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アジアの開発途上国における子どもの生活環境 ――調査研究報告書――

調査研究報告書

寺本 実(編)、中村 まり森 壮也

2026年3月発行

本稿では、寺本2025で示した筆者の関心にひきつけ、スガタ・ダスグプタが生み出した<peacelessness>という認識概念を手がかりに、子どもたちを取り巻く現在の状況を<ピースレスネス>と捉えた。そしてヨハン・ガルトゥングの<暴力>論に学び、<ピースレスネス>下にある子どもの状況を「取り巻く諸条件により、子ども(非障害児、障害児)の肉体的・精神的実現が、潜在的に可能な実現を下まわる時、そこには子どもたちに対する暴力(問題)が存在する」と認識することの重要性を主張する。こう捉えることにより、子どもに関わる問題は、社会開発や教育の問題としてだけでなく、<平和>について考える取り組みの下に位置付けることが可能になり、より不断の関心の下に置かれることになる。

第1章
インドは、児童労働の減少と並行して、学校教育の普遍化に向けて政策改定や国際条約の批准を行うなど、近年着実な進展を見せている。世界最大の子ども人口を抱えるインドの子どもたちをめぐる政策の中でも、低所得層への影響が大きい児童労働撤廃に関わる政策と関連法の変遷を、子どもたちの生活環境の変化の一端として検討した。
第2章

発展途上国における子供の権利保障は国際的な中核課題となりつつあり、障害児についてもUNICEFから国際比較可能な障害児の実態について調査したデータベースが発表された。しかし残念ながらフィリピンはこのデータベースには加わっておらず、代わりに同国では新型コロナ感染症(COVID-19)蔓延期間に同国のUNICEF支部と政府機関により障害児を持つ家庭に対する緊急電話調査が実施されている。フィリピンでは、法律や大きな枠組みは整っていてもその現場での実施に問題があるというのが障害児についても明らかになっている。またその認識はNGO間でも共有されてきており、今後さらなる問題解決へのアプローチが求められている。またネットワークやAIの発展に伴い、子どもの虐待で、国境を超えたネッワーク上の性的虐待である「オンライン性的搾取・暴力」(OSEA)が近年新しく出てきた課題となっている。その被害者に障害児が含まれるようになってきているという新たな状況も明らかになっている。

第3章
ベトナムでは、右肩上がりの経済成長と現代化の進展を背景として、乳幼児の健康状況の改善、教育レベルの向上、教育の多様化、教育施設の改善といった健康面、教育面などで積極的な変化が見られる。その一方で、日本を含めた各国と同様にベトナムも多くの問題に直面している。少子化、二重負荷の問題、インターネットとりわけ巨大プラットフォームやソーシャルネットワークの浸透が子どもにもたらす影響、非行、子どもに対する暴力や虐待などの問題をベトナムも抱えている。