レポート・報告書

アジ研ポリシー・ブリーフ

トランプ政権の中国・カナダ・メキシコに対する関税政策の影響

2025年1月28日発行

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  • 第2次トランプ政権では中国に10%、カナダ・メキシコには25%の追加関税を賦課することを検討している。
  • カナダ・メキシコへの25%の追加関税では、メキシコのGDPは4.1%減少、カナダのGDPは1.4%減少、アメリカのGDPは0.5%減少する。世界全体では0.2%のGDP減少となる。
  • 中国にも10%の追加関税を賦課した場合、中国のGDPは0.3%の減少にとどまる一方で、アメリカのGDP減少幅は1.1%と拡大する。世界全体のGDP減少幅は0.3%となる。

トランプ大統領は就任前の2024年11月25日、カナダとメキシコが麻薬(特にフェンタニル)や国境を越える移民を取り締まるまで、カナダとメキシコからの輸入品に25%の追加関税を課すと述べた。また、中国からの輸入品に10%の追加関税を課すと説明している。

2025年1月20日に就任したトランプ大統領は、直後に「アメリカ第一の貿易政策に関する覚書」に署名した。カナダとメキシコからの輸入品に対し2月1日から25%の追加関税を課すことを検討していると述べるとともに、中国への10%の追加関税についても同様の認識を示した。

本ポリシーブリーフでは、中国・カナダ・メキシコに対する追加関税が発動された場合、世界各国にどの程度の経済的影響が出るのか、アジア経済研究所の経済地理シミュレーションモデル(IDE-GSM)を用いて試算した。

IDE-GSMは企業レベルでの規模の経済を前提とした空間経済学に基づく計算可能な一般均衡(CGE)モデルの一種である。2007年よりアジア経済研究所で開発が進められ、国際的なインフラ開発の経済効果分析などに利用されてきた。ここでは、①アメリカがカナダおよびメキシコに対して25%の追加関税を課した場合、②アメリカが①に加えて中国に対して10%の追加関税を課した場合、の2通りのシナリオについて、各国・各地域経済への影響を試算した。

分析のシナリオ

第2次トランプ政権が検討する輸入関税引き上げについてのシミュレーションを、以下のシナリオに沿って行った。

ベースライン:アメリカがすべての国に対して関税のさらなる引き上げを行わないケース。2018年に開始された米中貿易戦争における両国間の関税率の引き上げに加え、RCEPCPTPPによるメンバー国間の関税率の引き下げスケジュールは含まれている。

シナリオ1:アメリカがカナダおよびメキシコに対して25%の追加関税を課す。

シナリオ2:カナダおよびメキシコに対する25%の追加関税に加え、中国に対して10%の追加関税を課す。

ここでは、関税の引き上げは2025年に開始されると仮定し、ベースライン・シナリオと関税引き上げシナリオについて、2年後の2027年時点で比較し、各国・各地域の実質GDPの差分を関税引き上げの影響とみなしている。

推計結果

表1では、アメリカがカナダおよびメキシコに対して追加関税を課した場合の影響を、産業別・国・地域別に示した。

表1 シナリオ1の影響(2027年、ベースライン比)

表1 シナリオ1の影響(2027年、ベースライン比)

(出所)IDE-GSMによる試算。

アメリカのGDPへの影響はマイナス0.5%となっている。産業別にみると、アメリカは自動車産業(1.7%)と食品加工業(1.4%)がプラスの影響を受ける。これは、メキシコおよびカナダからの両産業の輸入が国内生産で代替される影響とみられる。一方で、その他の産業は軒並みマイナスの影響を受ける。自動車・食品加工以外の産業では関税が必ずしもアメリカ国内での代替生産を誘発しないことを示している。

メキシコについては、GDPへの影響はマイナス4.1%と大きくなることが予測されている。産業別にみると、自動車産業(-10.3%)と食品加工業(-10.0%)への影響が大きく、ほとんどの産業がマイナスの影響を受ける。繊維・衣料産業にプラスの影響があるが、これは他の産業と比較して相対的に関税の影響が小さく国内での比較優位が変化しているためと考えられる。

カナダについてはGDPへの影響はマイナス1.4%でその影響はメキシコよりも小さくなっている。自動車産業(-10.5%)とその他製造業(-5.1%)へのマイナスの影響が大きいものの、カナダのGDPに占める製造業の割合(10%以下)はメキシコ(20%程度)の半分程度であることも影響しているものと考えられる。

その他の国では日中ASEANなどの自動車産業や食品加工業にプラスの影響がみられ、カナダ・メキシコからの輸入を代替しているとみられる。世界経済に与える影響はGDP比でマイナス0.2%となっている。

表2では、アメリカがカナダ・メキシコに加えて中国からの輸入についても10%の追加関税を賦課した場合の影響を、産業別・国・地域別に示した。中国への影響はGDP比でマイナス0.3%となっており、産業別では電子・電機(-0.6%)、その他製造業(-0.5%)への影響が相対的に大きい。一方で、アメリカへの影響はマイナス1.1%となり、シナリオ1と比べて倍以上になっているが、産業別にみると自動車産業に代わって繊維・衣料(1.1%)にプラスの影響が出ている。カナダ・メキシコへの負の影響はシナリオ1と比べて若干小さくなり、日本やASEAN10については、多くの産業でプラスの貿易転換効果が発生している。世界経済への影響はマイナス0.3%と拡大している。

表2 シナリオ2の影響(2027年、ベースライン比)

表2 シナリオ2の影響(2027年、ベースライン比)

(出所)IDE-GSMによる試算。

なお、アメリカの物価についての影響は、シナリオ1では0.2%上昇と限定的、シナリオ2では0.9%上昇とやや大きくなっている。

まとめ

アメリカがカナダ・メキシコおよび中国に対する関税を追加した場合、最も大きな影響を受けるのはメキシコで、カナダも比較的大きな影響を受ける一方、中国経済に与える影響はそれほど大きくない。アメリカ経済への影響は産業によってプラス・マイナス両方があるが、GDP全体には小さくないマイナスの影響が及ぶことが予想される。第2次トランプ政権が自国経済にマイナスの影響を及ぼす可能性が高い関税の引き上げを実際に行うのか注目される。

参考文献

熊谷聡・磯野生茂編(2015)『経済地理シミュレーションモデル ――理論と応用――』アジア経済研究所

a.開発研究センター/b.バンコク研究センター/c.ERIA/d.東洋大学/e.千葉商科大学

本報告の内容や意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式見解を示すものではありません

2025年1月28日
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