も高く、短長期的にも(ある程度?)発展性および柔軟性があるものだと考えられ。当初の計画からするとベストではないが、ここでしかできない“今のベスト”を見つけられたことは、今月の一つの収穫であったと思えていて。

人生、計画した通りにはなかなかうまくは行かないもの。私の人生、行き当たりバッタリが多いところもあるが、目の前に“今のベスト”というハードルを立て、時間が限られてきた今は“今のベスト”を尽くしてそれを乗り越えていかなければ。

今月のブラジル 経済
第3四半期GDP:

2006年第3四半期のGDP(暫定値)が発表されたが、第2四半期(前期比0.4%)同様に前期比0.5%、前年同期比3.2%という低い成長率となった(グラフ1および2)。低成長に終わった今回の第3四半期GDPであるが、その中でも投資を示す総固定資本形成が2.5%(前期比)と相対的に高い伸びを示しており、今後の成長に期待を残したとの指摘がされている。ただし、第3四半期まで比較的好調であった家計消費支出の伸びが鈍化しており、クリスマスなどのある年末に向けて個人消費がどれくらい増加するかが、今年のGDPを大きく左右するといえよう。また、部門別では、主にコーヒーやサトウキビの収穫期に当たったことから農業が1.1%(前期比)の伸びを達成している。

第3四半期までのGDPの年初累計は2.5%となり、BRICs諸国の中で最も低い成長率となった(中国10.4%、インド9.2%、ロシア6.6%)。当初、政府は今年のGDPの目標値として4%を掲げていたが、この目標値も10月末から徐々に引き下げの方向で見直されてきており、市場や政府関係者の間では2006年のGDPは3%以下になるとの見方が大半を占めている。今後の経済成長は好調な輸出入に依るだけでなく、政府と民間投資による産業および生活インフラの更なる整備と国内市場の開拓が鍵を握っているといえよう。

グラフ1 内訳および部門別第3四半期GDP

グラフ1 内訳および部門別第3四半期GDP
(出所)IBGE

グラフ2 四半期GDPの推移

グラフ2 四半期GDPの推移
(出所)IBGE
貿易収支:

11月の貿易収支は、前月比で輸出入および貿易黒字額がマイナスとなったものの、輸出額がUS$ 118.66億(▲前月比6.3%、前年同月比10.0%増)、輸入額はUS$ 86.72億(同▲0.8%、29.5%増)で、輸出入ともに11月の過去最高額を記録した。輸出に関して、前年同期比で量的にも4.7%増加したが、輸出品価格が11.9%(同)上昇したことが輸出額増加に大きく寄与しており、今年の目標値であったUS$1,350億をほぼ達成する見通しである。一方、長期にわたるドル安レアル高傾向により、今月も輸入額の増加率が輸出額のそれを上回ったため、貿易黒字額はUS$ 31.94億(同▲18.4%、▲21.9%)で前年同月比でもマイナスとなった。しかし、年初からの累計額はUS$410.74億(前年同期比1.6%増)で、以前として前年を上回っている。なお、年初からの累計輸出額はUS$1,252.37億(同16.6%増)、輸入額がUS$841.63億(同25.6%増)であった。

物価:

発表された10月のIPCA(広範囲消費者物価指数)は、9月の0.21%より0.12%ポイント高い0.33%となった。しかし、この数値は前年同月の0.75%よりも低く、年初からの累計値は前年同期の4.73%の半分以下の2.33%となり、政府の今年のインフレ目標値4.5%の達成はほぼ確実なものとなった。

今回の物価上昇の主な要因として、肉類をはじめとした食料品価格(9月0.08%→10月0.88%)や家庭内労働者(empregados domésticos)賃金(同1.97%→1.39%)のほか、タバコ(10月1.31%)、理容・散髪(同1.18%)、衣料品(同0.64%)価格などの上昇が挙げられている。その一方で、燃料であるアルコール(9月▲3.76%→10月▲3.28%)とガソリン(同▲0.05%→▲0.11%)の価格は前月に引き続き下落した。

金利:

今月28日と29日に開催された今年最後のCopom(通貨政策委員会)において、Selic金利(短期金利誘導目標)が昨年9月から12回連続で引き下げられ、13.75%→13.25%(▲0.50%ポイント)となった。インフレ率を差し引いた向こう12ヶ月の金利である実質金利は依然として世界でも最も高い水準(8.7%)にあるが、13.25%という水準は昨年末の18.00%を大きく下回り、前回に引き続きSelic創設(1986年)以来の最低値を更新した。ただし、今回の金利引き下げ幅に関して、8人のCopom委員のうち5人が0.50%を支持したものの、残る3人は0.25%を主張しており、次回のCopomにおいて金利引き下げが行われたとしても、下げ幅は縮小する可能性が高いといえる。

グラフ3 Selic金利の推移:2003年以降

グラフ3 Selic金利の推移:2003年以降
(出所)ブラジル中央銀行
為替市場:

今月の為替相場は、年末に向けた企業の利益確定送金や中央銀行の介入などによりドルが堅調に推移し、28日には一時US$1=R$2.187(売値)のドル高となった。しかし、その後はSelicの更なる引き下げを好感したレアル買いなどから、ドルはUS$1=R$2.166(買値)まで値を戻して今月の取引に終始した。

株式市場:

最近の原油価格の上昇が好感されたPetrobras(ブラジル国営石油公社)や、先月、カナダの鉱業企業買収を行ったCVRD(リオ・ドセ社)などの株に外国人投資家を中心とした買いが集まったことから、今月のサンパウロ株式市場Bovespa指数は好調に推移。23日には、初めての42,000ポイント越えとなる42,070ポイントの史上最高値を記録した。その後、海外株式市場の下落などの影響を受けて一時値を下げる場面が見られたものの、42,000ポイント弱の水準で今月の取引を終えた。

海外投資:

今月、10月の直接投資額が発表されたが、CVRDによるカナダ鉱業企業買収が行われたため、ブラジル人による海外投資額が外国人によるブラジル国内投資額を大幅に上回ることとなった(グラフ4)。10月のブラジル人による海外投資額はUS$150.2億であったが、このうちの約US$133億がCVRDによるものと推測される。CVRDの買収額は異例とも言えるが、この他にもブラジル国内鉄鋼大手のCSN(Companhia Siderúrgica Nacional)が英蘭鉄鋼大手コーラス買収に名乗りを上げたり、Petrobrasも外国企業の買収を試みたりするなど、近年、ブラジル企業による外国企業買収をはじめとする海外投資の動きが活発化している。

グラフ4 直接投資額の推移

グラフ4 直接投資額の推移
(出所)ブラジル中央銀行
政治
ルーラ政権2期目:

22日、ルーラ大統領は議会における最大政党であるPMDB(ブラジル民主運動党)のMichel Temer党首と会談を行い、政権2期目に関して同党と連立を組む旨の合意を取り付けることに成功した。その後、PMDBは党幹部会議を開き、現在、同党が2つ有する大臣ポストを5つにすることを条件に、ルーラ政権2期目に協力することを決定した。

PMDBはルーラ政権1期目にも協力関係にはあったが、配分された大臣ポストが少なかったことなどに対する不満から、必ずしも協力的であったとは言い難い。しかし、今年の選挙により、PMDBは513名の下院議員中89名、81名の上院議員中18名、27名の州知事中7名と、いずれも最多議員数を有するに至った。したがって、ルーラ大統領にとって政権2期目の政治運営を有利に行う上で、PMDBの協力は必須条件ともいえるものであり、今回、PMDBが連立政権参加を正式に表明したことは大きな意義を持つといえよう。しかし、このPMDBの決定は全会一致で決まったものではなく、同党内部には今回の決定に反対または不満を持つ者もいる。また、政権2期目の閣僚ポストもまだ発表されていない。したがって、ルーラ大統領にとって今回のPMDBの政権参加決定は有利な要素の一つではあるが、政権2期目の政治運営に関しては依然として不透明な要素が多いといえよう。

社会
航空危機:

10月に民間航空会社Golの旅客機がジェット機と空中で接触した後にアマゾンのジャングルに墜落し、ブラジル民間航空史上最悪の154名もの死者を出す事故が発生した。同事故の原因に関しては依然として調査が行われているが、この事故をきっかけに航空分野における整備の遅れや航空管制官の人員不足などの問題点が明らかになるとともに、ブラジル各地の空港で延べ数日間にわたり、最大で15時間以上もの航空便の遅れやキャンセルが相次いだ。この影響で、適切な情報を提供されぬまま空港に長時間待たされ、苛立ちが限界を超えた乗客が航空会社のカウンターに侵入し、警官や航空会社および空港の職員と衝突するなど、いくつかの空港ではパニック状態に陥る事態となった。

航空危機とも呼ばれる今回の航空便の問題は、11月に多いところで3日間あった祝祭日や悪天候などが影響したこともあるが、航空分野における人員および予算の不足という構造的な問題が主な要因であることは明らかである。2006年に関して、航空分野にはR$5.32億もの予算が計上されていたが、11月前半までに実際に使用された額はR$1.69億あまりである(O Estado de São Paulo紙2006年11月7日)。緊急対策として政府は、約150名もの空軍の管制官を主要空港に派遣して事態の沈静化を試み、月末には航空便の発着状況もほぼ通常通りとなった。しかし、依然として根本的な問題解決には至っておらず、これからブラジルは年末年始にかけ旅行・観光シーズンを迎えることもあり、航空危機再発の可能性を指摘する声も多い。


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